第11話 訓練
世奈と結ばれた翌朝。
眼が覚めると俺にしがみつくよう眠る世奈がいた。お互いにそのまま寝てしまったらしく、素肌の感触が生々しい。世奈の寝顔を見つめていると、世奈も目が覚めたようだ。
まだ焦点のあっていない目で周りをきょろきょろと見まわし、俺と目が合うと昨夜のことを思い出したのか顔が真っ赤になる。
「おはよう、世奈」
「お、おはよう仁君」
世奈に笑顔で挨拶すると、か細い声で挨拶を返すがすぐに布団にもぐりこんでしまう。ただ、お互い裸の状況で布団にもぐられるたので、ちょっとまずいところに世奈の手が当たってしまう。
「…………これって、朝からするの? まだちょっと痛いけど我慢できないほどじゃないから」
男の生理現象を知らないのか結構積極的なコメントをしてくれる。
正直なところ寝起きに美少女が裸で抱き着いている状況で我慢するのがちょっと辛い。結局朝から頑張ってしまうことになった。
その後それぞれ風呂に入り身支度をして寝室を出ると、にやにやと俺達を見つめる4人が待ち構えていた。
「おはよう、お二人さん。朝からお愉しみでしたねぇ」
「えっ、なんで? ここって壁が薄いの?」
「世奈ちゃんって結構あの声が大きいのね」
「聞いているこちらまで切なくなってきましたわ」
「えっ、えっ、聞こえてたのっ?」
「大丈夫よぉ、二人の睦言までは聞こえてないからねぇ、聞こえたのは世奈ちゃんの喘ぎ声だけよ」
「あっ、あっ、うそっ?」
「おはようみんな、それぐらいにしておいてやってくれ。世奈が恥ずかしさで倒れそうだ。それに、同じことを世奈に間違いなくやり返されることになるぞ」
「おはよう、仁。私はべつに大丈夫だよ? それに一番最後だからみんなのを参考にさせてもらうからね」
「芹那ってそういうとこあるよね。でも私も好きな人と結ばれたんだったら、冷やかされるのぐらい大丈夫よ。それにしても仁は全然恥ずかしそうじゃないわよね」
「別に恥ずかしいことをしていたわけじゃないからかな? 世奈も満足してくれたみたいだし。それにここのみんなは俺のハーレムメンバーなんだろ? いちいち恥ずかしがってたら持たないよ」
「恥ずかしがるジン様もみたかったような気もしますが、凛々しいジン様も素敵ですわ」
「そうですね、ジン様はとっても素敵です」
「とりあえず朝飯にしないか? 腹が減って仕方ないんだ」
「それは世奈ちゃんに搾り取られたんだよ、それに朝から頑張り過ぎだし。でもきっとお腹を空かしてると思って準備はできてるわよ」
穂乃華がそう言うと、グレースが後ろからカートを押してきた。カートには料理が用意されていて、テーブルに皿を並べて用意してくれる。
「食堂まで行くのも面倒でしょ? だからここで食べれるようにしてもらったの。なんか魔法で保温されてるらしいから、出来立てのままよ」
「へえ、そんな魔法もあるんだな。じゃあさっそく頂きます」
"いろいろ"あって遅くなった朝食を取り始めると、やっと再起動した世奈も一緒に食べ始めた。
「そういえば今日から訓練とか言ってたよね?」
朝食を終えると、世奈が俺に聞いてくる。
「ああ、宰相に今日からで頼んでおいたんだが、具体的な話は聞いてないんだ」
「そうなんだ、なんか仁君らしくないね。そういうのってきっちり決めるのかと思ってた」
「こっちで指定しても良かったんだけど、特に魔法とかはどうやって訓練するのかも知らないしさ、スキルとかもそうだし、最初はこっちの専門家に任せるのが良いかと思ってね」
「なるほど、やっぱりちゃんと考えてるんだね。さすが仁君だ」
まるで自分が褒められたように嬉しそうにする世奈、俺の腕に抱き着いて色々当ててくれているのはご褒美なんだろうか?
「浮かれてる世奈ちゃんは置いといて、じゃあその訓練してくれる人が来るまでは待ちってことね」
「訓練ってなにするのかなぁ、あんまりしんどいのは嫌だなぁ」
「皆さんのスキルは基本的に後衛職のものですから、まずは魔法の訓練からだと思いますわ。ただ、体力作りも必要なのでちょっと激しいものになるかもしれませんが」
「そうですね、まずは魔力を感じて使いこなせるようにならないと魔法が使えませんから、最初のうちはその訓練になると思います、体力は走り込みなどはやっておいた方がいいと思います」
「魔法が使えるようになって、体力強化や身体強化などの魔法が使えれば、ずいぶん楽になるかと思いますわ」
フィアとグレースが色々教えてくれる。
「その体力強化と身体強化って誰でも使えるものなのか?」
「いえ、魔法には属性があり人により向き不向きがございます。強化系は無属性ですので比較的難易度は低いのですが全員が使えるという訳ではありませんの」
「その辺りも訓練してみればわかるってことか」
「はい、実際試さなければわからないですわね、ただ皆さま勇者様ですのでおそらく大丈夫かと思いますわ」
「あぁ、それってフラグっぽい」
「芹那、フィアにフラグって言っても伝わらないだろ」
「そっかぁ、ごめんねフィア。まあ大したことじゃないからスルーしといて」
そのまま話は脱線し、くだらない話で盛り上がっていると部屋をノックする音が聞こえた。グレースが出迎えると、痩せた見るからに不健康そうな男が立っていた。
「勇者様方、初めまして。皆様の魔法の訓練を担当することになりました、エリック・マントンと申します。」
エリックと名乗った男は見かけの通り低い通りの悪い声で挨拶すると、俺達に頭を下げる。
「エリックさん、こちら事よろしくお願いします。私は桂、桂 仁、スキルは"大賢者"です。あとは右から"魔導士"祭 穂乃華、"召喚士"谷 芹那、"聖女"泉 世奈です」
「これはご丁寧なあいさつ、痛み入ります。早速ですが訓練のための場所を用意しておりますのでご足労頂けますでしょうか」
「ええ、わかりました。フィアとグレースはどうする?」
「お邪魔になるでしょうから、私達はここでお帰りをお待ちしていますわ」
「そうか、じゃあ行ってくるよ」
俺達はエリックに続いて訓練場に向かう。訓練場は王宮の裏側あたりの結構自然に囲まれた場所だった。広さは学校のグラウンド程度で思ったほど広くはなかった。
「此方が訓練場として用意した場所になります。本来は王族の方しか入れない場所なのですが、勇者様達の訓練の様子をなるべく人目に付かせたくないためここを利用することになりました」
エリックが周りの様子を見ていた俺達に気が付いたのか、訓練場について説明してくれる。
その後エリックが魔法について説明してくれる。この世界には魔力があふれていること、その魔力を感じ扱うことが魔法であるということ。魔法には属性があるということ、人により属性に対する資質があり得意不得意があること、聖属性は特殊な属性で使えるものは非常に限られていること、他にも現在は失われた魔法が多くあるらしいということ、魔法省はこの失われた魔法の復活や、新しい魔法の開発を主に行っているということ、俺達が知りたかった魔法のあれこれを非常にわかりやすく丁寧に説明してくれた。
魔法の基本を理解した後は実践ということで、まずは魔力を感じる事から始めるらしい。自分の周りにある魔力を感じるというのだが、俺達には漠然とし過ぎてうまくいかない。此方の世界では生まれたときから魔法が普通に存在し日常的に利用されているが、俺達は魔法なんてそもそも存在しない世界から来たのだ。そんな俺達が魔力と言われても、何をどうすれば感じられるのかすらわかるはずもない。
「勇者様達は魔法の存在しない世界から来られてのでしたね、これは大変申し訳ありませんでした。少々お待ちください、準備をしてまいります」
エリックは全くうまくいかない俺達を見て、何かを用意してくれるらしい。エリックを待つ間も俺たちは思い思いに魔力を感じるために集中していた。
「お待たせしました、こちらは魔石と呼ばれる魔力を内包したものです。これに触れて頂ければ、魔力の流れをより分かりやすく感じられると思います」
急いで取りに行ってくれたのであろう、エリックは息を切らせながら俺たちに説明してくれる。
さっそく俺が魔石に触れることにする。魔石は紫がかった黒っぽい色をした鉱石のようで、見た目だけからはなんということもないように見える。そっと魔石に手を触れたとき、ふわっと何かが掌に触るような感じがした。静電気に近い感覚とでも言えばいいのだろうか、引っ張られるようなぞわっとするような、何とも言えない感覚だった。
そのまましばらく魔石に触れていると、その感覚が掌だけでなく全身でも非常に弱くだが感じられるようになってきた。俺がエリックを見ると、彼は大きく頷き、
「はい、今感じられているものが魔力です。おそらく最初は掌だけであったものが全身でも微弱に感じられるようになってきたのだと思います」
「ああ、そのとおりだ。これが魔力なのか……」
「仁! わかったんなら早く変わってよ」
穂乃華が俺を急き立てる、"魔導士"の彼女は早く魔法が使いたくてたまらないのだろう。俺は穂乃華に場所を譲りエリックに聞いてみる。
「この感覚は理解したが、これでどうやれば扱うことが出来るんだ?」
「魔力を扱うということは、魔法を使うということと等価です。ですので、ここからは実際に魔法を行使頂くことになります。皆様が魔力を感じれれば一緒に始めたいと思いますので、しばらくお待ちいただけますか」
「わぁっ! これが魔力なのね!」
エリックと話していると、穂乃華が魔力を感じた嬉しさで叫んでいた。
「さすが勇者様ですね、ここまで簡単に魔力を感じられるとは」
エリックが俺達を褒めてくれるが、そもそもの基準がわからないのでお世辞かどうかも判断できない。そのまま、世奈、芹那の順で魔石に触れて無事に全員魔力を感じることが出来た。
その後実際の魔法の行使の訓練として、まずは安全な水魔法で水を出すことから始めるようだ。想像していた詠唱などは必須ではなく、魔力を指先に集めて水に変換するイメージだけでも発動するらしい。ただその場合、変換効率が悪くなるため一般的には詠唱する者がほとんどらしい。
「我が手にその癒しの証を示せ、ウォーター」
エリックが詠唱を教えてくれるが、正直これを人前で口にするのは恥ずかしい。だが恥ずかしいと思ったのは俺だけのようで、他の3人は嬉々として詠唱を口ずさんでいる。
ここで恥ずかしさが理由で差をつけられると、さすがにまずいと思い出来るだけ小声で詠唱してみる。
『我が手にその癒しの証を示せ、ウォーター』
すると、俺の指先から透明な水が流れ始める。ホースで水を撒くぐらいと言えばいいだろうか、想像以上に大量の水が流れていく。
「そんな……、初めての詠唱で成功しただけでなく、この威力と精度は、どういうことだ……」
俺の魔法を見てなぜか唖然としているエリック、その様子から何か俺がやらかしたのかと不安になる。意識がエリックに向いたためか、水が止まってしまった。
「勇者様、今の魔法は先ほど説明したウォーターの呪文で間違いありませんか?」
「ああ、間違いないぞ」
「ああ、失礼しました。何故驚いているかを説明いたします。本来ウォーターの呪文は、日常生活での飲料用水程度の量を作り出すものです。ですのでコップ一杯程度の水が作られればそれで魔法の発動は停止するものなのです。しかし先ほどの魔法はコップ一杯どころの量ではありませんし、その勢いも桁外れです」
「つまり俺の魔法が規格外だということか?」
「はい、その認識で間違いございません」
「あっ!出た出たぁ!」
「私も出たよ!」
「魔法って楽しい!」
俺がエリックと話している間に、他の3人も行使に成功したようだ。
3人の魔法の様子を見たエリックは改めて俺に話しかける。
「あちらの3名の勇者様も結構な量の水を作られていましたが、それでもコップ5杯程度でしょうか? 当然一般よりもはるかに多い量なのは間違いございません。ただ、やはり先ほどの魔法と比べるとその違いが明らかです」
「ああ、エリック。ややこしいんで全員勇者で呼ぶんじゃなくて名前で呼んでくれないか?」
「そうですね、誤解を与えるのは本意ではございません。大変失礼とは思いますがお名前を今後は呼ばせていただくように致します」
「ありがとう、言葉遣いももっと崩したもので構わないぞ」
「いえいえ、滅相もございません。勇者様に対して私如きがその様な口を利くなど恐れ多いことです」
「そういうもんなのか? まあ無理は言うつもりはないから、エリックのやりよいようにやってくれ」
「はい、ありがとうござます。私如きの要望をお聞きいただき感謝いたします」
「まあ、いいや。で、規格外の俺は訓練をこのまま続けてもいいのか?」
「もちろん、是非続けていただきたいのですが、カツラ様の魔法は通常よりも遥かに高威力になる可能性が高いと考えられます。ですので、攻撃魔法についてはここでは危険なため別の場所を用意する必要があると考えております」
「わかった、その辺りも含めて魔法についてはエリックを頼りにしている。可能な限りエリックの指示に従うから、これからもよろしく」
「過分なお言葉かと、身命を賭して勇者様方のご期待に沿えるよう務めさせて頂きます。」
無駄に丁寧というか、時代がかった喋り方のエリックに俺たちは師事し、この日から魔法の訓練が始まったのだった。
*
「おかえりなさい、お疲れでしょうから先にお風呂に入られますか?」
部屋に戻った俺達をフィアとグレースが迎えてくれる。美女が迎えてくれるというのは癒されるもんだなぁ。
「フィア、そこは最後に"わ・た・し"って付けないとだめじゃない」
何か変なスイッチの入った芹那がフィアを引っ張っていく。妙なことを教え込みそうでちょっと恐ろしい、なんといってもフィアはこの国の第一王女なのだから。この中で良心と言えば世奈なのだが、"お風呂、仁君とお風呂……"となにやらぶつぶつ呟いて役に立ちそうもない。
フィアのことは諦めて先に風呂に入ろう。現実逃避と呼ばれても仕方がないが、さっぱりしたいのも本心だ。
途中世奈が乱入してきたが、お互い背中を流しただけで自制することが出来た。その後冷やかされるのも当然もれなくついてきたおかげで、世奈はまた再起動が必要な状態になったのだった――
拙作は皆様の暇つぶしの一助になっていますでしょうか?
お目汚しになっていたり、ストレスを溜めるようなことになっていなければいいのですが。
もし少しでも気に入って頂けたのであれば、評価等をお願いいたします。
まだ使いこなせていない機能も多い為、ご迷惑をお掛けすることもあるかと思いますが、
よろしくお願い致します。




