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このお話は『第六部 俺達の家族 -結成編-』の『エピローグ メリークリスマス!』から二日後のお話です。
『第七部 俺達の家族 -団結編-』の『兄さんなんて大嫌いです! 藤堂正道SIDE』の物語を補足する内容となります。
「おい、上春! つまみ食いするな!」
「にぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」
この女! またつまみ食いしやがって!
俺は朝食のおかずをつまみ食いしていた上春にアイアンクローをかます。
「に、兄さん! DVですよ、これは!」
「なら、お前は盗人だな。知ってるか? 藤堂家で犯罪を犯した者は即処罰だ。刑事の義信さんの家で犯罪行為は見過ごせないからな」
「だ、だからって! ぎにやぁあああああああああああああああああああああ!」
ったく、朝から手間かけさせやがって。
「ひ、ひどい! 頭蓋骨が割れたらどうするんですか!」
涙目で訴えてくる上春に……。
「割ってみないと分からないな。とりあえず、割ってみるか?」
「……冗談ですよね?」
「俺が上春に冗談を言ったことがあるか?」
上春は音もなく俺から離れた。
「ううっ……泣き寝入りするしかないんですね……ひどい……」
「いや、盗み食いをやめろ。それで解決だ」
「それは出来ません!」
コイツ……あまりにも堂々と胸を張って答えるから、格好いいと思っちまったじゃねえか。
「私はね、兄さん。ただお腹がすいてつまみ食いしているわけじゃないんです!」
「……なら、何でつまみ食いしている」
「味を盗む為です」
「盗む?」
何を言ってるんだ、コイツは?
「おばあちゃんのご飯、とても美味しいです! それにおばあちゃんのご飯からは真心を感じるんです」
「……いいところに目をつけたな」
楓さんの作る料理が美味しいのは当然として、それ以上にすごい……いや、尊敬しているのが、楓さんの料理には人の心を癒やすような気遣いを感じるからだ。
同じ料理でも、その日、そのときの食べてもらう相手の体調や心理を読み取り、味付けや栄養、噛みやすさやのどごしといった全てを整えて調理する。
一口食べただけで、それを感じることが出来る。その点が本当にすごい。
俺にはまだ作り方が分からないが、きっと素材や調理器具、調味料の特性や特徴といったもの全てを把握し、思い通りに仕上がることが出来る……のではないかくらいしか予想がつかない。
美味しい料理を作るだけなら、まだ俺にだって出来る可能性がある。けど、人を感動させるような料理は無理だ。
だから、楓さんは俺にとって料理の師匠であり、目標だ。
「でしょ~! だから……」
「それとこれとは話しが別だ」
「うぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
全く、下手な言い訳しやがって。
それにしても、上春が楓さんの味付けに目をつけていたとは……。
近い将来、楓さんが直接手ほどきする日が来るかもな。
けど、そのとき、上春は誰のために料理するのか?
~~~~♪
なんだ? 携帯の音か?
「あっ、黒井さんからだ! もしもし!」
「……逃げやがったな……」
黒井と上春はコンビを組んでいる。友達以上と言っても過言ではない。
不思議な縁だと思う。
黒井は不良で上春は一般人。
それなのにコンビを組んでいる。その理由が少し気になった。
「はぁ……」
俺はつい、リビングに退避していた。
昨日の夜、強の涙を見てから、かるくブルーになっている。何を話していいか分からない。
だからって逃げるのは情けないが、それでも、何て声をかけていいのか、分からない。
本当に情けない……。
「ん?」
リビングには先客がいた。
朝乃宮だ。
「朝乃宮」
「……」
「朝乃宮?」
「……」
返事がない。どうやら、テレビに夢中のようだ。
テレビの内容は……。
「……これって『晴れのちあっぱれ』か? 実写化したんだな」
「……知ってますの?」
「ああ、伊藤に勧められた漫画を読んだんだ」
最初は少女漫画を読むことに戸惑いがあったが、読んでみるとなかなか面白い。
個人的な意見だが、恋愛に関しては少年誌よりも少女漫画の方がバリエーションがあるし、インパクトが強い。
心理描写も少女漫画の方が上だ。
「振った女の子のこと、まだ忘れられませんの? それなら付き合ったらええのに……酷いお人」
「確かに俺は伊藤を振った。だからって、伊藤のことを忘れるのはお門違いだ。俺は伊藤を尊敬している。他人にどうこう言われたくない」
「……せやね」
それだけは譲れない。
伊藤は最高の相棒だった。
「一緒に見てもいいか?」
「……別に」
『晴れのちあっぱれ』は俺的にかなり面白い分類だ。その実写化ともなると、興味があるし、見てみたい要求が強い。
朝乃宮も見ているということは、興味があるということだろう。
それなら尚更見てみたい。
だが……。
「なあ、そもそも学生が生徒を退学させようとするなんて、おかしくないか? そんな権利、ないよな? 金持ちだからって許されないよな? 先生方は何をしているんだ?」
「……」
「このヒーロー、ヒロインのこと好きなくせに態度が酷くないか? テレ隠しでも横柄だろ? ヒロインが可哀想だと思わないか?」
「……」
「ヒロインには婚約者がいて、その相手は男の俺から見てもイケメンだと思うのだが、なぜ、他の男になびくんだ? 友情なら分かるが、酷くないか? そういうものなのか?」
「……」
「流石にあれは犯罪だろ? 一歩間違っていたら死んでたぞ? なぜ、警察は動かないんだ?」
「……」
「あのヒーローの母親、態度が変わりすぎてないか? ずっと意地悪していたから、急に態度が軟化しても違和感しかないな。そう思わないか?」
「……」
「好きと突きをかけているのは分かったが、剣道で喉をつくのは反則じゃないか? 高校生だからセーフか? だが、足を滑らせた不意の一撃が全国レベルで剣道有段者に当てる事が出来るのか?」
「……」
「おい! あのヒーロー、ヒロインを口づけで黙らせたぞ! あれは犯罪……」
「やかましい! 少しは黙って鑑賞し!」
「あ痛ぁ!」
コイツ! 鉄の扇で殴りやがった! 一瞬、気が遠のいたぞ!
「け、けど、あれは流石に……」
「ケースバイケースって知らんの! 藤堂はんには一生無理やろうけど!」
無理に決まってる! いくら辛いことがあって泣き叫んでいるヒロインを慰める為とはいえ、フツウ口づけで黙らせるか?
絶対に犯罪だろ!
やはり、朝乃宮は敵だ! コイツとは絶対に仲良くなれない!
こんな妹、いらん!
「ご機嫌斜めだね、正道君」
「信吾さんか……」
朝乃宮と別れ、シュナイダーと散歩に出かけようとしたとき、信吾さんが声をかけてきた。
先ほどのこともあって、俺はつい不機嫌丸出しの顔で睨んでしまう。
「ハハハッ、千春ちゃんと喧嘩した?」
「……なんで分かる?」
「怒り方かな? 澪さんと喧嘩したら悲しそうな顔をしているし、咲と喧嘩した場合は罪悪感をにじんだ顔をしている。千春ちゃんと喧嘩した場合は納得いかないって顔してるから」
「……」
そんな顔してるか? 甚だ納得いかないが。
「許してあげなよ。正道はお兄さんなんだから」
「……」
「千春ちゃんはね、孤独なんだ」
「孤独? 上春がいるだろ?」
アイツは上春を溺愛しているからな。
上春の存在が、朝乃宮の救いになっているはずだ。
「確かに依存はしているけど、妹止まりなんだよ」
「妹止まり?」
「つまり、本当に苦しいとき、頼ることが出来ないんだ。姉として振る舞っているからね」
「……」
それは分かる。
アイツは上春の姉、陽菜の変わりをしている。心を許しているが、助けを求める対象はない。
姉としてのプライドが許さないからだ。
「だから、正道君が助けてあげて」
「信吾さんが助けろよ……」
「僕には無理だよ……上春だから……」
「上春だから?」
どういう意味だ? 上春だから?
少し違和感を覚える。信吾さんなら空気を読まず、家族を助けようとするはず。だが、完全に諦めている。
暑苦しい性格の信吾さんらしくない。
「そのうち分かるよ。正道君が藤堂ではなく、藤堂である限りね」
「?」
全く、分かるように言え。藤堂ではなく、藤堂だと?
そういえば、読み方の違いを疑問に思っていたな。
義信さんはある地方の特殊な呼び方だと言っていた。気になってググって見たが、さっぱり分からなかった。
「なあ、信吾さん。俺には信吾さんが何を言いたいのか、さっぱり分からない。それに、俺にどうしろと? 変に期待されても困る」
俺は万能じゃない。そもそも、人を救えるような人間じゃない。
期待されるのは迷惑だ。
「強や咲と同じように接して欲しいんだ。正道君は自分の無力さを知りながら、それでも、なんとかしようとする。その葛藤を乗り越える意志の強さがきっと千春ちゃんを助けてくれる。そう信じているだけだよ」
「……無力言うな」
分かってる。自分にはたいした力がないことを。
ハッキリ言えば、朝乃宮の方が強い。それでも、納得いかないことがあれば……。
いや、よそう。そもそも朝乃宮が俺を頼ることはない。
だから、救えない。
ただ……。
「……少し話してみる」
朝乃宮を知る努力はするつもりだ。
なぜなら、朝乃宮も『集合体』の一員だからな。
俺は朝乃宮に会いに行くことにした。
- To be continued -




