火山島
「あれが火山島。」
真人は水平線の彼方に現れたその島を見つめて呟いた。その島の瘴気は、遠目からでも容易に観測できた。島の中心にそびえ立つ火山から、おびただしい量の黒い靄が噴き出し、空を覆い尽くさんばかりに広がっていた。
「うわ……真紅の森よりきつい場所だぜ、こりゃ……」
アレックスが顔をしかめた。彼の【透視】は熱を見る能力だ。魔素もまた微量ながら熱を持つため、その濃度が高まれば視界を歪ませる。今、彼の視界はぼやけたフィルム越しのように見えていることだろう。
サラは、【直感】で船の揺れを最小限に抑えながら火山島へと舵をきった。やがて船は、火山島の南東にあったわずかな入り江へと滑り込むように上陸した。
地面を踏みしめた瞬間、肌を刺すような熱気と、肺を満たす重い空気に、一行は思わず咳き込んだ。一歩足を踏み出すごとに、足元からザリ、と乾いた砂と火山灰が舞い上がった。
少し奥へと進むと、風化した石造りの建造物が点々と現れた。かつて小さな村があったことを示す形跡だった。サラが崩壊した建物の壁を見つめ、指先で石の表面をなぞりながら呟いた。
「熱に耐性がある材料で作られてるわね。妖精種のサラマンダーと、火蜴人族……他にも暑さに耐性のある獣人種。その辺りが暮らして居たんだと思う。ざっと見て、五百年以上前のものだけど。」
彼女の言葉は太古の昔、この地に確かに繁栄した村があった事を示した。しかし、今は廃墟と化した村に、生命の気配は一切無かった。
アレックスが、村の建物の奥に、異様に綺麗に残された一体の像を見つけた。
「おい、これ見てくれよ!なんか、やたら立派な石像があるぜ!」
一行が像に近づくと、それは柔らかな曲線を描く、慈愛に満ちた表情の像だった。だが、同時にどこか寂しげな雰囲気も漂わせていた。その足元には、かすれた古代文字が刻まれていた。サラがすぐにそれを読み上げた。
「『エミアリル、この地の守り神』」
この地では悪神になる前のエミアリルを守り神として崇拝していたようだった。真人は、神像の肩にかかった火山灰の煤を払おうと、無意識に神像に手を触れた。
その瞬間、真人の体内から温かな光が溢れ出し、呼応するかのように、像からも眩い光が放たれた。光が収まると、像の前に、小さな、手のひらサイズの天使のような存在がふわりと浮かんでいた。透明な羽を持ち、幼いながらもどこか思慮深げな顔立ちをしていた。
「やぁ。僕は、エリル。」
天使は透き通るような声で、そう名乗った。
「僕は、エミアリルがこの島に落ちた時に、意識の断片。まだ残っていた善神の部分なの。今は、あなた達転生者の善の部分に呼応して姿を見せてるの。」
エリルは、エミアリルの善性の残滓として顕現したらしい。
エリルは転生者たちをじっと見つめながら、悲しげな瞳で語り始めた。
「かつて僕は、信じていたの。人の中に『愛』と『誇り』があると……でもそれは、裏切られた。際限ない争いと愚行が、僕の心を壊してしまったの。そして、あなた達は、僕の本体を救うためにここに来た。そうでしょう?……ですが今のままでは、僕に届かないの。」
エリルは、ゆっくりと宙を舞いながら、一人ひとりに視線を向けた。
「あなたたちは『選ばれた器』。けれど、“満たされていない”の。エミアリルを救うためには、それぞれの原点を見つめ、己の中の“本当の強さ”を知る必要があるの。」
エリルは、まず真人に語りかけた。
「知識の探求者よ。貴方の根源は、森深き里にあり、そこには古き秘術の真髄が隠されているの。己が持つ魔法の力を、更なる高みへと昇華させるの。その地で、貴方は自らの内に秘められた、新たなる真価に目覚めるの。」
次にアレックスへ。
「隠されたものを見る瞳の持ち主よ。貴方が求める真の繋がりは、人が集い、互いを欺く場所でこそ磨かれるの。人々の欲望渦巻く大都市で、盗賊の道を極めることで、その視界はさらに広がり、新たな繋がりを見出すの。」
サラに。
「未来と過去を聞く耳を持つ者よ。貴方の体は、まだ荒野を駆ける鳥のようにはしなやかではないの。己の肉体を鍛え、風を味方につける術を知るべきなの。高く舞い上がる翼の民の故郷で、貴方は己の限界を超え、真なる弓の使い手となるの。」
リーに。
「肉体の限界に挑む者よ。貴方が求める真の強さは、肉体だけでなく、心の奥底に眠るものなの。暑さと飢えの過酷な地で、己と向き合い、精神の礎を築くの。砂の海に沈む修行の地で、貴方は不動の心を得るの。」
エヴァに。
「純粋なる癒しの手を持つ者よ。貴方の力は、人々が集う大きな教会でこそ、その真価を発揮するの。多くの命に触れ、その温かさと儚さを感じるの。神の恩恵を深く受ける聖なる場所で、貴方は生命の尊さを深く知り、癒しの光をさらに輝かせるの。」
最後にジュールへ。
「無から有を生み出す創造者よ。貴方の創造は、形あるものだけでなく、技術の奥深さにこそ真の価値があるの。鍛冶の国で、素材と構造の秘密を極めるべきなの。そこで、貴方は究極の創造へと至る道を切り開くの。」
エリルは、再び全員を見渡した。
「それぞれの地で、己が真に求めるものを見つけ出し、器を満たした時、再び僕の本体に会いに来てね。」
アレックスが、エリルに問いかけた。
「おい、なんで神様たちは、こないだ俺たちに教えてくんなかったんだ?直接、鍛え方とか教えてくれりゃよかったのに!」
エリルは、哀しげに微笑んだ。
「神様たちは、個人への信託は基本的には下ろせないの。彼らは世界の法則そのものだから、個人の感情に深く介入することは許されていないの。僕は、神でもない、人間でもない、その中途半端なところにいるから、こうして導く事ができるの!」
エリルの体が、再び光の粒子となって薄れていった。
「時間が来ちゃったみたいなの。今度は本体に会いに来てね。」
光が完全に消え去った。
だが、言葉だけは鮮明に脳裏に焼き付いていた。神々が火山島へ向かうように指示した理由が、エミルそのものの存在にあると真人は感じた。エミアリルが悪神へと変貌し、最初に降り立ったこの島は、彼らが己の使命を理解し、真の強さを見つけるための最初の試練だったのだ。
真人の心から戸惑いが消える音がした。それは漠然とした「世界の修復」や善性についてではなく、具体的な目的と、各自が成すべき「修業」の道筋が示されたからだった。
真人は空を見上げた。遠く、雲の切れ間から一筋の光が差していた。
それはまるで、道を照らす微かな希望のようだった。
彼らは沈黙のまま、しかし確かな決意を胸に、王都へと舵をきった。
【本日の残業報告】
・火山島即上陸→即灼熱×高濃度魔素
・500年前の廃村痕跡確認
・謎の石像=エミアリル像(※善神時代)
・神像に接触→なのなの小天使出現
・エリル=エミアリルの善性の分割データと判明
・天使から信託→ソロクエスト発生
・エリル、光になってログアウト
・心の整理完了→王都へ
・ソロクエスト:己の心を鍛えよ
#本日の残業報告#火山島上陸#瘴気あっつい#サラ博士なんでも知ってる#小天使登場#もうこっちには猫耳天使いるんで#修行フラグが6つ一斉に立つ#アレックスよく言った#神々はチートだけど個別干渉不可#中間職エリルの導き#善性って何?から解放#ここから修行編突入です




