1/29 前編
次の日の朝食。
「……」
「……」
会話がない。
テレビから流れてくるニュースの音声のみ聞こえてくる。
俺と上春は一切目を合わさない。かなり雰囲気が悪い。
ってか、朝ご飯は食べに来るんだな。
「きょ、今日も朝ご飯、おいしいな~」
信吾さんはわざとらしく、声を上げるが、誰も返答しない。
ちなみに信吾さんの今日のTシャツは『家族仲良く』だ。大変だな、信吾さんも。
あっ、この味噌汁、美味しいな……。
「他人事やありませんえ、藤堂はん。味噌汁なんてどうでもええでしょ」
怖ぁ!
コイツ、俺の心の中が読めるのか? 超能力者なのか? 下手なこと考えられないぞ。
「ね、ねえ、正道君。咲に何か言うことがあるんじゃない?」
全員の箸が止まる。
いきなり核心突いてきやがった。よほど余裕がないようだな。
仕方ない、謝るか。
「おい、上春」
上春の肩がびくんと動く。
しゃあない。謝るか。
「昨日、手を上げたことは悪かったな」
手を上げたことは、を強調し、とりあえず上春に軽く頭を下げた。
「……本当に悪かったって思っているんですか?」
……でたよ。いらん追い打ちが。
ここで頷いておけばいいものをなぜ、いちいち長引くようなことをするのか。
まあ、売られた喧嘩だ。買って……。
「おほん!」
やることもできそうもない。
朝乃宮のご機嫌もすこぶる悪い。
いや、俺だけのせいじゃないだろうが!
俺はため息をつき……。
「別に嫌々なら謝ってもらわなくても結構です」
そうか、そうくるわけか……。
それならば……。
「分かった。それなら、今度はお前が謝れ」
「……どうして、私が兄さんに……」
「勘違いするな。強に謝れ。みんなに謝れ。元々、お前が言い出したんだろ? ご飯は家族一緒に食べないといけないって。自分の都合で勝手に破って、まさか、シカトはないよな?」
上春はうつむいたまま、ぷるぷると震えている。
いや、謝れよ。
俺達は上春の謝罪を待っていたが……。
「……嫌です。謝りたくないです」
……おい。
どう収拾つけるつもりだ?
この我が儘な女にいい加減、キレてもいいよな?
「おい、調子に乗るなよ。元凶はお前だろうが。拗ねて俺に反抗するとかガキか? お前、いくつだ? かまってもらえないからって駄々をこねるな、バカ者が」
おおぅ……。
ため息とも落胆ともとれる声がもれた。
あっ、これはヤバい……。
上春が涙目で俺を睨んできた。
「兄さんなんて大嫌いです!」
こうして、めでたく俺と上春の兄妹喧嘩が幕を開けた。
「……正道。また上春さんと喧嘩したの?」
「なぜ分かる?」
思いっきり呆れられた。
放課後、俺と左近は風紀委員の作業をしていた。ふくれっ面の俺に、左近は呆れたように笑っている。
俺は無視して事務作業を続ける。
「ねえ、正道。僕が『お願い』したら上春さんと仲直りしてくれる?」
「……」
珍しいな。左近が『お願い』するとは。
しかも、たかが兄妹喧嘩に。
左近の問いに俺は……。
「『出来ない』な。考えても見ろ。女子とロクに話したことがない俺がそんな器用な真似できるか」
「最近はいろんな女の子と話してると思うけど?」
「伊藤と御堂以外、ちゃんと話したことはないぞ」
伊藤と組むまでは、本当に御堂しか女子と話をしたことがなかった。それも一週間に一回あるかないかだ。
必要なときだけ話をするだけ。
そもそも、俺はもっぱら不良相手にしてきたからな。
ボランティアもやっていたが、同年代の女子と話す機会はなかった。
そんな俺が上春とうまくやること自体、無理な話だ。
「じゃあ『出来たら』やってくれる?」
絡んでくるな。
たらればなんて、俺も左近も無意味だと知っているのに。
らしくないな。
もし、出来ればか……。
だとしても……。
「とりあえず、こっちからお願いするな。その『お願い』をするのを三日待ってくれってな」
「三日?」
「三日以内に片をつける。そうすれば『お願い』せずに済むだろ?」
ヒトにお願いされて仲直りしたなんて後からバレたら厄介だ。それに上春にも失礼だからな。
アイツとは喧嘩中だが、風紀委員としての頑張りは認めている。
きっと、親の再婚がなければ喧嘩せずにお互い卒業まで揉めることはなかっただろうな。
「ちょっと真面目な話しをしていい?」
「なんだ?」
「朝乃宮を怒らせない方がいい」




