第14話 隷属
"狂戦士"のスキルが発現した後、俺はアーロンのもとで訓練に励んでいる。正直なところ、このまじめ腐ったおっさんは苦手だが、その剣技はとんでもねぇ。これを教わって身に付ける事が出来れば、こんなつまらん場所とはおさらばするつもりだが、それまではひたすら我慢だ。
その日も朝から近衛騎士団とやらの訓練に参加して、ひたすら模擬戦を繰り返していた。スキルの力かよくわかんねぇが、俺の剣はすでに大半の騎士の上を行くまでに成長していた。
「さすが勇者様ですね、もう私たち平の騎士では全く歯が立ちませんよ」
「そんなことはないだろう? 俺はまだ初心者のつもりで励んでいる、もっといろいろと教えてもらうことはあるはずだ」
平の騎士などすでに雑魚以下だが、騎士ってやつはこんな風に謙虚にふるまってればこっちのことを疑いもしない。頭が悪い俺でも、こいつらをだまくらかすのは簡単なもんだ。こんなのが近衛騎士ってこの国は大丈夫かと心配になるぐらいだぞ。
こんな風にしていれば、騎士の連中も俺のことを仲間扱いするようになり、色々と教えてくれるようになる。どうやら一緒に来た連中のうち、俺とシンヤだけが別扱いになっているらしい。俺は最初にやらかしたからわかるが、シンヤの奴は何をやらかしたんだろうと機会を見ては情報を集めていた。
話を聞いたところでは、メイドを襲ってボコボコにしちまったらしい。そのメイドが一応貴族だったらしいんで、結構大ごとになってるみたいだ。あの馬鹿のことだから、素直に謝ったりは出来ないだろうし、墓穴を掘りまくってるんだろうな。まあ、俺を裏切ったんだ、せいぜいひどい目にあわされりゃいい。
それより桂の野郎だ。あのボッチ野郎、どんな手を使ったのかホノカとセリナを両方コマしたらしい。そのうえ 泉と何とか王女にも手を出したって、どういうことだ? そんなにやらかしているのに、奴の評判は悪くない。それどころか勇者と王女が引っ付くのを歓迎すらしている様だ。俺がこんなむさいところで我慢してるのに、あのボッチ野郎許せねぇな。
とっとと腕を上げてこんなところからおさらばして、桂の奴をぶっ飛ばしてやる。
俺は桂をぶっ飛ばすことを目標に、アーロンにひたすら挑んで鍛え上げていく。近いうちにアーロンを上回ることを信じて、ひたすら剣を振り続けた。
*
聖がファティマに連れ去られた件は、すぐに国王にも報告された。サミュエルとその対応について相談するが、有効な手が思いつかない。
既に12カ所のダンジョンを抱える貴族たちは限界を迎えつつあり、ファティマに対して手を打つならば先にダンジョンを何とかしろというに決まっている。そして相手は貴族であるため、軍部や魔法省は使えない。これは、軍部は他国との戦いを主とする者であり内乱であればともかく、ファティマの捕縛といった司法の範囲での行動は許されていないためだ。もちろん、国王の命令であれば軍部も動かざるを得ないが、ここでもダンジョンの影響により身動きが取れない。現在ダンジョンの監視は軍部主導で行われている、つまりほとんどの人員が各地に散らばっている状態なのだ。これを呼び戻してファティマの捕縛に向かわせることは、ダンジョンを放置することに等しい。そうなれば貴族たちが黙っていないことになる。
そして、魔法省はそもそも研究を主とする部署であり、対人戦や捕縛といった事には向いていない。ダンジョンの魔物などの討伐なら研究成果の魔法で対応できるが、人命を優先するような繊細な制御を魔法で実現するのは非常に困難なため今回は使えない。
残るは近衛騎士団だが、国王と王族を守護する役割の彼らを派遣するなどは、さらにあり得ないことだ。
結局のところファティマの捕縛は困難であり、そのうえあの女怪のこと、単純に捕縛したところで言い逃れてすり抜けるに違いない。国王の名で召喚したところで、決定的な証拠がない現状で捕縛などしたら、貴族どもが黙ってはいまい。証拠というのは、ファティマの姿を見たという単なる一騎士の証言しかないのだ、侯爵を相手にその証言能力は皆無に等しい。
「だが、性格に問題があるとはいえ、勇者を一貴族が保有するなどあってはならんことだ」
「はい、ですがそれを阻止するための対策がございません」
「奴の狙いは何だ? このタイミングで勇者を手に入れて何をしようとしている?」
「可能性としては、反乱、権力の拡大、最悪勇者を手土産に他国への亡命……ふっ、碌なものがないですな」
「仕方がない、打つ手がない以上今は動かないことを対策とするしかない。ただ、奴の動きは直ぐに掴めるよう監視は強化しろ」
「はっ、仰せの通りに」
*
「はあ、やっぱりここは落ち着くわねぇ。王都みたいなごみごみしたところは嫌いよ」
ファティマは聖を連れ去った翌日には、既に自領の自室でくつろいでいた。本来であれば、馬車を使っても一週間は余裕でかかる距離なのだが、そのことを不審に思うものもここにはいない。
「例の勇者ですが、薬で眠らせております。また"隷属の首輪"についてもすでに調査を終えいつでもご利用頂けるようにしております」
ファティマの前にはローブをまとった男が跪き、報告を行っている。またファティマの後ろには侍女が並び、報告する男の挙動を見張っているかのようだ。
「じゃあ、目を覚ましたら報告して頂戴。あの地下では顔がよくわからなかったけど、いい男なら遊んであげてもいいかしら」
「それでは、引き続き勇者の監視を行います。目が覚め次第ご連絡いたします」
ローブの男はファティマの後半の台詞は聞かなかったことにして、部屋を立ち去る。
「ねえ、勇者って強いのよね? あれも強いと思う?」
後ろに立つ侍女に問いかけるファティマ。
「召喚直後の勇者は、平騎士にも劣ると聞いております。ただ強力なスキルを有するため、訓練次第で非常に強力な力を得ることが出来るとのことです」
「ふうん、じゃあまだ使い物にはならないのよね。貴方たちに任せるから、さっさと使えるようにはできそうかしら?」
「お任せ頂けるのであれば、いかようにでも育て上げて御覧に入れます」
「あらあら、いつもながら頼りになるわねぇ。本人の性格などもあるでしょうから、そこも含めてお願いするわ。でもいい男なら、ちょくちょく味見させてもらうけど構わないわよね」
「もちろんです、首輪もありますしご当主様に従順な最強のしもべに育て上げて見せましょう」
「うふふ、楽しみよね。今頃陛下やサミュエルは大慌てなんでしょうね。その姿を見れないのが残念だわ」
「ここは、どこだ?」
聖は目を覚まし周りを見るが、気を失うまでいた地下とは大きく異なり、豪華な部屋のベットに横たわる自分の状況がつかめなかった。
「やっと目を覚ましたのですね、勇者様」
聖の前に現れたのは、ファティマの後ろに控えていた侍女の一人、シンシアであった。
「貴様は誰だ?」
「口の利き方には気を付けた方がいいわよ、勇者様」
「煩い!俺に意見をするな、まあちょうどいい、女とは最近ご無沙汰だったからな、ここにきて服を脱げ!」
「はあ、聞いた通りの愚かな男の様ね、偉そうな口を利く前に自分の首を確認してみたら?」
シンシアは挑発するように聖に声をかける。聖は何のことかわからず、しかし気にはなるので自分の首に触れてみる。
「なんだ、これは? ん? 外れんぞっ!」
「それは"隷属の首輪"よ、一度嵌めればご主人様にしか外すことはできない。ご主人様の命令には絶対に逆らえなくなる奴隷の証よ、あはははは」
「ふざけるなっ!この俺が奴隷だと、聖なる勇者である俺が奴隷など認めるわけがないだろっ!」
「自分のことを"聖なる勇者だ"なんて、あはは、自分で言ってて恥ずかしくないの? それにお前が認めようが認めまいが、どうでもいいの。すでにお前は奴隷だから、その首輪が動かぬ証拠よ。あはははは」
「くそっ、ふざけるなっ、俺は聖なる勇者だぞっ、くっ、何故取れんのだぁっ!」
聖は何とか首輪を外そうとするが、当然その程度で外れるようなものではない。
「貴方馬鹿なの? さっき外せないって説明したわよね? はあ、これは聞いていた以上の愚か者かもね。言葉が通じないんじゃ獣と同じじゃない、めんどくさいわね。まずは言うことを聞かないペットには躾から行いましょうか。ご当主様から首輪の主人の権限の委譲をしてもらっててよかったわ、さすがご当主様ね、先の先まで考えていらっしゃるわ、あぁ……」
シンシアの妙なスイッチが入ったのか、急に恍惚とした表情で腰をくねくねと妙な動きを始める。
「恐れながらシンシア様、まずは勇者の調教を優先すべきかと」
いつの間にか、シンシアの脇にはローブを着た男が現れていた。元から居たのかどうかもわからない影の薄い男であった。
「そ、そうね、ありがとう止めてくれて。ご当主様のことを考えるとちょっと逝っちゃうのは何とかしないとね……じゃあ、早速始めますか。"罰を!"」
シンシアがおそらくキーワードだろう言葉を発すると、聖の首輪が淡く光り、聖の全身をその光が覆っていく。
「ぐゎぁっっ! や、やめろっ、やめてくれぇっ!」
光とともに聖の全身を激痛が襲う、一分ほどで光は収まるが、聖は息も絶え絶えで顏は涎まみれ、そのうえ失禁までしていた。
「あーあ、汚いなぁ。せめてベッドから降りて漏らせよなぁ、ったく、誰が掃除すると思ってんのよ。あそっか、こいつに自分でやらせればいいか。まずはこいつのプライドを根こそぎへし折らないと調教は進まないし、全部口でやらせたらいい顔しそうじゃん、あははは」
こうして聖の新たな地での受難が始まったのだった――
最初の一日が終わる頃、すでに聖の心は折れかけていた。
「シンシア様、どうかこの愚かな私に何か食べるものを頂けないでしょうか」
「あはははは、あんたメンタル弱すぎじゃない? たった一日でここまで落ちるなんて初めて見たわ。所詮甘やかされたお坊ちゃんなんてこんなものなのかしらね? ほれ、食べもんだ。手を使わずに食べるんだよ」
そう言ってシンシアは、パンのかけらを床に放り投げる。もちろん、この地方でも食事は元の世界とは比べものにはならない酷さだ。だが、それを喜んで犬のように口だけで食べる聖の姿は、既に当初の面影はなかった。
もともとが甘やかされて育ってきており、自分の体に痛みなど受けたことのない人生だった。普通なら親に叱られて叩かれたり、子供同士で喧嘩したりと、それなりの経験を経て成長するのだが、聖の両親の歪な愛情が、それを許さなかったのだ。過保護なうえに、聖に反抗的なものは全て事前に潰すという徹底した幼少期を過ごし、高校生になった今も揉め事は全て金で解決させてきたつけがここにきて響いたのだ。
己より強いものに出会ったことがない為、このような理不尽な状況に追い込まれた時に、ただ恐怖に怯え従順にする以外の方法を思いつくことが出来なかった。
そして一度従順にすることで安全を手に入れてしまうと、もうそこから抜け出すことはできなくなってしまう。ここにファティマの為の犬が完成したのだ。
「あら、もう躾が終わったの? すごいわねぇさすがシンシアだわ。後でご褒美を上げるから、私の部屋にいらっしゃい」
「あぁ、ありがとうございます、ご当主様ぁ」
シンシアはファティマに褒められ、いかにも怪しげなご褒美をもらえると聞くと、蕩けんばかりの顔をして内股を擦り合わせている。
「あらあら、シンシアったら。ご褒美は後でよ、調教の成果を見せて頂戴」
「はぁい、ご当主様ぁ」
シンシアはファティマの自室に報告に上がったが、その成果を褒められ早速聖を連れてくる事になった。
「いいわね、これからご当主様の前にお前を連れてくけど、もし舐めた態度を取れば今まで以上の罰が待ってるから気合い入れとくんだよ」
「はい、シンシア様。どのような事でも致しますから、罰はご容赦くださいませ」
「ふふふ、そうそういい子にしてたら後でご褒美を考えてあげてもいいわ、じゃあ早速行くわよ」
「ご当主様、これが例の勇者になりますわ。ご確認いただけますか?」
「あらあら、わりといい男じゃない? 貴方名前は?」
「はい、ご当主様。名前はヒジリ シンヤと申します」
「ふうんじゃあシンヤって呼ぶことにするわ。貴方勇者なんでしょ、何が出来るの?」
「はい、ご当主様。私のスキルは"聖騎士"で、聖属性の加護を持つ騎士となっています」
「聖属性! あらあら、結構いいスキルじゃない? それでどの程度使いこなせるの?」
「はい、ご当主様。大変申し訳ありませんが、まだスキルは使いこなせておりません」
「あらあら、それじゃあ何の役にも立たないじゃない?こんなのに私の時間を使わせたっていうの? ちょっとシンヤにお仕置きが必要ね」
「ご当主様、では早速。"罰を!"」
「うゎぁぁっ! やっやめてぇ、やめてくださいぃぃぃ!」
既に何度目かわからない罰を受ける聖、だが全身を襲う激痛に慣れることはなく、だが刻み込まれた従順さから叫ばれる言葉は暴言ではなくなっている。そして、失禁したことを酷く責められたためか汚らしい汁を飛ばすこともなく、そういう意味ではこの罰にも慣れてきたともいえる。
「うふふ、いい声で鳴くのねぇ。ねぇシンヤ? もっとその声を聞かせてって言えば聞かせてくれる? そしたら、このままうちで飼ってあげるわ」
「は、はい、ご当主様。喜んでいただけるのであれば、わたくしめも喜んで罰を受けさせていただきます」
「ふうん、じゃあ"罰を!"」
ファティマの言葉に反応した"隷属の首輪"はシンシアの時以上の光に包まれる。本来の主人と、仮初の主人とではその効果も異なるようだ。
「うゎぁぁぁっ! やっやっやぁぁぁっ! ごとぉしゅぅさまぁぁぁっ!」
「うふふ、シンヤは可愛いわね。いいでしょうこのままシンシアにスキルを鍛えてもらいなさい。私を失望させないでね、可愛い私の勇者様」
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お目汚しになっていたり、ストレスを溜めるようなことになっていなければいいのですが。
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