04 美咲のオーディション
美咲が席を立った。
「1991番。前田美咲。心を込めて演技をします」
美咲は炊飯器を抱え、審査員たちの前に立った。
「こんにちは――」
明るく透き通る声だった。
審査室の緊張していた空気が変わる。
美咲は炊飯器を両手で持ち上げて信長に見せた。
「今日は私のファン第一号になってくれた人を連れてきました」
少し間を置く。
美咲は続けて言った。
「紹介します」
「炊飯器ちゃんで―す」
「別名、おいしいご飯を炊いてくれる、こめおちゃんと呼んでま―す」
美咲は炊飯器を抱きしめた。
「こめおちゃんは、私の大ファンなんだよね?」
炊飯器は何も答えない。
「こめおちゃんは恥ずかしがり屋さんなんです。でも、いつも私が帰ってくると、おいしいご飯を炊いてくれます」
美咲は炊飯器を高々と掲げた。
「私、宣言します。もっとファンを増やします」
美咲が信長を見る。
「百人、千人・・・」
美咲が指を一本立てる
「いや、一万人に私のファンクラブに入ってもらいます! わたしがアイドルになったら、たくさんの人を笑顔にして天下を獲ります」
美咲は炊飯器を床に置いた。
「それでは、ファン一号のこめおちゃんと、二号の新田社長に向かって心を込めて歌います」
美咲は小さくウインクをして言った。
「歌は、松田聖子さんの『赤いスイートピー』です」
美咲が『赤いスイートピー』を歌い始めた。
声に透明感があり、部屋の空気が和らいだ。
審査員たちも思わず懐かしそうに聞き入っていた。
歌が終わった。
「ありがとうございました」
美咲は深々と頭を下げた。
顔を上げると、信長に向かって小さな投げキッスをした。
美咲が甘えるように言った。
「社長。私のこと好きになっちゃいました?」
信長は何も答えなかった。
信長が美咲の履歴書を手に取った。
顔写真を見て、履歴書にペンで斜め線を引いた。
「えっ?」
美咲の表情が固まった。
信長が言った。
「悪くない」
「ですよね!」
美咲の顔が輝いた。
「だが、つまらん」
信長はそれ以上、言わなかった。
秀吉はその様子をじっと見ていた。
人をほめるのも、人を斬るのも、実に早い。




