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馬車の窓の外に広がる、どこまでも青い世界に、アレックスは狂喜乱舞した。

「うおおおおお!海だ!海が見えてきたぜ、ブラザー!海入ろうぜ!」

彼の声は、これまでの旅の疲れを一切感じさせないほどのハイテンションぶりだった。窓から顔を乗り出し、はしゃぐアレックスの視線の先には、波光きらめく大海原と、その波打際に半分水に浸かるようにして築かれた、美しい街並みが見えていた。

街の中をよく見ると、様々な種族が行き交っていた。最も目を引くのは、イルカやシャチに近い形の尾鰭を持つ魚人たちだった。彼らは、体内で水を生成し、水流を操りながら、水の中を自在に泳ぎ回っていた。他にも、妖精種のウンディーネが水辺を漂い、陸では様々なモチーフの獣人、そして少しの人間種も確認できた。多様な生命が共存する、まさに「海の街」であった。

「おい、アレックス!今は、エヴァが......。」

真人は、はしゃぐアレックスを制止しようと手を伸ばした。しかし、その手を、隣に座っていたサラが、そっと掴んだ。サラは無言のまま、目で真人に訴えかけた。その視線が向けられた先を見て、真人は言いかけた言葉を飲み込んだ。

そこには、馬車の窓いっぱいに広がる海の景色を、純粋で、希望に満ちた、キラッキラした目で見つめるエヴァの姿があった。彼女の猫耳はぴくぴくと喜びを表し、瞳は真珠のように輝いていた。

「あれって……人魚さん?」エヴァが、馬車の窓の外を指差して、恐る恐る尋ねた。

サラは、いつものクールな表情を少しだけ緩め、優しく答えた。

「そうだよ。この海の街には、たくさんの人魚、いや、魚人たちが暮らしているんだ。」

エヴァの表情は、先程の震えた身体とは別人のように明るく、輝いていた。その笑顔を見た瞬間、真人の頭をよぎっていた「王都へ直行すべき」という【鑑定】からの指示や、旅の効率性といった思考は、どこかへ吹き飛んでしまった。

「海にも、何かしらの『世界の異常』が関係しているかもしれない。瘴気が漏れている可能性もある。」

真人は、自分自身にそう言い聞かせて、この海の街に立ち寄ることを決めた。

『推奨行動:王都への急行』

王都へ行くべきだと告げる【鑑定】を、今回は一旦無視することにした。馬車を停め、彼は騎士団の隊長に声をかけた。

「隊長殿、今夜はこの街で一泊させていただけないだろうか?何か、この海の街で瘴気に関する情報が得られるかもしれない。」

騎士団長は、疲れきった兵士を労っての事だと理解し、真人の申し出に感謝し、快く承諾した。

馬車が街に到着するやいなや、アレックスは「っしゃー!」と叫び、そのまま勢いよく海へバシャバシャと駆け込んでいった。

「きゃあっ!もう!あんまり騒がないでくださいな!」

水辺に漂っていた青く透き通った体のウンディーネが、驚いたように声を上げた。

「すまん。すまん。」

アレックスは、そんなウンディーネへ空返事を返しながら、魚人たちが泳ぐ波打ち際へと進んでいった。

その傍らで、エヴァは、水槽に泳ぐ金魚を見つめる子供のように、純粋な好奇心に満ちた目で海辺の様子を眺めていた。彼女は、近くを泳いでいた美しい女性の魚人に、恐る恐る近づいていった。

「おねぇさん……人魚?それとも、プリンセス?」

エヴァの問いかけに、魚人の女性は優しく微笑んだ。

サラは、エヴァの傍らに立ち、彼女の様子を静かに見守っていた。彼女の表情は穏やかで、子供を見守る親のような眼差しだった。リーは鯱人族の男と遠泳競泳していた。

真人は、少し離れた場所で海に向かい、【鑑定】を発動させた。

『対象:海域/名称:レファン海、状態:安定、魔素濃度:中(斑に高)』

『危険度:低』

『推奨行動:王都への急行』

彼の鑑定は、海の所々に魔素の濃度が高い部分があることを示した。しかし、それは調査すべき「世界の異常」の優先順位を覆すほどのものではないと感じた。

「やはり、核心はあの魔導書と『無属性』……か。」

真人はそう呟いたが、彼の表情には、この海の街に立ち寄ったことへの後悔はなかった。

その夜、騎士団は獣人たちへの配慮として、街の外に仮設テントを張り、そこで休息を取った。一方、真人たちは、街の中の宿屋に部屋を取り、温かい食事と清潔なベッドで体を休めた。その日の食事は、生の魚型魔物の肉と暖かいスープが中心だった。今までの旅で暖かい食事に飢えていた真人たちはスープの温かさに感動を覚えた。

翌朝、馬車に乗り込む際、真人は改めてエヴァの顔を見た。その表情は、昨日まで抱えていた重い過去の影が薄れ、明るい笑顔が浮かんでいた。彼女の瞳には、まだ少しの不安が残るものの、確かな希望の光が宿っていた。

「ここに来て、良かった」

真人は、心の中でそう呟いた。この海の街に立ち寄り、エヴァの笑顔を見ることができたこと自体に、大きな意義があったと感じたのだ。

明るくなった馬車内で、一行は再び、王都を目指して走り出した。



【本日の残業報告】

・緊急寄り道イベント開始

・アレックス、テンション限界突破

・癒し枠の再生フェーズ突入

・多種族共存の海辺都市を踏査

・海域鑑定結果:危険度低→保留

・街での食事:久々の温スープ

・馬車内、空気が明るくなったことを確認

・明日からまた現実(王都ルート)へ突入予定


#本日の残業報告#寄り道が本編#海見せたら少女が笑ったのでOKです#海水より濃いアレックスのテンション#サラさんはお母さん#鑑定の忠告は一時ミュート#遠泳リー vs シャチ男 結果誰か教えて#これは癒し系異世界日記ですか?#スープが暖かいと心も暖かい#明日からまた胃が痛くなるやつ#薬局知りませんか

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