帰郷
この旅は雨に好かれる旅になった、
ポツポツと、雨が降りだして辺りが急に暗くなり始めた。
あー、とうとう降ってきましたね。もうあと少しなのに。ほら、その屋根が見えるでしょ?あそこなんです。
兄弟子、あれ、お城じゃないですか!
そういえば太郎は知らなかったなぁ。御幸山は湯本のお殿様の御嫡男なのだが今は訳あって相撲取りになったんだ。
田舎の小さな屋敷だと聞いていたけれど、とんでもないじゃない!聞くのと見るのでは大違いよ?鎌ちゃんなんて呼び方してたけど、ダメじゃない!
女将さん、それは違います。今はここにいる伊助が、主人。湯本のお殿様であらせられますよ。
にこにこと笑いそう言う鎌ちゃんは、その屋敷に何の未練もなかった。でも、こうして見ると幼い頃に過ごした日々が思い起こされる。
あそこで雨やどりさせていただきましょう。
4人は降りだした雨に濡れまいと寺子屋の軒先を少し借りることにした。
雨は一向にやまず、激しく降りだしてしまう始末。
そとでをしていた伊助は激しく降りだしてきた雨を見上げ、こんな事もあろうかと持ってきていた傘をさした。
そして何げに寺子屋に目を向けた。いつもは目にもしないのだが、何か、人が沢山いるように見えたそこに、雨やどりをしている聡太郎と鏡山親方たちをみつけたのだった。
兄上さまー。
と呼ぶ声が聞こえた鎌ちゃんは、聞き覚えのある声に目をやると、伊助を見つけた。
あー!伊助ー!来たぞー!
おかえりなさいませー!兄上さま。
明らかに年下に見える鎌ちゃんに伊助が兄上さまと呼ぶそれは、鏡山親方たちからすると、へんな感じ。けど、鎌ちゃんはもう慣れた様子で普通にやり過ごしている。
ここからは屋敷まで、もう近いのだが、この通り、雨に遭い、ここで雨やどりしていたんだけどなんだかだんだんと雨足が強まっていて困っていたんだよ。
では私が今から屋敷へ戻り傘を持ってきますのでここでしばしお待ちください。
すまないね、伊助。
伊助はお殿様になったというのに1人もお付きの者も付けず出歩いている。もとはお殿様の1番の家来だった為、この辺りでは伊助に勝てる者は居なかった。
屋敷に戻るとお雪が出迎えてくれる。
お雪、兄上さまがもう近くまで来ていてね、この雨に降られてしまっているから今から傘を持って迎えに行ってくるよ。
まあ、兄上が?もうそこまで来ているのですか?私も迎えに行きとうございます。
お雪さま、行ってはなりません!危のうございます。私が代わりに行ってきますから待っていてください!
イト、少し大袈裟よ。大丈夫よ。少しくらい歩くくらい大したことはないわよ。
お雪、待っていておくれ、お雪に何かあったら私は兄上さまに合わせる顔がないよ。
伊助がそう言うなら待ってる。イト、我儘言ってごめんなさい。じゃあお願いします。
伊助とイトは傘を持ってすぐ近くの寺子屋まで迎えに出たのだった。
お雪の待つ屋敷までもうすこし。何事もなくつけばいいのだが。




