↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導工兵  作者: 龍血
第2.5章
47/49

第5話 目的と政治

 

 その夜。


 ウィローは総長の下に来ていた。

 用件は美龗姉妹の事だ。


「煌夜に客人が来そうじゃないか」

「相変わらず耳が早いですね」


(その内容も知っていそうではありますが)


 総長室に着いて、総長にそうすぐに言われた。


「それで用件はなんだ?」


 総長のエスラは何の用でウィローが来たのかは知っている。


 だが敢えて聞いてきた。


「その客人からこちらの所属になりたいとお申し付けを受けまして」

「魔導持ちが態々来たのか」

「はい、個人的な理由と言っております」

「それで」

「新たにあちらの王から書状を頂きました」


 ウィローは羽津から受け取った書状をエスラに渡した。


 エスラはそれをザッと見る。


「そこには煌夜さんを含め、3人には自由に行動しても問題ないと書かれていたので、とりあえずセントラルにおける魔導工兵の仕事を許可しました」

「あぁ、分かった」


 エスラはあっさりと許可した件を流した。

 問題ないという事だろう。


 ウィローはここに来た1番の理由を述べる。


「その後私は討伐隊や戦争への参加は出来ないと言ったのですが、可能であれば参加したいと望まれました。流石に私はそこまで権限を持っていませんでしたので保留とし、ここに来ました」

「良い対応だ」

「ありがとうございます」

「外の魔導工兵だと責任の度合いが変わってくるからな。だからこそ慎重に対応しなければならない」


 エスラはウィローの対応を評価し、その責任を意図的にウィローに行かない様、線引きをしているのだろう。


「だがまぁ、参加しても良いだろう」

「いいのですか?せめて先日渡した書状の返答からでも」


 しかし、エスラは易々と許可した。


 流石にウィローも戸惑いを隠せない。


「本来ならな。アイツはいいんだよ」

「何故そこまで彼を贔屓に?」

「後々必要になるからだ」


 ウィローの問いにエスラは「後々必要」と答えた。


「ウィロー、こんな疑問を思った事はないか?」

「疑問ですか?」

「何故、突然リィーズが生まれ、それに対抗する魔導が生まれたのか」

「それは…」


 その疑問は誰もが一度は思う事だった。


「この疑問は当初から思われていたが、本格的に考え始めたのは組織の基盤が出来てからだ。それまではリィーズの対処を最優先にするしかなかったしな」

「基盤というと組織の仕組みが出来てからですか?それともその仕組みが広がってからですかね?」

「ここと隣の島全体に広まってからだな。およそ50年近くは掛かってる」

「リィーズの対処だけでなく、魔導工兵の育成もしなければならなかったと思いますし、仮に黎明期が強くても、リィーズの規模には勝てませんからね」

「そうだ」


 黎明期の魔導工兵が強かったとはいえ、ブリテン島やアイルランド島全体を補る事は不可能。


 だからこそ、魔導持ちの探して育成するのも大事だし、各地配置が必要となる。


 そして、基盤が出来た後、各国の協議により、連合王国が組織の主導の下で建国されている。


「そして、色々と調べる内に神もしくはそれに近しい上位存在が引き起こしたんじゃないかって」

「え?」


 予想だにしない答えに驚きを隠せないウィロー。


「なんでそんな答えが?」

「それはそんなに難しくない。リィーズは産業化によっては引き起こされた存在だが、その産業化はキッカケに過ぎず、後から何処でも現れる様になった。この出現場所の規模拡大は意図的に為されたと予想出来る」

「確かに」


 仮にリィーズ出現が自然現象だった場合、出現場所は産業化によって出来た工場とかが対象となる。


 一時期は本当に限定されて出現されていたが、突然別の場所で出現する。


 それにより常識が崩れる。

 ただ、現在も魔導工兵が工場勤務する様に工場内で頻繁に出現するのは変わらない。


 問題なのは規模が突然広がった事である。


「魔導も神の力を行使する意味はあるはずだ。とは言え、ここまでは考察や仮説に過ぎない」


 幾つかの事象を元に考えてあり、信憑性はない。


「しかし、先日煌夜が見せた力がその可能性を高めてくれた」

「力というと魔導に効く魔導ですか?」

「聞いていたか」

「彼から炎の剣を教えて貰った私、エーリクさん、クリフは戦後にクリフォードさんからお聞きしました」


 クリフォードはその情報を共有するべきだと判断して3人に伝えている。


 しかし、それがどれほど重要かまでは分かっていない。


「それなら話が早い。聞いてどう思った?」

「そうですね。魔導に効く魔導と限定すればそれほど珍しい事ではありません。何故ならそれはそもそも備わっているものですから。ですが、リィーズ特効の付属品のようなものでしかなく、彼の力は魔導特効でしかもリィーズには効かない。なので、本当に魔導なのかも怪しいと思います」


 ウィローの見解というより他の3人も同意見だろう。

 まぁそう考えるしかないが。


「それには同意見だ。その力の存在が今までの仮説と繋がり、確証への道筋が近くなった。まぁ、分かったのは敵対する存在が明確に判明した事だ」


 エスラが仮説と繋がったと言っているのはリィーズまたは魔導の背後に神かそれに近しい存在がいると確信したからだ。


 何故ならリィーズと魔導でただ敵対関係となっておれば、まだ自然現象で収まる。

 よく分からないリィーズに対抗する為に人類から特効能力を魔導持ちが生まれたんだって事になるだけ。


 しかし、そこに何故か魔導に対抗する力が現れた事ははっきり言って人類には意味がない。


 でも、もしリィーズと魔導が仕組まれたものであり、それに対抗する為の力が炎の剣だったら、仕組んだ者とそれに対抗する者がいるという確証になるからである。


「だからこそあの力を確保しておく意味はあるが、決して正しい力という訳でもない。そこはもしかしたら後世の者たちに託す事になるかもしれない」

「現状では諸刃の剣…という事ですか。総長が彼を贔屓する理由は分かりました」


 本当にそれが総長の煌夜を贔屓にしている理由の全部とはウィローは思わなかったが、その一部になっている気はした。


「彼らに関してのこちらで手続きしておきます」

「助かる。まだ、やる事があってだな。ただ、全然自分の方を優先してもいいからな。元々私の仕事ばかりだし」

「その辺の管理は大丈夫です。もう話を終えていいでしょうか?」

「あぁ」

「では失礼します」


 ウィローは部屋を出る。


(総長は何を隠しているんだろうか)


 副総長という立場になってもウィローはエスラの真意が分からなかった。


(それなのに何故か安心する。これが総長という器なのでしょうか)


 謎が多いのに疑う事が出来なかった。

 それだけエスラが総長として色々と動いているからである。


 ウィローは再び仕事を再開する。


 ーーー

 1人残ったエスラは独り言を口ずさむ。


「黎明期が零世代として、その零世代とその加入した者で組織の基盤を作った者たちが第一世代、組織の基盤が出来た事でリィーズや魔導に感じて調べてきた者たちが私を含めて第二世代、そしてリィーズや魔導の背後にいる者を倒す者たちが第三世代…つまり、今の若者たちだ」


 組織の世代分け。

 正式なものではなくエスラが思っている事である。


「当然無責任に託すつもりはない。私の仕事はリィーズの始祖を倒す事だ。その為にも準備を万全に期す必要がある」


 それがエスラの目的であり、死んでもなおやり遂げなればならないものだと思っていた。


「ただ、リィーズや魔導を調べてきて思ったのはリィーズってそんなに悪い奴らとは思えなかった。実際、アイツらはゴミを貪り、成長する。一見危険に思えるが、それだけだ。それぞれに違いがあるのは人類と変わらん。レイラやミックに懐くリィーズたちを見れば、危険なんて思わないからな」


 リィーズは見た目もあり、化け物に見えてしまう。

 しかし、実際に観察すると小型はゴミを貪る生物で、攻撃してくるから反撃してくる。


 中型や大型はその大きさから襲っている様に見えてるだけ。


 成長して知性を持てば、襲ってくるリィーズも生まれてくる。


 脅威性はあるし、大型や人型なら厄介なことは確か。

 しかし、そういうのは動物や人間と変わらない。


 だからこそ、リィーズを1つの生物として迎い入れる事も出来るのではないかとエスラは思っていた。


「仲良く出来る…そんな気はしてた。そうは思わんか、始祖よ」


 始祖を倒すという目的がありながらも、どこかその可能性があっても良かったのではエスラは密かに思ってる。


 ーーー

 そんなエスラ。

 ここ最近は忙しくしている。

 とは言っても、セントラルから出る訳ではなく、指示や決定をしている。


 また、セントラル内でも移動して仕事をする事もある。


 少し前、戦争が終わり、総本部内の事を大体終わらせたエスラは総本部を出て、総本部と同じくセントラルの中心部にある大きな建物に向かった。


 そこは元老院。

 総長や政治側のトップに連合王国所属の各国の代表が集まり、連合王国における政治を話し合う場。


 しかし、使われる事は少なく、普段は『魔導工兵』の政治課の部署になり、そのトップである宰相の住んでいる場所でもある。


 この宰相が連合王国における政治側のトップで、総長と並ぶ存在である。


 エスラはその元老院に入っていく。

 すれ違うは人たちが会釈をしてくるのを手を上げて応えている。


 向かう先はある部屋。

 その扉を叩く。


「私だ」


 それだけで扉の向こうから入室許可の声が届く。


 エスラは扉を開け、部屋に入る。


 その先に机の向こうに座る眼鏡姿の男性と机のこちら側に座るもう1人の男性が立っていた。


「失礼します」


 立っていた男性はそそくさと退室して行った。

 その男性を少し怪訝そうに見ていた。


「いつも事だが、あまり睨みつけないでくれるかい?」

「知れた事」


 エスラは彼個人を嫌っているのではなく、この部署自体を嫌っている。


 政治課は特殊で、組織『魔導工兵』の中の部署になっているが、連合王国という立場になると連合王国の魔導工兵に対する法を持つ。


 つまり、総長と政治側のトップ…宰相は同格というのは魔導工兵だけに限ってでいうと敵同士なのである。


 元々連合王国というのはリィーズ対する為に各国が集まり、対処しましょうという事で出来ている。


 その管理を『魔導工兵』に託されているのはリィーズ対するスペシャリストだからである。


 でも、魔導工兵だけに力を持たせない為に政治課という部署が存在する。

 言い方を変えれば憲兵隊のようなもの。


 総本部と元老院の関係はあまり宜しくはない。

 とは言え、仕組み上仕方ないとも言える。


 そして、目の前にいる眼鏡姿の男性こそ宰相のメルヴィンである。


「それで何かが御用で?」

「あぁ」


 エスラは1人用ソファに座り、腕と脚を組む。


「戦後処理の経過報告だ。一(・)応(・)、アンタの上司だから、聞いておく必要がある」

「なるほど、そうだったですか」


 エスラが「一応」の部分に強く言ったが、メルヴィンはスルーした。


 組織内ではエスラの下になるメルヴィン。

 だからこそ、聞きに来た。


 まぁ、そうじゃなくても連合王国としては2トップで意見し合う必要はある。


「私と貴女の仕事はそれほど違いはないと思いますが、ディアンさんの対応は考え物ですね」

「初めての経験と言っていいからな」


 今回は魔導工兵であるディアンが戦争を起こし、私兵、魔導工兵、リィーズと全て出してきた形となる。


 魔導工兵を処罰する立場にある政治課としては難しい事例である。


「本来、処罰対象というのは生きている事が多いですからね。仮に亡くなってしまった場合は処罰なしか、家族の方に向く。しかし…」

「今回は独断専行で2国を相手にした。2国…正確にはウェールズがほとんどだと思うが、既にディアンに対する刑罰は為され、メディシーア家は解体し、その財産はウェールズに向かうはず。当然、その財産を受け継ぐはずだったミックやその妹に行く事はない。それだけで彼らは十分な処罰と言える。というか、それ以上の事はするべきではないな」

「えぇ。なので、連合王国としてディアンをどうするべきなのかは保留状態になっております」


 ディアンの件は特殊な事例。

 亡くなった者にどうしろとという話だし、ディアンが持っていたものは全てウェールズ公国と少しはマーシア王国に向かう。


 家族に…と言っても、今回の件は全くの無関係。

 しかも、妹のミリーは被害者の様なもの。

 そこを突く訳にはいかない。


 なら、連合王国としてどうすればいいか。


「だったら、魔導工兵の剥奪と悪名を残すしかないんじゃないか?」


 エスラからの提案。

 元々魔導工兵の剥奪はあった。

 だから、特に違和感はない。


 もう一つの悪名を残すというのはもうこれ以上の過ちを起こさない為である。


 まぁ、これがエスラの本音ではないが、連合王国のトップとしての判断だ。


「やっぱりそのくらいですよね。分かりました、その様に対応しましょう」


 メルヴィンもそれに了承する。


「さて、次は今度についてだが、西の動向はどう見る?」

「西というとアイルランド島ですか。七王国やウェールズ公国、スコットランド王国が出しゃばる事はしないと思うので、連合王国…もとい組織『魔導工兵』が内部調査をするしかないと思う」

「やっぱりそうかぁ」


 エスラは頭を抱える。


 エスラが頭を抱える理由はそれが出来るのは総本部の討伐隊だけだ。


 先日戦争し、しかも戦力低下した。

 補充するとはいえ、難しい話だ。


「何を抱えている?」

「いや、この場合討伐隊が行くことになるだろ?」

「もっと頭を使ったらどうです?」

「何か名案があるのか?」

「他のところから寄せ集めて連合軍の様にすればいいのでは?」

「なるほどな」


 連合軍。

 二つ以上の国が集まり、一つの軍となること。


 実際は『魔導工兵』の中で一つの軍になる訳だから、正確には違うけど、例えてとしてメルヴィンは出したのだろう。


「それで内部調査か。そこにそっちが協力を出す事は出来ないか?」


 出来るだけ人数を増やす為に協力を仰ぐ。


「申し訳ないが、それは断らせて貰う」

「何故だ?」

「よく考えてみて下さい。私たちは魔導工兵を取り締まる立場にある。例え、内部調査が目的だとしても、こちらの魔導持ち…魔導憲兵隊は仕事を全うする」

「割と上手くいかないものだな」

「ただし、その代わり内部調査後の対応は任せて貰おう」

「あぁ、頼んだ」


 断りを入れたメルヴィンにエスラは素直に受け取る。


 魔導憲兵隊にとってもそれが仕事な訳だし、内部調査を優先して欲しいと言っても、それをする事は自体は何も問題はない。


 エスラはそれで用が済み、退室した。


今回の前半は前回の残りで、後半が追加部分です。

前半のエスラが話していた事はまだ先の話になると思います。

後半はもう1人のトップ…宰相のメルヴィンを出しました。彼に関してどっかで出しておきたいと思っていたから、この2.5章の追加で出せたのは丁度いい気はします。まぁ、切り替えは悪かったと思いましたが。


次回はミックの話を。

戦後、少ししてからミックは妹のミリーとレイラを連れてある場所に向かった。

今日はある者の特別な日。

そして、ミックたちにとっても大切な日だった。

次回、最期の別れ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。