第6話 別れと誓い
戦後、少し経ってからミックは妹のミリーとレイラを連れて、ある場所に向かっていた。
列車でセントラルからマーシア王国の王都を経由して、再びミックたちの故郷であるホーリーヘッドへとやって来た。
今、元メディシーア辺境伯は貨物列車が優先されて、許可された者のみ、それに乗車して入る事が出来る。
ホーリーヘッドに着いた私達は領民に出迎えられる。
私はほとんど昔の事を覚えていないが、この光景を見るとやはり父は慕われていたと分かる。
私はその歓迎を受け取り、レイラにも声を掛けられていたが、ミリーには遠慮して貰う事にした。
ミリーの姿を見れば、すぐに理解して貰える。
その後、ホーリーヘッドの広場に向かう。
今日の目的地はここ。
よく見ると、マーシア王国の国王様であるハワード様とウェールズ公国の公王であるフィリップ様がいた。
ハワード様がこちらに気付き、やって来る。
「ディアンの息子、ミックかい?」
「はい。ハワード様、こちらに態々来て下さったのですか?」
「責任も含めて見届けたいと思っておる」
「ありがとうございます」
私はハワード様に頭を下げる。
ハワード様は高齢の身、こちらに来るのもつらいだろうと思っていた。
代わりの者を寄越すのも有り得たはずなのに。
それなのに来てくれた。
感謝しかない。
「頭を上げよ。貴殿や妹に責任などはない。こういうのは大人の問題。本来ならば責任を追求されるであろう貴殿に罰を与えぬ様、ウェールズ公国にも働きを掛け、許可して貰えておる。今は成長する事だけを心掛けるといい」
「はい、了解致しました」
国王様からのお言葉は身に染みる。
ハワード様も被害者な所もあるはずなのに。
「残念ながら爵位、家名、財源に関してはどうしよう出来なかったのだが、公王から貴殿に領地を返してもいいと言っておる」
「私にですか?」
「既にここは公国の仕組みを取り得ているのじゃが、領民の心まで動かす事は出来ぬ。それだけ前の領主が慕われていたという事じゃ」
確かにと思った。
ここに帰って来て、こんな事を起こしてしまった人の息子に歓迎してくれる領民の人達がいる。
それだけで今のハワード様の言葉は理解出来た。
「しかし、貴殿はまだ若い、しばらくは自分の事だけを専念し、後で決めればよろしい」
「もし、私がそれを受け取った時、所有国はどうなるのですか?」
「ウェールズ公国のままじゃよ。公王は貴殿に返すと言っているだけじゃ、こちらに返すつもりはないだろうよ」
「では、私が受け取っても公国の民は納得しますか?」
「そちらに関しては貴殿自身が信頼を得るしかなかろう。わしらはそれには協力できぬ」
「分かりました」
ミックは答えない。
さっき、ハワード様が自分の事に専念するようにと言った。
つまりは今考える事ではないのだろう。
一旦ハワード様と別れる。
そのハワード様はフィリップ様の方に戻って行った。
しばらくして大体午前9時50分頃、兵士の2人が横長の箱を持って来る。
ある台に置いて、その箱から人の体が露わになる。
その体は私の父ディアン
今回行われるのは父の処刑である。
父の体は兵士2人によって磔にされていく。
それから10分経ち、松明を持つ処刑人が声を上げる。
「これからディアン元メディシーア辺境伯の処刑を行なう」
処刑人はそう宣言して、父の足下に松明を持っていき、火を灯す。
父の体に火が纏う。
領民の人たちが泣き叫んでいる。
ハワード様は見届けている。
責任や後悔があるというからだと思う。
フィリップ様は…何でしょうか?
ハワード様と同じく見届けている。
その感情には怒りや恨みはなく、ハワード様とも違った。
レイラはミリーと手を繋げていない方を手を胸の前に置いて、声も出さずに涙を流していた。
レイラにとっては初めて心を許してくれた人でもあるからであろう。
ミリーは今も変わった様子はない。
というより、父親の姿を怖がっていたくらいだった。
レイラの後ろに隠れている。
最後に私は何を思うのか。
それは決まっていた、覚悟である。
父が亡くなった時は感情を露わにして別れを告げた。
今回は安心して行って貰う為に涙は流さない。
ただ一つ、父の意志を継ぎ、前に進むと誓う。
5分ほど経った頃に。
「処刑の模様は最後までお見せ出来ませんので、移動して下さい」
私達は元私兵が使っていた兵舎に向かう。
処刑の中断をしたのはここからは過激過ぎるため、配慮で中断。
別の場所でしっかりと焼却される。
そして、骨は墓を作り、そこに埋葬される手筈となっている。
私はホーリーヘッドの流通組合所へと案内された。
現在ホーリーヘッドではここを統治の拠点としている。
メディシーア邸やその横にあった兵舎は父上の巨大化により、ほぼ全壊。
そこに新たに統治の拠点を造ろうとしたのだが、領民によって拒否される。
兵舎の敷地はいいとして、メディシーア邸はメディシーア家の物。
その家名が無くなっても、その子どもが所有するべきと抗議したからである。
ウェールズ公国はそれを追い払う事はしなかった。
何故なら、追い払って領民の信用を無くせば、ここでの統治は難しくなるからである。
なので、今は別の場所に建てている。
また、兵舎も同様に別の場所に移される。
私が領民に感謝を述べていると、私のところに1人の男性が訪ねて来た。
「今時間いいか?」
「はい、何でしょう?」
「俺はホーリーヘッドの支部長のギレンだ」
「支部長?」
私に尋ねて来たのはここの支部長だった。
「その支部長さんが私に何を?」
「これと伝言だ。前支部長カールさんからの、な」
ギレンさんは手紙を見せる。
「拝見します」
「あぁ」
手紙を渡されて、それを読む。
『これはワシが死んでも問題ないようにギレンに渡している。そして、ワシからお前さんに告げるのは父親、ディアンの事だ。ワシは彼が総本部時代は知らない。その後にウェールズの本部長になったからな。だから、お前さんに言えるのはワシがホーリーヘッドの支部長になってからだ。彼については噂や総長から聞いていたが、ホーリーヘッドにいた時は二面性に気付いた。それが二重人格なのはもう知ってるかもしれないが、それを知った。その理由はワシら魔導工兵と領民への態度が違ったからだ。つまり、ワシが言いたいのは領民への態度が本来のディアンだと思ったこと。その上で彼はまだいて、彼になりに何かしようとしている…そんな気がした。その結果はどうなったかは知らないが、彼の意志はどれだけ残っただろうな。それだけで彼は偉大な存在だ。誇って良いぞ、お前さんの父はな』
そこで終わっていた。
前半は多分経緯だろう。
本当に伝えたいのは後半。
「読み終わったか?俺から伝言を伝える。『彼の悪名は全てに行ったか?彼なりに残し、メディシーア家を違う形で残った。それは子供たちのためだろう』だとさ。俺から見てもお前の父親は偉大だと思うぜ。あんな物を抱えながら、抗えるところは抗い、家族は護った。そう出来るじゃないという事は覚えておけ」
「はい…」
父上は中のモノを抗いながら、隙を突いた。
それだけでなく、残る私たちの為に居場所を残してくれた。
そして、ここは父上が偉大な人だと語り継ぐ事が出来る。
それだけで十分。
「ありがとうございます」
「あぁ。お前ならいつでもホーリーヘッド支部に来てくれていいぞ」
「い、いえ、私にもする事がありますので」
「そうだよな。あの父を受け継ぐだろう。並大抵の事ではないが、出来ない事でも筈だ。頑張りな」
「はい」
ギレンさんは私の肩を叩いて、何処かに行ってしまった。
カールさんもギレンさんも私を気遣って言ってくれてるのだろう。
自分たちも父上に好感を持っている事を。
そして、父上が残したものはホーリーヘッドにいた人たちに届いていた。
これから先、悪名は世界に広がるかもしれない。
それでも何人かは残ったのは事実。
私やミリーが肩身の狭い事にはなりにくくなった。
私はレイラにミリーの事を頼み、街の回ることに。
幼少期に歩いていたと思いますが、もうほとんど覚えていない。
でも、会う領民からその痕跡や父上の存在を感じる。
次に向かったのはこの街を守る壁の上。
そこからホーリーヘッド全域を見る。
まだ戦争の痕跡…主に巨大化した父上になるが、マーシア王国とウェールズ公国の支援で復興させている。
(こっちは任せても良さそうだ)
私は振り返る。
その先にはホーリー島や海、そして隣島が見える。
(あそこに母上の故郷が…)
戦時中に知った今は亡き母上の故郷。
それが隣島にある。
しかし、現在隣島は不穏な状況。
そう近くない内に状況は動くだろうと私は思っていた。
それがこっち側かあっち側かまでは分からないけど、確かなのは私もそちらに向かいたいと思う気持ちがある。
(だから私は母上の故郷に行くよ。それを2人で見守っていて下さい)
そう言って、両親に誓いを立てる。
今回はミックメインの話でした。
もっと凝った話が出来ると思ったんですが、そんなに良い話にはなりました。
内容はディアンの処刑、ホーリーヘッドの状況、カールからの手紙と伝言、そしてミックの誓いという感じです。
正直重要なのはホーリーヘッドの状況とミックの誓いですね。ホーリーヘッドの状況は戦後どうなったか。ミックの誓いはミックがこれからどうしたいかということです。
ディアンの処刑についてはそれを目的に書こうとしたのですが、あまり生々しいのもどうかと思ったのと、一応ミリーのような子どもがいるため、長く拝見する事はしませんでした。
カールの手紙についてはディアンのホーリーヘッド内ではどうだったのかの印象を伝えたということと戦時中に二重人格だと気付いた理由ということで入れています。
次回は毎章入れているキャラ説明や用語解説を投稿し、第3章に移行します。
当初は第3章の最初に戦争の講和会議を入れる予定でした。ただ、本筋とあまり関係ないのとある程度は結果を出しているので良いかなと思っています。
なので、いきなり本筋から入ります。
急遽呼び出された煌夜。
そこには総本部所属の魔導工兵たちが集まっていた。
これは先日あった戦時中と似ていると思いながら、あの時の緊迫感はない。
しかし、総長からある命令が出される。
次回、内部調査




