準備
「変装って……どういうこと?」
私の問いに、ショウは肩にとまっていた烏をそっと撫でた。
「俺の使い魔の固有魔法は、対象を『変身』させることだ。短時間なら、見た目も声も、完全に別人に作り変えることができる」
ショウは当然のことのように言ってのけるが、私は開いた口がふさがらない。
(…人間だけじゃなく、使い魔も固有魔法があるの⁉)
個人的には、かなり衝撃の事実だった。
使い魔は、基本的には情報伝達や移動の手段として使われている。
ショウの烏も、ゲーム内で私を監視するためによく飛び回っていたが、まさか変身魔法まで使えるとは思っていなかった。
もしかしたら、人間に化けて近くにいることもあったのかもしれない。
(使い魔が固有魔法を使えるってことは、実質多重能力者ってことよね…羨ましい…)
使い魔の話で気がそれている私をよそに、作戦の説明は淡々と続く。
「れいなには、ユーリが詐欺を仕掛けている貴族令嬢に変身して欲しい。それでユーリを呼び出し、ライッサから引き離して2人きりになるんだ。その隙に、俺がライッサに接触して森の祠までおびき出す」
「なるほど……。ユーリさえいなければ、普通に協力してくれそうだもんね、ライッサは」
その後も軽く詳細を詰めて作戦が決まり、私たちは解散した。
そこからの1週間は、あっという間に過ぎていった。
あの後、昼休み終わりの予鈴が鳴るギリギリに教室に帰ったら、私を心配したレオが教室に来ていたが、自分を殺すために口説いてきた人間と話す気になれず、そっけない態度になってしまった。
その後も、レオはめげずに何度も私と話すために教室にやってきていた。
黒幕を刺激しないために、なるべく親しい態度を心掛けたつもりだったが、数日たったあたりから何かを感じ取ったのか、今ではめっきり姿を見ない。
2人で計画を練ったその日から、私とショウは着々と準備を進めた。
交代で尾行をしたり、使い魔の烏の力も借りたりしながら、ユーリとライッサのおおよその行動パターンを把握。
基本的に、ユーリはライッサに付き添っており、外で2人が離れる瞬間は、ライッサがお手洗いに行く時間しかなかった。
だが、ヴェルホルン邸に帰宅してからは、ユーリは毎晩のように屋敷を抜け出して他の令嬢たちと密会をしていることが分かった。
彼は現時点で5人もの令嬢と関りを持っているようで、中でも資産価値の高いアリスという貴族令嬢とは会う頻度が高く、優遇している。
なので、ショウと作戦を決めてから5日後――すなわち作戦の前日に、私はアリスを名乗る手紙を出し、翌日朝の登校時間前にユーリと学校で会う約束を取り付けた。
登校の際にライッサの護衛ができなくなることをユーリは渋ったが、「明日あってくれなければ、もうこれ以降は会わない」と脅したら、存外あっさりと了承した。
これで、登校時にユーリが引きはがされた状態で、ライッサに接触できる。
舞台は整った。
そしていよいよ、作戦決行の日。
ショウの使い魔である烏が、私の額に羽をかざす。
一瞬温かい光に包まれ、鏡に映った私の姿は、キリっと吊り上がった凛々しい瞳が強気な印象を与える、美しい令嬢へと変わっていた。
心なしか、同じ制服姿でも、自分が着ている時よりも高貴な装いに見える。
「……昨日も思ったけど、本当にすごい能力ね。これなら絶対バレなさそう…って、なんでショウまで変身してるの?」
変身の完成度の高さに感動して、鏡を食い入るように見つめていたせいで気づかなかったが、ショウは暖かそうな緑色のローブを羽織った、背が低い老人に変身していた。
優しく下がった目尻に、ゆるやかに上がった口角が、普段のショウとは打って変わって柔和な印象を受ける。
「…俺の評判は、あまり良くない。いくら善良なライッサ嬢でも、俺からの突然の頼みで森についてきてくれるとは思えない」
「あ~…」
申し訳ないが、正直否定できずに黙り込んでしまう。
彼は、お世辞や優しい嘘を嫌うタイプなので、ここで無理やりフォローしても余計傷つけるだけだろう。
実際、顔の皺を濃くしてくしゃりと笑う姿は警戒心を持たれづらく、あっさりと協力してくれそうだ。
「うん、いいと思う。…お互い、頑張ろう」
結局気の利いた言葉は浮かばず、話を切り替えることしかできなかった。
「絶対、成功させよう」
「よし。……健闘を祈る」
ショウと視線を交わし、私はユーリとの待ち合わせ場所へと向かった。




