12 テレビ・本能寺の変 ~信長最後の一日!
夜明け前。
本能寺の境内は、深い闇に包まれていた。
その静寂を破るように、無数の足音が聞こえてきた。
本能寺を取り囲むように、明智光秀の軍勢が姿を現した。
月明かりを受けた鎧や兜、刀が冷たく光っている。
秀吉は画面にかぶりついていた。
「親方様! 逃げてくだされ!」
隣にいた美咲が、びっくりして飛び上がった。
「ちょっと! いきなり大きな声出さないでよ!」
「黙れ!」
「はあ?」
「これはただの芝居ではないのじゃ!」
秀吉の顔は本気だった。
画面に映っている本能寺。
明智軍と織田信長。
この光景を秀吉は知っている。
「おい! 早く親方様に知らせに行け!」
「もうオーディションは終わったのよ?」
「黙れ、黙れ、黙れ!」
秀吉はテレビを叩いた。
「ならばこのテレビごと斬って親方様を救い出してやる」
「テレビ壊さないでよ。私たちまであいつに怒られるじゃない」
次の瞬間。
画面の中から怒号が響き渡る。
「敵襲来。敵襲!」
「奇襲だ――! 明智軍だ!」
本能寺の奥では、眠りについていた信長がゆっくりと起き上がった。
「何事じゃ」
家臣が息を切らして駆け込んでくる。
「上様! 明智の軍勢が本能寺を取り囲んでおります!」
「光秀じゃと?」
「はっ!」
「兵は?」
「一万は超えていると思われます」
信長の表情が変わった。
「毛利攻めに向かうのは見せかけ。そういうことか・・・」
信長の目が光る。
「おのれ、光秀め・・・」
家臣が言った。
「上様! いかがなされますか。こちらはわずか百ほどのしか兵士がおりませぬ」
一万対百。
勝負になるはずがない。
秀吉は画面の信長に向かって叫んだ。
「親方様! 逃げてくだされ!」
しかし、信長は逃げなかった。
信長は傍らに置かれた槍を手に取った。
槍の石突きを床に突き立てた。
「是非に及ばず!」
その声に迷いはなかった。
「敵が一万なら、一万すべて殺すまでよ」
「そんな無茶な・・・」
秀吉がテレビに向かってつぶやく。
画面の中の信長が家臣に言った。
「火を放て。この本能寺を業火の炎で包み込め!」
「はっ!」
家臣が走っていく。
信長は一人で廊下に出た。
その先には無数の明智軍。
「信長だ! 信長を討ち取れ!」
「その首、もらった!」
「かかれ――!」
明智軍の兵士たちが一斉に押し寄せる。
信長は一歩も退かなかった。
先頭の兵士が信長に斬りかかる。
信長の槍が刀を弾く。
そのまま槍が兵士の胸を貫いた。
「次に地獄に行きたいやつはどいつだ!」
二人目が斬りかかる。
信長は身体をひねって刀をかわした。
槍の柄を兵士の腹に叩き込んだ。
間髪を入れず、信長は襲いかかる兵士を次々に倒していった。
「どうした!」
信長が吠えた。
「そんなんではこの織田信長の首は獲れんぞ!」
背後から一人の兵士が信長に忍び寄る。
信長は振り返らない。
「遅い!」
信長は槍を逆手に持ち替え、その兵士を突き飛ばした。
秀吉は目を大きく見開いてテレビの前でうなった。
「さっ、さすが親方様じゃ」
秀吉の脳裏に戦国時代の記憶がよみがえる。
敵が何人いようと、どれほど敵が強かろうと怯まない。
天下人であることをやめようとしない。
だが、画面の中では少しずつ異変が起き始めていた。
信長の息が荒くなる。
槍を握る手から汗が落ちる。
「まだじゃ。まだ終わっておらんぞ!」
一人の兵士が斬りかかってきた。
信長はそれをかわした。
別の兵士が横から斬りかかる。
信長はそれを槍で受け止めた。
だが、次の瞬間。
死角から別の刀が走ってきた。
その刀が信長の腕を切り裂いた。
「ぐっ・・・!」
赤い血が飛び散る。
信長が膝をついた。
明智の兵士が信長にとどめを刺そうと刀を振り上げる。
「死ねえっ!」
信長は顔を上げた。
その目から闘志は消えていない。
「まだだ!」
信長の槍先が、兵士の喉元に突き刺さった。
信長はゆっくりと立ち上がる。
信長は、本能寺を包み始めた炎を見て言った。
「そろそろか・・・」
柱が燃え、天井に火が走る。
煙が廊下を覆っていく。
赤い炎が信長の顔を照らす。
秀吉が叫ぶ。
「親方様! 逃げてくだされ」
画面の中の信長が味方の家臣に言った。
「ここは任せた!」
「はっ、上様!」
信長は燃えさかる本能寺の廊下の奥へと歩き出した。
炎が信長の背中を包んでいく。
信長は奥の間へと消えていった。




