第28話 バレンスト
俺達の活躍によりダンジョンの攻略は完了した。
だが、まだ様々な問題があることを宰相であるサミュエルから伝え聞いた。
まず、俺達を召喚したときにこの国を魔物から守る"守護の宝玉"を使ったため、現在魔物が出現しても討伐する以外の対応が取れないこと。
これは国内の冒険者ギルドに依頼することで、なんとか現状維持が出来ているらしい。だが長期に及ぶと冒険者の負傷等により魔物の影響を考える必要があるらしい。
だが正直なところ、無理やり召喚するために使ったモノが無くなったことによる影響など、俺の知った事ではないとおもってしまう。
次に帝国。現在恫喝交じりの使者が訪れているが、王国内のダンジョン攻略が完了したことはまだ知らないらしい。
各地のダンジョンから軍部を戻すことで帝国への対応は問題ないらしいが、こちらの危機に付け込むような外交を取る帝国に対して一矢報いておく必要があるらしい。
そしてオズボーン女侯爵の動きと目的が把握できていないこと。聖を配下に付けたオズボーン女侯爵が今後何をするか全く予想がつかない。
あとは王太子の件だ。"闇の種子"などという怪しすぎるスキルを保持する以上、このまま王太子としておくことも出来ない。
次の継承順位を持つのはフィアだが、すでに俺のハーレムメンバでもあり継承させても良いか判断が難しく、貴族たちの反感を買うことも目に見えているので対応に苦慮しているそうだ。
最後に魔王。その存在自体疑わしいが、"闇"の事を考えれば魔王ではなくとも何らかの敵対勢力があることは間違いない。
これに対する戦力に俺達が数えられている現状は納得いかないが、放置するよりはましと思っている。
女神のいっていた"闇"に関するものだとは思うが、特に何かしろともいわれていないので積極的にかかわるつもりはない。
他には芝の動向も忘れがちだが、心の片隅に置く程度は気にしている。
俺達は王国を出たいと考えているが、王太子の件があるためフィアの気持ちを考えるとすぐに行動には移せそうもない。
しかしこのまま王宮に居れば、これらの問題に好むと好まざるにかかわらず巻き込まれるのは確実だろう。
望んで召喚された訳でもない俺達が考えるようなことではなく、王国の問題は勝手にやってくれればいい。
めんどうな依頼を押し付けられそうになれば、その時こそ王国を飛び出すタイミングだろう。
「仁、そうしたのぼおっとして?」
厄介ごとを整理していた俺に穂乃華が心配そうに声をかけてくる。
「これからどうするかなって考えてた」
「これからって、なんとか連邦に行くって話?」
「それもあるが王太子のこともあるから、すぐには出ていけないだろ? といってここに居たら面倒ごとに巻き込まれそうだし、どうしようかなって考えてた」
「そっか、なんか仁に頼りっきりだよね。 仁の好きにしたらいいと思うよ、私たちは何があっても仁のそばにいるからね」
そういって、ソファに座る俺の横にきてもたれかかってくる穂乃華。
「ありがとな。そういってもらうと気が楽になるよ」
俺は何となく穂乃華の肩に腕を回し、抱き寄せる。
「ふふふ、なんかこういうのっていいね」
「ああ、なんか安心するよな」
「ああっ!穂乃華ちゃんだけずるいっ!」
「また抜け駆けだぁ!」
まったりくつろいでいると世奈と芹那が騒ぎ出す。
「はあ、まったく。ゆっくりくつろいでるんだから騒がしいのは勘弁してくれ。 世奈も芹那もこっちに来ればいいだろ?」
「やったぁ! じゃあ反対側の場所貰い!」
「あぁー世奈ちゃんずるい! それじゃあ私は仁の上にかぶさるっ!」
世奈がソファの端に身体をねじ込み、芹那が俺に覆いかぶさってくるが、俺に密着すると安心したのかおとなしくなる。
「はあ、ほんと引っ付くの好きだよな」
「えへへ、仁君の臭い…」
「わかるぅ、この感じ安心するよねぇ…」
「もう、折角独占してたのに…」
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「どういうことだ? あのダンジョンはオズボーン女侯爵が攻略したのではないのか」
「はい、間違いなく攻略部隊が乗り込み攻略を成功させたとオズボーン女侯爵は宣伝しておりました。
しかし未だダンジョンは存在しており、魔物があふれ出しつつあるとバレンストの冒険者ギルドより報告が上がっております」
「つまりダンジョンコアがまだ破壊されていないという事か?」
「はい、おそらくは」
「しかしコアを破壊せずに何をしておるのだ? 勇者殿はダンジョンコアが魔王に関係する様な事を言っておったが、まさかオズボーンめ魔王を生み出そうとはしておるまいな」
「先の勇者殿の話はあくまでも推測、オズボーン女侯爵が何を考えているかまでは何とも言えません。
それよりも勇者殿に改めてダンジョンを攻略いただくように依頼するのが先決かと」
「そうだな、至急勇者殿たちに依頼しろ。オズボーンは引き続き監視を続けさせるしかあるまい」
「はっ、ではそのように取り計らいます」
「もうひとつある、なぜこの知らせが冒険者ギルドから届いたのだ?」
「バレンスト領は、子爵が領主となり運営しているはずですな。こちらも確認させるように致しましょう」
聖達が攻略したとオズボーン女侯爵が宣伝していたダンジョンが、未だに活性化しており成長を続けていたとの報告を受け、国王は対応を急がせる。
しかし、ダンジョン攻略のカギとなるダンジョンコアが持ち出されていることを未だ知らない。
バレンスト、聖が攻略したダンジョンに近い商業都市である。
王都からオズボーンへ至る街道の途中に位置し、そこからいくつもの街への街道が整備され流通の要となっている。
商隊が頻繁に訪れ町は活気に溢れているが、その反面商隊をねらう盗賊も頻出するため都市は防壁に囲まれ防衛部隊にも力がそそがれている。
数カ月前にダンジョンが突如現れた際には、防衛部隊や冒険者たちがその攻略に向かったが結果は失敗に終わる。
複雑な迷宮型のダンジョンであり、大量の人員での攻略には向かなかったためだ。
戦闘を行うのは通路で展開できる数人しかおらず、残りはその後方で待機せざるを得ない。
魔法での攻撃も、数体程度の相手に範囲攻撃魔法を放っていては割に合わないため結局個別に攻撃することになり効率が悪い。
冒険者と防衛部隊の混成であり、想定よりも深いダンジョンであったことから補給が滞り撤退せざるを得なかったのだ。
ダンジョンが出現したことにより商隊も交易を控えるようになり、街は少しづつ活気を失っていく。
そんな落ち込む街の空気を一掃したのが、聖たちによるダンジョン攻略の報だった。
その知らせを受けたバレンストの街はお祭り騒ぎとなり、滞っていた商隊も再び動き出し街はかつての活気を取り戻したように見えた。
しかしダンジョンの監視からは、いつまでたってもダンジョンが崩壊したとの連絡が上がってこない。
規模が大きい為崩壊にも時間がかかると楽観的にとらえていた人々も、時間の経過ともに不安を覚えるようになってくる。
改めて派遣された部隊によりダンジョンが崩壊していないこと、それどころか活性化が続きもうすぐ魔物があふれそうな状況にあることが報告されると、再び街は活気を失い商隊も姿を消す。
そのような中でギルドから急使が王都に送られたのであった。
急使による報告が王都に届いた頃、すでに魔物がダンジョンからあふれ出していた。
あふれ出した魔物はバレンストの街に向け動き出し、さらに強力な魔物も徐々にダンジョンから現れ始めていた。
周辺の魔力を奪いながら成長するダンジョン。
ダンジョンの内部であれば魔法が使えるが、ダンジョンの外部に溢れた魔物の討伐に向かう騎士や冒険者は魔法を封じられた状態で戦闘を行わざるを得ない。
高位の範囲攻撃魔法が使えれば取るに足らない魔物も、一体づつ剣での戦いを強いられ徐々に魔物に押されていく。
しかしこの戦いにより街の防衛態勢を整えるための時間を稼ぐ必要があるため、騎士も冒険者も死を覚悟して時間を稼ごうとする。
その間街では冒険者ギルドが中心となり、魔力を確保するためにギルドや商人から大量の魔石を購入し防衛に備えていく。
さらに弓や投石の準備の為に大量の矢を購入し、石造りの建物を破壊して投石の為の石を確保するなど慌ただしく準備を進めていた。
魔物がバレンストの街に到着するまであと数日しか猶予がないことがわかると、さらに準備を急がせつつ王都にさらに急使を飛ばすのであった。
バレンストが防衛に向け一丸となって動いている頃、領主である貴族はオズボーン女侯爵のもとに居た。
聖たちによるダンジョン攻略の礼のためという形での訪問だったが、ダンジョンが活性化したという情報を受けると危険を避けるためと称して帰還を延ばしていたのだった。
領主不在の中、あと数日で防衛線が始まろうとしている…。
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「オズボーン女侯爵殿! いったいこれはどうなっているのですか!?
ダンジョンの攻略は完了したというのは偽りだったのですか!」
「あら?バレンスト子爵は私を疑うというのね?」
「い、いえ。その様なつもりではないのですが…、我が領地がダンジョンの脅威から未だ救われていないと報告を受けましたので…」
「ああ、そういえば攻略に向かわせたのは貴方の所だったわね。
そもそも他の領地にオズボーン領から兵を送ったのは、こちらの好意ということはお分かりよね?
その好意にすがっておきながら、結果が自身の思惑と違うと文句を言われても困るのだけれど」
「し、しかし、攻略は完了したとあれほど大々的に宣伝されておられたではありませんか」
「ええ、少なくとも私の目的は完遂できたわよ。
ダンジョンコアを手に入れるのが私にとっての攻略、その後のダンジョンなんて貴方の領地なんだから自分で何とかすべきよね?」
「それでは、ダンジョンコアはいまだ破壊されていないという事ですか?」
「もちろんよ、コアが欲しくてわざわざ兵を出したのに、なんでそれを壊さないといけないのよ」
「しかしそれではダンジョンはいつまでたっても崩壊させることが出来ないのでは…」
「べつにダンジョンが崩壊しなくても私は困らないわよ。
そういうのは当事者が頑張るべきだと思わない?」
「そんな…、それでは我が領は魔力を失い魔物に蹂躙される事になってしまう…」
「そういう可能性もあるかもね。なんならここに居ればいいんじゃない?
バレンストが大変ならうちでかくまってあげるわよ、それに今更戻ってもどうしようもないんじゃない?」
「しかし、領主である私が不在であることが陛下の耳に入れば、どうなる事か…」
「今戻れば魔物に殺されるわよ、多分ね。
貴方次第だけど、私に兵を借りるために居たとか言えばごまかせるかもね」
「おお、兵をお貸しいただけるのですか!」
「なんで? 私に何かメリットがあるの?」
「いや、今兵をお貸しいただけると…」
「はあ…、ここにいる理由として提案しただけで実際に兵を出すかどうかは全く別問題よ。
貴方も領主なら、私にメリットを提示して交渉したらどうなの?」
「オズボーン女侯爵殿のメリットですか…。
もしバレンストを救って頂けるのであれば、今後バレンスト子爵家は貴方に従うことを誓いましょう」
「魔物に蹂躙された領主に忠誠を誓われてもねぇ。
貴方の忠誠に何のメリットがあるというの?」
「くっ、確かに今回のことで大きく我が領は力を落とすことになるでしょう。
しかし、それでも我が領は商業都市としての価値までは失っておりませんし、整備された街道はそれだけで十分価値があるはずです」
「なるほどね、バレンストの商業的価値と街道の利用権を私にくれるってことでいいのね?」
「致し方ありませんな。税収から何割かをお納めし、オズボーン女侯爵殿の依頼があれば無制限に街道の利用を許可するように致しましょう」
「ふふふ、それなら私にもメリットがありそうね。いいわ兵を出すのを考えてあげる」
「よろしくお願いします。早急に対応いただき街の被害が抑えられれば税収もさほど影響は受けないでしょう。
そのためにも、是非早期の決断をお願いいたします」
「シンシア、シンちゃんはすぐに動かせる?」
「はい、ご当主様。勇者殿は訓練を継続しておりますので前回よりもさらに使えるようになっていますわ」
「ふふ、ご苦労様。シンシアはやっぱり使える子ね」
「あぁ、ご当主様ぁ…。そのお言葉だけで私はもうぅっ…」
「シンちゃんが役に立てば貴方にもご褒美をあげるわ。それと魔法使いたちの方はどうなってるの?」
「現在魔族を生み出すことまでは完了しております。ただ隷属させるには魔族の魔力量が大きすぎるため、そこで滞っているようです」
「なら、すでに隷属しているものを魔族にすればいいんじゃない?
確か魂に直接働きかける方法があったと聞いた気がするわ」
「確かに禁呪として封印されたものがございます。ただ禁呪を扱うには膨大な魔力が必要なので大量に行使できないのです」
「そんなの魔族にした者に使わせればいいだけじゃない。魔族は魔力が膨大なんでしょ」
「なるほど!さすがご当主様ですわ! 早速その様に進めるよう手配してまいります」
(溢れた魔物に対する、魔族を率いる勇者。
うふふ、この話が広まれば世の中はどうなるかしらね。教会の動きもわかるように手配しておいた方がいいわね)
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