第12話 攻撃魔法
あれから毎日エリックによる魔法の訓練は続いている。
数日の訓練で、基本属性と言われる火水土風の4属性はもちろん聖属性を世奈と俺、穂乃華も使えるようになった。聖属性は"聖女"の効果か世奈の方が穂乃華よりも威力が高い。それ以外は俺、穂乃華、世奈、芹那の順だ。俺達の中では一番威力の低い芹那だが、それでも一般的な平均よりは高威力であるらしく、エリックはさすが勇者だとしきりに褒めていた。
ただ、攻撃魔法については良い訓練場所が見つからないようで、俺だけ攻撃魔法の訓練は見学だった。それでも穂乃華の使う攻撃魔法ですら、訓練場を破壊しかねない威力である。恐らくこれを遥かに上回るであろう俺の魔法は、とてもここでは使用できない。
最近は芹那の"召喚士"を使うために、エリックが各所に手配して魔物を手に入れてくれる。俺達が魔物の所に行くにはまだ早いという判断らしいので、素直に言うことを聞いておく。
そして今日は、ウサギ型の魔物が連れてこられた。
召喚のためには相手の魔物を屈服させる必要があり、この加減が非常に難しい。殺してしまうと当然だめだし、手を抜きすぎると反撃されてこっちの身が危ない。この辺りの加減が芹那は非常にうまかった。"召喚士"のスキルのおかげなのかもしれないが、生かさず殺さずというのは芹那に向いているのかもしれないと失礼な事を考えてしまった。
そしてすでに瀕死の状況の魔物の前に芹那が近づき手をかざす。ウサギの魔物を見つめる芹那、ウサギの魔物が諦めたかのように目をつむるとその身体が光に包まれて消えてしまった。
「すばらしい、これで今の魔物も召喚可能になりましたね」
エリックが芹那を褒める。
「えへへ、ウサギだし懐いてくれたら可愛いかなぁ」
芹那は平常運転のようだ。
こうして、俺達の訓練は日々高度なものになっていく――
*
ある日、俺専用の攻撃魔法訓練場が見つからないと謝るエリックに尋ねてみた。
「魔法って離れたところにも使えるんだろうか?」
「それはどういうことでしょうか?例えばここからあそこの木を狙うというような遠距離攻撃ということではなく、もっと遠く、例えば隣の街のような目視できない距離に対して魔法を使うということでしょうか?」
「ああ、その通りだ。相変わらずエリックはすごいな、あれだけで俺の言いたいことを理解してくれるなんて」
「勇者様の講師として当然のことです。しかし、今言われたような魔法は非常に困難であるというお答えになります」
「つまり実現不可能ではないが、非常に高度な技術がいるということか?」
「ええ、その通りです。そもそも目視できない距離ですのでまずその場所の特定が必要になります。さらにその離れた場所の魔力を操作して魔法を行使する必要があるのです。これだけでも非常に難易度が高いとご理解いただけると思います」
「つまり、こういうことか?」
俺は自身の後方100メートルあたりにウォーターの魔法で水を流しだす。
「な、なんと……」
エリックはその様子を見て唖然としている。
「ここまでは独学で何とか出来るようになったんだが、もっと遠いところだとその座標が特定できないんだ。何か離れたところを見るような魔法はないか?」
「素晴らしいです、カツラ様。このような短期間でこれほどの魔法を行使出来るようになるとは……ご質問の件ですが、"遠視"の魔法がおそらくお望みのものに近いと思います。これは自身の視界を別の場所に持っていくことで、離れた場所を見ることが出来るものですので」
「おお!あるんだな、さすが魔法は何でもありだな。そのあたりの技術が書かれた本があれば貸してもらえないか?」
「はい、後ほどお部屋に届くように手配させて頂きます」
「ありがとう、助かるよ」
俺は攻撃魔法を使う場所がないため、人里離れたところならと考えた。ただ、勇者を遠出させることはまだ許されていないらしく、色々と方法を考えていたのだが、エリックのおかげですぐに解決しそうなので、今から攻撃魔法を使うのが非常に楽しみだ。
*
召喚されておよそひと月が経つ、穂乃華のおかげで食生活が大きく改善されたため、俺達の異世界生活には大きな不満はない。
そうそう、あれから世奈以外のハーレムメンバーにもすべて手を出し、名実ともにみんな俺のものになってくれた。非常にありがたいし、元の世界に居た頃からは考えられないほどのリア充ぶりなのだが、毎晩のことなので睡眠不足が深刻化してきている。手を出さずに一緒に寝るだけでもいいといってくれているのだが、美女や美少女が横に寝ているうえに何をしてもOKな関係なのだ。たとえ睡眠時間を削ってでも手を出すのが、男ってもんだろ?
そんな馬鹿なことを考えていたら、世奈が睡眠魔法を覚えてきた。そのおかげで、週に一度は問答無用で眠らされることになり、俺の睡眠不足は解消された。別に一日ぐらい我慢できるんだぞ、猿じゃないんだからな、と言った俺に向けたみんなの呆れた顔が今も忘れられない……
他には宰相の所に、ダンジョン攻略の催促が来始めた。攻略のために召喚した勇者をいつまでも遊ばせているわけにはいかないものな。だが、俺達はまだ協力の要請に対しての回答を保留している。
宰相からもそろそろ協力要請の回答が欲しいと言われているが、その前提となる派閥の問題はまだ解決していないらしい。それを理由に俺はズルズルと回答を引き延ばしてはいる。ただ、派閥の問題にかかわらずこれ以上の引き延ばしは難しいことも理解せざるを得ない。
ダンジョンをこのまま放置し続ければ、周辺の魔力が奪われ人の住めない土地になってしまう。さらに魔物がそこに溢れれば、大災害となり多くの命が失われることになるのだろう。
その対策として召喚されたのが俺達なのだ、責任までは感じないまでも心苦しくはなる。だからといって、俺達が命を懸けて対応するのも釈然としないし、そのうえ駒扱いされる可能性があるのだから、簡単に要請に応えることはできない。
この件は皆とも相談するが、結局引き延ばすしかないという結論に落ち着いている。リミットまで残り少なそうだが、俺達が焦ることではないので暫く放って置くか。
そして、エリックから"遠視"の魔法について書かれた本が届いた。相変わらず魔法は謎理論だが、離れた場所に眼を生成してその視界に入ったものを、さも自身の眼に映ったかのように認識するということらしい。だがこれだと眼を生成する場所の特定はどうするのだろう? 場所を特定するための魔法なのにそのために場所の特定が必要だと意味がない。振出しに戻ったかと思い落ち込んでいたが、芹那に話したらすぐに解決してしまった。
芹那の召喚獣の視界に入る情報は、芹那にも伝わるらしい。そして召喚獣は芹那の思う通りに行動させることが出来る。そこで芹那の協力のもと召喚獣の視界を俺とリンクさせることに成功したのだ。
これで離れた場所でも召喚獣の行動範囲ならどこでも視界の確保が可能になる。その日はあまりの嬉しさに芹那を押し倒してしまった。翌朝の芹那が非常に満足そうな顔だったので、問題はない、はずだ。
朝起きるとその日の訓練は俺と芹那は休みにしてもらい、部屋で芹那と新しい魔法の実験と、俺の攻撃魔法の訓練を行う。まずは、芹那に鳥型の魔物を召喚してもらう。
「ピーちゃんおいで!」
芹那が魔物の名前らしきものを呼ぶと、芹那の目の前でボール状に輝き始め実体を現した。鴉ほどの大きさの鴉のようなつやのある黒い羽根を持つ魔物、もう鴉でいいか。その名もピーちゃんは昨日既に視界の共有を済ませている。
フィアに人のいない、街からは見えにくい場所を教えてもらい、芹那にピーちゃんをそこに向かわせてもらう。ピーちゃんの移動中に視界を共有すると酔いそうになったので、一時的に共有を切る。グレースにお茶を入れてもらい、ピーちゃんの到着を4人で待つことにする。
お茶を飲み終わったころ、芹那がピーちゃんの到着を伝えてくれる。改めてピーちゃんとの視界の共有を行うが、距離が遠いためなかなかうまくいかない。
「私が共有してるんだからぁ、私に触れたらやりやすいんじゃない?」
芹那の提案に頷き、芹那に触れると少しピーちゃんの位置がわかった気がする。だがもう少し、かゆい処に手が届かない様なもどかしさに、思わず芹那を抱きしめる。すると、はっきりとピーちゃんの位置が把握できた。
「もう、仁ったらぁ。後でいっぱいしてあげるから今は集中してぇ」
芹那はだいぶ誤解しているようだが、これで準備は整った。
「よし、視界の共有に成功した。芹那、真下の木がわかるか?」
「うん、わかるよぉ。あの一本だけ生えてるやつでしょぉ」
「そうだ、あれに向かって攻撃魔法を放ってみるから、一緒に見ててくれるか?」
「えへへぇ、初めての共同作業ってやつだねぇ、了解したよぉ」
ボケなのかどうかわからない芹那は放置して、俺は魔法に集中する。やっぱり木に放つんだったら雷がかっこいいよな? 結構安易に放つ魔法を決めるとピーちゃんの周囲の魔力に集中する。
「くっ、これは結構来るものがあるな……だけどもうちょっとだけ……よし、ライトニング!」
俺が雷魔法ライトニングを行使すると、ピーちゃんの真下の気に向かって極大の雷が落ちる。轟音が響き、かなり離れた王宮までその音が聞こえた気がする。
木に落ちた雷は轟音とともに辺りを蹂躙し、爆風が巻き上がる。ピーちゃんもその爆風のあおりを受け、上空へ放り出された。
「うわぁ、ちょっと目が回るよぉっ!」
慌てて共有を切った俺と違い、ピーちゃんと視界が共有されたままの芹那は、吹き飛ばされ錐もみ状態のピーちゃんと同じものを見ることになり目をまわしている。
「芹那!ピーちゃんを戻せ!」
俺は芹那を抱きしめ、ピーちゃんを呼び戻させる。
「……ピーちゃん、戻っておいで……」
ふらふらになりながらも芹那はピーちゃんを呼び戻すことに成功したようだ。
「芹那、大丈夫か?」
「仁、あれはちょっとやり過ぎと思うよ。だから、チューしてくれたら勘弁してあげる」
フィアとグレースも横に居るが、構わないかと抱きしめたままの芹那にキスをする。芹那は腕を俺の頭に回して、そのまま濃厚なキスに推移しようとしたが、
「はい、セリナ様そこまでです!」
とフィアに突っ込まれてしまっていた。
「ちぇ、私頑張ったんだから、もうちょっとぐらい良いじゃない」
「はいはい、そういったことは夜になってからにしましょうね」
「夜ならいいんだね、約束だよ!」
俺の意思は関係なく今晩の予定が埋まっていくが、もういつものことだと気にしない。
「フィア、出来ればあの場所に人をやってどの程度の規模だったかを調査してもらえないか?」
「それは大丈夫ですけど、私が動かなくてももう誰かが動いてるのではないかしら? さっきの魔法の音はここまで響いてきましたもの、王宮の誰かがすでに調査に動いていると思いますわ」
「あちゃぁ、それって俺がやった事がばれても大丈夫な奴かな?」
「もちろん問題などありませんわ、そもそも被害が最小限な場所を選んでいますし、勇者様の力が強力であるのならば喜びこそすれ、批判するなどありえませんわ」
「ふぅ、良かった。大分手加減はしたんだけど、思った以上に強力だったみたいなんでな」
「あれで手加減してたって言うの? 仁、凄すぎなんだけど……」
「そりゃ、超遠距離での魔法の実験だぞ、最初から全力でやるほど馬鹿じゃないよ。それとフィア、魔法のことを聞かれてもよくわからないとか言ってごまかしておいてくれ。結構派手にやったから、すぐにでもダンジョン攻略とかになると面倒だからな」
「わかりましたわ、実際かすかな音が聞こえただけですので、よくわからないというのは嘘ではありませんから、問題ございませんわ」
「芹那がライトニングを使ったときってどの程度の威力だった?」
「うーん、あれを見た後だと全然大したことないように思えるけどぉ、それなりの大木を引き裂く程度の威力はあったよぉ」
「なるほどなぁ、じゃあ倍じゃすまない程度に威力が増してるってことか。うわぁ、ばれたらめんどくさそうだな」
「仁はもうそれなりに戦えるかもしれないけどぉ、私たちがまだまだだからぁ……。そんなに心配しなくてもいいんじゃなぁい?」
「そうだな、心配しても何の解決にもならないし、時間の無駄だな。もっと前向きなことを考えよう。そうだフィア、ダンジョンについて教えてくれるか?」
その後フィアとグレースからダンジョンの構造や大きさなどを教えてもらい、不明なところは翌日エリックに確認し、ちょっとした作戦の検討をし始めた――
拙作は皆様の暇つぶしの一助になっていますでしょうか?
お目汚しになっていたり、ストレスを溜めるようなことになっていなければいいのですが。
もし少しでも気に入って頂けたのであれば、評価等をお願いいたします。
まだ使いこなせていない機能も多い為、ご迷惑をお掛けすることもあるかと思いますが、
よろしくお願い致します。




