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風紀委員 藤堂正道 最愛の選択  作者: 恵鉄
兄さんなんて大嫌いです! 藤堂正道SIDE
467/525

1/30 後編

 ガラガラガラ。


「……お帰りなさい」


 玄関で朝乃宮と会った。

 コイツ、待っていたのか? いや、そんなわけねえよな。

 どうでもいいが、いやって言葉使いすぎだな。

 本当にどうでもいいが、久しぶりに朝乃宮の声を聞いたような気がする。なぜか、ほっとした気分になる。

 けど、すぐに憂鬱に変わるんだろうな。

 なぜなら……。


「咲の事で話があります」


 だろうな。朝乃宮が俺なんかと話をするなんて、上春のことくらいだ。

 俺達は家族じゃない。赤の他人だ。

 朝乃宮とは正月に実家のことを話をしたり、強の事で世話になった。

 一緒にご飯を作った事もあった。

 いろいろあったのにな……なのに、何の進展もなかった。


 俺はため息をついた。朝乃宮の綺麗な眉がぴくりと動く。

 あっ……分かってしまった。

 説教が始まる。憂鬱だ……。


「どうしたの、正道君? 玄関で立ち止まって」

「正道君。さっさと運んでしまおうぜ」


 第三者の登場で朝乃宮の顔がよそ向けの顔になる。コイツ、ほんと、外面はいいよな……。


「正道君? そこにいる子は? まさか、彼女とか?」


 夏帆さんが俺の腕に抱きついてくる。

 柔らかい感触に、俺は動揺を隠すのが精一杯だった。


「初めまして榊原夏帆さん。ウチの名前は朝乃宮千春です」

「私の名前、知ってるんだ。ああっ、思い出した……キミ、青島の女夜叉だっけ? 名前思い出せなくてごめんね」


 夏帆さんの目がすっと細まる。

 ヤバい……何かスイッチが入ったか? しかも、俺の腕を更にぎゅっと握ってくるし。


 朝乃宮も何かのスイッチが入ったのか、殺気がにじみ出ている。

 く、空気が重い……匂いがする。一触即発の雰囲気だ。


 何だ? 最凶対最凶の頂上対決勃発か?

 とりあえず、警察呼ぶか……いや、義信さんを呼ぼう。


「おい、妹! 我が弟子とイチャつくのはテレビとこたつを運んでからにしろ!」

「……ちっ!」


 えっ? なんで夏帆さん、舌打ちするの?

 まあ、喧嘩が勃発しなくて済んだな。二人の喧嘩、止める事なんて俺には出来そうにないからな。

 出来るとしたら榊原さんくらいか。


「榊原君、よく来てくれたな」

「ちっす、監督! 正道から連絡があったと思いますが」

「分かっている。手伝おう。それと、ありがとう」


 義信さんが現れ、完全に喧嘩の空気はなくなった。

 念のため、俺は義信さんに連絡し、テレビとこたつをいただいたことを報告した。義信さんは直接、榊原さんと夏帆さんに電話で礼をした。

 コタツとテレビをもらっていい許可が出たって事だ。

 義信さんはテレビの分配器とコードを買ってくるように言われ、領収書をもらってくるよう言われた。


 俺は正直、ドキドキしている。

 ついに念願のテレビが手に入る。興奮が抑えられない。


「そんじゃあ、私も手伝いにいきますか」


 夏帆さんは俺から離れ、手を振る。

 可愛い……。

 年上の女性に思うような事じゃないけど、素直にそう思った。大人の女性の余裕だなって思った。


「……あんな美人と仲がよろしいなんて羨ましいです。伊藤はんの次はバイト先の美人? 押水はんかて、もう少し節操があったと思いますけど?」


 朝乃宮に例のごとく、辛辣なお言葉をいただくが、今は全く気に入らない。

 俺はつい、喜びが抑えきれず、朝乃宮に話してしまう。


「朝乃宮……俺の部屋の文化レベルがあがるぞ」

「?」

「俺の部屋に……テレビとこたつがくるんだ」


 朝乃宮は何言っているんだコイツって顔をしていたが、俺はどや顔で答えた。




「……ただいま……あれ?」

「……これは……」


 全ての準備が終わった後、強と……なぜか上春も俺の部屋に入ってきた。

 強も上春も俺の部屋の変わり様を見て、驚いている。当然だな。

 俺の部屋に……32インチのテレビとこたつがあるからな! テンションあがるわ!


「強、見てくれ。テレビとこたつだ。いいだろ? これからは好きな番組が見れるぞ。ただ、時間は決まっているけどな」


 これは義信さんとの約束だ。テレビは夜の十時まで。

 高校生としては早いと思うだろうが、強は十時までには寝ているし、俺も朝は早く起きてランニングしているから十一時までには寝ている。

 だから、問題ない。


「それにこたつだ。俺達専用のこたつだぞ。すごいだろ?」


 それより、こたつだ。

 こたつなら、二人同時に暖まることが出来る。

 みかん食べたり、ポテチ食べたり……いろいろとやりたいこと、思い浮かぶな。


 リビングにもこたつがあるが、この大家族では取り合いになるし、俺のような体格の大きい男が入ると場所が狭くなるので、まず入れない。

 だが、自分の部屋なら別だ。強と俺だけなら十分足りる。


 コタツがあるだけで優越感もあるし、最高だ。


「強、早速こたつに入ってみかんでも食いながらテレビを見てみろ」

「……うん」


 強はちょこんとこたつに座り、みかんの皮をむきながらリモコンでスイッチを入れる。

 強はミカンを食べながら、そのままテレビを見続ける。

 お気に召してくれたようだ。


「……どうして」


 上春はプルプルと体が震えていた。

 なんだ?


「……どうして、兄さんだけ……ずるいです……」


 ずるい? 何がだ?


「兄さんだけずるいです!」


 ……上春は去って行った。

 な、何なんだ?


「ほんま、あほちゃう? それって芸なん? 絶対にわざとやろ? 女の子を怒らせるの、神的にうまいのって女の天敵なん?」

「……」


 朝乃宮のカスを見るような目に、俺はゾクッとした。

 コイツ、俺を一日一回罵倒しないと気が済まないのか?


「……俺のせいじゃあない……だろ?」

「あんさんのせい以外に何があると?」


 いや、あるだろ? 理不尽だ。


「……分かる気がする。姉さんができてからうらやましいって思うことがある」


 強?

 意外にも強が朝乃宮に共感していた。

 強には分かるのか?


「上春のどこがうらやましいんだ?」

「ご飯やおやつ、お小遣いが姉さんの方が多いし、時々、姉さんのお古が僕にくる。姉さんは新しいモノを買って貰える。家電も姉さんの方がいいモノ使ってるし」


 年上の特権ってヤツか?


「それ、分かります。ウチもそうやったし」

「朝乃宮って姉妹か兄弟がいるのか?」

「ぷい」


 ぷいって……可愛く顔を背けるなよ。

 言いたいことは言ってくるのに、俺の方は無視かよ。


「千春姉さんはどっち?」

「どっちもです。上に兄が。下に妹がいます。けど、妹がだだこねてウチのモノが仕方なく妹にいくって流れもありますけど」


 姉妹あるあるだな。

 にしても、朝乃宮のヤツ、俺を完全に悪者にしたいみたいだな。


 けどな、テレビもこたつも、俺の頑張りが認められたから与えられたモノだ。

 上春は何もしていないし、それで平等なのは納得いかない。


「はぁ……正論で自分は悪くないって正当化してはるみたいですけど、咲怒らせて何が正論ですの、この石頭。嬉しいのは分かりますけど、少しは自重し。誰のせいで家の中の空気が重苦しいと思ってますの?」

「くっ!」


 別にいいだろ? 正論だぞ? 正しいんだぞ。


「正論は正しい。けど、正論を盾にして自分の考えを押し通すのはいかがなものかと。人は一人では生きていけません。人を思いやられへん行動はいかがなものかと。伊藤さんと組んでいたとき、年下だからいろいろと譲歩してたんと違います?」


 ……耳が痛い。

 確かに上春にも家事とか手伝ってもらっていて、助かっている。

 伊藤の時も、俺が年上だからと譲歩していたところもある。それが当然だと思っていた。

 それなのに、俺は……。


 いや、待て。

 食い扶持が増えたせいで家事の量が増えた。

 そもそも、上春が我が家に来なければ余計な仕事が増えなかったわけで……それに心労も上春達が来たせいで増大したし、それに……。


「ふ~じ~ど~う~は~ん!」


 し、仕方ないだろ! そういう性格なんだ。責めるなよ……。


「……あんちゃん。姉さん、謝ってきた」

「?」


 上春が強に謝っただと?

 強はぼそっと話し出す。


「……意地を張ってごめんなさいって謝ってきた。姉さん、あんちゃんと仲良しになりたいって言ってた」

「……」

「僕は姉さんとあんちゃんも仲良くして欲しい。あんちゃんは血のつながっていない僕に優しくしてくれて、家族にしてくれた。すごく、うれしかった。姉さんにも同じ想いをしてほしい。幸せを感じて欲しい」

「「……」」


 せ、背中がかゆい……むずがゆい……。

 強がそんな風に思っていてくれるとはな。ヤバい……頬が緩む……。

 幸せか……俺が誰かにそんな想いをさせることができるなんて思えないが、それでも……。


「ここまで期待されてるのなら応えなあきませんね」


 ああっ、そうだな。

 朝乃宮の思惑に乗るのは業腹だが、強のためならな……。

 後、勘違いもたださないと……。


「強、勘違いしてるぞ」

「勘違い?」


 ああっ、そうだ。強は重大な勘違いをしている。

 それを伝えておきたい、

 俺が強をどう思っているのかを。


「家族にしてくれたんじゃない。家族になって欲しかったんだ。俺が礼を言いたいくらいだ。ありがとな、強。俺の弟になってくれて」

「……僕こそありがとう」


 強には幸せになって欲しい。


 俺は家族に捨てられ、藤堂家にやってきた。

 最初は心を閉ざし、反抗ばかりしてきた。自分が世界一不幸だと、とんでもない勘違いしていた。

 けど、俺は義信さんと楓さんのおかげで、生きがいを見つけ、藤堂の名字に誇りを持つことが出来た。


 強にも同じように家族に置いて行かれた悲しみを癒やし、新たな生きがいを見つけて欲しい。

 そう願っている。

 俺は強に飲み物を用意するため、部屋を出る。


「ほんま、強はんにはあまいんやね」

「……うっさい」


 お前だって上春に甘いだろうが。

 朝乃宮の機嫌がいいのは、やっとこのくだらない兄妹喧嘩が終わると思っているからだろう。

 けど、俺もいつまでも取るに足らない事で家の空気を悪くしたくないから、ほっとしているんだけどな。


「そんで、いつ謝りはるん?」

「?」


 俺が謝罪? なぜ、そんな話になった?


「いや、俺はもう謝っただろ? 上春が俺に謝罪して終わりだろうが」


 朝乃宮の笑顔がかたまる。

 はぁ? 俺、何か変なことを言ったか?


「……ほんま……あほちゃうか……」

「あ、あほ? おい、いい加減に……」

「いい加減にしてほしいのはこっちやわ! ほんま信じられへん! 藤堂はんに期待したウチが大馬鹿やったわ!」


 な、何怒ってるんだ、アイツは?

 俺は絶対に上春に謝罪しない。なぜなら……。


「はぁ……言わせてもらうけどな、俺が謝罪したって、上春はうわべだけの謝罪なんて受け入れるわけないだろ? 逆に怒らせるだけだ」


 上春はそういったことが敏感だ。

 アイツは家族に、過剰に期待しているところがある。

 家族だから隠し事はなし。家族だから何でも言い合える仲でいたい。


 ハッキリ言わせてもらえば、迷惑だ。

 家族だろが、なんだろうが、所詮は他人。わかり合えることなどありえない。

 わかり合おうとするのは大切だと思うが、押しつけられるのは納得が……。


「あんさんの気持ちなんてどうでもええわ! 咲の好物のプチケーキでも持って詫び! 土下座の藤堂が泣いてますえ!」

「いや、そんな二つ名なんてねえよ!」


 コイツ、いい加減にしやがれ!

 後、近い! 顔が近い!


「こうなったら、ウチがなんとかします!」


 激怒して去って行く朝乃宮を見て、俺はぽかんと口を開けることしかできなかった。




「シュナイダー、ご飯だぞ」

「ワンワン!」


 その日の夜。

 シュナイダーは俺の用意したご飯を一心不乱にがっついている。

 俺は見守るようにシュナイダーを見つめていた。


 所詮は他人か……。

 俺は……分かってもらえるよう……分かるように努力したのだろうか?

 その結果がこれなら……上春や朝乃宮を怒られているのなら……俺は何をやっていたのだろうか……。


 傷つけるつもりも怒らせるつもりもなかった……。

 上春も朝乃宮も俺と仲直りする努力をしていたのに……。


 けど、その理由は? 別に俺の為ではない。

 だから、俺は拗ねているのか? ガキかよ……。

 んん?


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 シュナイダーが俺の指を舐めてきた。

 もしかして、慰めてくれているのか? 泣かすなよ……。


 俺はシュナイダーの脇腹をくすぐる。

 シュナイダーは俺の手から逃げようとするが、そこからお腹へ指をなぞると……。


 ポテン。


 シュナイダーは仰向けになって倒れる。

 俺は腹をさすってやる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 シュナイダーは前足を動かし、なすがままにされている。最近になってこれができるようになった。

 これやると癒やされるんだよな……。


 ガプゥ!


「めっ!」

「くぅん……」


 シュナイダーが甘噛みしてきたので、注意する。

 シュナイダーは嬉しくて噛んだだけだ。

 理不尽かもしれないが、噛みグセをつけないようにするのも躾だ。


 シュナイダーは家族だ。

 だからこそ、教えるべき事は躾けるのが飼い主として、家族としての責務だと思っている。

 もし、人に噛みついて怪我をさせたら、殺処分になる可能性がある。そんなことは絶対にさせたくない。


 シュナイダーは寿命が尽きるまで生きて欲しい。飼い主がそうさせるべきだ。

 少し大げさかもしれないが、俺はしっかりとシュナイダーと向き合いたい。


 シュナイダーはシュンとしている。

 人を噛むのはダメだと分かるまで、根気よく教えるまでだ。

 けど……。


「ほら、シュナイダー。デザートだ」


 シュナイダーにささみジャーキーを差し出す。シュナイダーは一転して大はしゃぎで食いつき……。


「……」


 犬小屋に戻っていった。

 もしかして……おやつが欲しかっただけか? もう俺に用はないってか?

 泣かせるなよ……。

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