5つ目の変数
朝日が客室の窓から差し込み、静かな光が部屋を満たしていた。
真人はリビングへ向かった。彼の頭の中には、昨夜の記憶が渦巻いていた。神の円卓。七柱の神。自分たちの使命。そして、火山島。
リビングに入ると、サラとジュールが、既にテーブルを囲んで話し込んでいた。サラは温かそうな紅茶のカップを啜りながら、ジュールが床に広げた地図を共に眺めていた。
「…夢じゃなかった。だな。」真人はそう呟きながら、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
サラは静かに頷いた。
ジュールも顔を上げた。「まだ私も信じられない気持ちでいっぱいだよ。でも、私達が使徒なのも、ギフトの意味も……全部、本当だったんだと思う。」
真人は黙って頷いた。心の奥底に、奇妙な重みがあった。それは不安でもなく、恐れでもなく——使命感。自分たちは選ばれたのだ。この世界を救うために。
その時、扉が勢いよく開いた。
「火山島だろ?行くんだよな、いつ出る!」リーが息を弾ませて飛び込んできた。額には汗が滲んでいて、既に筋トレでもしてきたような格好だった。
「やべー、まじか!やべー!」
アレックスが寝ぐせのまま、階段を滑るように叫びながら駆け下りてきた。「やべー!俺、神と喋ったぞ!マジで!神だよ!?やっべぇ!オーマイガッ!」
その慌ただしさに、空気が少しだけ和らいだ。
だが、ジュールは真剣な面持ちで、地図を指差した。「でもさ、その火山島……地図にも、文献にも載ってないんだよね。私も知らないし、サラも知らないって言ってる。」
続けて真人が呟く。「それに船もない。まさか、泳いで行ける距離ではないだろうし。」
「そこは大丈夫。船は持ってるよ!」ジュールは親指を立てた。「小型船だけど、うちの港にある。そもそも別荘だから、王都から出る時用のが置いてあるの。」真人は改めて、ジュールの貴族としての豪華さに驚いた。
その時、エヴァがふわふわと現れた。目を擦りながら、まだ夢の中にいるような顔をしている。「ん……おふね……乗るの……?」
真人は、エヴァに視線を向けた。悪神が落とされた場所へ、幼いエヴァを連れて行くことへの躊躇があった。しかし、すぐにその考えを振り払った。エヴァもまた、七柱の神々の一柱に選ばれた使徒の一人なのだ。彼女の純粋な笑顔こそが、エミアリルが失った「良心と情愛」そのものなのかもしれない。
「ああ、火山島へ船に乗っていくんだ。」真人が断言した。
そこにいるメンバーでエヴァを置いていこうと考えている者は、もう誰一人として居ないようだった。真人の言葉に、皆が頷き、エヴァも嬉しそうに微笑んだ。
準備が整うまでの間、真人は思考を巡らせ続けた。「人の善性を思い出させる」とは一体どういうことなのか。その為は何をすればいいのか。しかし一向に答えは見つからなかった。彼は書斎に籠もり、神々についての書物や古代の伝承を読み漁るが、決定的な手がかりは掴めない。
リーは、精神修行をするためジュール邸の大きな噴水で滝行をしたり、庭園の木陰で座禅を組んでいた。時折、その鍛え上げられた肉体から湯気が立ち上るほど集中している。
エヴァはアレックスと共に、【透明化】の修行に励んでいた。エヴァはアレックスの【透視】をかいくぐろうとしたが、熱運動を見ているアレックスの方が一枚上手のようだった。しかし時折、アレックスの「ぐはぁっ!今、いたずらしただろエヴァ!」という声が屋敷の中で響き渡っていた。
サラは、魔研会へ旅の報告と引き続き魔導書の解析作業を進め、その後はジュールと共に新しい海図に火山島への航路を書き込む作業をしていた。サラの【直感】とジュールの【生成】による精密な計測具が、不正確な情報しかない海を切り開く唯一の道となる。
ジュールは、旅の手配を一手に引き受けた。食料、水、そして壊れにくい航海用具。彼女の手際は驚くほど迅速で、たった二日で全ての準備が整った。
準備が整った一行は、王都に最も近い港街でもあるレファンへと移動し、そこから旅に出た。
「すっげぇ、海賊船みたいだな!」
アレックスが目を輝かせ、船体を叩いた。
ジュールの所有する小型船は、見た目以上に頑丈で、航行性能も申し分ない物だった。
一行は新たな旅への期待と不安を胸に、大海原へと出発した。
真人は常に【鑑定】で海の状況を確認し、サラは【直感】で潮の流れや風向きを感じ取り、的確に舵を取る。アレックスは【透視】で海底の障害物や近づく魔物の気配を感知し、ジュールは【生成】した高性能な方位磁針で方角を確認し、アレックスの情報を踏まえて海図に新しい情報を書き込んでいった。リーは、船の上でも座禅を欠かさず、エヴァの【透明化】を【身体制御】による五感強化で見破る特訓に付き合っていた。「もっと音を消して歩け、エヴァ。」「むー……」と、二人の声が響いていた。
火山島に近づくにつれ、真人の【鑑定】は、魔素濃度の上昇を伝え、目に見える魔物の数もどんどん増していった。海の生き物たちは、濃い魔素の影響か、異形に肥大化し、凶暴性を増していた。
そして、航海の途中で、彼らは突如として嵐に見舞われた。空は鉛色に染まり、巨大な波が船を容赦なく揺さぶった。荒れ狂う海の中で、突如として巨大な影が船底から現れた。
それは、「クラーケン」と呼ぶにふさわしい、巨体と複数の触手を持つ魔物だった。巨大な触手が、船を取り囲むように現れた。一本の触手が船の甲板に叩きつけられ、その衝撃で船体が大きく傾いだ。
「全員、持ち場へ!リー、ジュール、前衛で触手を叩き潰せ!アレックスは【透視】で弱点を!エヴァ、回復準備だ!」真人が即座に指示を飛ばした。
リーは咆哮と共に触手へと飛びかかった。彼女のパンチは空気をも震わせ、肉を抉るように触手を破壊していった。ジュールは剣を大剣へと【生成】し、その重みと切れ味で触手を次々と切り落とした。アレックスは【透視】でクラーケンの触手内を走る神経や、心臓の熱源を的確に見抜き、触手の上を駆け上がりながら短剣で一点を集中攻撃した。真人は光の壁で触手からの攻撃を防御しながら、敵の行動パターンを【鑑定】し、仲間に「推奨行動」を共有した。エヴァは【透明化】を維持し、仲間の負傷に備え回復スキルをいつでも発動できるよう集中していた。
しかし、船底から新たに二本の触手が這い出し、船を締め付けた。触手の力はすさまじく、船体は軋みを上げ始めた。
「まずい!俺達の海賊船が!」
アレックスの叫びと同時に、別方向の触手が船へと叩きつけられた。その衝撃でアレックスが船縁に打ち付けられた。ドンッという鈍い音と共に、彼の体がぐにゃりと歪んだ。
「アレックス!」
ジュールが瞬時に駆け寄るが、既にアレックスの息は浅く、意識も朦朧としていた。その時、エヴァが震える手で彼の胸に触れた。
彼女の小さな手から放たれた光が、アレックスの体に吸い込まれていった。みるみるうちに、彼の体の損傷が修復されていったのが見えた。
『魔法反応:有/魔法属性:光、スキル名:治癒、熟練度:中』
エヴァの治癒スキルによるものだった。アレックスの命は助かった。
その間にも、リーと真人の連携は冴え渡った。真人の【鑑定】による魔物の構造解析と弱点指示を受け、リーは残りの触手を次々と破壊していった。
船に多少の傷は残ったものの、サラの巧みな操船と、全員の連携によって、クラーケンは海底の深淵へと姿を消した。
激しい戦闘を終え、一行は疲労困憊になりながらも、再び火山島へと針路を取った。嵐は過ぎ去り、空には一筋の光が差し込んでいた。彼らの旅は、まだ始まったばかりだった。
【本日の残業報告】
・目覚めて即ミーティング開始
・全員、火山島行きに異論なし
・ジュール邸→衣食筋+船
・ジュール&サラ:出港準備+航路作成→2日
・レファン港より出港
・嵐→超巨大クラーケンエンカウント
・アレックス、死にかける
・エヴァ、【治癒】発動→アレックス再起動成功
・船:損傷有、メンバー:全員生存
・メインクエスト:火山島へ向かえ→続行
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