歩み、歩まれ
お久しぶりです!!
現在、妖精の森での討伐から帰ってきたアリーチェは、リアム殿下に自分の前世、ウィルフレッドとの関係を疑われています。
(どうしよう……。)
アリーチェは考える。どういう理由で彼は、ウィルフレッドとアリーチェが関係していると思ったのだろうか。
(やっぱり、わたしの戦闘での様子からかしら。確かに剣の腕前は普通じゃないけれど、それ以外の決め手になるような情報を漏らしたつもりは無いわ。……罪人とか言われたくないし、とりあえず私がウィルフレッドと同一人物だということは隠して、話を合わせましょう。ただ、彼にはお世話になっているから、できるだけ情報は出し惜しみしないようにしたいわ)
アリーチェは、核心に触れず、ウィルフレッドの関係者であることを認めることにした。
「……そうです。とある理由で、わたしはウィルフレッドの剣の技を受け継いでいますし、その時代のことについて、人より知識はあるといえます。」
「理由は、言えないの?」
「…………」
アリーチェは、前世の死因は騎士達に裏切られたことだと考えている。
だから、彼女にはリアムを信頼し、全てを打ち明けるという選択肢が無意識のうちに抜けていたのだ。
(ここで『言えない』と言うことは簡単だわ。……でも、婚約者であるというのに、わたしは殿下に本当のことを伝えられないままでいいのかしら。)
「どうしてもできないなら言う必要はないよ。でも、僕には君が迷っているように見える。」
「!」
アリーチェは、リアムの真っ直ぐな視線を受け止める。彼の瞳には、どこか期待のような色も伺える。言葉では強制しないが、話して欲しい、という思いはあるのだろう。
(……あのリアム殿下が、こんなにも気にかけてくれているんだもの。わたしの方から拒絶して、お母様の教えにも背いてしまっては、リアム殿下とこれ以上仲良くなることは出来ないわ。)
アリーチェの中から怖い、と思う気持ちがなくなった訳では無いが、それでも彼女には、1歩踏み出したいという思いが芽生えていた。
アリーチェは、目を閉じ、ゆっくりと息を吸ってからリアムの方を見ると、変わらず自分の方を見てくれる瞳とぶつかる。
(この人なら……受け止めてくれるかもしれない)
目の前の琥珀色を見つめながら、アリーチェはそんな気がした。
「……信じてもらえるかわからないのですが、わたしの前世はウィルフレッドなんです。」
「前世……? 君がウィルフレッド本人なの?!」
「まぁ、おおむねそんな感じです。でも、歴史にあるような罪は断じて犯してません。」
「……つまり、この国の歴史が偽りだってこと?」
「はい。……信じられない話、ですよね。」
ティーカップに添えられたアリーチェの手が震える。
リアムは顎に手を当て、思案する。
「確かに、客観的には容易に信じられるような話ではないね。でも、君がそんな嘘をつくような人だとは思わないし、なにより僕は君を信じたい。」
「殿下……」
リアムがすっと立ち上がり、アリーチェの震える
手をそっととり、両手でぎゅっと握った。
「僕はこんな時、どうしたらいいのかよくわからないんだけど……えっと……」
リアムは、アリーチェの手を握ったまま目をウロウロさせてしまう。
そんな彼を見ていたアリーチェは、緊張の糸がほぐれるのを感じた。
「殿下のお気持ち、とっても嬉しいですよ。ありがとうございます」
それは、紛れもないアリーチェの本心だ。彼からの歩み寄りは、良好な結婚生活を送るための新しい一歩になるだろうからだ。
感謝の思いを込めて、アリーチェがリアムに微笑むと、彼は目にも止まらぬ速さで自席に戻り、紅茶を飲む格好をして顔を隠した。
(……お茶が急に飲みたくなったのかしら?)
リアムの頬が熱を持っていることに気がつかないアリーチェは、話題を戻す。
「それで殿下は今、わたしの持っている情報がご入用なのですか?」
「……そうだね。君がバーナードと呼んでいた人物について、聞きたいと思っていた。言いたくなかったらいいけど。」
ウィルフレッドがいた時代の歴史には、バーナードという人物もいる。リアムはそれも加味してアリーチェのことを探ったのだろう。
(バーナードも、結局わたしのことを裏切った1人だから、気は乗らないわね……。でも、彼のことを話すかどうかはわたしの感情で決めていい問題ではない気がするわ。)
「……この前見かけた人物は、確かにあのバーナード・ワイルデンでした。彼について、知っていることをお話ししましょうか?」
「お願い。今日は彼がいた時代について話がしたかったから。」
アリーチェはこくりと頷き、バーナードとの思い出をかいつまんで語ってゆく。
「彼は、わたしの親友で騎士でした。どの戦場に行く時も、わたしの隣には彼がいました。まぁ、剣の腕はわたしの方が上でしたけど。……彼は、対人戦より魔物と戦う方が得意でしたね。」
「彼は、魔法が使えるの?」
「彼が魔法を使ってるところは見たことはありません。ただ、この時代に生きていることを考えると、なんらかの魔法か何かを使っているとしか思えませんよね……」
(そう考えると、わたしがなぜ転生したのかも謎だわ。魔法のせいではないと思うけれど。)
まぁ、それは今考えても仕方がない、とアリーチェは再び語る。
「バーナードは、直感で生きるタイプで、自主練習などをしなくても、雇い主が同じ騎士たちのなかでも強い方でした。会話とかでも、なぜか核心をつくような言葉をあっさりと言ってきましたね。世界の見え方が違うのでしょうか」
「……天才肌なのかな。それじゃあ、彼が王宮の書物を盗んだ理由の心当たりはある?」
「うーん、はっきりとした理由はわかりませんが、わたしが転生したこととなにか関係があるかもしれませんね」
(バーナードは、前世でわたしを裏切ったけれど、それが書物の強奪に関係あるかはわからないものね。)
「ありがとう。だいたいわかったよ。」
「……わたしの前世ことは聞かないんですね」
「僕が今日聞きたかったのは、バーナードのことだから。今のところ、それは君が話したいと思ったらでいいって思うな。」
そう言ってリアムは蜂蜜のような瞳を細める。
(…………あれ、殿下ってこんなに優しかったかしら? 罪に問われたくないって気持ちでいっぱいで気がつかなかったけれど……。心を開いてくれたみたいで、嬉しいわ!)
うんうんと頷くアリーチェに、なんとも言えない表情を浮かべたリアムは、咳払いをした。
「今度開かれる王宮の夜会では、彼を捕らえる計画をしていたんだ。危険だから、君の参加は見送ろうと思っていたのだけれど、君の話を聞いた今は、君の力を借りたいと思っている。どうかな?」
「もちろん! わたしも協力します! わたしは彼のことに詳しいので役に立てると思います。」
「ありがとう。それじゃあ、早速計画を立て直そう」
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