18 今日は信長の誕生日・サプライズな大作戦! 其の一
「は――、疲れた」
四人は自分の布団の前に荷物を置いた。
レッスンの疲れが、一気に身体にのしかかる。
秀吉はそのまま布団の上に腰を下ろした。
「まったく、アイドルのレッスンというのは、戦より疲れるわ」
「誰のせいよ」
美咲があきれた顔をした。
「ほんと、あんたみたいなのを教えてると吐き気がするわ」
「なんじゃと?」
「まあまあ」
美佐子が笑いながら二人の間に入る。
「二人ともそのぐらいにしときましょう」
七海が布団の上に座りながら言った。
「わたし、前田さんが教えてくれたから、ちょっと自信がつきました」
秀吉が言う。
「わしは逆じゃ。こんな女に教えられて、自信がなくなったわ」
美咲が怒る。
「はあ? あんたなんか、教えたくて教えたわけじゃないんだから」
「なんじゃと!」
二人がにらみ合う。
その時だった。
美佐子の携帯電話が鳴った。
「あっ、もう来たみたい。ちょっと待ってて」
美佐子が部屋を出ていった。
七海が言った。
「何か来るんですか?」
「さあ・・・」
美咲は首をかしげた。
しばらくすると小さな箱を抱えた美佐子が戻ってきた。
箱の上には赤いリボンが結ばれている。
「なんじゃ、それは?」
秀吉がたずねる。
「ケーキですよ」
「けいき?」
「今日は何の日か知ってますか?」
秀吉は首をかしげた。
美佐子がケーキを大事そうに抱えながら言った。
「今日は新田社長の誕生日なんですよ」
「なんじゃと?」
秀吉の顔からすっと表情が消えた。
視線が壁のカレンダーに吸い込まれる。
6月21日。
その数字を見た途端、胸の奥が冷たくなった。
燃え上がる本能寺。
血に染まる障子。
炎の中に消えていった信長。
秀吉は美佐子を見た。
明智美佐子。
偶然なのか、それとも――
「・・・どうしたんですか?」
美佐子が不思議そうに秀吉を見る。
「いや、なんでもない」
秀吉は慌てて目をそらした。
秀吉は自分に偶然だと言い聞かせた。
それなのに、嫌な胸騒ぎがする。
美佐子が言った。
「せっかくですから、みんなで行って、サプライズでお祝いしませんか?」
「サプライズ?」
七海の目が輝く。
「楽しそう」
「でしょ。突然、部屋に突撃して『お誕生日おめでとうございます!』って言ったら新田社長も驚くはずよ」
秀吉の背中に冷たい汗が流れる。
「だ、だめじゃ・・・」
「どうしたんですか?」
「親方様の部屋には行ってはならぬ」
七海が言った。
「なんで、ですか?」
「そ、それは・・・」
秀吉は言葉に詰まった。
過去世では本能寺が起こり、明智光秀が信長を討った。
秀吉は必死に理由を探した。
「親方様はそういった浮わついた祝い事は好まれぬ!」
美佐子が首をかしげる。
「新田社長がそう言ってたんですか?」
「いや・・・」
「じゃあ、やりましょう」
美佐子がケーキの箱を抱え直す。
「もう買ってきて、ウーバーでこんな山奥まで配達してもらったんですから」
「ウーバー? 何者じゃそれは」
「ただの配達員ですよ」
「ほんとにそうか?」
秀吉は疑わしそうに美佐子を見る。
密かにこんな山奥までケーキを届ける者。
誰にも気づかれずに城に忍び込む者に似ている。
刺客かも知れない。
秀吉は美佐子を疑った。
美佐子はそんなこと気にする素振りも見せずに、七海に言った。
「クラッカーも持っていきましょうか」
「賛成!」
七海がクラッカーを手に持つ。
「じゃあ、行きましょうか」
美佐子が部屋を出た。
「待て!」
秀吉が言った。
「どうしたんですか?」
「わしも行く!」
「最初からそう言ってくださればいいのに」
四人は部屋を出て、廊下を歩いた。
秀吉は一歩後ろから、美佐子をじっと見張っていた。
ケーキを抱える美佐子。
手にクラッカーを持つ七海。
楽しそうに話す美咲。
四人は『1582号室』と書かれたプレートの前で足を止めた。
信長の部屋だ。
6月21日。
明智。
1582。
秀吉の中で三つの数字がつながっていく。
できすぎている、あまりにできすぎている。
もし、ここで扉を開けたら、また何かが起こるのではないかと思えてならなかった。
「どうしたんですか?」
美佐子が振り返る。
「なんでもない」
もし美佐子が何かを企んでいるのなら自分が止めるしかない。
美佐子がケーキを抱え直した。
「では、行きますね」
美佐子の手がドアノブに伸びた。
「待て!」
秀吉が叫んだ。
美佐子の手が止まった。
「どうしました?」
秀吉が一歩前に出る。
「わ、わしが扉を開く」
美佐子が目を丸くする。
「どうぞ」
秀吉の手がドアノブに触れた。
「行くでござる」




