旅立ち
火山島からの帰路は、行きほどの苦難はなかった。一度通った航路ということもあり、サラの的確な舵取りと、ジュールの【生成】した精密な航海具によって、迷うことなく船は進んだ。魔物の襲撃も皆無ではなかったが、往路でのクラーケンとの激戦を経験した一行にとっては、もはや脅威とは言えないほどだった。
数日後、船は無事にレファンの港に到着し、一行は馬車に乗り換えて王都へと戻った。ジュールの屋敷に着いたのは、ちょうど夕暮れ時だった。
翌朝、ジュール邸のダイニングテーブルには温かい朝食が並べられていたが、皆の表情は真剣そのものだった。
火山島で天使エリルから告げられた「信託」の内容について、情報整理をしていたからだ。
「さて、エリルが言ってた修行の場所だけど……」真人が切り出した。
「私はエルフの里での修行となる。場所は確か、ヴァロリア大陸の東に浮かぶ島々。あっているだろうか?」
サラが紅茶のカップを置き、静かに頷いた。
サラの反応を確認し、真人は話を続けた。
「準備が整い次第すぐに出発したいと考えている。サラも方角が一緒だったな?」
「そうよ。私も、この大陸の東端にある鳥人族の里が修行場所だと思うわ。別々に出るのは効率が悪いわ。途中まで一緒に移動しましょ。」サラは淡々と告げた。彼女の表情には、すでに覚悟が宿っているようだった。
そこに割って入ったのはアレックスだった。
「俺も修行するってのは分かったぜ!でも、どこに行けとか具体的に言ってたか?」
アレックスが頭を掻きながら尋ねる。
リーも無言で座っている。瞑想でもしているのか、それとも単に話の内容を飲み込めていないのか、表情からは読み取れなかった。
そんな彼らの様子を見て、大きな隈を目の下に蓄えたジュールがにこやかに話し始めた。彼女はテーブルに大きな世界地図を広げた。
「大丈夫だよ、みんな!エリルが言ってた場所、ちゃんと調べておいたから!」
ジュールの指が、王都から遥か西にある巨大な大陸を指し示した。
「まず、修行の地なんだけど、アレックス、リーの修行の場所は、この新大陸にあるんだよ!」
「新大陸?」アレックスが聞き返した。
「そう!ヴァロリア大陸より西にある火山島を超えた、さらに向こう側にある大陸のこと。ここから船で数週間かかるらしいけど。」
ジュールは一息ついてからアレックスに向かって話始めた。
「アレックスは、その新大陸の東側にある、アメリカーナ共和国ってところ。活気あふれる大都市で、色々な種族が一緒に暮らしている所らしいよ。」
「マジか!大都市かぁ、すげぇ楽しみになってきたぜ!」アレックスが興奮したように拳を握った。
「そしてリーは……新大陸の中央部分。ここは広大な砂漠が広がっていて、修行にはうってつけらしい。厳しい修行僧たちもいるらしいから、リーにはぴったりかもね!」
リーの口元が、わずかに吊り上がったように見えた。
「で、船なんだけど、小型船とはいえ、クラーケンとの戦闘で少し傷んでるから、修理が必要なんだ。それが終わったら、航海士も手配して、二人とも乗せていってあげるよ!帰りもそのまま乗ってきていいから!」
ジュールの提案に、皆が感謝の言葉を述べた。彼女の多大な支援がなければ、各自の修行の地へ向かうことすらままならなかっただろう。
「エヴァは、王都の教会だよね!」エヴァがにこにこしながらサラに問いかけた。
「そうだよ、エヴァ。」サラは優しく微笑み、王都の詳しい地図をエヴァに手渡した。「この王都にある、聖教会へ行ってね。困ったことがあったら、すぐにジュールのメイドさんに言うのよ。」サラの声は柔らかくも慈しみに満ちた声だった。
「ちなみに私はゴルダイン王国。ドワーフの幻の鍛冶技術が残ってるって噂があるの!楽しみで昨日は眠れなかった!」アレックスと同じくらいハイテンションでジュールは語った。
真人は覚悟の決まったメンバーの顔を一通り見回してから言葉をかけた。
「みんな、この修行はきっと一筋縄ではいかないだろう。でもエリルの言っていた器を満たすのに、この世界の『異常』を修復するために必要な修行のはずだ。期間は気にしなくていい、自分が成長出来たと思った時、この王都に戻ってきてくれ。ただ、世界の『異常』は止まることは無い。頭の片隅に置いておいてほしい。」
真人の言葉に全員が大きく頷いた
その日の午後、真人とサラは、馬車に乗って王都を東へ出発した。真人はエルフの里を目指し、サラは鳥人族の里へと向かった。二人の顔には、これから始まる厳しい修行への決意が刻まれていた。
二日後、ジュールはゴルダイン王国を目指し、乗合馬車に乗って北へと出発した。彼女の背中には、新たな技術への探求心と期待が満ち溢れていた。
そして、ジュールの手配により船の修理が終わり次第、アレックスとリー、そしてジュールが手配したベテランの航海士が、船で新大陸へと出発した。それは、最初の出発から四日後のことだった。
エヴァは、王都に残った。見送りの人々が次々と去っていくのを見届けた後、彼女は小さな体を一歩前に踏み出し、王都の喧騒の中、聖協会へと向かって歩き始めた。その足取りは決して軽い足取りではなかったが、それでも一歩ずつ確かに歩いていた。彼女の小さな体には、計り知れない癒しの力が宿っていた。
それぞれが選ばれた場所で、それぞれの「器」を満たすための、新たな旅が今、始まった。
【本日の残業報告】
・火山島→王都:無事帰還
・朝会ミーティング開催
・修行先マッピング完了
└真人&サラ:東へ
└アレックス&リー:新大陸へ
└ジュール:ゴルダイン王国へ
└エヴァ:王都聖教会へ
・各自「器」強化ミッション開始
・次回:修行編~エヴァ~
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