表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/32

修行編~エヴァ~

エヴァは小型船を見送ったその足で、王都の聖教会へ向かった。見上げるほど高くそびえる白い壁と、天を突く尖塔は、幼いエヴァの目にはとても大きな場所に思えた。威厳ある石造りの扉を開け、エヴァは教会の中に足を踏み入れた。

中は、まるで別の世界のようだった。色とりどりのステンドグラスが、差し込む陽光を万華鏡のように散りばめ、床や柱に幻想的な光の模様を描いていた。神聖な香りが漂い、厳かな空気がエヴァの小さな体を包み込んだ。

エヴァは、祭壇の近くにいた神官の男に、恐る恐る声をかけた。

「あの、私……」

しかし、神官の男はエヴァの言葉を遮った。顔には、わずかな軽蔑の色が浮かんでいた。

「君は猫人族の子供じゃないか。なぜ教会に?迷子か?まさかそれとも、お祈りにでも来たのかね?」

エヴァは、自分が馬鹿にされている雰囲気を敏感に感じ取ってしまい、瞳にみるみるうちに涙が溜まっていった。仲間たちと離れて心細い上に、見知らぬ場所での冷たい態度に、エヴァの心は震えた。しかし、天使さんから与えれた修行である事、そして仲間たちの見送りが、小さな体に勇気をくれた。エヴァは震える唇をぎゅっと結び、勇気を振り絞って神官へと伝えた。

「私!回復ができるんです!天使さんが、ここに行けって!」

目の前の神官は、あっけにとられたように目を丸くしていた。その時、一人の男がエヴァへ向かって歩きながら、穏やかな声で話しかけた。どうやら、話している最中に扉から入ってきていたらしい。

「失礼、聖水がなくなってしまって。少しいただきたいのですが……。」

目の前にいた神官は、新しく入ってきた神官に気づくと、すぐに近寄って頭を下げた。

「エドワード神官長!ご連絡いただければこちらから届けましたのに、わざわざ足をお運びいただくなんて……」

「いや、いいんだよ。それに今は神官長じゃないよ。ただの神官なんだから。」

エドワードと呼ばれた神官は、柔らかな笑みを浮かべ、エヴァに優しい声で話しかけた。

「こんにちは。可愛い信者さん。私は、エドワード。さっき『回復ができる』って言っていたが、『回復スキル』が使えるって事かね?」

エヴァは「回復スキル」が何を指すのか理解できてはいなかったが、見せるのが一番わかりやすいと考え、小さな手のひらに意識を集中した。すると、淡い光が手のひらに集まり、ゆっくりと輝き始めた。

「これです。この光が傷を直してくれるの。」

「ほぉ。」エドワードはにっこりと笑い、興味深そうにエヴァの光を見つめた。「この光は『回復スキル』と呼ばれるスキルの一種だ。素晴らしいね。君はこの光で何がしたいのかな?」

エヴァは、キラキラと輝く瞳でエドワードを見上げた。「私は…怪我してる人を、苦しんでる人を助けたい。痛いのは誰だって嫌なはずだから!」

エヴァのその純粋な言葉を聞いて、エドワードは一段と輝く笑顔を見せた。「そうだよね。痛いのは嫌だよ。……可愛い信者さん、お名前教えてもらえるかな?」

「私はエヴァ!」

「エヴァ。私と一緒に聖光院に行かないかい?聖光院は怪我を治す場所なんだ。エヴァの力は必ずやくにたつ。」エドワードの言葉に、エヴァは強く、何回も頷いた。

「うん、行く!」

聖光院は王都聖教会の隣にある施設だった。現代社会で言う病院という位置づけの施設だが、その内実は現代の病院とは打って変わって、無数の患者で混乱していた。ある一方では魔物との戦闘で胴体を負傷した兵士が苦悶の声を上げ、ある一方ではささくれが痛いと大声をあげる主婦、そして奥にある病床では、痩せ細った体で未知の病と診断された老人がうめき声を上げていた。エヴァはその光景に呆気にとられていた。しかし、エドワードは違った。

「はいはい、皆さん診ますからね。」

エドワードはそう言うと、まるでベテランの医師のように、すごい速さで患者を診て、瞬く間に症状を和らげていった。

「あぁ、痛い。痛いよ。」

エヴァの少し長い猫耳は、聖光院の端っこにいる小さな女の子の声をしっかりとひろった。エヴァはすぐにその子に駆け寄った。女の子は全身が痣だらけで、右腕は不自然な方向に歪んでいた。エヴァは必死で回復スキルを使った。淡い光が女の子の体に吸い込まれ、痣は少しずつ薄れていったが、腕の歪みは治らない。エヴァは船の上でアレックスを助けた時に出たあの、全身を包み込むような強い光なら助けられると思い、手のひらへ意識を集中した。しかし、出てくる光は回復スキルの弱い光だけだった。

「なんで……なんで出来ないの。」

そんな言葉を漏らした時、エヴァの肩をエドワードがポンっと叩いた。

「回復スキルはあくまで初級スキルだ。骨折までしていたら、治せなくても仕方ない。それは君のせいじゃないよ。後は、もっと強いスキルが使える治癒士に任せよう。ね。」エドワードはそう言うと、女の子をひょいっと抱え上げ、治療をしているほかの神官の元へ連れていった。

エヴァは、自分が治せる範囲の患者を治して回った。小さな擦り傷や、軽い熱病、疲労困憊の者を癒していった。やがて、太陽が落ちていき夕暮れになった頃、ようやく聖光院は落ち着きを取り戻した。エヴァは、治療の終わった患者たちが去っていくのを見届け、自分がどこにいたらいいか分からず、エドワードの横にピッタリとくっ付いていた。

その時、近くで他の神官が静かな声で話をしていた。

「エドワードさんの天職って魔法士だろう?初級スキルしか使えないのに、良くやるよなぁ。」

「確かに、でも助かってるのは事実だからなぁ。悪くは言えないよな。」

エヴァは、エドワードが自分と同じように弱い回復スキルしか使えないのに、あれだけ多くの人を救っていたことに驚いた。

「ふぅ。一段落ですね。ご助力ありがとうございます。エドワードさん。」

神官のひとりがエドワードに話しかけた。

「いえいえ。」エドワードはエヴァを横目で確かめてから、優しい手でエヴァの背中を前へ押し出すようにしながら話を続けた。

「この子、エヴァという名前だそうです。回復スキルが使えるようなので、連れてきました。このままここで預かってあげて頂けませんか?」

神官はとても驚いた顔をして尋ねた。「預かるって。治癒神官としてってことですか!?」

「あぁ。私が面倒を見たい気持ちも山々だが、自分の教会を長く開ける訳にも行かない。それに、もし治療士だとしたら、魔法士の私に教えられる事もない。君たち治癒神官の方が適任だ。頼むよ。」

エドワードは頭をしっかりと下げ、悔しげな声で頼んだ。その真摯な態度に、神官は戸惑いながらも頷いた。

「………分かりました。エヴァさんを治癒神官としてこちらで預からせて頂きます。」

エドワードはいつものにこにこした笑顔に戻り礼を言い、エヴァに優しく語りかけた。

「ありがとうございます。では、私は聖水を頂いておいとまします。エヴァ、たまに見に来るからね、頑張るんだよ。」

エドワードの背中が、教会の扉の奥へと消えていった。取り残されたエヴァは、その長い猫耳でも足音が聞こえなくなるまでずっと扉を見つめていた。寂しさと、不安と、少しの期待が入り混じった複雑な感情が、小さな胸に広がる。

「……えーっと、エヴァ。君は今日から治癒神官だ。ここの案内をするよ。ついてきて。」

神官の言葉に、エヴァは顔を上げた。ここが、自分の修行の場。多くの人を癒し、自身の力を高める場所。エヴァは小さく頷き、神官と共に聖光院の奥へと進んで行った。


【本日の残業報告】(報告者:エヴァ)

・王都の聖教会に初登院!→でっかい!まぶしい!こわい!

・神官さんに差猫耳別されて泣きかける

・優しいエドワードさん再登場

・聖光院初見→病人いっぱいでびっくり

・小さな女の子を治療→でも骨は治せなかった……くやしい

・エドワードさん=ちゃんとみてくれる人!

・正式に「治癒神官見習い」になったよ!

・明日から本格修行、がんばる!


#本日の残業報告#猫耳差別はんたーい! #猫耳だって回復できるもん #強くなるしかないって思った #治癒神官って響きがかっこいい#エドワードさんありがとう #また会えるかな… #寂しいけどがんばる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ