第15話 休養
~ 魔法省 職員寮個室
「くそぉ、結局"隷属の環"が上手くいったのは二人だけか。あの桂とかいうガキだろうな儂の仕掛けを見抜いたのは、忌々しい奴だ……勇者の力を思うが儘に使えれば、これまで以上の魔法が使えるかもしれんというのに、無能どもは勇者に対して畏れ多いなどと何の根拠もないことで躊躇っておるし……。
だが、この研究が上手くいけばダンジョンどころか魔王ですら恐れることはなくなるはずだ。
今の二人でこのまま進めるか、何とかして他の四人にも"隷属の環"をはめるかが悩みどころだな。無理をして露見しては全てが水の泡となる、儂のこれまでの研究に日の眼が当たらんなどということはこの世界の損失だ。この世界の為にも失敗は決して許されんからな。
仕方がない、あの二人の成長を待って勇者の力を手に入れるのが堅実だろう。他の四人もチャンスさえあれば儂のものにして見せるわ。すでに王太子もこちらの手の内にあるようなもの、いずれは全てが儂にひれ伏すことになるのだ、くくく」
*
訓練もひと段落し休養日をもらった俺達は、自室でくつろいでいた。
「いやぁ、自分の才能が怖いわねぇ……こんな短期間で全ての魔法が使えるようになるなんて、私って天才かも」
「穂乃華、それはスキルのおかげでしょぉ。私なんていっぱい召喚獣を手に入れたんだからねぇ。モフモフのから、フワフワのも、皆すっごい可愛いんだからぁ」
「芹那ちゃん、なんか目的がおかしくなってない?」
「いいのぉ、可愛いは正義って何か聞いたことあるしぃ」
「そういう世奈ちゃんも"聖女"っぽい魔法使ってるじゃない? あのなんかキラキラした奴とか」
「"聖女の加護"ね、あれって見た目は奇麗なんだけど、結構目がチカチカするんだよね」
「あはは、そう言うのもあるんだね」
「でも仁君の魔法を見ると、ちょっと自信無くすよね」
「そうね、なんか全く別物って感じ? 攻撃魔法はまだ見たことないけど、見たら自信無くすんだろうな」
「えぇ? 仁が強いのはいいことじゃないのぉ? ご主人様としてかっこいいところ一杯見せてもらわないとぉ」
「ふふ、芹那は可愛いわね。でもそういう考え方は好きよ、そうねご主人様だから強くてもいいわよね」
「穂乃華ちゃんも可愛いよね、仁君のことならなんでも許せちゃうんだもん」
「そういう世奈ちゃんもでしょ?」
「えへへ、ばれたか」
「なあ、そういうのは俺のいないところでやらないか?」
「なんでぇ? 仁は私達のご主人様で、かっこいいねぇって褒めてるだけじゃん?」
「だから目の前でやられると、本人としては結構恥ずかしいもんなんだよ」
「そういう時は、押し倒しちぇばいいんじゃないかな? 私はいつでも大歓迎よ!」
「穂乃華はすぐ抜け駆けしようとする!」
「じゃあ、世奈ちゃんも一緒にどう?」
「それなら許す」
「なあ、俺の話聞いてる?」
「あのジン様、少しよろしいでしょうか?」
席を外していたフィアがなんか深刻そうな顔で声をかけてくる。
「ああ、フィアの為ならいつでも時間を取るよ」
「まあ! ではジン様、寝室に参りましょう!」
「ちょっとフィア、話があったんじゃないの?」
「話など後で十分ですわ、ジン様に抱いていただける方がはるかに優先順位が上ですの!」
「フィア落ち着け、俺の言い方が悪かった。まずは話を聞こう」
「えぇっ! そんなぁ……」
「いや、そんなこの世の終わりみたいな顔する程じゃないだろ?」
「いいえ、この世界よりもジン様の方が大切ですわっ!」
「ああ、もう話が進まない! フィアとりあえず話を聞かせろ!」
「ジン様のご命令とあらば仕方がありませんわね……つい先ほど聞いた話なのですが、先日ヒジリ様が連れ去られたと。この件についてはお父様から緘口令が引かれたらしく、私のところにも全く漏れてきておりませんでしたの」
「あいつを連れ去るって、誰がそんなことを?」
「ファティマ・オズボーン女侯爵と聞いていますわ。貴族の中でも大きな力を持った方ですの」
「その女侯爵さんが何であいつなんかを連れ去るんだ? こう言っちゃ悪いがあいつ結構ポンコツだぞ」
「その点については、まだ何もわからないそうですわ。ただ一緒に"隷属の首輪"も持ち去られたので、おそらくすでに奴隷のように扱われているかと思われますわ」
「そうなると、あいつのわがままな性格を無視できるだろうから、ちょっと厄介なことになりかねないな
従順な勇者をその女侯爵は手駒にしたってことになるのか」
「ええ、お父様と宰相もそのようにお考えの様ですわ」
「きな臭いが、この国にそんなことしてる余裕なんかないんじゃなかったのか?」
「ええ、ですのでファティマへの捕縛命令も出せず、手をこまねいている状況なのですわ」
「ああ、面倒な話だな。あいつが絡んでなければ俺達は無関係って言えるんだがな」
「シンヤなんかのことはもう無関係でいいじゃん。好き勝手して捕まって、連れ去られてって、どれだけ迷惑かければ気が済むのって感じでしょ?」
「まあ穂乃華の言うことも間違いじゃないよな。そうだよな別に俺達はあいつの保護者でもないし、たまたま一緒に召喚されただけなんだから、責任を感じる謂れはないか」
「そうそう、仁はややこしく考え過ぎよ。貴方はこのハーレムにだけ責任を感じて頂戴、他は別にどうだっていいじゃない」
「わかったよ、みんなのことだけ考えるようにする」
「じゃあ、早速私のことを考えてもらおうかな?」
「あぁ! ホノカまた抜け駆けぇ!」
「ほんと穂乃華ちゃんは油断も隙も無いんだから」
「はぁ、フィア、また何か情報があれば教えてくれるか?」
「はい、もちろんですわ。それからシバ様については特に変わりなく近衛騎士団との訓練をまじめにやってるとのことでしたわ」
「ふうん、あいつってそんな真面目キャラだっけ?」
「そんなわけないよぉ。カズキは頭の中まで筋肉で、真面目とか、コツコツとかは一番やりそうにない奴だったよぉ」
「そうね、カズキが真面目に訓練なんて、雨どころか大嵐が来ても驚かないわよ」
「こっちもなんか裏がありそうだなぁ。はあ、面倒ごとばかりだな」
「そんな疲れた仁君は、この世奈ちゃんが全身でじっくり癒してあげよう!」
「あぁ、世奈ちゃんまで抜け駆けぇ!」
「もうみんな頼む、夜まで我慢してくれ。この調子だと俺干からびてしまうわ」
「それは困るぅ! ちゃんと夜まで我慢するから、仁は元気でいてねぇ」
「セリナ、一人だけいい子にならないっ! 私もちゃんと我慢するから、夜にはいっぱいしてね」
「穂乃華ちゃん、それだと結局仁君干からびちゃうんじゃ……」
(はぁ、隠しスキルのおかげで腹上死とか笑えないよなぁ……)
さすがにあの雰囲気では訓練の合間の休憩にはならないよな。俺は付いてきたがる皆を残し、久しぶりに一人で王宮内をぶらつくことにした。この世界に来てもう一月以上経つ、その間は全てこの王宮内で過ごしている。できれば外に出てみたいのだが、勇者の警護上の理由から外出は禁止されている。
さすがに王宮だけあって、とんでもない広さなのでまだ退屈する程ではないのが救いだ。開放されている庭園に向かうと見知った顔を見つけた。
「たしかグレアムさんだったよな、久しぶり」
「おお、勇者様でしたか。お元気そうで何よりです、今日は鍛練ですかな?」
「いやいや、ただの散歩です。ここんとこ訓練が続いてるので気分転換みたいなものだよ」
「はっはっはっ、鍛練をするときは是非お声がけをお願いしますよ」
「その機会があればね、それよりグレアムさんはここで何してたの?」
「勇者様ならご存じでしょうが、現在ダンジョンの監視のために配下を各地に派遣しているのですが、その報告書が溜まりに溜まってもう座るところが無くなってきたので、ここに退避してきたのですよ。はっはっはっ」
「いや、はっはっはっじゃなくて、それって溜めてても大丈夫なの?」
「いやぁ、書類仕事がほんとに苦手なので、致し方ないかとあきらめておるのですわ。はっはっはっ」
「いや、まじでそれきっちり見とかないとまずい書類でしょ?」
「もちろんですとも、配下が頑張って集めた情報なのですからな」
「えーっと、じゃあなんでそれをほったらかしにしてるの?」
「もちろん目を通そうとはするのですが、書類仕事が苦手なのを書類の方もわかっているのか、手に取っても内容が頭に入ってこないようにしておるのですわ」
「それって、書類のせいなの?」
「私と書類しかいない状況で、私は頑張って理解しようとしてるのです。つまり書類が何かしていると考えるのが自然な事でしょう?」
「書類しかいないって、書類はただの紙でしょ? 紙にそんなことが出来るなんて聞いたことがないですよ」
「いえいえ、昔から書類の奴は私の仕事の邪魔ばかりしているのです。そして今も邪魔をし続けるという酷い奴なのですよ」
「ああ、それって一度宰相とかに相談した方がいいと思いますよ。なんだったら俺の方からも伝えておきますので」
「確かに勇者様の仰る通りかもしれませんなぁ。このままでは書類のせいで部下の報告がまとめられませんからな」
「はあ、もう書類のせいでいいですから早急に相談しましょう」
「そうですな、このような事で勇者様に心配をおかけするなどは許されぬことです。勇者様のお手を煩わせることなく、今から宰相閣下の所に相談に行ってまいります」
「うんうん、そうした方がいいと思うよ」
「では、これにて失礼!」
「はあぁぁぁ~~~、部屋に戻るか……」
*
「ねえ、ちょっと仁君に負担かけ過ぎてないかな」
「世奈ちゃんどういうこと?」
「なんて言えばいいのか、仁君頼りになるからいろいろ調べたりとか決めたりって全部任せちゃってるじゃない? それに五人もの女の子に四六時中囲まれてて、休む間もないんじゃないかなぁって、ちょっと思ったの」
「あぁ、さっき仁がひとりで散歩に行ったから、心配になったんだぁ」
「うん、それだけじゃないけど多分そう」
「私はお料理で仁のために頑張ってるけど、それはちょっと違うってことよね?」
「穂乃華ちゃんが頑張ってくれてるのは、きっと仁君もわかってると思うんだけどね。私たちの運命を全部仁君に背負わせてるって言うのが近いのかなぁ?」
「なるほどね、私たちは仁の決めたことに付いて行ってるだけだけど、仁は私たちのことも含めて色々考えて決める必要があるってことね」
「そうそう、そんな感じ。頼りになる仁君は素敵だけど、なんかおんぶにだっこな感じがして仁君がつぶれちゃわないか心配なの」
「でも、だからって私たちに出来る事ってある? 仁の方が頭もいいし、色々考えてる、それにかっこいいし、夜も素敵だし……」
「もう、穂乃華ちゃんたら。それは否定できないっていうかその通りなんだけど……」
「あんまり考えても仕方ないんじゃない?きっと仁もその辺は考えてると思うよ。私たちは仁が困った、助けてって時にしっかりサポートできるようにしておくだけでいいと思うんだ。だって仁も男の子でしょ、女の子の前ではかっこつけてたいと思うよ」
「穂乃華ちゃん、大人だぁ」
「えへへ、まあね。もっと褒めてもいいのよ?」
「うん、凄いよ。この間まで処女だったとは思えないもん」
「ちょ、世奈ちゃん!」
「あははは、でもほんとに穂乃華ちゃんの言う通りかもね。もっと仁君を頼って、かっこいい姿を堪能させてもらうことにする」
「でも、なんでこんなに仁のこと好きになったんだろう? 元の世界に居る時は、正直ボッチだなぐらいしか思わなかったのに」
「そう言われたらそうねぇ、私も仁のことに興味なんてなかったもん」
「でもこっちに来てからの仁君はすっごくかっこいいのよね」
「うんうん、最初は別人かと思ったぐらいよ」
「こんなところにいきなり召喚されたら、頼りになる男の子を好きになるのは当然かもしれないよねぇ」
「ああ、そうかも」
「それに残りの奴があんなだから、相対評価が爆上がりでしょぉ」
「あはは、それは言えてるわね」
「まあ、きっかけはどうであれ、この状況は結構気に入ってるもの。これからもよろしくね」
「世奈ちゃん奇麗にまとめようとしたなぁ」
「えへへ、ばれたか?」
拙作は皆様の暇つぶしの一助になっていますでしょうか?
もし気に入って頂けたのであれば、コメントや評価を頂けると喜びます。




