第20話 攻略
俺は地下監獄を後にすると、真っ直ぐに自室に戻った。
世奈と穂乃華を呼び、マシューから聞いた黒い靄の解除方法の件を伝えるためだ。
今日の訓練は終わったのか部屋に戻ると姦しい声が聞こえていた。
元の世界では穂乃華と芹那は仲が良かったが、世奈とはあまり絡んでいなかった。
3人が上手くいくか心配であったが、今の様子を見る限り杞憂であったようだ。
扉を開け部屋に入るとすぐにグレースが出迎えてくれる。
もともとメイドだった彼女は俺の身の回りの世話は自身の仕事だと、決して他のメンバーにはやらせない。
勇者でも王女でもない彼女が唯一俺のためにできる事であるためなのだろう。
俺はあまり気にしないように言ってはいるが、こればかりはグレースも頑なに譲らなかったのだ。
まあ俺としては、こんな美人が身の回りの世話を焼いてくれるのだ、文句などあるはずはなかった。
部屋に入りいつものソファに座るとすぐに世奈、穂乃華、芹那がやってくる。
俺の両隣に誰が座るかを争っている。
この争いにはフィアは参加しないらしい、勇者に対してここだけは譲るという、よくわからない理由だが、
夜の順番では真っ向から競い合っているので、フィアなりの何かがあるのだろう。
ソファには俺の横に穂乃華と芹那、正面にフィアと世奈、グレースが座ることになった。
グレースの淹れてくれたお茶を飲みながら、今日の出来事をみんなに伝える。
「そういうわけで、穂乃華の件は解決方法見つかったということだ。
一番気になっていたことだからなぁ、やっと一安心ってところだな」
「えへへ、私のことを一番気にしてくれてたんだね?嬉しいよ、仁」
「ちょっと穂乃華ちゃん、そこで二人の世界に入らないでっ」
「もぉ穂乃華の抜け駆けは、いつものことぉ」
潤んだ目で俺を見つめる穂乃華にドキッとしてしまうが、すかさず世奈と芹那の突っ込みが入る。
「それで世奈に"聖女の加護"を頼みたいんだが、大丈夫か?」
「うん!大丈夫だよ。じゃあ今からやってみる?」
「そうだな、穂乃華どうする?」
「そうね…正直すぐにお願いしたいのと、ちょっと怖いのが半々ってとこなの。
仁が頑張って調べてくれてんだからお願いしたいんだけど、やっぱりちょっと怖いわ」
「ああ、そういうもんなのかもしれないな。
こんな時聖がいたら、実験台にできたんだがなぁ」
「ふふ、仁君ったら。実験台は酷いでしょ、練習台とかお試しとかもっと言葉を選ばなきゃ」
「世奈ちゃん、それ全部一緒だよぉ。でも、穂乃華もそういうとこあったんだねぇ」
「ちょっと、芹那。それはどういう意味よ」
「えぇ、だって穂乃華って割と怖いものなしな感じじゃない?」
「私だって女の子なんだから、こんな良くわからない状況は怖いわよ」
「あはは、穂乃華女の子だってぇ。穂乃華が言うとすごい違和感あるよねぇ」
「芹那もその辺で止めておいてやれ、さすがにこんな謎の呪いみたいなの掛けられてんだから、怖くなっても仕方がないだろ?
それに穂乃華はいつも可愛い女の子だぞ」
「仁…ありがとね。
そうだ!世奈ちゃんの"聖女の加護"って相手は一人でなくてもいいんでしょ?」
「うん、そうだけどどうして?」
「仁に抱いて貰いながらなら、大丈夫かなって?えへへ」
「穂乃華ぁ、また抜け駆けはずるい」
「まあまあ、今回は状況が状況だし出来るだけ穂乃華が安心できる状態でやってやりたい。
でも、世奈は立ち会うことになるが大丈夫か?」
「うーん、なんかお預けされてる気がしてちょっと嫌かも」
「なら、世奈ちゃんもいっしょにすればいいじゃん!私は世奈ちゃんと一緒でも大丈夫だよ」
「えーー!、そんな…穂乃華ちゃんと一緒に仁君と…ちょっとありかも…」
「ずるい~、それなら私も一緒にするぅ!」
「私はいいわよ。みんながどんな風になるのかちょっと興味あるしね」
「うわぁ穂乃華ちゃん…ちょっと引くかも」
「じゃあ世奈ちゃん、一緒に穂乃華を苛めちゃおうかぁ。気絶するぐらい夢中になったら"聖女の加護も"怖くなくなるんじゃぁない?」
「芹那ちゃん天才!いつも仁君に気絶させられそうになってるから、穂乃華ちゃんもやっちゃおう!」
「ちょっと、芹那、世奈ちゃん!私だって仁にいつもいかされてるわよ!あれにさらに二人になんてされたら死んじゃうわよ!」
「うわぁ、穂乃華いつもいかされてるんだぁ。まあ私もなんだけどね」
「おいおい、結局どうするんだ?術の解除はなるべく早くやっておきたい。
穂乃華にどんな影響があるかわからないからな」
「穂乃華ちゃん愛されてるね」
「うらやましぃ…」
「仁に愛されてるって思うと、やばいわね…じゃあ、早速寝室に連れてって」
「ふっ、今日ぐらいはお姫様抱っこで連れて行こうか。穂乃華?」
「やったぁ!じゃあ早速お願いします!」
「あー、穂乃華ちゃんばっかり、ずるい!」
「仁、今度は私もやって欲しいなぁ」
「ああ、また次の機会にな」
「それじゃあ、あたしたちも一緒に行きますか」
「うん!一緒にしてもらうのって初めてだから楽しみだぁ」
その後、穂乃華のマシューにかけられた術の解呪は問題なく成功した。
世奈が"聖女の加護"を使うと穂乃華の身体が輝きだし、首と全身にしみ込んだ黒い靄が穂乃華の身体から浮かび上がる。
さらに加護の輝きが増すと、黒い靄は抗うように見たが力尽き消えてしまった。
解呪された穂乃華も体が軽くなった気がすると、それまで以上に俺に甘えてきたのだった。
そして、3人がかりで搾り取られた俺はそのまま翌朝まで起きることが出来なかった…
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「なんだと!オズボーン女侯爵がダンジョン攻略に動いただと!」
その日サミュエル宰相のもとに届いた報告は、連日の書類セイルで疲れ切った宰相をも驚きに目を覚ますようなものだった。
ダンジョンは出来た直後であれば冒険者達でも十分の攻略可能であり、それ程の脅威ではない。
ただ現在は出現後2月以上放置されているため、ダンジョン自体の規模も大きくなり、中の魔物も強力なものが生まれている。
ここまで成長したダンジョンを攻略するには、これまでは軍が出動する以外対応方法は無かった。
それを侯爵家とはいえ一貴族が攻略を行おうというのだ、しかも自領ではなく他の貴族の領に遠征してまでである。
軍の維持にはそれなりの費用が当然掛かっている、さらに長年訓練を行い経験を積んだ兵は貴重なものである。
それを自領の為ではなく他の貴族の為に行使するのだ、ダンジョン攻略で得られるモノなど失う兵の価値を考えれば大したものではない。
一体何のためにオズボーン女侯爵がダンジョン攻略を行うのか、まるで理由がわからない。
その結果、この知らせは聞いた者すべてを驚かせることになったのである。
「ふふふ、今頃噂を聞いた者たちは驚いてるでしょうね」
「はい、ご当主様。お言いつけ通り今回の派兵は怪しまれない程度に宣伝し、目立つように進軍させております。
派兵自体は少人数の為、こちらからも情報を流さなければここまでの噂にはならなかったでしょう。」
「ええ、報告からは王宮にまでうまく情報は伝わったとあるわ、きっと国中私の噂で持ちきりね。
あとはシンヤちゃんが私の期待通りの成果を上げるのを待つだけね」
「はい、ご当主様。勇者様もスキルを使いこなせるようになったと聞いております。
当家の精鋭も派兵に含まれておりますので、攻略は問題なくなされましょう」
「あらあら、それじゃあ戻って来た時のためにお祝いの準備を進めておかなきゃね。あなた達、しっかり準備しておくのよ」
オズボーン女侯爵、ファティマはダンジョン攻略の成功を全く疑うこともなく、既に先を見ている。
ファティマの目的は彼女を囲む侍女たちも知らされていないが、いかなる目的であろうと狂信的に自分の主人に従っている彼女たちは、喜んで彼女の命令をこなすであろう。
それがどのような結果をもたらそうとも、ファティマの喜びに勝るものを彼女たちは知らないのだ。
「勇者殿、低層階は我々が対処するので、しばらくは力を蓄えておいてください」
「いや最初から俺が前に出るから、皆は俺のフォローを頼む。
ファティマ様に少しでも早く攻略の報告を伝えたい、最速でコアを目指すぞ」
「そういうことであれば仕方がないですな、了解です、フォローはお任せください」
ダンジョンには、聖とオズボーン女侯爵家の騎士の中でも腕の立つものが10名と、荷運びと雑用の為の騎士が10名の21名で攻略に当たろうとしていた。
水や食料を抱え、途中倒した魔物から価値のある部位をはぎ取るため、約半数が非戦闘員となる。
軍が攻略する場合でも100名程度の人員が投入されるのだが、その5分の1の人員で攻略するつもりのようだ。
それだけ勇者の力への期待が高いのだろう、聖以外の顔つきには不安の影はない。
聖は攻略自体に関心は無く、ファティマの為にという一心で事に挑んでいるため、此方も不安の色はない。
「ホーリーブレス!」
聖は"聖騎士"のスキル、"神の息吹"を使い全員に強化を行う。
これは聖属性により防御の強化と治癒力の向上、さらに攻撃に聖属性が加わるというとんでもない力を持つスキルである。
敵の攻撃により防御の強化が破られるまでは効果が持続するという、まさにチートスキルと呼ぶべきものであった。
本来は防御主体でパーティを守る役割の"聖騎士"だが、他人を守るよりも自身で攻撃して目立つ方が聖の性格に合っていたようで、
ファティマの下での訓練は攻撃に主体が置かれた。
だが、本来のスキルの役割とは異なる方向性での成長であったため、"神の息吹"以外はまだ使用できない。
それでも"神の息吹"の効果だけでも、一般人と比較すればとんでもない力となっている。
その結果ダンジョンに蔓延る魔物を全て一撃で切り捨てて進めるだけの力を聖は手に入れていた。
単純な一本道ならば聖だけでも行けるのでは?と周りの騎士たちは思うのであったが、
当然迷宮と呼ばれるダンジョンは複雑な迷路のような構造の為、魔物は簡単に倒せても思うように階層を進めることが出来ない。
それでも夜は騎士たちが見張りに立ってくれるために十分な睡眠と休養を取ることが出来たため、聖の動きに問題が出る事はなかった。
水も食料も十分に持ってきているし魔物の一部は食料にもなるため、食糧事情にも問題はない。
ただ、遅々として思うように先の階層に進めないことが聖を徐々にイラつかせていった。
「どうにかならないのか!いい加減迷路にはうんざりだ!」
「勇者殿、そうは言ってもダンジョンとは迷宮、道が複雑なのは当然のことです」
「そんな事は解っている!ファティマ様をお待たせしているのだぞ、こんな地図を作りながらではなくもっと一気に進めるような方法は無いのか」
「そう言われても、壁を壊しでもしない限りどうしようもありませんよ」
「壁を壊す…か、ちょっと下がっていろ!」
聖は"神の息吹"を自身に改めてかけなおし、手にした剣で壁に切り掛かった。
聖の持つ剣は、ファティマが勇者が使うのならそれなりの見た目がいると、聖に贈ったものである。
見た目は美しいが、剣としての性能を見れば平凡なものであった。
そして聖の強化された力で壁にふるわれた剣は、あっけなく2つに折れてしまった。
「なんてことだ…ファティマ様から頂いた剣を折ってしまうとは…」
聖は、ファティマからの贈り物を壊してしまったことで酷く落ち込み、その場にしゃがみこんでしまう。
そんな様子を見ていた騎士たちは呆れた顔でだが、聖に声をかけてくれる。
「そりゃあ壁に切りつけたらよほどの業物じゃなければポキリといくでしょうね…」
「予備の剣はあるので、この先はそいつを使ってください」
「剣は折れちまったが、壁もそれなりに崩れたんじゃないか?」
「ああ、そうだな。ダンジョンの壁って壊せるんだな、知らなかったよ」
「折角だし、ここだけでも崩してみるか?」
「そうだな、勇者殿が立ち直るまで壁でも崩しておくか」
解体用の短剣や、魔物の骨など適当なもので聖の傷つけた壁を掘り返していく騎士たち。
30分程で人が通り抜けることが出来るぐらいの穴をあけることが出来た。
「確かに壁を壊せば回り道をしなくていいが、あまり効率的とは言えないな」
「そうだな、壁ひとつにこれだけ時間がかかるんじゃ、これまで通り進んだ方がよさそうだな」
「せめて階段の方向だけでもわかればいいがな、反対向きに壁を壊したりしてたら時間の無駄になるからな」
騎士たちはダンジョンの壁を壊すことに成功したが、その効果については否定的なようだ。
結局これまで通りに地図を描きながら進むのが一番効率が良いということなのだろう。
「勇者殿、そろそろ先に進みませんか?ここでしょぼくれていても時間が経つばかりですよ」
「くっ、あの剣はファティマ様から頂いたものなのだぞ、攻略できたとしても合わせる顔がない…」
「では、ここで引き返しますか?剣を折った上に依頼も果たせないことになりますがね」
「そんなこと出来る訳ないだろう。わかった、進むことにしよう」
なんとか聖を立ち上がらせ、攻略を再開する。
元々魔物自体は聖にとって脅威にならず、罠も騎士たちが対応してくれる。
ゆっくりとした速度ではあるが確実に攻略に向かって進んでいくのだった。
そしてダンジョンに入って20日後、ついにコアを発見することが出来た。
コアの守護に強力な魔物はいたが、それでも聖の相手ではなかった。
数度の攻防の後あっさりと切り捨てられた魔物を無視し、聖はコアを手にする。
コアは赤黒く光を放ち、強弱する光でコアが生きているかのようにも見えた。
後はコアを破壊するだけだが、それはダンジョン脱出後に行う必要がある。
コアを破壊すればダンジョンが崩壊するためだ。
だが、今回の攻略ではコアは破壊せずファティマのもとに届けることになっている。
コアの奪取、それがファティマの依頼だったのだ。
脱出はすでに各層の地図があるため楽なものだった。
20日かかった道のりが、たった2日で済んだのだ。
そして久しぶりに地上に立ち、日の光を浴びるとやっと戻れたという安心感からか、これまでの疲労が一気に襲ってくる。
一行は近くの町で、1日丸まる休養を取りファティマの待つ侯爵領に戻るのだった。




