02 いきなりオーディション
「誰じゃ、こいつは・・・」
鏡の中に見知らぬ制服を着た少女が立っていた。
「・・・」
秀吉は動かなかった。
鏡の中の少女も動かなかった。
「誰じゃ・・・」
秀吉が首を傾けた。
少女も首を傾ける。
「おぬし、わしのまねをするな!」
少女も同じように口を動かした。
秀吉が低い声で話したつもりなのに、口から出たのは聞き慣れない高い声だった。
「・・・妖術か?」
秀吉は一歩下がった。
鏡の中の少女も一歩下がる。
少女の肩まで伸びた髪の毛が揺れる。
「なんじゃこいつは!」
秀吉は鏡に近づいた。
少女も近づく。
秀吉が右手を上げると、少女も上げる。
「・・・」
秀吉は鏡に映る少女とにらみ合ったあと、ようやく気がついた。
神様の言葉が頭によみがえる。
――2035年に行って、女子高生になってもらう。
「そういうことか・・・」
秀吉は自分の頬をつねった。
鏡の中の少女も同じように頬をつねる。
「夢ではない。痛い」
秀吉は鏡を見つめた。
「わしは、転生したのか」
鏡の中の少女が、じっと秀吉を見返していた。
「これが、女子高生というものなのか・・・」
秀吉はしばらく自分の顔を眺め、顎に手を当てた。
「顔は・・・」
少し横を向く。
「悪くない」
秀吉の口元がゆるむ。
「いや、かなり良い。これなら人前に出ても恥ずかしくない」
秀吉は満足そうにうなずいた。
天下人たるもの、アイドルとして人前に立つなら、見栄えも重要だ。
どれほど中身が優れていても、人の目を引きつけられなければ意味がない。
秀吉は、女子高生になるのも悪くないと思った。
だが、鏡の中の少女は、悲しそうな顔をしているようにも見えた。
「・・・」
秀吉は目を凝らして自分の顔を見た。
「気のせいか・・・」
秀吉はそうつぶやいて視線を下げた。
自分の胸元に貼られた小さな番号札に気が付く。
――2035
秀吉はその数字をなぞった。
何を意味するのか分からなかった。
秀吉は周囲を見渡した。
部屋にいる同じくらいの年齢の少女たちも、番号札をつけていた。
オーディションの控室に張られたチラシが、秀吉の目に留まった。
『天下を獲るもの、求む!
初めて立つステージは桶狭間
初めての握手会は長篠
センター争いは関ケ原
貴様に天下を獲る覚悟があるか?
――天下統一プロダクション
代表取締役 新田信長 』
秀吉は少しずつ状況が分かってきた。
ここを家来の登用会場だと思った。
親方様はアイドルという新しい家臣を集めているのだと確信した。
しかも親方様は新しい時代の家臣を集めている。
部屋のドアが開いた。
部屋にいた少女たちの間に緊張が走る。
女性スタッフが顔を出した。手には名簿を持っていた。
「それでは、順番に名前をお呼びいたします」
少女たちが一斉に姿勢を正す。
「1991番、前田美咲さん」
「はい! よろしくお願いします」
大きな声で返事をし、頭を下げて審査室に入っていった。
「1998番、向井七海さん」
「は・・・、はい」
別の少女が立ち上がった。
審査室の扉に手をかける。その手は震えていた。
何度も深呼吸をしてから、ようやく審査室に入っていった。
秀吉はその様子をじっと見ていた。
「ふむ・・・」
みんな緊張している。
当然だ。
これから君主の前に出るのだ。
秀吉はそう解釈した。
女性スタッフが最後に一人の名前を呼ぶ。
「2035番。豊臣明日香さん。審査室までお願いします」
秀吉は自分の胸の番号札を見た。
「それは、わしのことか?」
女性スタッフが番号札を見て言った。
「はい。2035番の方、よろしくお願いします」
「2035番?」
秀吉は眉をひそめた。
「わしを番号で呼ぶのか?」
「はい?」
「わしは豊臣秀吉じゃぞ」
「・・・」
「いや、今は豊臣明日香じゃったか」
秀吉は自分の胸元の番号札を見た。
秀吉は腕を組んだ。
「天下人を番号で呼ぶとは、ずいぶん変わった世の中じゃあ・・・」
女性スタッフは、どう返していいのか分からなかった。
秀吉はそんなことは構わず、チラシの名前を指さして言った。
「ところで・・・。この中に親方様はいらっしゃるのか?」
「親方様?」
「この新田信長というものじゃ」
「ああ。新田社長ですか?」
「社長?」
「はい。いらっしゃいますよ。審査室に」
「・・・そうか」
秀吉の顔がこわばった。
この扉の向こうに親方様がいる。
秀吉は背筋を伸ばした。
親方様の前で無能な姿をさらし、アイドルにもなれなかったと考えると恐ろしかった。
もしオーディションに不合格になれば切腹を命じられる。
「大丈夫ですか?」
女性スタッフが秀吉の顔をのぞきこむ。
「顔色が悪いですよ」
「何を言っとる!」
秀吉は胸を張った。
「親方様をお待ちさせるわけにはいかぬ」
秀吉は制服の襟を整えた。
秀吉は審査室の扉の前に立った。
審査室の扉を勢いよく開けた。
「親方様! 秀吉、参りましたぞ!」




