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王宮のお茶会

久しぶりの投稿です。もし、待っていた人がいたら、お待たせしました。

 くらくらするほど眩しく輝くシャンデリア。壁や窓、床まで最先端のデザインで埋め尽くされた豪華絢爛なホール。

 ここは、煌びやかなドレスを身にまとった貴族が集まる、王家主催の茶会。


 アリーチェはその中心付近で、訪ねてくる人々への挨拶をしていた。


「リアム殿下。お久しぶりです」

「久しいね。元気そうでなによりだよ、伯爵。」


(あぁっ! 正体がバレないか心配だわ! こんなに多くの貴族と話したことなんてないし!!)


 今のアリーチェの髪は短く、海のように深い群青色。瞳は宝石のようなはちみつ色。つまり、リアムと同じ見た目だ。

 アリーチェはこのお茶会に、主催側のリアムとして出席している。それは、今回立てた計画の一部である。

 

 アリーチェがリアムに正体を明かした時から一週間。元々お茶会に参加する予定ではあったが、計画によりやることが増えた彼女は、怒涛の日々を過ごしていた。

 リアムの口調を覚え、参加する貴族たちのプロフィールを頭に叩き込み、ダンスやマナーの確認も行った。


「リアム殿下、再びお会いできて光栄です。」


 いつの間にか先ほどの伯爵は見当たらなくなっており、代わりにタキシードを着ている白髪の人物がいる。


(あー、この方は誰かしら……プロフィールにある似顔絵だけだと、名前と顔が一致しないのよね)


「彼はレヴィーン男爵だ。後継者を決めている最中だから、来られないと言っていたはずだけど」


 そうアリーチェにコッソリ耳打ちしたのは、リアムと同じコバルトブルー色の髪を腰まで伸ばした女性だ。

 彼女はリアムの姉であり、今回の計画の協力者でもあるシャノン•フラメル。

 現在は他国へ嫁いでいるため、フラメルの姓を名乗っているが、リアムとは同じ両親を持つ姉弟だ。

 本当ならばパートナーである他国の貴族にエスコートされるべきところを「久しぶりの再会だから、リアムと積もる話があるんだ」と無理やり理由をつけてこちらへきてくれた。


 リアムの格好をしたアリーチェは、シャノンに目線で礼を言い、男爵に向き合う。


「こちらこそ、また会えて嬉しいよレヴィーン男爵。あなたの領地からの多くの作物にはとても助けられている。代が変わってもぜひ国へ力を貸して欲しい。」

「いえいえ。こちらこそぜひよろしくお願いします。」


 それだけの挨拶を交わし、男爵は去っていった。

 アリーチェの周囲に、挨拶に来る人物はいなくなったため、ふっと息をつく。彼女がふと周りを見渡すと、多くの人に囲まれているカルハイト王国の王族が目に入ってきた。


(リアム殿下って、確か魔法が安全に使えるまで、ずっと隔離されていたのよね)


 他の王子と比べてリアムには交友関係があまりない。

 おそらく彼が、『破滅の魔法』を習得するまで閉じられた世界で暮らしていたからだろう。


 だが、そもそも、『破滅の魔法』の使い手だから、と、魔法を制御できるようになっても距離を置きたがる貴族が少なくないのも事実だ。


(そんなのって、きっと悲しいわよね。)


 アリーチェが出しかけた溜め息をこらえていると、すっとシャノンが近寄ってきた。


「お疲れ様、リアム。少し外の空気を吸いたいのだけれど、着いてきてくれるかい?」

「もちろん。」


 シャノンはそう言ったが、彼女は元王族だ。社交の場に慣れ親しんでいる彼女が休憩を必要とするほど、時間は経っていない。

 

(きっと、わたしが息抜きしたいのを感じ取ってくれたのね。)


 気の利く協力者をエスコートしながら、アリーチェはバルコニーへと向かった。




 

外へ出ると、日がほんのり傾き始めており、空はなんとも言えない美しさだった。


「ちょうど、誰もいないみたいだな。……ひとまずお疲れ様、アリーチェ。」


 そう言って、大人びた微笑みを浮かべるシャノン。

 

「ありがとうございます。シャノン様が手助けしてくださったおかげで、なんとかなりそうです。……まるで、本当にお姉様ができたみたいだわ。」


「リアムとアリーチェが結婚したら、一応義理の姉になるんだけどな〜」

「た、確かに言われてみればそうですね! なんだか、不思議な感じです」

 

 アリーチェにとって、血の繋がってる家族は母しか記憶にない。だが、ノアにカミラ、ルシュド、フィンなど、血が繋がってなくても家族のように親しい人はたくさんいる。


「ふふふ」


 アリーチェは思わず笑い声を漏らす。


「急にどうしたんだ?」

「なんだか、人に恵まれているなぁって思って。みなさん、急に聖女だと言われて戸惑っていたわたしに、とても優しくしてくれて。……お兄様なんて毎日、なにか要望はないかと聞いてくださいますし。」

「アリーチェはすごく誠実で、美しい心を持っているからな。君の本質を知ったら、誰だってそうしたくなるさ……それにしても、ブランシェット公爵は少しやりすぎだと思うけどな」


 そう言って困ったように笑うシャノン。どんな笑い方も似合うなあとアリーチェはしみじみ思う。


「久しぶりにこの国に帰ってきたら、公爵があんな風に変わってるんだ。私の気持ちがわかるか?」

「ずっと前から、お兄様は人と距離を置くような方だったのですか?」

「あぁ。彼については……もちろん知っているよな? 私が彼に初めて会ったのは、彼が公爵家当主として初めて社交会に現れたときだ。まだ幼かった私の目には、今でも10歳に似つかわしくない、彼の凛とした姿が焼きついているよ」

「お兄様……」


 今となってはアリーチェを溺愛するシスコンと化してしまったが、それまでのノアは孤独であった。


「公爵だけじゃない。リアムも、確実に変わっている」

「殿下も、ですか?」


 アリーチェの言葉に頷いたシャノンは、アリーチェをじっと見つめた。


「……アリーチェは、リアムを幸せにしたいと思うか?」

「もちろんです!」

「どうして?」

「どうして……」


 アリーチェは、言葉に詰まってしまう。


(仲良くなろうって思ったのは、お母様の言葉がきっかけだわ。それに、お母様にちゃんと幸せな結婚生活だよって報告したいとも思ったわ。)


 だが、アリーチェには、それがシャノンに求められている答えだとは思えなかった。


「ここからは、リアムの姉としての私の言葉だ。……アリーチェ、君のことはリアムからほとんど聞いたよ。君には、たぐいまれなる剣の才能がある。だが、世の中の全員が、何かに優れているわけではないんだ。」


 アリーチェはその通りなのだろう、と真摯に受け止める。


「私もリアムも、これといった特技はない。それでも、国の重要な立場に生まれた以上、必死に役割を果たそうとしている。」

「そんなっ! わたしは、リアム殿下のことも、シャノン様も、それぞれに魅力があると思いますよ!」


 リアムは親切で、お茶を淹れるのが得意、シャノンは気が利いて、すごくかっこいい。というのがアリーチェの印象だ。2人の魅力はアリーチェにはないもので、今の言葉は偽りでもお世辞でもない。

 

「ありがとう。その言葉、とても嬉しいよ。だが、それでも私たちは天才を超えることはできないんだ。そして、どう足掻いても、そこには少なからず『嫉妬』が生まれてしまう。相手が君のように性格がいい人だったとしてもね。」

「嫉妬……」


 もちろん、アリーチェも言葉の意味は知っているが、確かにそのような気持ちを真に抱いたことはない。


「説教みたいになってしまって申し訳ないけど、そのことも頭に入れて、リアムに向き合ってあげて欲しい。そうしたら、さっきの問いに対して、君なりの答えが見つかるかもしれないからさ。」


 シャノンは少し屈んで、アリーチェの顔の正面で微笑みながら言った。


「わかりました、しっかり覚えておきます」


(きっと、リアム殿下ともっと近づくための鍵は、そこにあるんだわ。今はまだやるべき事が定まっていないけれど、頑張りましょう!)


 アリーチェはそう決意して拳を握った。


「じゃあ、そろそろ頃合いかな。私はダンスにでも参加してくるよ」

「そうですね。ダンス、楽しんできてください!」

「あぁ。ありがとう。それと、君なら心配ないのだろうけど……くれぐれも気をつけて。」

「はい、また後でお会いしましょうね」


 アリーチェの言葉に、シャノンはひらひらと手を振って、バルコニーを後にした。


 


 それからしばらくしないうちに、アリーチェのすぐ横に、ストンと人が落ちてきた、というか飛び降りてきた。


「やぁ。まさか屋根の上から来るとはね?」


 アリーチェはリアムのフリをしてその人物に話しかける。

 

(……本当に、引っかかってくれたわ。)


 片膝をついて着地していたその人物は、ゆっくりと立ち上がった。


 手入れのされていない、貴族らしからぬ茶褐色の髪が、風になびく。


 その隙間から、怒りを灯した真紅の瞳が覗く。


「…………その首、今度こそ、もらう。」


 その人物……バーナードはそう言うと、腰から剣を引き抜き、アリーチェに飛びかかった。

これからはマイペースに投稿していきます! 完結までまだありますが、頑張りたい所存です!

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