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06 秀吉のオーディション  

「おう。わしが豊臣明日香じゃ」

 秀吉は自分の名前を呼ばれ、勢いよく立ち上がった。

 床に置かれた炊飯器を見た。


「・・・」

 何度見ても、あの世で自分を吸い込んだ怪物にしか見えない。

 よりによって、アイドルになるために、こんな化け物と対決しなければならないとは。

 秀吉はごくりと唾を飲み込んだ。

 落ち着け。 

 秀吉は自分に言い聞かせた。

 わしは豊臣秀吉じゃ。

 天下人じゃ。

 こんな白い箱に二度も吸い込まれたりはせぬ。


 秀吉は背筋を伸ばした。

 全員の視線が自分に集まっている。

 ここで炊飯器におびえる姿を見せれば、天下の豊臣秀吉の名が折れる。


 秀吉は炊飯器に近づいた。

 炊飯器の横にしゃもじが付いていることに気が付づいた。

「・・・!」

 秀吉の目が輝いた。

 秀吉の目にはしゃもじが刀に見えた。

 秀吉は炊飯器からしゃもじを奪った。

 これで刀がなくても戦える。

 だが、炊飯器は何も言わない。

「どうした。刀を取られておじけづいたか。転生してまでわしを追いかけてくるとは、身の程知らずのやつめ」


 秀吉がゆっくりとしゃもじを構えた。

「いざっ!」

 秀吉は炊飯器の蓋に手を伸ばした。

 カチッと蓋が開いた。

「ひいっ!」

 秀吉は飛び上がった。

 審査員たちから笑いが起こる。

「な、何じゃ!」

 秀吉はしゃもじを構えたまま炊飯器をにらみつけた。

 何も起こらない。

 秀吉は恐る恐る炊飯器に近づいた。


 ゆっくりと蓋の中をのぞき込んだ。

「・・・」

 空っぽだった。

「なんじゃ。米も入っておらぬではないか」

 審査員からまた笑いが起きた。

 秀吉はむっとした。

「何がおかしい!」

 笑い声が止まる。

 秀吉はしゃもじを審査員に向けた。

「今の言葉、もう一度申してみよ!」

「えっ?」

 秀吉がゆっくりと距離を詰めていった。

 審査員が黙り込む。

「もう一度申してみよと言っておるのだ!」

 秀吉が審査員をにらみつける。

「なんじゃ。急に口がきけなくなったのか!」

 審査員たちがお互いに顔を見合わせる。目で信長に助けを求めた。

「・・・」

 信長は秀吉を見たまま動かない。

 秀吉は思った。

 試されておる。

 これはアイドルの登用試験なのだ。

 自分が天下人になれるかどうかを親方様は見極めている。

 ならば、ここで引くわけにはいかない。

「なるほど・・・」

 秀吉は炊飯器に向き直った。

「そういうことなら、わしがお前を倒して、天下を獲るところを見せてやろうぞ」


 秀吉がしゃもじを刀のように構えた。

「逃げるでないぞ! いざ――――!!」

 秀吉は勢いよくしゃもじを振り上げ、斬りかかった。

「とどめじゃああああ――――っ!」

 ペシッ!

 しゃもじが炊飯器の蓋を叩いた。

 秀吉の身体が反動でよろめく。

「おおっ・・・」

 秀吉はすぐに何事もなかったかのように姿勢を正し、得意げにしゃもじを掲げた。

「見たか! これが天下人じゃ!」


 部屋の空気が固まった。

 審査員たちは目を丸くしている。

 美咲は口を半開きにしていた。

 七海は不思議そうな顔で、秀吉と炊飯器を交互に見ていた。

 信長は黙っている。

 秀吉は満足げに言った。

「うむ。見事な勝利じゃ」

 秀吉は炊飯器を抱え上げた。

「だが、こやつも悪くない。米を炊くことができれば兵糧ができる。兵糧があれば戦ができる。戦ができるなら、天下が獲れる」


 秀吉は信長の机の上に炊飯器を置いた。

「どうじゃ!」

 秀吉は胸を張る。

「この秀吉!」

 しゃもじを信長に突き出す。

「炊飯器ひとつから天下の道を開きましたぞ!」


 場の空気が沈黙した。

 審査員たちは何とも言えない顔をしている。

 美咲は小声でつぶやいた。

「・・・何なの、この人」

 七海もつぶやいた。

「・・・すごい人、なのかな?」

 秀吉の耳にも二人の声は聞こえていた。

 秀吉は親方様も感心しておられると思った。

 秀吉は信長を見た。

 信長は何も言わずに、審査員に視線を投げた。

 審査員が慌てて時計を確認する。

「豊臣さん。ありがとうございました」

「おう」

「三分間のアピールタイムは終了です。お席にお戻りください」


 秀吉は自分の席に戻った。

 信長の指先を観察する。

 信長は秀吉の履歴書に目を落とし、秀吉の顔写真に大きな丸をつけた。

「勝った」

 秀吉の目が輝く。

「わしは勝ったぞ」

 審査員が立ち上がった。

 部屋に緊張が走る。

「それでは。結果を発表します――――」 


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