共謀
すみません、21話のラストの展開から変更しております。
なので、前話が更新されてすぐ読んだ方は、前話から読んでいただけるといいかもしれません…
大変申し訳ございません。
「ひとまず、1週間後の魔物の襲撃をどうするかよね…ショウは、何か計画とかあるの?」
「……俺は、お前が演習を欠席するのが一番いいと思ってる。その間に俺が一人で森へ行って、魔物を事前に仕留める。それが最もリスクが低い」
(やっぱり、そうなるよね。でも…)
ショウの答えは、大体予想が出来ていた。だが、その計画にはどうしても不安要素が残る。
「それじゃダメ。私が休んだとしても、魔物が現れれば他の生徒や先生たちが襲われるかもしれない。事前に倒していくにしても、ショウ1人で行くのは危険すぎる。…そもそも魔物が現れないようにする方法はないの?」
私の記憶では、あの魔物はグレイ先生とショウ、カケル、アベル――それから、急遽救援に駆けつけた先生数人がかりでやっと取り押さえられていた。いくらショウとはいえ、たった1人でどうにかするのはほぼ不可能だろう。
「そうだな…ないことはないんだが、かなり難しいと思うぞ?」
ショウ曰く、あの森に現れる魔物は、古くから森の奥深くにある祠に封印されている「邪神の手先」らしい。
事件の後、警備隊の調査によって、野外演習の約一週間前から、毎日何者かによって祠に大量の魔力が注ぎ込まれていたことが判明する。その強引な魔力供給によって封印が破壊され、生徒を襲うに至ったのだという。
この情報は、時間操作で現在に戻ってくる前、ショウが職員室での会話を盗み聞きして得た情報なのだそうだ。
(確か、ゲーム内で公表されてた情報では、「原因不明の突然変異で凶暴化した、野生の魔物」とされていたはず。「邪神教」が絡むから、混乱が起きないように情報操作されたのか)
「邪神教」――それは、『こいヴィラ』の世界で強い権力を持つカルト宗教だ。
ゲーム内では、第3章での攻略対象であるグレゴリーという少年が、この邪神教の教祖の息子であるため、物語に大きく関わってくることになる存在。
信者を故意的に孤立させて教会以外の居場所を無くしたり、そうしてのめり込ませた信者に悪質な勧誘や暴力事件を起こさせたり…と、明らかに悪徳宗教ではあるが、教祖が人心掌握に長けた実力者らしく、かなり規模は大きいし、権力者の信者も多い。
そのため、敵に回すと厄介なのだ。
だから、無闇に魔物の正体や事の経緯を拡散するわけにはいかなかったのだろう。
「話が長くなったが、要するに…魔力が満ちて封印が解かれる前に、その魔力を取り除ければ魔物は出てこられない。毎日魔力を注いでいる人間をどうにかする手もあるが…邪神教に関りがある人間と揉め事を起こすのは、のちのち面倒だから避けたい」
そう言ってから、ショウは髪を乱雑にかき回すと床にしゃがみ込み、睨むような目つきで床を見る。肩に乗っていた使い魔の烏が、驚いたように軽く羽ばたく。
「だけど、そんな特殊な固有魔法を持ってるやつなんてそうそういないだろうし、魔道具を使うにしても…かなり高額になるだろう。あと1週間足らずでどうにかするなんて、到底無理だ」
誰がどんな固有魔法を所有しているのか、というのは、この世界においては機密性の高い個人情報だ。所有する固有魔法の能力によっては、悪用するために誘拐されそうになったり、脅威になるとみなされて殺されそうになったりするので、公表して良いことはほぼない。カレンのように、固有魔法ありきの職業などもあるため、場合によっては公表するが、基本的にはみんな受験や仕事のとき以外は能力を秘匿して生きている。
この学園では、同系統の固有魔法を持つ者たちでグループ分けされて、固有魔法の能力を伸ばす授業が行われる。そのため、同じグループの人間の能力は凡そ分かっているが、自分以外の能力を勝手に口外することは禁じられているし、自らの固有魔法を誰かに話すのも推奨されていない。
だから、ショウは知らないのだろう。適任者が、私の身近にいることに。
「…ライッサ」
「え?」
私の口から出た名前に、ショウは不思議そうに眉を寄せた。
「彼女の固有魔法は、魔力操作』なの。相手に触れることで、魔力を回復させたり、逆に奪い取って減らしたりできる。…だから、彼女に頼めば、全て解決する」
ショウは、「なるほど、それなら――」と、解決の糸口が見えたことにより少し気持ちの余裕を取り戻し、思考を再開する。
しかし、すぐにやや怪訝そうな顔つきで私のほうを見た。
「…待て。他人の固有魔法を口外するのは、禁止じゃ――」
「結構、仲良い友達同士は話してたみたいだよ。私も、ゲーム内でライッサ本人から言われたし…あれじゃないかな、バレンタインの友チョコも一応校則では禁止されてるけど、暗黙の了解で見逃してもらえる~みたいな」
「すまん、よく分からん…」
どこか疎外感を感じているような、少しだけ傷ついたような彼の表情にいたたまれなくなり、私は即座にフォローを入れる。
「まっまあ、ショウの周りにいた人たちが、校則をちゃんと守るしっかり者だった、ってことだよ!」
「俺の周りにいたのは、れいなだけだよ…」
「あ、そっか…」
余計、傷をえぐってしまったらしい。2人の間に、気まずい沈黙が流れる。
(一匹狼なこと、特に気にしていないように見えてたけど、実は結構気にしてたのかな…)
ひとまずこれ以上話を広げても彼の傷を余計深くするだけなので、話を軌道にも戻す。
「とにかく、ライッサの協力があれば魔物の出現は防げる。でも問題は…」
「あの、ユーリとかいう執事、だよな。しばらくしたら、結婚詐欺で消えるやつ」
未来のことを共有しているぶん、話が早い。
私の脳裏に、ライッサの影のように付き従うユーリの姿が浮かんだ。彼はライッサの安全を何よりも優先している。 私が「1週間後に魔物が現れるから、森の祠まで来て魔力を吸収してほしい」なんて誘いをかければ、話を聞く前に排除されるのがオチだ。
そもそも、未来のことを知っているのも怪し過ぎて信じてもらえない可能性が高いし。
考え込む私をよそに、ショウはすっと立ち上がる。
「……よし、俺にひとつ考えがある」
「何?」
「変装して、彼等を騙すんだ」
「は?」
斜め上の提案に、私は思わず素っ頓狂な声を上げた。




