第2話 魔導工兵の学校
鍛冶屋に行った翌日。
煌夜は学校の方の見学を申し出た。
魔導工兵の仕事が出来ない以上、する事もないし、ベレットやミックを含め、ほとんどの魔導工兵は仕事に出ている。
一言で言えば暇をしている。
それに魔導工兵の教育機関は知っておいた方が良い。
そう判断して、それを総本部に伝えた。
確認が必要である為、昼頃にまた来て欲しいと言われ、午前中は街をぶらつく。
セントラルは魔導工兵の街で国家同士のしがらみが基本的にはないから、他の連合王国内の国と比べればそれほど変化は見られない。
ただ、魔導工兵の組織の頭という事もあり、魔導工兵関連であれば、その影響は必ず来る。
それに魔導工兵は1人で一勢力として数えられる場合がある。
とは言え、総長のお膝元で裏切り行為をするとは思えないので、安心感があるのかもしれない。
ーーー
お昼頃、再度総本部に赴き、見学の許可が下りた事を聞く。
その案内役を煌夜の担当であるエイダが受け持つ事になった。
「時間は大丈夫なんですか?」
「基本的に事務業務なので問題ありません。仮に担当している魔導工兵に何があっても、代わりの方がしてくれる様にお願いしています」
「そうなんですね。それでも何かあればそっちを優先して下さい」
「はい、そうさせて頂きます」
情報課の職員は2、3人ほどの魔導工兵の担当となり、基本業務は魔導工兵の報告と会社からの報告を受け取り、1日の業務をまとめる。
さらに各本部から届く業務連絡を受け取り、全魔導工兵の情報を整理する。
今は戦争の後処理で忙しなく動いているが、『魔導工兵』の各部署の中で情報課は規模が大きい為、1人抜けたところで問題はない。
2人は徒歩10分ほどで着いた。
目の前にある建物は大きな平屋。
しかし、総本部やその左右にある建物と比べれば規模が小さい。
「総本部と…比べるのは違うとは思うけど、小さいですよね?」
「1つの施設として見ますとそうですね。一応『魔導工兵』の組織の中でここは教育課の部署も兼ねています。それでも規模は小さいですし、そもそも魔導持ちは少ないですからね」
魔導持ちはそもそも少なく、発見されるかも分からない。
総本部は外国組が入ってくる事はあるけど、各国には貴族出身の子が入学する。
一概にどちらが多いという事はない。
とは言え、ディアンやクリフォード、それこそミックの様な親や各地の教師の意向で総本部の方の学校に行かせるという事があるから、もしかしたら多いのかもしれない。
まぁ、それでも『魔導工兵』の予算の中ではあまり貰えていないのも事実。
実際、現役の魔導工兵に多く予算を充てた方が良いし、入学した魔導持ちが全員魔導工兵になる訳でもない。
むしろ、建物や設備以外での予算案を考える方が難しい可能性があるくらいだ。
学校は壁で覆われ、入り口が門で封鎖されている。
厳重である理由は魔導持ちの子供達の為で、一般犯罪の恐れがありつつも、子供達はまだ未熟である為、逆に被害を起こす可能性もあるからである。
手続きを終え、2人は敷地に入る。
「今見える目の前の建物が学科棟、横にある少し大きめの建物が実技棟、学科棟の向こう側に寮となります」
「ここにも寮があるんだ」
「家庭の事情や総本部横の寮に住む以外では基本的にはここに住んで貰う様にしています。教師や教育課の職員も住んでいます」
子供達を守る為にここだけで簡潔にしている。
その為に教師も職員もいる。
ただし、押し付けはしていない。
元々魔導持ちは貴族出身が多いから、強制は出来ない。
2人は学科棟に入り、ある一室に入る。
「よく来たのじゃ」
そこに居たのは1人の老齢の男性。
「ワシはな、リチャードというもんじゃ。ここの校長と教育課の課長をしておる」
「遠い東洋の国から来た煌夜です。本日は急な申し出を受けて頂き、ありがとうございます」
「ここに見学に来るのはそれほど珍しい話ではない。しかしじゃ、実際に参加して貰うには別の手続きが必要となるから、その時は何日か前に申し出をすると良い」
「分かりました」
「今日は見るだけじゃ。エイダ、案内は任せる。事情は教師や職員に話しておるから、邪魔せぬ様に」
「了解致しました」
軽く話をして、2人は退室。
まずは学科棟の教室を見学する。
廊下から邪魔しない様に見る。
大人の女性の1人が3人の子供に対して教えている様だ。
「学校では一般教養と魔導工兵に関する事を教えます。10歳くらいに入学したら2年間で一般教養を教える訳ですが、ここにいる子達がそうなりますね」
一般教養。
生活や仕事をする為の最低限の知識。
実際は国や地域でその知識量は変わる。
魔導工兵をする上でリィーズ討伐をすれば良い訳ではなく、工場に働く必要もある為、その知識が必要となる。
「ただし、貴族出身の方はそもそも教養を必要としませんので免除されます」
貴族は幼少期に親の意向で教育が為される場合が多い。
その為、勉強をする必要もないし、余計な事をすれば怒られる可能性もある。
一応逆に親から頼まれる場合もあるが、基本的に一般教養には手は出さない方針でいる。
「隣に行きましょう」
「はい」
2人は隣の教室に移動する。
「見た感じ同じくらいの年齢に見えます」
「はい、ここは貴族出身の子達がいます。先程の子達とは違い、魔導工兵の勉強をしています」
教室の中には大人の男性と5人の子がいた。
先程の子達よりも服装とかが上質で、教室も少し煌びやかさがある様に見える。
「さっきの子達と差が出来ませんか?」
「そうですね。でも、こちらも一色単にする事も出来ませんし、その逆に個別に教えられる程の人材は確保出来ません」
明らかに貴族出身の子の方が先に成長する。
その差を埋める事は出来ない。
その対策も取れない。
だから、この様な事になっている。
「それでも15歳になるまでは卒業を認めません。魔導工兵になるという事は何事も1人で仕事をする事が増えます。15歳は大人になった証、それは何処の国でも変わりません」
「なるほど…」
「コウヤさんの方ではそうではないですか?」
「うーん。まぁ、一応独り立ちは15歳ですね」
成人は誤差があるものの15歳。
それを基準に学校の卒業と共に正式に魔導工兵となる。
とは言え、実際のところ魔導工兵になるならないは各国で違う事もある。
「一応とは?何か違う事でも?」
「こっちの国は帝を頂点にしながらも各地域で魔導工兵も兵士も制度が若干違うところがあるし、僕自身もリィーズ討伐の参加は12歳から助太刀を貰いながらしてたから…」
「12歳から…ですか…。だから、リィーズ討伐に慣れていたのですね」
倭は帝を頂点にした連邦国家。
一応倭全体の法はあるが、地方にも個々に法はある。
さらに独自の兵やそれこそ学校もある。
魔導工兵に関しては数が少ない為、補う必要があるが、教育は生徒の実家近くの学校で行われる。
そして、教育方法はその地で違う。
ただ、煌夜は帝に近い場所にいる為、中央…朝廷の制度に準ずる形となる。
2人は学科棟から出て、実技棟に向かう。
「実技棟は授業に使う大部屋と個々の修行に使う10室があります」
「10室?それで足りますか?」
「足りない時もあります。ですが、魔導持ちの子が各年に1人入学してくる事はありません。仮に入学しても2、3人くらいになりますから、約5年となると10人前後という事になります。組織としても最大にするよりも平均にしておいた方が余分が出なくなる。実際に10人を超える事はありますが、15人まではいきません。仮に超えても大部屋を使う事も出来ます」
入学してくる生徒というのは貴族家の子、一般市民から偶然見つけた子、そして留学してきた子。
そもそも魔導持ちが生まれる事自体が稀である為、全生徒が少なくなるのは必然。
ここセントラルや各本部が置かれている王都ではまだ一般市民から見つかる事は多いが、一年に1人分見つかれば上々なのである。
目処で2、3人。
何十年に一回くらいに5人である。
それに実際に10室が一度に埋まるという自体も少ないだろうし、決して1室1人というという事もない。
エイダが言う様に大部屋も授業以外では使用することが出来る。
10室でも問題はない。
それよりも貴族家の子が権力を振り翳す方が面倒事になるが。
実技棟の区画は学科棟側に大部屋、寮側に小部屋が並んでいる。
2人は目の前の大部屋に入る。
邪魔に入らない様に隅っこに移動する。
その際に大人の男性の人が頭を下げるのを見て、こちらも頭を下げる。
事前に話が通っている証拠だろう。
煌夜と変わりない年齢と思われる子が3人。
その3人がチラッとこちらを見て、すぐに顔を戻したが、ただ1人だけその後もこちらを気にしている男の子がいた。
「彼は?」
「気になりますか?」
「気になると言うか、気になられている気が…」
煌夜はそれを気付き、エイダに聞く。
因みにあとの2人は女の子で、あまり詳細を言わずに「彼」と言えた訳ではある。
「エリック・ヨーク、ノーザンブリア王国出身の貴族家のご子息です」
ノーザンブリア王国。
マーシア王国の上にある国で、セントラルからするとマーシア王国除いて連合王国の中でも1番近い国でもある。
「うん?何か話してる?」
「何でしょうか?」
そのエリックが大人の男性…教師と思われる人に話しかけていた。
すると、こちらに向かってきた。
「済まないが、少し時間をくれないか?」
「時間とは何でしょうか?」
「彼が君と戦いたいみたいでね」
教師はそんな事を言ってきた。
エイダは煌夜の案内役なので聞き答えをしてくれている。
「今回は見学という形で来ています。それにそう易々と戦う事は出来ないと思いますが?」
「確かに見学という形だけならそうなる」
「そうなる?そうではないのですか?」
「校長は念の為に戦っても大丈夫な様に手続きをしている。ただし、本人が了承するかどうか次第ではあるし、条件付きの模擬戦にはなるが」
校長が見学の手続きと同時にしていた様だ。
当然強制ではなく、戦う可能性を考えて事前にしていただけで、戦う選択はこちらにある。
「分かりました。コウヤさん、どうしますか?」
「内容と条件を聞かせて下さい」
「あぁ、分かった」
教師は模擬戦の内容と条件を話した。
・魔導ありの真剣勝負
・制限時間は5分
・危険と判断した場合は教師が止める
魔導ありなのは魔導工兵たるもの、魔導ありきの戦闘は必須である為。
模擬戦用の武器はあるが、煌夜が持つ倭刀はない為、真剣での勝負とする。
制限時間が5分なのは目的が「実力を知りたい」だから、そこまで時間を掛ける必要がないのと、教師とエリックの都合で時間を掛けられないという配慮である。
危険の範囲は重傷。
軽傷は魔導で治せるので大丈夫で、重傷は治せる場合もあるが、基本は無理なのでその可能性がある攻撃をした場合に教師が止める。
「どうかな?」
「大丈夫です」
煌夜は了承する。
煌夜としても魔導工兵見習いの実力を知っておきたいし、これまで年上の実力を見てきたから、自分以下の年齢の実力を知る機会はこちらにとっても嬉しいからである。
エイダ、女子生徒2人は離れ、煌夜とエリックが向き合う。
その間に教師が立つ。
「開始の合図をしたら私は一度離れる。だからと言って決して出遅れるつもりはないから安心してくれ。では、準備良いか?」
「「はい」」
煌夜は刀に手を掛け、エリックは剣…細剣を抜いて構える。
「始め!」
開始の合図と共に教師は離れた。
2人は動かない。
開始の合図を聞いたが、動かない。
お互い相手の手の内を知らないからだ。
知らないから先出しする訳にはいかない。
しかし、時間は5分しかない。
先に動いたのは煌夜。
縮地…のような高速移動でエリックの懐に入ろうとする。
それをエリックは一歩下がって
『フリージング』
レイピアを一振りし、それが氷の斬撃として煌夜に飛ぶ。
それを煌夜は単なる火を刀に纏い、氷の斬撃を払い除け、横に回避。
単純な相性では煌夜の方が分がある。
しかし…
『フリージングランス』
つららの様な物がエリックの周りに現れ、それが煌夜の方に飛んでいく。
それを躱していく煌夜。
ここでエリックの魔導を説明する。
エリックの魔導は神カリアッハベーラを素とする《環境凍土》を使用し、主に『フリージング』という空気を凍せる事が出来る。
似た魔導としてレスターの『フリーズ』がある。
同じ氷を使う魔導ではあるが、『フリーズ』は地面や壁などの物体に生成されるのに対して、『フリージング』は空気を媒介に生成される。
その違いは物体の凍結である。
ただ、物体の表面にも空気があるから、表面の凍結は可能。
ただし、物体自体を凍結する事は『フリージング』には出来ない。
エリックは遠距離と物量で煌夜を翻弄する。
煌夜の武器は刀路とその流派である神路心祈流、そして魔導の『浄火』。
一応『神懸かり』や【導神】『不浄淘汰』があるとはいえ、前者は今使うべき力ではないし、後者はそもそも使う意味がない。
さらに【導神】『不浄淘汰-忿怒』に関しては発動すらしない。
並べてみて分かる様に遠距離攻撃はなく、多数戦には向かない。
煌夜が速度を上げたところでエリックもそれなりに速くて近づけない。
つまりは不利な状況ではある…が、付け入る隙がない訳ではない。
「はぁぁぁぁぁ」
煌夜は力強く踏み込み、刀を振るう。
刀から火が広範囲に広がるが、遠くには飛ばない。
壁みたいに広がった火は飛んでくるつららを溶かす。
その火の壁から左に移動。
エリックはそれを見てつららを飛ばす。
その瞬間、煌夜はつららとエリックの姿を見る。
「見えた」
煌夜は右に切り返し、火の壁の右から飛び出した。
瞬時にそちらにもつららを飛ばすエリック。
しかし…
「神路心祈流-巡拝」
右に飛び出した煌夜はすぐに消えゆく火の壁を越えながら左に切り返す。
「っ!?」
縮地を駆使し、交互に切り返しながらエリックに向かう。
エリックは驚き、咄嗟に発動してしまう。
『フリージング』
「止め…」
何かを感じ取った教師は間に入ろうとした。
「神路心祈流-一徹祈』
火を纏わせた煌夜は周りが凍りつく空間を溶かし、溶けた水を被る。
そのままの勢いでエリックを一閃…せず、エリックの持つ細剣を弾き飛ばす。
「そこまで!」
一歩出遅れた教師は模擬戦を終わらせた。
「エリックさん、今何をしようとしていましたか?対処したから良かったものの」
「……。申し訳ありませんでした」
一瞬反応に遅れたエリックはすぐに煌夜に頭を下げて謝った。
「大丈夫です」
煌夜は刀を納めた。
(気づけたから良かったけど、危なかった)
エリックが何をしようとしていたかは煌夜にも分かっていた。
あの時、咄嗟にエリックは単純に目の前を凍らせようとしていた。
1番速く発動する事が出来るからだ。
しかしそれは煌夜を氷漬けする事になる。
それを火を纏う事で回避したが、確実に重傷以上で反則…どころではない。
その後の対応を間違えれば死もあり得る。
教師はエリックが貴族家の者だから抑えているが、怒っている。
「カラスマ…さん、止められなくてすみません」
「いえ。でも、他の人だったら対処出来ないかもしれないので、次は早めに対応して下さい」
「あぁ、そうするよ」
煌夜はエリックの方に向く。
「エリックさん、貴方の戦い方がこれだけとは思いません。それに今回あまり剣術を見せて貰えませんでしたが、相当な技量をお持ちのはず。接近された時、まだやれたと思いますよ」
「いえ、私は打たれ弱いところがあります。たとえ、剣で防いでもそこからは剣戟に移行し、接近戦が不利な私と得意な貴方とは結果は変わる事はありません。ただ、お互い手の内を見せるほど時間がなかったのは確かですが」
煌夜が完全な勝ちではないと言い、エリックは謙遜する。
今回は手合わせ。
全ての手を見せる必要はないから、完全な勝敗はそもそもない。
煌夜は地面に刺さったエリックのレイピアを拾う。
「まぁ、最後まで手を打ったみたいだけど」
レイピアの剣先には5cmほどの氷が伸びていた。
「そこまで気づいていましたか」
「気づいたけど、出遅れたと思う。突破するのに全力だったのは確か。不意をつく手として良かった」
「ありがとうございます。私の実家は貴族ですが、騎士の家系でもあります。守る為に通さない」
最後の言葉に力が入る。
そしてその言葉の中には「死んででも」が入っていておかしくなかった。
「さて、このくらい宜しいでしょうか?」
「はい、お時間を下さりありがとうございます」
「時間を取らせて済まなかった。案内の方を続けてくれ」
「いえ、私はただの案内役。ただ、一応コウヤさんの担当者としては病み上がり明けとはいえ、短い時間で収めてくれたのは良かったのですがね」
煌夜が回復して3日。
病み上がりか病み上がり明けと言える中で5分という短い時間は怪我を負う事もない。
長い時間だったらエイダは止めていたのかもしれない。
「では行きましょう」
「はい」
2人は退室した。
今回は魔導工兵の学校に関してでした。
学校は本筋とは関係ありません。今回出したのは次の話に繋がるためのものです。
エリックとの模擬戦に関しても学校の説明だけでは短いと思ったので追加しました。
エリックに関しては追加キャラ扱いになりますが、後々に出せればと思っています。
次回はある人物に会う話になります。
次回予告は一旦無しで、考えてもネタバレ予告になりそうだったので次回投稿したら入れるかも。




