第3話 残ったものと例の話
大部屋を出た2人は寮の方に向かう。
「体の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。まぁ、体は鈍ったかなとは思うけど」
「それは良かったですけど、鈍っているという事は怪我をする可能性もあったのですから、次は気をつけて受けて下さい」
「はい…」
煌夜はエイダに叱責を受け、反省する。
「次は寮ですね」
寮に入り、廊下に左右に扉が並ぶ。
「左右に部屋が続き、共同部屋が4、貴族部屋が6、大部屋が4、教師職員部屋が10あります」
「多いですね」
「色々と条件を合わせる為です。敷地の規模では1番広く使っている区画になります」
実技棟(主に大部屋)は人数または広く動ける様に設計されており、広さや高さも大きくしている。
しかも小部屋は10部屋ある。
対して寮は部屋によっては広く使われてるが、どちらかというと部屋数が実技棟よりも多い。
高さを求めていない代わりに敷地面積は1番使っている。
「共同部屋は2、3人を想定された部屋。貴族部屋は貴族家用の豪華な部屋、大部屋が家族同伴を想定した部屋、教師職員部屋はその名通りの個人部屋になります」
基本的に使われるのは共同部屋と貴族部屋。
共同部屋は男女の区別が当然ありながら、一般の子どもと貴族家の子どもが同じ部屋というのはある。
貴族部屋はほぼ個人部屋に近く、一応召使い付きを想定して2人部屋にしてある。
大部屋は10歳くらいの子どもをいきなり預ける事は親としても『魔導工兵』からしても心配である為、家族同伴で住める様にしている。
教師職員部屋は教育課をここだけで簡潔にする為に教師も職員もここに住んでいる。
また、子どもたちの世話をする為にも教師と職員がいる。
「寮についてはこのくらいでいいでしょう。これからある人に会いに行きます」
「ある人?」
「それはあってからで」
煌夜はエイダに連れられ、ある扉の前に着いた。
(豪華な扉?貴族部屋なんだろうか?)
幾つかある扉の中で多少豪華さのある扉がエイダが言った様に6つあり、目の前の扉がその1つだった。
エイダはその扉にノックする。
「どちら様でしょうか?」
扉の向こうから聞こえる声に煌夜は聞き覚えがあった。
「エイダです。コウヤさんを連れてきました」
エイダが答えてると、扉が開かれる。
扉の先から現れた人物に煌夜は驚愕する。
「お待ちしておりました。中へ」
その者はレイラ。
ミックの実家のメディシーア家のメイドであり、リィーズである。
「大丈夫ですか?」
「え?」
中へ入ろうとしない煌夜にレイラが声を掛ける。
煌夜は呆然とし、レイラに声を掛けられて何故か強張っている事に気づく。
「すみません、入ります」
慌てて煌夜も中に入る。
「あれ?なんでミックがここに?」
部屋に入るとミックがおり、その傍らには身に覚えのある女の子がいた。
その女の子は妹のミリーである。
「やぁ、コウヤ。じゃあ、奥の部屋に行ってますね」
「お願いしますね」
ミックはミリーを連れて奥の部屋に行った。
そして、残った煌夜、エイダ、レイラは机を挟んで座った…が。
「ここまで案内して貰って申し訳ありませんが、ここでお引き取りを」
レイラはエイダを止めた。
「私は案内役で…」
「あとは帰るだけですよね。それならミックに帰させます」
「別に居ても問題ないと思うのですが?」
確かに案内は既に終わっている。
しかし、エイダからすれば帰らなければならない理由はない。
別に煌夜とミックの2人と帰ったって問題ない訳で。
「言い方を変えます。貴女を信用していないからです」
上辺だけで話しても帰らないと思ったレイラは本音で言った。
「貴方が『魔導工兵』の情報を扱う所で働いているなら私たちがどういう存在かは知っていると思います。私は総長を信頼してここに居ますが、貴女方を信頼、信用するかは別です。仮にミックや煌夜さんが信頼していたとしても」
レイラとミリーの詳細はある程度『魔導工兵』内に流れている。
特に情報課のエイダは知っていてもおかしくない。
ミックの人柄や擁護でマシになっているとはいえ、ミックやミリーは反逆者の子どもでレイラは反逆者のメイド。
信用しているとは思えない。
だからこそ迂闊に近付けない。
何よりミリーを守る為には。
「エイダさん、僕からもお願いします」
煌夜も請う。
レイラが言った事もあるが、何より隠しておきたいのはレイラがリィーズである事。
だからここはエイダに引いて貰う。
「分かりました」
エイダは承諾する。
「コウヤさん、今回の学校の案内と模擬戦の事は報告しておきます」
「はい」
「では私は失礼します」
エイダはきびすを返す。
「盗み聞きはしない様にお願いしますね。何をしようとも気付きますので」
「ご心配なく」
レイラが忠告し、エイダはそれを受け入れて部屋を出た。
「申し訳ありません。貴方にとっては自分の担当者を疑われた形になりますので」
「大丈夫です。レイラさんからすれば家族やホーリーヘッドの民以外は疑ってもおかしくはありません」
「ありがとうございます」
煌夜はレイラたちの事情を知っている。
だから、彼女らがここでの信頼、信用出来る人が少ない事も分かっている。
「さて、早速色々と話させて頂きます」
「はい」
レイラは早速話を始めた。
「今私たちは『魔導工兵』に預かって貰っている状態にあります。当然ミリーが魔導持ちだからです」
レイラとミリーがここにいるのは総長の許可を得て、この学校に住まわせてくれている状態にある。
レイラが言った「当然ミリーが魔導持ちだから」というのは事実であるものの、表向きの話である。
実際はレイラがリィーズで限られた者にしか知らせていないし、対応出来る者はもっと少ない。
レイラを味方につける為にミリーの保護をしている。
「今日は貴方がこちらに伺うと聞き、話せる機会を設けて欲しいとお願いをし、ミックにはミリーのお世話の方をして貰う為に来て貰いました」
どういう経緯でレイラが知る事になったかは分からないが、レイラは一度まだ寝ている煌夜を見ていて、煌夜はあの戦いの後から会っていない。
お互い話したい事はあるが、その機会を作るのは簡単な様で難しい所もある。
しかし今は煌夜がしばらく休暇の扱いになり、レイラはミリーの世話でここから離れる事が出来ない為、煌夜が訪れれば会う事は出来る。
ただし、煌夜にはレイラの居場所は伝えてなかったので、今会えているのは煌夜が学校見学をする事になったからでしかない。
「そうなんですね。因みにミックの妹さんの容態は?」
「以前よりかはマシでしょう。現状受け答え出来るのは私とミックだけ。深く傷付いた心は少しずつ治していくしかありませんが、これからを考えるには貴方にも心を許すくらいの関係を持たせる必要があると思います」
「それは必須ですか?」
「はい、必須です」
ミリーの様子は先程見た。
目は虚で感情というのを見て取れなかった。
ただ1つ、ミックから離れない様にくっついていた。
あの様子だと本能的に心を許していて、それがミックとレイラだけ。
会う相手も選んでいるのだろう。
そんな中でレイラは煌夜にミリーの心を許す相手になって欲しいと言う。
煌夜とレイラが炎の剣の関係性でミリーとの仲を良くする必要はある。
ただ単純にミックの友人だから、ミリーの友人にもなって欲しいと思っているからだろう。
「そちらに関しては少しずつしていくとして、貴方との話はどちらかというとこちらでしょう」
レイラはそう言い、炎の剣を出してすぐに消した。
「今炎の剣は貴方と私に繋がった状態にありますが、その力はまだ一部だけ。私との戦いで使った力もその一部を使って発動したのでしょう」
「僕はその力を使って貴女を…」
「えぇ。あぁそうでしたね、途中から記憶がないと」
「はい」
煌夜が途中からの記憶がないのを総長から聞いたのだろうか。
「あの時、貴方は使える手を全て出していました」
「そこは覚えています。一応手が無かった訳では無いんですけど、あの戦いでは倒す事を目的としていなかったので、使っていませんでした」
煌夜はあの時全力を見せたが、あれが煌夜の手札全てを見せた訳ではなく、あの時における全力を見せたに過ぎない。
それは無意味や負担が大き過ぎるという理由で使っていなかった。
「確かに使える手使えない手というのはどの戦いでも存在します。因みに持っている手全て使った場合、私を殺せますか?」
「それは無理ですよ。その前にこちらが殺されます」
「はい。仮に魔導が強大であっても、それは当たらなければ意味がありません。最後に見せた力にしてもクリフォード様の手助けがあったからこそですからね」
魔導の力は能力によっては格上にも効く場合がある。
ただしそれは当たらなければという話であり、身体能力や戦闘技術がレイラの上である為、クリフォードの手助けがなかったら今の結果にはなっていない。
「レイラさんが受けようとしてくれたのもありますよね?」
「えぇ、あの時点までは」
レイラは自身の掛けられた洗脳を解いて貰う為に煌夜の攻撃を受けた。
だからこそ、あの全力は当たった。
しかし、それまでである。
「失敗に終わった後、私とクリフォード様は死闘へと切り替えました。そして、それ同時に貴方とあのお嬢さんは役不足になりました」
「そこまでは覚えています。その後僕はどうするべきか分からなくなりました。その時はベレット以上に役立たずだったのだと思います」
「あの状況下では手を出す事が正しいとは限りません。死闘ともなればむしろ邪魔になる事もあります。とは言え、何もしない訳にもいかないでしょう」
2人の戦いに入れば邪魔になる可能性が高くなるが、クリフォードの負けはこちらの負けも同じ。
何かしなければならないと思ってしまってもおかしくはない。
まぁ、ベレットがそう思って戦っていたかは分からないが。
「とにかく、あの時私はクリフォード様とお嬢さんの2人と戦っていました。クリフォード様が本気だったかは分かりませんが、私はまだ余力を残した状態で均等な戦いとなっていました」
「そのままだとレイラが勝っていた可能性がある…という事ですか?」
「貴方には見せた方がいいですかね」
レイラは手のひらを上に向ける。
すると、手のひらに雷が生まれる。
「それは?」
「もう少し見せます」
『擬雷』
雷の形が変わり、レイラはそれを掴む。
その手には短剣の様な形をしていた。
「まさか…」
「えぇ、今見せた様にこれは魔導ですね」
「やっぱり…。でも、なんで?」
「すみません。それは私にも分かりません」
レイラが見せたのは魔導。
リィーズであるレイラにとって特効となる魔導を使用出来るのは矛盾を感じる。
そして、レイラは自身の魔導の詳細を伝える。
魔導名は《雷刃雷公》。
建御雷神を素とする。
主に『擬雷』という雷で姿形を変える事が出来る。
「こちらの神を素にしている魔導なんですね」
「元々そちらの人だったからだと思います」
建御雷神は倭の神様だ。
レイラの体が倭人だからだろうか。
「話を戻しますが、あのまま戦えば私が勝つ可能性は高いでしょう。ですが、こちらが無傷で終える事も出来ません」
「当時対抗出来るのはクリフォードさんとエーリクさんの2人と言っていましたね」
「単体ではありますが、それでも私と戦うならエーリク様の方が分があったと思います。ですが、結果は違いました」
レイラとクリフォード、エーリクの2人の実力差は分からない。
エーリクの方に分があるのは単体戦、集団戦をどちらも可能とし、格上でも負けない力を持つ。
対してクリフォードはレイラ戦までは『ソードオブダークネス』があったとはいえ、格下集団戦を得意とし、逆に力押しに弱く格上には勝率は低い。
少なくとも実力はクリフォード、エーリクから見てもレイラの方が上だと思っている。
だから、「勝てれば良いが、深傷を負わせるのが精一杯だろう」と思っていた。
しかし、その後ある事が起きた。
「クリフォード様と対峙する中、それはほぼ同時に感じたのだと思います。得体の知れない力を」
クリフォードは得体の知れない力というより空気が変わったのを感じたのだろう。
レイラは同じモノを感じたのだと思って行っている。
「クリフォード様はそれがどんな力なのか分かっていなかった様ですが、私はそうではありません。その力が炎の剣の力であるのは分かりました」
「繋がりがあるからですか?」
「そうだと思います。ですが、私も全てを理解している訳ではありません。その力に危機感を覚え、阻止に動きましたが、クリフォード様はそれを止める様に立ち塞がりました」
炎の剣を全て理解している…そんな上手い話はない。
たとえ、繋がりのある者であろうとそれはないと煌夜も分かっている。
それは同じ繋がりを持つ美龗姉妹から見ても分かる事だから。
多分レイラが感じた危機感というのは理解出来ないから来るものだと煌夜は思った。
「私は煌夜さんを、クリフォード様は私を止める様に動きました。当然距離の遠い煌夜さんよりも距離の近い私の方が止められます。そこにお嬢さんが意外にも役に立ちまして、少し止められました」
「ベレットがですか?」
「えぇ。私が侮っていたというのもありますが、貴方が動くその時まで止められました」
レイラとベレットの実力差はかけ離れている。
でも、だからこそそこを突いた形で時間を稼いだ。
あとはベレットの小細工なしの全力であったのが逆に刺さったのかもしれない。
人は他の事を考えて攻撃を行なうが、ベレットは突撃をする事しか考えてなかったので、爆発力を生まれた。
「その後に私は貴方に斬られました。それにより周りにあったクリフォード様の魔導は消え、私にあった炎の剣が貴方に渡り、正式に繋がる事が出来ました」
「一刀で終わったんですね」
「はい。あれを使うのに一瞬しか使えなかったのだと思います」
煌夜はあれを使って気絶した。
まだ使い熟せない程、消耗の激しい力だったのだろう。
「戦いの話はこのくらいで、そこから伝えられる事はありません。炎の剣の話に移りましょう。そういう話でしたから」
「はい、お願いします」
元々、炎の剣の話をするという事は戦う前に炎の剣を受け取ってからという話だった。
だから、ここからが本題。
「炎の剣。先程言った通り全てを知っている訳ではありません。それでも繋がりを持つ者は炎の剣の力と情報を持っています。正式に繋がった時、少し力は返してまだ私たちに炎の剣の力は残っています」
「力は何となく感じますが、情報とはどういうものでしょうか?」
「繋がったのは初めてですか?」
「いえ、あります」
「何か聞いてますか?」
「僕のおおよその場所を把握出来るとは聞いてます」
「それは繋がった後に得られるものです。貴方と私たちの間で主従契約の様なものによって感じられるのです。それも情報にはなりますが、固有の情報ではなく共有の情報と言えるでしょう」
「共有の情報…ですか。つまり、固有の情報を持っている可能性があるという事ですか」
「はい。聞いてみて下さい」
「分かりました」
共有の情報は繋がった事で得られる情報であり、誰でも知る事が出来るのだろう。
「それで固有の情報ですが、私の持っているのは既に知っています」
「知っている?」
「先程私は炎の剣を受ける際にそれが炎の剣だと分かっていました。その効果も」
「それって『魔導を消す力』の事ですか?」
「はい」
レイラが持っている炎の剣の固有の情報は『魔導を消す力』…つまりはさっき話していたクリフォードの魔導とディアンの洗脳(魔導)を消した力の事である。
「と言ってもそういう事が出来るという訳であって、その名称も炎の剣の主な効果と言えるのかも分かりません」
「分かるのはそういう力があるという事だけ…ですか?」
「はい」
正直に言えばそれほど有用な情報とは言えないが、それが発動したからこそその情報を説明する必要がなくなったし、実際に発動した事とその情報を合わせればその力を持っているという証明にもなった。
「多分貴方は力と情報を知る必要があるのではありませんか?しかもその相手はリィーズではない」
「リィーズ相手ではない…確かにその力だとむしろ魔導工兵…魔導持ち向きと言えます…けど……」
「えぇ、本来魔導はリィーズに対する特効能力です。それなのに魔導対する魔導…もしかすると魔導ではない可能性もあります」
「魔導ではない…」
「そもそも魔導は人間が得たないの知れない力をそう呼んでいるに過ぎません。一応リィーズに効く力を魔導とは呼んでいますが、その定義で言えば炎の剣はその対象にはならないかも知れません」
炎の剣。
全く知らない力で魔導に効く力。
魔導はリィーズに効く力で、素とする神やその能力が分かる。
現状では炎の剣を魔導と呼ぶのは難しい。
「しかし、全く知らない事こそ魔導の一部という事もありますが」
「そうですね…」
正直煌夜には理解が追い付いていない。
新情報に仮定の話。
理解したい気持ちはあっても、理解出来るとは限らない。
「長々と話し過ぎました。申し訳ありません」
その様子をレイラは謝罪を入れる。
「いえ、僕は何が何でも炎の剣を知る必要がある。それは使命に近いと思います」
「だからと言ってそれを理解出来る訳ではありません」
「はい…、その通りです」
レイラは話を変える。
「炎の剣に関してこのくらいにしましょう。何も言っても仮定の話でしかありませんしね。ただ、まだ話す事はあります」
「何でしょうか?」
「私とミリーの待遇についてです。貴方にそれを知っておいて欲しいです」
「僕が貴女と繋がりがあるからですか?」
「それだけではありません。私がリィーズである事やミックの友人である事を含めての話です」
2人の待遇に関しては限られた者のみ伝えられる。
煌夜はその条件を幾つも達成している為、レイラは教えてくれる。
「私とミリーは組織『魔導工兵』に捕虜兼保護という扱いで預かって貰っています」
「捕虜…やはり戦争に何があってもその内情は知らされず、敵側にいたという表向きの対応をされているですね」
「弁明したところでミリーは当事者の娘、私は当事者のメイドですから、それでも今は好待遇に扱って貰っています。総長さんが保護という扱いにしてくれたからだと思います」
捕虜は前置きで保護が目的。
捕虜に一旦しているのは今回の戦争で誰が戦闘員かが分からないからである。
基本的に兵士(私兵)、魔導工兵、リィーズが戦闘に参加したのは確定しているが、問題なのは魔導工兵…というより魔導持ちである。
魔導持ちは戦闘経験がなくとも殺傷能力を持つ非戦闘員。
警戒をする必要がある。
また、2人が戦争を吹っかけれた当事者の身内というのも捕虜扱いになっている理由である。
保護扱いになっているは総長の意向に過ぎない。
「ミリーが魔導持ちだから、『魔導工兵』持ちにする事が出来ましたが、そうではなかった時、扱いは難しかったかもしれません」
ミリーが魔導持ちではなかったら、マーシア王国か被害国であるウェールズ公国が預かる事になっていただろう。
当事者の娘というだけで領民と同じ扱いが出来ないからだ。
「私は色々と嘘を混えて公表しています」
「嘘を混えて…ですか?」
「嘘というより第三者から見たらそう見えるというだけです」
レイラの情報を公表する事は難しい。
それでも公表しない訳にもいかない為、嘘(事実よりの)を含めて公表する事にした様だ。
「ディアンのメイドであった事は事実で、それに加えてディアンの妾でミリーの母親である事を伝えてあります」
「妾だったですか?それともそれが嘘という事ですか?」
「はい、嘘です。ディアンが家族だと思ってくれていたと思いますが、決して妾としてはではありません。ミリーを産んだ事に関してはもう1人のディアンがやった事。でも、今回はそれを利用しています」
妾を取るか取らないかは貴族の当主次第ではあるから、不思議な事ではない。
それに妾でミリーの母親ならリィーズの疑いもされない。
何故ならリィーズは子を産めないという認識がされているからである。
「という事で私たち3人は書類上で親族となりました。それでも私はメイドとして振舞いますが」
「嘘と事実を織り交ぜられるのは総長のおかげですか」
「そうですね」
この嘘と事実が織り交ぜられた情報はレイラと総長の理解の一致に過ぎず、ここまでの事はよっぽどの事がない限りは難しい。
「それと一応メイドではありますけども、戦闘可能な戦闘メイドという事にしています」
「戦闘メイド?何故そこまでを?」
「都合がいいからです。メイドの中には戦闘可能な者はいらっしゃいますので、戦闘メイドならばミリーに手を出そうと思う者も減りますから」
「なるほど…」
戦闘メイド。
もっと広く言えば召使いの中には戦闘可能な者がいるという事。
今のミリーに接触させない為の防波堤として自分がその戦闘メイドと語れば、力強くで接触はしない。
レイラはリィーズとしての力やさっき見せた魔導を使わなくても、戦闘技術…特に足技はクリフォードと戦えるほどの技量持ちである。
「ここまでは私たちに関して。私と貴方の関係も秘密裏ではありますが、登録しました」
「登録しても良かったですか?」
「これは総長の要望です。今すぐ必要ではなく、いつか貴方が故郷に帰る際に私も同行する為の情報です」
「その言い方だと総長も何か知っているですかね?」
「分かりませんが、感じなかったですよね?」
「はい。炎の剣の関係者ではないと思います」
煌夜はまだ炎の剣の関係者を集めていて、その先の事は考えていない。
それこそ総長の言っている故郷の帰る事が大事だと思ってはいない。
「情報網は侮れないとは思いますが……。とにかく話せる事はこのくらいで、もう一つ用があります」
「もう一つ?」
レイラは席を立ち、ミックとミリーが入って行った部屋のドアをノックする。
「ミック、話は終わりました。移動しましょうか」
レイラが声を掛けるとすぐにミックが出てきた。
その後ろにはミリーも付いて来ていた。
レイラは2人を呼び出した後、隣の扉を開けた。
中は前の部屋よりも質素で、綺麗ではあるものの生活感がなかった。
「ここは私のような召使いが使う部屋です。私はいつもミリーの側にいますので、掃除はしますが、使う事はありません」
だから生活感がないのかと思う反面、では何故ここに案内したのだろうかと思った煌夜。
レイラは腰を下ろし、床の一部を押した。
すると床が浮き上がり、それを上げた。
(隠し扉?)
その先には階段が続いていた。
「ここから地下に向かいます」
「コウヤは先に行ってね」
「う、うん」
その階段をレイラ、煌夜、ミック、ミリーの順番で降りていく。
「ここは総長を通じてクリフさんに作って貰いました」
「クリフさんが?でも、確かに壁も天井も今歩いている階段も全部土で出来ている」
周りは土。
洞穴はないのは分かるが、手作業の人工的な作り以上に精巧な作りをしている。
単純に穴を開けて削っているという事ではなかった。
そもそも手作業では長時間掛かる。
これが魔導による物だと分かるのは枠組みがされており、土壁が何枚も使われているからだ。
クリフの魔導は圧縮によって強度が上がる。
しかし、大きれば難しく、小さければ簡単に圧縮出来る。
つまり、自然な壁の一部を土壁に、もしくは新たに自然な壁の上に土壁を嵌め込んでいるのだろう。
因みに階段には人が踏む部分を土壁が嵌め込んでいる。
クリフの几帳面さが表れているだろうか。
4人はさらに降りていき、暗いが広い空間に出たのを煌夜は気付く。
「!?」
降り立ったと同時に何かを感じ、それが襲ってくると感じる。
「ミック、灯りを」
「はい」
しかし、2人は落ち着いていた。
ミックはレイラの言われた通りに持っていた松明を近くにあった蝋燭に灯りをつけていく。
暗かった空間が明るくなっていく。
「こ、これは?」
目の前に犬や猫の動物たち。
それが血の柵で遮られていた。
「落ち着きなさい!」
レイラが注意をして、落ち着かせる。
(この感じ…)
煌夜はこの動物たちがどういう存在なのか分かってしまった。
「この子たちはミリーの親衛隊。現在ではその役割は一時的に外していますが。煌夜さん、この子たちが何か分かりますか?」
「はい、リィーズですよね」
「その通りです」
ここにいるのはミリーを守っていたリィーズで、ミックの『レストア』によって仲間になったモノたち。
その数は11体で、その筆頭がロキ。
「全員動物型なんですか?」
「いえ、大半は…というよりこの子だけですね」
レイラは一際大きい犬の頭を撫でた。
「この子はロキ。親衛隊の隊長みたいな役割を持っています。そして、私の次にミリーの魔導の仲間になった子でもあります」
ロキは犬の死体から生まれたリィーズ。
人の死体から生まれたレイラと似た形である。
基本的にダストやロットンから動物や植物と合体し、キメラ型になるのが多い。
しかし、レイラとロキは死体にゴミ(死臭も含まれる)が集まり、リィーズとなっている。
枠組みとしてはキメラ型となるが、別個体と考えていいだろう。
因みにレイラやロキ以外は中型のダストやロットンである。
「皆さん、彼は煌夜。ミックの友達です。将来的には私の主人になります」
レイラがロキたちに紹介する。
ロキたちは大人しく聞いていたが、まだ警戒心は残っているようだ。
「煌夜です。よろしくお願いします」
煌夜は土汚れが付くと分かりながらも、腰を下ろし、礼を行う。
ロキ以外の中型は少し知能があるようだが、やはりこのロキだけは言葉が話せなくても人とそう変わらないほどの知能を持っているような気がして、礼儀を尽くした。
「煌夜さん、近づいてみて下さい」
「はい」
煌夜はレイラに言われた通りに近づく。
目の前に来たところでレイラに「触れてみて下さい」と言われ、ロキに手を近づける。
「止まって下さい」
レイラに言われて手を止める。
手とロキの距離は10cmほどだ。
「ここまでですね」
ロキの口がプルプルと動いており、我慢しているのが見て取れる。
「ありがとうございます、下がって大丈夫です」
「はい」
煌夜は下がる。
それと同時にロキは落ち着きを取り戻していた。
「ミック、戸締り等お願いします」
「はい、分かりました。コウヤ、ちょっと待ってて」
「うん」
ミックとミリー、ロキたちと別れて、煌夜はレイラに連れられ、地上に行き、そのまま部屋を出て、元いた部屋に戻った。
「ロキたちはミリーと同様にここに来た時に仲良くして欲しい。大抵私がいるから一緒に行動するとは思いますが」
「分かりました」
「お願いしますね」
どちらも仲良くなるのは困難と言えるが、やっていくしかないだろう。
「さて、今ミックがロキたちを落ち着かせた後、一度ミリーをロキたちに任せた上でこちらに戻ってくると思います。それまで待っていましょう」
煌夜はミックと帰るという話だったから、一旦ここで待機をする。
「すみません、一つ個人的に聞きたい事があるですが?」
「何でしょうか?」
時間があると見て、煌夜はある事を聞く。
「レイラさんから見てミックたち家族はどんな風にだったんですか?」
煌夜はレイラから見たミックの家族を聞いてみた。
「そうですね…、あの方たちは分け隔てなく接してくれます。リィーズであろうと」
確かにミックはレイラがリィーズであろうと受け入れた。
ミリーはレイラに限らず、先程のロキたちを見れば慕われているのは分かる。
唯一、父親のディアンを煌夜は知らないが、レイラがこう言っているという事は同じだったのだろう。
「そんな家族がこんな事になってしまうとは私があの家に受け入れられた時には思いませんでした」
レイラにとってはメディシーア家に受け入れられ、メイドとして働き始めた頃はとても良かったのだろう。
今が悪いという事ではないが、あの時のまま過ごせていたらもっと良かったのかもしれない。
「その時の事、またいつか聞かせて下さい」
「いいですよ」
今までのメディシーア家をよく知っているのはもうレイラくらいかもしれないから、やはり詳しく聞く必要があると煌夜は思いながらも、そう長くは話せないと思い、一旦話を切った。
そして、その数秒後にミックが来て、一緒に帰宅する事にした。
ちょっと長話がすぎたかなと思いつつ、レイラ・ミリーの話でした。
炎の剣に関しては特に進捗はなく、ある意味「魔導に効く力」を確定した形になりました。
まぁ、今回は彼女ら(ロキたちも含む)がどうなったかの話になるのかなと思います。
次回はちょっとした話とこの章の最初に書きたかった事を入れて、その次の話はミック視点の話をしてこの章は終わりになります。
戦後から数日、総本部は新たな体制の動きを見せる。
煌夜はそれとはそれほど影響せず、さらに1週間後に驚きの出来事が彼に訪れる。
次回、新体制と再会




