10 秀吉、初めてのテレビ 其の一
その夜。
秀吉は八畳ほどの畳の部屋に案内された。
部屋の壁際には小さなテーブル。その上には黒い箱が置いてある。
畳の上には四組の布団が並べられていた。
美咲は言った。
「ここが今日から私たちの部屋みたいだから」
秀吉は布団を見渡した。
「同じ部屋で寝るのか?」
「そうだけど」
「敵と、一緒に寝るのか?」
「・・・」
「夜襲をし放題ではないか」
「しないわよ。この部屋には女の子しかいないんだから!」
秀吉は三人の顔を見た。
「おぬしらも、親方様に選ばれた者たちであろう。天下を争う敵のはずじゃ」
「何なのよ、それ・・・」
美咲がため息をつく。
その横で、自分の服をきれいに畳んでいた美佐子が言った。
「まあまあ。せっかく会ったんですから、仲良くしましょうよ。ここで揉めたら新田社長に怒られますよ」
美咲は美佐子に顔を向けた。
「明智さんはあいつ、どう思いますか?」
「あいつと、いいますと?」
「新田よ。あいつ、ヤバすぎでしょ」
「何で、ですか?」
「あんな誘拐みたいなやり方で、私たちを連れてきたんですよ?」
美咲が身振り手振りで訴えた。
「しかも、親に連絡する前にスマホ取り上げるし。私たちが警察に突き出せば、あいつは終わりなのに」
秀吉は怒った。
「無礼だぞ!」
秀吉は声を荒らげる。
「親方様にあいつとは何事だ!」
「何なのよ、あんた・・・」
「わしか?」
「そのしゃべり方よ」
美咲が秀吉の顔を指差す。
「『おぬし』とか『ござる』とか。変なキャラをここまで持ち込まないでよ」
「キャラじゃと?」
「戦国時代の武士みたいなキャラで売り出したいんでしょ?」
「わしはキャラではない。天下人の豊臣秀吉じゃ」
「はいはい。じゃあ、証拠見せてよ」
「証拠じゃと?」
秀吉は言葉に詰まった。
自分が2035年の女子高生に生まれ変わったということを忘れていた。
美咲が追い打ちをかける。
「天下人が炊飯器にビビるって、恥ずかしく思わない?」
「そ、それは・・・」
「しかも、しゃもじを刀にして戦って・・・」
七海が小さな声で言った。
「でも、あれ。ちょっと、面白かったです」
「おぬしまで、おちょくりよって」
美佐子が言った。
「なんだか、私たちって、仲良くなれそうですね」
「どこがよ!」
美咲が怒った。
美佐子は続ける。
「歌、踊り、演技。それぞれ、得意不得意はあると思いますから、お互い協力してがんばっていきましょう」
秀吉は美佐子を見た。
銀縁の瞳の奥で、美佐子の瞳は何かを隠すように光っていた。
親方様を裏切った光秀の生まれ変わりなら、「仲良く」だの「協力」だのという言葉を使って、最後は裏切ってくるに決まっている。
美佐子は、秀吉の視線が気になった。
「どうかしました?」
「いや・・・」
秀吉が目をそらした。
美佐子は話題をそらすように、テーブルの上に置いてあったリモコンを手に取った。
「テレビでも見ますか?」
「テレビ?」
秀吉はテーブルの上に置かれた黒い箱を見る。
「なんじゃそれは・・・」
美佐子がボタンを押した。
次の瞬間。




