第16話 対策
先日行った俺の攻撃魔法の結果がわかった。本当はもう少し早くわかっていたはずなのだが、グレアムさんの机の書類の山にうずもれていたそうだ……俺がグレアムさんに会わなかったら、まだ山の中に埋まっていたのだろう……。
結論から言えば、かなりやばいものだった。目標とした木は跡形もないどころか、深さ10m、直径300メートル程のクレーターと化しており、その周辺にまで爆風の影響が及んでいたらしい。
俺に連絡が来るまでは新種の魔物か、魔王の侵攻かと王宮内でもこの被害状況の原因を特定できずに、大いに揉めていたようだが、魔法省のエリックからおそらく俺の仕業と伝えられると一転して、さすが勇者様、これなら魔王も恐れるものではないと、楽観的な空気に変わったらしい。
だが、それだけに留まらず、これだけの魔法がすでに使えるのであれば、早急にダンジョン攻略に向かわせるべきだという、貴族派や軍部派の声が大きくなってしまい、俺達に早く協力を認めさせろと要求が激しくなっているようだ。
当然王国派は、俺達を手駒にしようとしている連中に対して牽制を行ったが、すでにこれだけの魔法が使えるということが明るみに出た以上、牽制にも限度がある。軽い気持ちで攻撃魔法の訓練のつもりでいたが、その結果が引き起こした事態が俺達を追い込むことになってしまった。
「申し訳ございません、ジン様のお力が貴族派達にばれてしまったため、王国派としてはこれ以上の攻略時期の遅延は困難な状況になってしまいました。すでに軍部では最初に攻略すべきダンジョンの選定に入っており、貴族派達は己の領地のダンジョンを先に攻略させるように根回しを始めています。魔法省はダンジョン攻略というよりも勇者様の使う魔法に興味があるため、ダンジョンの場所にはこだわっておりませんが魔法の分析のために同行を強く求めております。私共が不甲斐無いばかりにジン様達にご迷惑をおかけすることになり、重ねてお詫び申し上げます」
フィアは、現在の状況を申し訳なさそうに報告してくれるが、当然フィアが悪いわけではない。俺達を手駒にし、利用しようとしている奴らのせいなのは明らかだ。ただ、ダンジョン攻略を早急に行う必要があるというのも間違いではない。
「俺の考えを言うと、ダンジョンの攻略自体は構わないと思っている。放置すれば碌なことにならないらしいし、そのしわ寄せは今揉めている連中ではなく一般の国民たちに及ぶからだ。別に正義の味方を気取るつもりはないが、力を出し惜しみして被害が広がってしまえば、さすがに心が痛むからな。
だが、誰かの手駒になるつもりは一切無い。ここだけは譲ることはできない。俺だけでなく、世奈や穂乃華、芹那の安全にも関わることだからな。なので、軍部や貴族の用意した連中とは行動は共にしない、もちろん魔法省の奴らもだ。俺達だけで攻略を行うことが出来れば、少なくとも誰かの指示に従うことも無いだろうと思うんだ。もちろん、攻略の順番程度は従っても構わないが、政治的な理由で決められたとわかれば従うつもりはない」
「仁の言う事は解るよ、私達のことを考えてくれてるのも凄く嬉しい。でも、私たちだけでダンジョンに行って攻略なんて出来るの? エリックさんに教えてもらったんだけど、この四人だと前衛がいないから厳しいんじゃない?」
「ああ、穂乃華の言う通り、ここには前衛がいない。だからダンジョンには潜らないで攻略するんだ。」
「どういうこと? 攻略って一番奥のコアとかいうのを壊すことなんだよね? なのにダンジョンに入らないなんて、何かのなぞなぞなの?」
「なぞなぞのつもりではないよ、世奈。まだ出来るかどうかは試していないけど、コアを破壊するんじゃなくてダンジョンごと破壊できないかって考えてるんだ」
「えぇっ! ダンジョンって壊せるのぉ? ゲームだと壊せないイメージなんだけどぉ?」
「ふふ、芹那、ゲームなら勝手に壁を壊されたりしたらシナリオ通りじゃないようなことをされるだろう? 壊せないようにすることで、作る側は余計な事を考えないで済むんだ。つまりゲームのお約束ってことだな。でもこの世界では、ダンジョンは実在している。つまり普通の物理法則にしたがっていると考えられるんだ。偉そうなことを言っても、まだ試していないから机上の空論でしかないんだけどね」
「凄いですジン様!そのような事これまで誰も考えたことがありませんでしたわ。もしその方法が可能であるなら、他の派閥の思惑など吹き飛ばせてしまいますわ」
「だろうね、この間攻撃魔法を使った後で、ひょっとしたらって思いついたんだ。後の課題は出力の向上と、最下層まで影響を与えるにはどうすればいいかってところなんだけど、出力については連発することで、ある程度はカバーできるだろうから、後はどうやれば確実にコアを破壊できるかっていう課題が残ってるぐらいかな」
「じゃあ、コアについてエリックに聞いてみるの?」
「いや、もうすでに聞いたんだけど、エリックも実際のコアを見たことはないんだ。そりゃそうだよな、攻略部隊がコアを破壊するんだから王宮に居るエリックが見たことがあるはずがない」
「攻略部隊ってことは軍部だったっけ?」
「そう、軍部で実際に攻略に向かったことがあって、コアを実際に見つけたことのある人に話を聞きたいんだ。それも出来れば複数個所についてだね」
「それでしたら、私の方から軍部に依頼を出しましょう。ダンジョンの情報を勇者様に教える事なら、どこからも横槍は入らないでしょうから」
「そうだね、フィアにお願いするよ。情報については多分それで十分だと思う。他にはダンジョンの詳細な位置ぐらいだけど、さすがにそれは公開してもらえるだろう。その間に、俺はより強力な攻撃魔法を色々と検討しておくようにするよ」
「ちょっと考えたんだけど、魔法ってイメージってエリックは言ってたじゃない? だったら、私達ならそこに科学的なアプローチが出来るんじゃない? こっちの世界の人よりも、絶対に私たちの方が科学の領域は詳しいはずよ」
「なるほど、穂乃華は理系だったっけ?」
「ええ、あと意外かもしれないけど芹那もよ」
「穂乃華ぁ、それどういう意味よぉ」
「ふふふ、だって芹那が勉強しているイメージってないじゃない? いつもどこのスイーツが美味しいとか、寄り道するならあの茶店に行きたいとか言ってたし」
「だってぇ、女の子は甘いものでできてるのよぉ。だったらちょっとでも美味しいところに行きたいって思うじゃん。それに穂乃華も喜んで一緒に行ってたでしょぉ」
「ごめんごめん、そんな食いしん坊な芹那だけど、こう見えて勉強はできたのよ。だから、科学的なアプローチなら私たちも協力できると思うの」
「"こう見えて"ってどういうことかなぁ? 穂乃華ぁ?」
「まあまあ、芹那も勘弁してやってくれ、穂乃華もあんまり芹那をからかっちゃだめだぞ。」
「「はーい」」
「でもそういうことなら、当てにさせてもらってもいいかな? 今考えてるのは二つ、流体を最深部まで流し込めないかと、大きな衝撃を与えることはできないかってとこかな?」
「ふーん、一番奥にコアがあるんだったら流体を流しちゃえば確実かもねぇ、でもどれぐらい流せばいいんだろぉ? あとぉ、衝撃ってドーン! ってやるやつでしょぉ? それだと力が逃げちゃって一番奥だとポヨヨ~ンぐらいになっちゃわない?」
「そうか、こうやって指摘してもらえると穴がわかりやすくていいな」
「でしょ? 芹那って意外とすごいんだから!」
「だからぁ穂乃華? "意外"ってどういうことなのよぉ」
「こらこら、話を戻すぞ。流体はその総量が未知数なため一旦保留にしよう。衝撃についても力の拡散による減衰が大きいので、もう少し詰めた方がいいということだな」
「そうそう、ドーン! がそのままドーン! って伝わればコアも壊れるでしょぉ? うーんとねぇ、指向性を持たせた波、振動ね、これの強力なものが作れたらいけるんじゃないかなぁ?」
「なるほど指向性かぁ、確か高周波の方が指向性が高いんだっけ?」
「そうだよぉ、あとはレーザーで波を作ってやるとかどうとかってのも聞いたことがある気がするぅ」
「レーザーが出来ればもうそれでいいんじゃね?」
「だよねぇ、でもね? レーザーの波長によってはすり抜けちゃうから、そのあたりの実験は大変かもしれないよぉ?」
「ふぅん、そんなことも考えないといけないのか……やっぱり光より音の方がよさそうだな。それとコアがどの波長に弱いかとか知りたいよな。サンプルみたいなものってないのかな? フィア? コアって壊した後は消えたりするの?」
「えっ? あ、あのジン様とセリナ様のお話が全く理解できなったのですが……コアは破壊しても消えたりはしません。確かコアの残骸を持ち帰ったものを魔法省で研究していたはずですわ」
「そっか、それをちょっと貰ってきたり出来ないかな?」
「それは大丈夫と思いますわ。勇者様が必要であると言えば、魔法省も提出せざるを得ませんから」
「じゃあ、さっきの軍部への依頼と合わせてこっちもお願いできるかい?」
「はい! 是非私にも協力させてくださいまし」
「あーっ! 私も理系にしておけばよかった!全 然仁君の役に立ってないよ……」
「世奈はいつも俺のこと気にかけてくれてるだろ? それで十分だよ。それにこの後、世奈にお願いしたいこともあるから、もうちょっと待ってて」
「うんっ! 私にできる事なら喜んで協力するからっ!」
「先に魔法のイメージを決めてしまおう。芹那? 音は空気の振動で間違いないよな?」
「うーん、正確には空気でなくてもいいんだよねぇ。水の中でも音は聞こえるでしょぉ?」
「そう言われればそうだよな」
「でも、発生だけを考えるなら空気の方がイメージしやすいんじゃないかなぁ? 普段のお喋りとかがそうなんだから。大きな声を出したりとかするイメージがわかりやすいと思うよぉ」
「じゃあ、ものすごい大声で空気を振るわせつつ、一点に集中させるような感じかな?」
「そうそう、そんな感じぃ。大声じゃなくて、ものすごく早く強く空気を震わせるイメージの方がいいかもぉ。声だと無意識に上限を設定しちゃったりしそうじゃない?」
「さすがだな、芹那すごいぞ。正直言って見直した!」
「えへへぇ、もっと褒めてぇ。ねえねえ、惚れ直したぁ?」
「ああ、惚れ直してっていうか、もう惚れてるよ」
「あー、だめぇ、ちょっと濡れてきたかもぉ。仁、ちょっとベッドに行こう!」
「こら! 芹那! あんたも抜け駆けしてるじゃないの! 夜まで禁止なんだからね!」
「えぇー、すっごく頑張ったしちょっとだけ、先っちょだけでいいからあぁ!」
「あんたはオヤジか!」
「もう! 芹那ちゃん次は私の番だから、だめだよ!」
「えー今晩は世奈ちゃんだったけぇ?」
「そうじゃなくて、ダンジョンの攻略の話だよ! ねえ仁君、さっき言ってた私に協力してほしいことって何なのかな? どんな大変なことだって私頑張るから教えて」
「いやそんなに大変な事じゃないよ、ただ世奈にしかできないことなんだ。おそらくダンジョンを破壊する程の攻撃魔法を使うにはとんでもない集中が必要になると思う。場合によっては連射が必要になる可能性もあるだろうけど、多分俺の体がもたないかもしれない。だからその間俺を"聖女の加護"で癒していて欲しいんだ。"聖女"の世奈の使う"聖女の加護"なら、多少の疲れなんかは一瞬で癒されるだろ?」
「そんなことでいいなら、私すっごく頑張るよ。それまでにもっと"聖女の加護"を鍛えて、仁君をもっと癒せるようにしておくね!」
「それじゃあ、私は何をすればいいの?」
「穂乃華は俺と一緒に魔法の開発を手伝ってほしい。"魔導士"の穂乃華なら魔法制御はお手のもんだろ?」
「ふふふ、そういうことなら任せなさい! 料理だけの女じゃないところ見せてあげるわ」
「俺は穂乃華の作る飯、大好きだぞ」
「えっ、ええっ、そういうのいきなりは止めなさいよ! すっごくドキドキするじゃない!」
「あー穂乃華真っ赤だぁ!」
「うふふ、ホノカ様は可愛いですわね」
「うんうん、これが尊いってやつなんだね」
「ちょっと、貴方たちいい加減にしなさいっ!」
「あのぉ、私は何かお役にたてますでしょうか?」
グレースが泣きそうな顔で俺を見つめてくる。
「あぁ……グレースは戦闘以外の所のサポートを引き続きお願いしたいんだ。穂乃華から料理を習ったり、俺達が暮らしやすいようにいろいろしてくれてるだろ? それをこれからもお願いするよ」
「皆様、それぞれジン様のお役に立てるのに、王女様ですら役に立っているのに私は何のお役にも立てないなんて……」
「グレース? 王女様で"すら"ってどういうことかしら?」
「あぁ、言葉の綾です。お気になさらないでください、フィアーノ王女様」
「なんかグレースって、ずいぶん変わりましたわね」
「それはもちろん、ジン様のハーレムに参加させて頂いた以上、皆様はライバルでもありますから。あっ、そうですわ。ジン様の夜伽を私が精いっぱい務めて皆様にはゆっくりお休み頂くというのはいかがでしょう?」
「「「「グレース!それは嫌!」」」」
うん、平常運転だな。
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