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老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


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第二十四話「リアとミカ」



「うぅ……うぅぅ……ひっく……怖かったよぉ……」

「よしよし、大変だったね」

「バカぁっ! ミカのせいでしょ!」

「うん……それは……否定しない」


 レーナの逆鱗に触れた二人は、炎のような圧に焼き尽くされかけた。

 ミカは顔を引きつらせ、卒倒しかけるリアの手を掴んで――


 死に物狂いで駆け出した。


 夜を徹して逃げに逃げ、ようやくミルゼア教国の国境近くまで辿り着く。


 息を切らし、赤い影がもう追ってこないことを確かめて――

 二人は肩を合わせ、地面にへたり込んだ。


「……なんでレーナ先輩は、教授の味方をするの?」

「そりゃぁ――」


 惚れたからだろう。

 言いかけた言葉を、ミカは飲み込んだ。


「……なんでだろうね」

「悔しいよ……教授なんて大っ嫌い! レーナ先輩も嫌い! 姉様と仲良しだったのに!」

「……そうだね」


 ミカはリアの頭をぽんぽんと叩き、その髪を撫でる。


「おいで、リア」

「……うん」


 リアはミカの胸に顔を埋め、ミカは優しく抱きしめた。


 その温もりに包まれたとき、リアの脳裏に――過去の記憶がよみがえる。



 ――それは、幼いころの記憶、寄宿舎に入った日の夜。


 新入生歓迎のパーティ。

 豪奢な衣装の子供たちの間を、やせ細った非徒の少年が、ワゴンを押してパンを配っていた。


 リアはパンを受け取ると、それを少しちぎり、少年に差し出した。


「一緒に食べよう?」


 他意はなかった。

 ただ、おなかがすいていそうだったから――リアはひとかけらのパンを、差し出した。

 戸惑いながらも少年が手を伸ばした、そのとき――


 見張りの騎士が、無言で少年の腹を蹴り上げた。

 そして倒れた少年の頭をつかむと、そのまま引きずり、壁の向こうへと捨てた。


 呆然とするリアに、ひとつ年上の少女が言った。


「だめでしょ? そんなことしちゃ」

「どうして?」


 誰も答えなかった。


 部屋に戻ると、そこにミカがいた。

 リアの泣き腫らした顔を見て、ミカはただ静かに微笑む。


 ベッドに腰掛け、おいで、と手を伸ばした。


 二人でひとつのベッドに潜り込み、朝を迎えた。


 ――あの夜も。そして今も。

 

 やわらかな朝日が昇り、抱き合う二人の影を、ゆっくりと溶かしていった。




▼次回「夜明けの条件」

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