第24話 攻略後
ダンジョン破壊の翌朝。
結局昨日はあのままフィアとグレースも乱入したが、労わってくれたのか最後まで搾り取られることもなくそれなりに休みことが出来た。
そのまま寝たため朝は色々大変だったが、皆で風呂に入り様々なものを洗い流しすっきりできた。
このあと、ベッドメイクをしてくれるグレースには感謝しかない。
昨日からの報告が上がっているようで、王宮全体が騒がしい。
しかし、俺達は巻き込まれるのを避けるために、部屋から出ずにまったりと朝食を取り皆でくつろいでいる。
俺達の仕事はダンジョンの攻略まで、それ以降の処理は貴族なり文官なりが対応すべきことだと思っている。
それに今後のことを皆で話し合っておく必要もあった。
「フィア、この後俺達はどうなると思う?
召喚時に頼まれたダンジョン攻略は完了したわけだし、報酬をもらってお終いとはならないか?」
「たしか、まずはダンジョン攻略し、その後魔王討伐をご依頼しておりました
ダンジョン攻略については現在報告を取りまとめているでしょうから完了となると思いますわ
当然攻略に対する報奨はお支払いさせていただきます。
ただ、魔王討伐については引き続きお願いすることになると思いますわ」
「その討伐なんだが、魔王の居場所とかはわかっているのか?
書庫を色々見させてもらったが、過去勇者が魔王を討伐したって記載はあるが場所については書かれていなかった。
それもダンジョンが崩壊したから魔王も討伐されただろうっていう曖昧なものだったしな」
「そうですわね、私も魔王の居場所については存じておりません。
ただ、おそらく魔族領にあるダンジョンの攻略を依頼されるのではないかと考えています」
「それって意味があるのか?ダンジョンと魔王は別物って考えてるんだろ?
魔族領のダンジョンって数年から数十年レベルで成長してるって聞いているが、そこを攻略する意味ってあるのか?」
「カツラ様がそう仰られるのは当然と思います。
ただ、魔王に関する情報がない為により強大なダンジョンを攻略し続けるしかないという方向で話が進むと思われますの」
「それって、俺達に死ぬまでダンジョン攻略しろって言ってるのと同じじゃないのか?
そもそもそんな何十年物のダンジョンを攻略してもそれが魔王につながるって誰が保証するんだ。
強大な力を持った勇者は邪魔だから、ダンジョンに行って死んでくださいって言われているとしか思えないんだが」
「それは、たしかにその通りですね。
ではカツラ様には何か考えがございますでしょうか?
可能な限り私もカツラ様の意思は尊重したいと思っております」
「はっきり言えば俺達はもう十分働いたと思っている。
俺達にとってみれば、召喚という名の誘拐に近い形でこの世界に連れてこられ、強いスキルがあるから働けって言われているようなものだ。
この世界では困難なダンジョンの攻略を10カ所以上果たした時点で十分だろう。
さらに働けというなら、明確な目標とその所在地はこの国が調べるのが当たり前だと思っている。
調査も討伐も俺達に丸投げされて、何故俺達が素直に言うことを聞くと考えているのか理解できないな」
「つまり、今回の件で一度仕切りなおして、魔王の所在が確定したら改めて討伐を依頼、ということでよろしいでしょうか?」
「ああ、それならまだ話をする余地はあると思う。
フィアには面倒をかけるが、俺が話すと恐らく誰も受け入れはしないだろう。
勇者っていうのはどうも便利屋のように思われてるみたいだからな、断ったら逆切れしてきそうだ」
「そうですわね、勇者様に頼めば何でも解決すると考えている節はありそうですわね。
わかりましたわ、父とも話して出来るだけカツラ様の要望が通るようにしてまいります」
「ありがとうフィア、でもあんまり無理はするなよ。
話が通らなければ、貰うものをもらって別の場所に行ってもいいんだからな」
「えっ…説得できなければ私は捨てられるということでしょうか…」
「いやいや、もちろんフィアも連れて行くつもりだ。
王女誘拐と言われても、そもそも俺達をもとの世界から誘拐の様に連れてきたこの国に、そんなことを言われる筋合いはないしな」
「安心しましたわ、カツラ様と一緒に居られるのであればどのような場所にでもついてまいります。
それでは、状況の確認も合わせて行ってまいりますわ」
「面倒掛けるがよろしくな、フィア」
フィアは現状の確認と、今後の俺達の扱いについての方針を伝えるため部屋を出て行った。
おそらく父親の国王のもとに行ったのだろう、こういう話はトップダウンで決めた方がもめずに済むのはフィアもわかってるだろうしな。
「仁君、待ってる間に昨日言ってたマシューって人の所に行かない?」
「そうだな、もう急ぎの用もないしちゃっちゃと気になるのは終わらせてしまうか
穂乃華と芹那はどうする?一緒に行くか?」
「私はパス。呪いをかけたような奴に会いたくない」
「じゃあ、わたしも穂乃華と一緒に待ってるよぉ」
「わかった、そんなにかからないだろうから留守番頼むな」
俺は世奈と一緒に近衛騎士団詰め所にある地下監獄に向かう。
王宮にもだいぶ慣れてきたのか、道に迷わず到着する事が出来た。
近衛騎士に話をし、マシューとの面会を取り付けると俺達はマシューのもとに向かった。
「これはこれは、勇者様方。このようなむさ苦しい所においで頂けるとはの」
「こないだ言ったろ、"聖女の加護"でお前のスキルが消えるか確認するって。
それで今日は"聖女"を連れてきたんだよ」
「"闇"のスキルのことかね、勇者の小僧や小娘にどうにかできるとは思えんがの」
「別にお前の意見は聞いてないんだよ。
お前のためにやるんじゃない、"闇"についての情報収集のためだ。勘違いすんなよ」
「仁君、ちょっとツンデレっぽいよ」
「世奈も空気読め。早速だが加護をお願いできるか」
「おっけー」
世奈が"聖女の加護"を使うと周りがキラキラと輝きだした。
加護の輝きで包むため、世奈はその両手をマシューに向けると輝きがマシューに向かって流れていく。
だが、輝きはマシューに近づくとまるで見えない壁でもあるかのように光を失ってしまう。
その様子を見てマシューはにやりと笑うと、世奈と同じように両手を俺達に向けた。
「世奈っ!」
俺は慌ててマシューと世奈の間に割り込み、世奈を背後に庇うとマシューからはステータスの儀の時に見た黒い靄よりも、
明らかにやばそうな赤黒い霧のようなものが現れ、俺達に向かってきた。
世奈は"聖女の加護"を俺に向けることで赤黒い霧に対抗しようとしてくれたが、どうやら赤黒い霧の方が力が上のようで、
速度を遅らせることも出来ず"聖女の加護"の輝きは力なく消えていく。
「仁君!逃げてっ!」
"聖女の加護"が効果の無い事がわかった世奈は、俺を引き離そうと俺に駆け寄ろうとする。
しかし赤黒い霧は俺のすぐそばまで広がり、俺の身体にまとわりつき始める。
「世奈っ、離れろ!俺だけなら何とかなるから!」
見るからにやばいとわかる赤黒い霧だが、なぜか俺は大丈夫と思っていた。
そして俺の思いを裏付けるかのように俺の身体に触れた赤黒い霧は、まさに霧散していく。
赤黒い霧が俺に効果が無いとわかったマシューは驚愕の表情を浮かべる。
「小僧!貴様何者だ!"闇の息吹"を受けて無事な人間など存在するはずがないっ!」
「俺はただの小僧だよ、あんたの思惑で異世界から無理やり召喚されたただの小僧だ」
「そんなばかな、"闇"に対抗できる人間などいるわけがない。
種から成長した儂の"闇"の力がこの程度のはずがない、何かの間違いだ…」
「間違いも何も、どうやらあんたのその力は俺には効果が無いようだな。
一体何をしようとしていた?それと"成長した"ってのはどういうことだ?」
「貴様さえいなければ、儂の計画はすべてうまくいっていたのだ。
"魔王の眼"を儂から奪っただけでは飽き足らず、"闇"の力まで愚弄するのか。
"闇の息吹"に触れれば人間などその場で"闇"に飲まれて人ならざる者に生まれ変わるはず。
それを貴様は何事もなかったように跳ね返すとは…もしや貴様、女神の手下か!?」
「"女神"って何なんだ?話からすると"闇"とやらの対抗勢力かなにかか?
それにそんな人間を辞めさせるようなことを仕掛けるお前こそ何者だ?」
「"女神"は"闇"の天敵、過去も"闇"の成長を邪魔した憎むべき敵だ。
そして儂は"闇"の力を得て生まれ変わったのじゃ、もはや下等な人間などではない。
言うなればハイヒューマン、"闇"の力を持つダーク・ハイヒューマンといったところか」
「うわあ、やられキャラの臭いがプンプンする奴だな。
彼方此方にちょっかい掛けて話をややこしくするキャラだな。
面倒なことになる前に、ちょっと締めとこうか」
「くくく、勇者とは言えたかが人間にこの儂がやられるものか。
やれるものならやってみるがよいわ、くくく」
「世奈、生物って生きていくのに何が必要だと思う?」
「ええっ、仁君この状況でクイズ始めないでよっ!
とりあえず答えは空気っ!だから早く逃げようよ」
「さすが世奈だな、正解だ。
危ないからもうちょっと下がっていてくれ」
俺はマシューの周りの空気から酸素を消し去るイメージで魔法を準備する。
これは以前芹那と攻撃魔法のイメージを相談しているときに、話に出たものだ。
派手な魔法だと後片付けが大変というところから、如何に奇麗に相手を倒すかって話だったと思う。
適当な雑談だったが、ここで役に立ってくれそうだ。
「"酸素消滅"!」
おれはマシューの周囲に限定して魔法を使う。
周囲の空気中に存在する酸素のみを対象にその存在を消し去ることで、急激な酸欠を味わってもらう。
「がっ!ぐっゎっぁっ!」
マシューは何事が起ったのかも理解できないまま、急激な息苦しさと酸欠による眩暈にその場に倒れて苦しみだす。
このまま放置すれば確実に死亡させることも出来るが、世奈には人の死ぬところを見せたくないので魔法を解除する。
「がぁっ!はぁっぁはぁっ…」
解除したことで呼吸が出来るようになったが、いまだ苦しみからは回復できずにマシューは苦しみもがいている。
「口ばっかりなんだな、ダークハイなんちゃらは。
こんな小僧の魔法一つで這い蹲って藻掻いてるって弱すぎだろお前。
二度と俺達に迷惑はかけるなよ、勇者4人と王女と侍女、この6人に手を出したら生まれてきた事を後悔するような目に合わせるからな」
「ぐばぁっ、ヴぁ、わがっだぁ、おヴぁえだぢにヴぁでをだざんっ」
"聖女の加護"による解呪もうまくいかなかったため、もうここには用は無い。
俺は世奈を連れて部屋に戻ることにした。途中近衛騎士に今あったことを伝え、さっさと処刑することを勧めてはおいた。
「仁君って敵には容赦ないよね」
「そりゃそうだろ、あそこで手を抜いて世奈が怪我なんかしたらたまんないだろ?」
「えっ?私の為だったの?」
「当たり前だろ?あの状況下手したら世奈にもあの霧が届いてたかもしれないんだ。
しかも霧に触れたら人間辞めるとかいう訳の分かんないもんだって言うしな。
そりゃ二度と手出ししないようにしっかり締めとかないとな」
「えへへ、愛されてんだな私って…」
「あー、べつに世奈じゃなくても同じことしたからな」
「うふふ、照れてる仁君も可愛いよ」
「ちぇっ、早く戻るぞ」
「はーい!」
いつの間にやら俺の腕に抱き着くように腕を絡めてきた世奈と、ゆっくりと王宮内を歩いて部屋に戻っていく。
歩いていくとちょうど戻ってくる途中のフィア達と出くわした。
「カツラ様!こんなところで出会うなんて、やはり運命ですわね」
「いや、王宮に住んでるんだし普通に出くわすだろ、てゆうか同じ部屋に住んでるじゃないか。
それにしても変なテンションだな、何かあったのか?」
「聞いて下さい!お父様ったら、全く話にならないのですわ!
ダンジョン攻略の報酬は支払うことは了承しましたが、このまま魔王討伐に向かってもらうの一点張りで、
調査や情報収集も勇者様の仕事だと言って、動くつもりは無いのですわ」
「ああ、そりゃフィアも怒るわな。まあその話はいったん部屋に戻ってからにしよう、ここだと誰に聞かれるかわからないしな」
「あ、申し訳ありません、冷静ではなかったようですわ」
そのままフィアたちと部屋に戻ると、芹那と穂乃華が出迎えてくれた。
「あら、フィアも一緒だったのね。おかえりなさい、どうだった?」
「ただいま穂乃華、芹那。
俺達の方は失敗だな、マシューの症状が悪化してて世奈のスキルでも解呪できなかったよ。
なんかめんどくさそうな奴になってたから、ついでに締めてから帰っていた」
「よくわかんないけどぉ、仁が無事ならいっかぁ」
「それでフィアの方はどうだったの?」
「そっちはなんか面倒な話になりそうだから、ちょっとゆっくり話を聞こう」
俺達はソファーに向かい、グレースがお茶の用意を始める。
珍しくフィアが俺の横に座り俺にしがみついているのは、おそらくこれから話す内容があまり良いものではないからだろう。
その様子に3人も不安そうな顔を浮かべる。
「じゃあフィア、どうなったか教えてくれるか?」
「はい、ジン様」
フィアの語った内容は思っていたよりも悪いものだった。
あの後すぐに国王のもとに向かったフィアだが、その場にはサミュエルが国王と話をしていた。
宰相もいた方が話が早いと考えたフィアは、俺達の考えを伝える。
ダンジョン攻略が完了したことについては、ちょうどその報告をサミュエルがしていたところだったようで、
すんなりと了承され俺たち勇者に対する感謝が述べられたそうだ。
そして報奨も最初の話にあった通り、金貨や勲章、陞爵まで出し惜しみはないようだったらしい。
だが、その後魔王討伐の話になると勇者の仕事であり、そのために代償を払ってまで召喚したのだから、当然勇者が前面に立って実施するべきと、
頑なにそう繰り返すのみで、妥協点すら見つからなかったようだ。
そのためフィアは、まずは報奨を先に貰うことで話を付けて、魔王討伐はその後話し合おうということにして戻って来たそうだ。
「なるほどな、やっぱりそう簡単に言う事は聞いてくれないか。
そしたら…」




