第22話 破壊
しばらくして宰相が俺たちの部屋に戻ってきた。
背後には荷物持ちらしい文官が、いくつもの書類や大きな地図を持って付いてきていた。
「おまたせしました、こちらが王国の地図になります。
ここが現在皆様のいる王宮で、印のある場所がダンジョンの位置を示しています」
「一番近いのはここか、じゃあ実際の効果を見るためにここを攻撃目標にする。
宰相、この地点を監視している人員はダンジョンのそばに居るのですか?」
「いえ、ダンジョンの監視は基本的に少し離れたところで行っております」
「この地点ならそれ程距離は離れていないと思いますが、連絡にどの程度時間がかかりますか?」
「ダンジョンの監視用に連絡用の魔道具を渡しておりますので、すぐにでも連絡はとれますが…」
「では、念のためダンジョンから離れるように指示をお願いします。
それからこの後我々が魔法による攻撃を行うことの連絡と、実施後の現地確認を依頼してもらえますか?」
「わかりました、勇者様の訓練の成果を楽しみにさせて頂きます。
軍部に行って勇者様達のご指示を伝えろ、その後はそのまま待機して何かあれば連絡に戻れるように」
宰相は文官の一人に指示を出して、軍部に走らせる。
「じゃあ、一時間後に始めるとしましょうか。連絡とか色々準備が必要でしょうしね」
「わかりました、では一時間後に改めてお伺いさせていただきます」
「ここで待っていてもらうだけになるけど、それでも良いのならかまわないよ」
「魔法を使うところは拝見できないということでしょうか?」
「そうだね、あまり人に見せるものじゃないと思うから、寝室への立ち入りは禁止させてもらうよ」
「仕方がありませんな、しかし今回の件が失敗した場合、ダンジョン攻略にすぐにでも向かって頂くという件はお忘れなきよう」
「ああ、覚えてるよ。まあ大丈夫だろうけどね」
「私もそのように祈っております。では後ほど」
宰相はそう言って俺に頭を下げると文官を連れて部屋を出た。
「ちょっと嫌な感じね」
「宰相も追い詰められてるってことじゃないかな?」
「ええ、サミュエルがあのような物言いを勇者様にするとは、ただ事ではありませんわ」
「でもぉ、私の仁ならきっとうまくやってくれるしぃ大丈夫でしょぉ」
「"私の"じゃなくて、"私達の"だからね、芹那ちゃん!」
「全く油断も隙も無いんだから」
「えへへぇ、でも緊張してるよりいいじゃんかぁ。
私達ってさぁ、いきなり召喚されて命懸けの攻略しろって言われてるのよぉ、別にこの世界の為なんかに頑張るような義理なんて無いのにぃ
だったら、別に失敗しようがどうだって良いじゃん?私はここのみんなが無事なら他の人のことまで責任は感じないけどなぁ
そんなことで悩んでるなら、大好きな仁といちゃいちゃしてる方が楽しいじゃん?」
「まあ、芹那の言う通りかもね。
拉致監禁された挙句、強制労働みたいなもんでしょ?正直どうなろうと知ったこっちゃないわよね」
「申し訳ございません、我が国の為に皆様にご迷惑をお掛けしてしまい、なんとお詫びすればよいか…」
「ちょ、フィアを責めてるんじゃないわよ!
宰相とやらの言いっぷりに頭に来ただけよ。それにもうフィアも私たちの仲間なんだからね」
「あぁ、穂乃華がデレたぁ!」
やはり穂乃華達も現在の状況にはいろいろ不満もあるのだろう。そもそも召喚などされなければ今も元の世界で学生としてい過ごしていたのだから。
勝手に召喚して、好きに使われるというような状況に納得がいくはずがない。
宰相も悪い人ではないのだろうが、結局は俺達を便利な駒としてしか見ていない事がわかった。
この後の攻撃に失敗したら、もはや逃げ道は無いだろう。王国の為という大義名分のもと俺達は使いつぶされる未来しか見えない。
皆を守るためにも、そして俺達の力を見せつけておくためにも失敗はできないな。
そして一時間が経ち、宰相が再び部屋を訪れる。
「遅くなりましたかな?では早速勇者様のお手並みを拝見させて頂こう」
もはや宰相は俺達に対してこれまでのように敬意を払うこともなく、どうせ失敗するだろうという前提で対応することにしたようだ。
「じゃあ、早速始めることにするよ。
フィアとグレースはここで宰相の相手をお願いするね」
俺は二人にだけ声をかけ、宰相とは目を合わすことなく皆と寝室に向かった。
「なに?あの態度?あれが人にものを頼む態度なの?」
「いいんだよ穂乃華、ああやって信用を無くしてくれた方が、何があっても俺達が心を痛めることが無くていいだろ」
「仁君?それって何かするつもり?」
「今のところはまだ何もするつもりはないよ。ただ向こうの動き次第だね」
「あぁ、何か企んでる仁も素敵ぃ」
「もう芹那ちゃんは、仁君だったら何でもいいんでしょ?」
「うん、そうかもしんないぃ」
変な空気になりかけたが、芹那のおかげでいつもどおりの雰囲気に戻ることが出来た。
そしてベッドに横になり、訓練の時と同じように準備を始めていく。
「じゃあ芹那、視界の共有を頼む」
そういって右横に寝転ぶ芹那を片手で抱きしめる。
「うん、準備完了だよぉ」
芹那も俺に抱き着き返すと、翼竜の視界とのリンクがつながりダンジョンの上空からの眺めに切り替わる。
「穂乃華、魔力制御を頼む」
次に左横の穂乃華を抱き寄せて、魔力制御のフォローを頼む。
「こっちもOKよ」
穂乃華は俺に胸を押し付けるように抱き着いてくると、穂乃華の魔力を感じるようになる。
「世奈、癒しは任せたぞ」
世奈は俺の下半身から覆いかぶさるように、芹那と穂乃華の間に入ると俺の腹の上に頭を乗せる。
「うん、任せて」
世奈の"聖女の加護"が発動し、俺達は光に包まれる。
そして俺はこれまでの訓練で成長した"大賢者"のスキルを使い膨大な魔力を精密に制御していく。
ダンジョンの上空に付近の魔力が吸い上げられ高密度となり、さらに圧縮されることでプラズマのように放電現象が起き始める。
さらに穂乃華の力を借りて魔力を練り上げていく。
膨大な魔力制御に脳に負荷がかかるのを世奈が癒してくれる。
芹那経由で見るその魔力は、本来目に見えないはずがしっかりとした存在感を示し、発動を今か今かと待っているように見える。
そして、圧縮された魔力が限界を超え輝きを放ちだす。
「"迷宮崩壊"!」
芹那が付けた魔法の名前を叫び、一気に魔力をダンジョンに向けて放出する。
地表に触れるとその周囲が大きく波打ち、一気に崩落していく。
しかし放たれた魔法はその威力を減じることなくさらに深部へ向かっていく。
輝きながら崩落し続ける様子は、上空から見ると神秘的ですらある。
指向性を与えたことで、クレーター状ではなくボーリングしたかのような直径500メートル程の穴が真っ直ぐに崩落により作られる。
やがて、ダンジョンを超えさらに深部の地層をも貫通したのか、穴底からマグマが吹き上げる。
マグマは直ぐに噴き出すのをやめたが、穴の周囲ははマグマにより焦土と化し、穴の底ではまだマグマが燃え盛っていた。
「ちょっと、仁やり過ぎじゃないかなぁ?」
「そうだな、あれじゃあコアが破壊されてダンジョンが崩壊したかわからないよな」
「うん、もうすでに跡形もないもんねぇ」
想像した以上の結果に芹那が突っ込んでくる。訓練時よりもはるかに威力の高い結果に驚きを超えて呆れている様だ。
「仁?うまくいったの?」
「仁君?すごい音が聞こえたけど大丈夫だよね?」
「失敗したということは無いと思うんだが、正直やりすぎたかもしれない…」
俺と芹那との会話に穂乃華と世奈が不安になったのか質問してくる。
芹那だけが翼竜の視界を共有しているため、俺の放った魔法とその結果を穂乃華と世奈に説明してくれた。
「ま、まあ失敗じゃないんだし、ね?」
「そうそう、別に環境破壊とかしちゃだめとか言われてないし」
「ちょっと世奈ちゃん、オブラート忘れてるよぉ」
無事とは言えないかもしれないが、目的である攻略自体は成功したようなのでひとまず安心したようだ。
ベッドの上でいちゃつきながら過ごしていると、寝室の扉をノックする音が聞こえる。
「ちょっと見てくるね」と世奈が出てくれると、フィアが心配そうな顔で覗いてきた。
「すごい音と揺れがあったんですが、皆さん無事でしょうか?」
「ああ、問題ない。俺達の魔法で驚かせたみたいだな」
「やっぱりそうだったんですね、皆さま無事で何よりですわ
サミュエルも腰を抜かして驚いていましたわ、ここまでのものとは考えていなかったのでしょうね」
「まだ居るのかい?」
「ええ、まもなく軍部からの報告も来るでしょうから」
「そんなこと言ってたな、俺達も顔を出した方がよさそうだな」
「もちろんですわ、これでサミュエルも勇者様達に不敬な態度を取ったことを反省するでしょう」
「あれ?成功したって伝えたっけ?」
「ジン様の顔を見ればそれぐらいわかりますわ、うふふ」
「じゃあ、身支度を整えたらそっちに行くから、もうちょっと待ってて」
身だしなみを整えた後、俺は一人でフィアとサミュエルの待つ部屋に顔を出す。
ちょうどその直前に軍部に連絡のために行っていた文官が戻ったようで、ダンジョンを監視していた部隊からの連絡を報告していた。
「まさか!たった一発の魔法でダンジョンが跡形もなく消え去るなどと…」
「連絡の内容はそうなっております。
天空から光の柱がダンジョンに吸い込まれると、爆音が轟き大地が揺れまるでこの世の終わりであるかのようだったと。
その後地の底から炎が吹き荒れ、付近を焦土に変えたとの報告が上がっております。
いまだ高熱でダンジョン付近へは近寄れないようですが、おそらくダンジョンは跡形もなく消滅しているであろうとのことです」
「結果は今の通りだ、宰相。これで俺達は攻略に行かなくても良いってことだよな?」
「報告が事実であれば…ダンジョン攻略に失敗はしていないということになるかと…」
報告を受けた宰相に確認すると、なにやらお茶を濁したような回答をする。
「で、どっちなんだ?攻略に行く必要があるのかないのかをはっきりしてくれ」
「いや、それはすでに準備も進めているため、その、簡単に中止という訳には…」
結局俺達の言うことなど聞く気もなく、勝手に準備を進めて準備が出来たから俺達を攻略に向かわせるつもりらしい。
「へぇ、失敗したら攻略に行けとは言われたが、成功したときは何も言ってなかったのをいいことに、
俺達をいいように使おうとしているってことで認識はあってるか?」
「いえ、勇者様にその様な事をするつもりは…」
認識合わせは大事だよな?勘違いで手を上げるようなことはしたくないからな。
「じゃあ、どういうつもりなんだ?
あんたがなりふり構わず俺達を使うつもりなら、こっちもなりふりに構ってる必要はないよな?」
「い、いったい、何をされるおつもりか?」
しどろもどろな宰相は、もはや冷静な会話はできないようだ。はいかいいえで答えられるようにしてやってるのにそれすらできないようだ。
「別に俺達はこの世界がどうなろうと知ったこっちゃない。あんたらが頭を下げて頼むから手を貸しているだけだ。
この世界で生きる力を得るという意味では協力できる関係にあったと思ったんだが、
それを勘違いして俺達が何でも言うことを聞くなんて思ってるのなら、その勘違いを正してやる必要があるってことだよ」
「それ、それはいったい、何を…」
やっぱり躾って大事なんだなと痛感する。犬でも舐められると飼い主のいうことを聞かないっていうもんな。
「さっきのをこの辺にぶっ放してみるってのはどうだい?
所詮勇者なんてお前らの駒みたいなもんなんだろ?きっと簡単に止めることが出来るんだろうしな」
「待ってくれ!いや、待ってください!
全てはこの私の責任です。いくら切羽詰まっていたとはいえ勇者様方を此方の思うように使うと判断した私の責任です。
勇者様のお怒りは尤もなものだと思います。ですので、その様な無茶な行動はご容赦ください」
宰相といえども所詮この程度なんだな。目先のことしか見えず大局的な判断が出来ない。
ちょっと脅されれば卑屈になって許しを請うなど、信頼に値しない人間ということか。
「ジン様、サミュエルの対応の不備は許しがたいもので万死に値しますが、王宮を破壊するのはご容赦いただけませんか?
ここには罪もない侍女や下働きも大勢おります。サミュエルなどの命はどうなろうと構いませんが、そういった者たちを巻き込むのはご容赦ください」
「フィアは優しいな?そんなことを勢いでしたら俺達も傷つくって心配してくれてるんだろ?
ありがとう、フィアの頼みだし魔法を使うのは止めておくよ」
「ありがとうございます、ジン様。
サミュエル、すぐにここから出て行きなさい。そして今後勇者様の行動に制限をかけるようなことは一切許しません!
貴方には今後勇者様との接触を禁止します、必要なら私を通しなさい。
いいわね、それでも急ぎダンジョンを攻略したといういなら自身で向かって何とかなさい」
「はっ、はい!王女殿下!失礼いたしましたっ!」
サミュエルは、フィアの叱責が応えたようで慌てて文官を連れて部屋を出て行った。
「しかしこの間まで宰相は俺たちに好意的だったろ?何があったんだ?」
「恐らくですが、グレアムの書類整理を押し付けられ宰相の仕事が山積みなったところに、オズボーン女侯爵や帝国の動き、
貴族達からの突き上げ、睡眠不足や体調不良などの要因が重なり、まともな判断が出来なくなったのでしょうね。
サミュエルはもともと勇者様を召喚することに反対で、合意も無い召喚は誘拐と同じであると考えていたんですけどね」
「最後にやってることが一緒なら、俺達からすれば同じ穴の狢でしかないんだけどな。
まあいい、フィアはどうしてほしい?ダンジョン攻略を進めた方がいいのか、暫く放って置くか?」
「民が苦しむのは耐えられません、できれば攻略を進めていただきたいと思いますが、
サミュエルのやった事を思えば、無理強いはできません。」
「いいよフィアの頼みならいくらでも聞くよ。俺のハーレムメンバーなんだしな」
「このようなご迷惑をかけた国の王女の私ですが、まだその様におっしゃっていただけるのですか?」
「別にフィアが王女だからって訳じゃないからな、それともフィアは抜けたいのか?」
「いいえ、いいえ!ジン様を心からお慕いしております。このままお傍に置いて下さい」
「もちろん。フィアのことを手放す理由なんてないからね」
そう言ってフィアを抱きしめると、フィアも抱き返してくる。
ただ、いつの間にか現れた3人ににやにやと囲まれているのに気が付いたのは、もう少し先だった。




