08 秀吉、まさかの合格?
――本能寺?
秀吉の顔色が変わった。
「親方様、今、本能寺と申されました?」
「貴様には関係ない」
「いけませぬ!」
秀吉は信長の机に駆け寄った。
「本能寺に行ったらいけませぬ」
「帰れ」
「殺されますぞ?」
信長の眉が動いた。
「誰にだ?」
「それは・・・」
秀吉の背筋が凍った。
明智光秀。
戦国時代、織田信長を本能寺の炎の中で死に追いやった男。
だが、ここでそれを言っても信じてもらえるはずがない。
「とにかく、危ういのです!」
「貴様にはもう用はない」
「そんな話をしておる場合では――」
七海が美咲に小声でたずねた。
「本能寺って、そんなに怖いところなんですか?」
「さあ・・・」
信長が二人を見た。
「本能寺は、俺がかつて歌や踊りの訓練をした合宿所だ」
「合宿所?」
秀吉が口を開いた。
「寺ではないんですか?」
「・・・」
秀吉は少し安心した。
どうやら、この時代の本能寺は自分が知っているものとは違うらしい。
それでも嫌な予感だけは消えなかった。
信長が二人に言った。
「外に車を用意してある。すぐに本能寺に向かえ」
美咲は慌てた。
「ちょっと待ってください。ママに連絡させてください」
「俺が貴様らの親とは話をつけておく」
信長が何かを持ってくるように手招きをした。
「スマートフォンをここに置け」
二人は机の上にスマートフォンを置いた。
「連れていけ」
「えっ?」
審査員たちが二人の腕をつかんだ。
「ちょっと、何をするんですか!」
「誘拐じゃないですか、これ! まだ行くなんて言ってないですよ!」
二人はそのまま審査室の外に連れ出された。
扉が閉まり、部屋が静かになった。
部屋の中には信長と秀吉しかいない。
信長が秀吉に言った。
「貴様」
「はっ!」
「何の目的でこのオーディションを受けに来た?」
「と、申されますと?」
「貴様だけだ。俺の仕草を気にしていたのは・・・」
「・・・」
「俺の指先のペンの動きで、オーディションの合否を見抜けたと思っただろう」
秀吉は黙った。
さすが織田信長だと思った。
よく見ておられる。
信長が言った。
「どうも、貴様には、人の性格や行動を無意識に観察する癖がある」
「はっ!」
「そこでだ」
信長が一枚の履歴書を取り出した。
「ここでひとつ、提案がある」
「提案?」
「俺の密偵になれ」
「密偵でございますか?」
秀吉の目が輝く。
「密偵からでもアイドルになれるのでござりますか?」
「考えといてやる」
秀吉は即座に土下座をした。
「ありがたき幸せ。密偵の役目。確かにお引き受けいたします!」
信長は履歴書を秀吉の前に投げた。
「実は、本能寺にもう一人の合格者が向かっておる」
秀吉は履歴書を拾った。
「そやつは誰でござりましょうか?」
「読んでみろ」
秀吉は履歴書に書かれた名前を見た。
その瞬間、秀吉の顔から血の気が引いた。
そこには、本能寺で親方様を灰にした男と同じ苗字が書かれていた。
――明智。




