第27話 魔族
執筆時間の確保が困難になってきたため、なかなか投稿が出来ません。
楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんが、気長に見て頂けると助かります。
今回は若干短めですが、きりが良かったのでここまでとさせてください。
未だ意識の戻らない王太子の部屋を後にし、自室に戻ることにする。
すでに国王はフィアを連れて出て行っており、王太子とその看護を行うもの以外は俺と世奈だけだ。
"聖女の加護"により体調が回復したように見える王太子だが、未だ意識は戻らずである。
さらにステータスに"闇の種子"が発現したことが確認された以上、たとえ目を覚ましてもこれまで通りの生活は恐らく送れないだろう。
フィアの気持ちを考えるといたたまれなくなるが、これ以上は俺達にはどうすることも出来ない。
何となく暗い雰囲気で世奈とふたり自室に向かっていく。
「あ、仁おかえり!」
「世奈ちゃんもおかえりぃ」
部屋に戻ると、穂乃華と芹那が出迎えてくれる。
中に入りソファにくつろぐと、グレースがお茶を入れてくれる。
「王太子君はどうだったの?」
「ああ…、"聖女の加護"で体調は回復したんだがな、マシューと同じ"闇の種子"に犯されていた」
「私も頑張ったんだけど、解呪はできなかったんだよ…」
「そっかぁ、フィアは悲しんでるだろうねぇ…」
王太子の件に触れると、どうしても雰囲気が暗くなってしまう。
しかし俺達にできることはもうない。あとはフィアの心のケアぐらいだろう。
「俺達のいない間は、何もなかったか?」
「そうそう、なんか帝国の使者?って奴が来たよ」
「すっごく、いやらしぃ感じのやなやつだったよぉ」
話を変えるために適当に降った話題に、ふたりが食いついてくれた。
しかし帝国の使者とは、また面倒な話になりそうだ。
「で、なんて言ってたんだ?」
「要は帝国のダンジョンも何とかしてくれって、王国が勇者を独占してるとか言ってたわ」
「なんかぁうさんくさいのよねぇ、報奨は?って穂乃華が聞いたら皇帝と話して決めるとかいってごまかしたみたいなんだよねぇ。
こういうのって、事前に決めておくもんじゃないのかなぁって気になったもん」
「なるほどな、王国のいい分だとダンジョン攻略に手が取られている隙に、恫喝まがいに帝国のダンジョンを攻略しろっていって来たらしいぞ。
嫌なら攻め込むって脅したらしい」
「なにそれ、最悪じゃん」
「でも仁君が全部ダンジョン攻略したから、帝国も何もできないんじゃないかな?」
「話の感じだとぉ攻略が終ったのは知らないみたいだったよぉ」
「いずれにしてもその使者というか、帝国は信用ならないな。やり口が気に入らないし、穂乃華たちにした話も怪しすぎる」
「そうよね、ひょっとして私たちを帝国に連れて行って、王国のダンジョン攻略を阻止しようとしてるんじゃない?
攻略が終わったって知らないならそれぐらいやりそうな感じよ」
「うんうん、それで帝国のダンジョンを攻略させて、今度は王国に攻め込ませたりしてね」
「ありそうだぁ奴隷とかにされて無茶苦茶にされたりもしそうだぁ」
「フィアのこともあるし、しばらくは俺達もここから動けないだろう。その間に出来るだけ帝国に関する情報を集めた方がよさそうだな」
「そうね、判断するには情報は必要だし、他にすることもなさそうだからね」
「書庫に行くなら私も一緒に行くよ、仁君だけに任せっきりなのは嫌だからね」
「じゃあメイドさんをつかまえて話を聞いてみるねぇ、女の人のほうが噂には詳しいだろうしぃ
グレースは何か帝国の噂とか知らないかなぁ?」
「わたしですか?ずいぶん昔に戦争があったことは聞いていますが、それ以上のことといわれても…
そういえば、軍部の方が最近帝国のことを話されていたとか聞いた気がします」
前回ダンジョンが発生したときに王国の背後をつこうと画策した帝国。
結果的には協力体制となったがそれもダンジョンの脅威を帝国だけで引き受けるリスクを避けたためと言われている。
グレースの聞いた話が何かも気になる。こうして考えてみるとまだまだこの世界の情報には疎いと改めて気づかされるのだった。
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「ご当主様、実験の準備が出来たとの報告が上がっております」
「誰が実験台になるの?」
「先日ミスをした侍女のひとりでございます」
「ああ、お茶をこぼすなんてみっともないことをしたあの子ね」
「実験には立ち会われますでしょうか?」
「めんどうだわ、結果だけ早急に報告させて」
「畏まりましたご当主様」
「シンシア、シンちゃんは何してるの?」
「勇者様は引き続き訓練に勤しんでおりますわ。ご当主様のお役に立つようにと頑張っているらしいですわ」
「ふふふ、これがうまくいけばシンちゃんの出番も近いわね。私の役に立つよう頑張らせなさい」
オズボーン女侯爵の屋敷の地下、ファティマの指示で集められた高名な魔法使い達とその部下が実験を前に最終確認に動き回っている。
中心に置かれた寝台には猿轡をはめられ縛り付けられた侍女が横たわっている。
その横には赤黒い玉、聖がダンジョンから運んできたダンジョンコアが怪しげな装置とともに配置されていた。
「伝承では漆黒のダンジョンコアとあったが、これで大丈夫なのか?」
「今更何を言っている、さんざん議論した結果だろうが。
たとえ失敗してもサンプルがひとり無くなるだけだ、失敗の結果も有効なデータとなって役に立つだろう」
「王都からは例のマシューには”闇の種子”が発現したと報告があった、最悪でも”闇の種子”の人工的な発現例として貴重なサンプルになるだろう」
「”闇の種子”の発現に成功すれば、最強の兵団の設立も夢ではあるまい。ご当主様にもさぞ喜んでいただけるであろう」
「だが、ご当主様はやはり"魔王の種子"をお望みではないのか?」
「それには伝承通りの漆黒のダンジョンコアが必要なのだろう。あの勇者も役に立たんな、どうせなら漆黒のダンジョンコアを持ち帰ればよかったのにな」
「まあ、他にもまだダンジョンが残っているんだ。勇者に他のダンジョンも回らせればいいではないか」
「そのとおりだな、戦うしか能のない馬鹿でもそれぐらいはやってもらわねばな」
魔法使い達は、口々に好き勝手な事を語り合う。部下の準備を待つ間の時間つぶしとはいえ、聞き捨てならない言葉が多く含まれている。
ここに桂達がいれば、自身の推論の裏付けも含め知りたい情報が集まったのかもしれない。
「準備完了しました」
やがて部下のひとりが声をかけると、魔法使い達は寝台の周囲に集まりだす。
そして侍女や装置の様子を確認し満足げに笑みを漏らす。
「よし、始めろ」
魔法使いが声をかけると、部下たちがダンジョンコアに触れて呪文を唱え始める。
それはファティマから提供された古代の文献から魔法使い達が解読した失われた魔法、禁呪であった。
古代語の発音を再現したもので、言語としては認識できない呪文を部下たちが声をそろえて唱えていく。
やがてダンジョンコアが輝きだし、横たわる侍女に向かってその輝きが伸びていく。
「よし、うまくいきそうだな…」
その光景を見て誰がつぶやいたのか、魔法使い達に期待があふれ出しその表情が自然と緩んでいく。
光に包まれた侍女は身をよじり苦悶の表情を浮かべるが、猿轡により声を発することも出来ない。
「ステータスに"闇の種子"が発現しました!」
侍女の手にはステータスを確認するための宝玉が握らされ、その手を別の助手が握りステータスを確認していた。
目の前で苦痛に身をよじる侍女には意識も向けず、ただステータスの変化を報告してくる。
「おお、成功したか…」
魔法使いがまたつぶやくが、ダンジョンコアからの輝きは止む様子がない。
「ステータスがまた変化します! これは…」
「どうした! すぐに報告せんかっ!」
「は、はい! "闇の種子"が変化し"闇の眷属"へとかわりました。そ、そして、」
「なんだ! 早く言わんかっ!」
「種族が、人間から、ま、魔族へ変わっています…」
「なんだと! 魔族とは元は人間だったという事なのか…」
「馬鹿な! 種族が変わるなどあり得んぞ」
「実験は失敗だ、急いでその女を始末するんだ!」
「そうだな、この結果については口外を禁止する! この女は実験中の事故で死亡したと報告書には記載しておけ!」
「まさか、魔族の誕生の秘密が解明されてしまうとは…」
「このような事が表に出れば、教会が黙っていないぞ」
「教会が敵に回ればご当主様とて無事には済まないだろうからな…」
「まずはご当主様への報告を最優先にすべきだな」
哀れな侍女は、ダンジョンコアの輝きに包まれ苦悶の表情を浮かべたまま、その首を切り落とされた。
その身体は念入りに死亡確認された後、魔族の調査のサンプルとして利用される。
だが、魔法使い達はすでに侍女のことなど忘れ去り、報告内容のとりまとめと今後の実験プランに意識は向いていたのだった。
その後、魔法使い達からの報告を受けたファティマは満面の笑みでこう命じたのだった。
「私の忠実なしもべとして、魔族を大量に生みだしなさい」
先日初めての感想を頂きました。
非常にうれしく、ひとりニヤけていました。
コメントや評価はやる気に直結するようなので、面白いと思って頂いた方は是非よろしくお願いします。




