第二十四話「リアとミカ」
「うぅ……うぅぅ……ひっく……怖かったよぉ……」
「よしよし、大変だったね」
「バカぁっ! ミカのせいでしょ!」
「うん……それは……否定しない」
レーナの逆鱗に触れた二人は、炎のような圧に焼き尽くされかけた。
ミカは顔を引きつらせ、卒倒しかけるリアの手を掴んで――
死に物狂いで駆け出した。
夜を徹して逃げに逃げ、ようやくミルゼア教国の国境近くまで辿り着く。
息を切らし、赤い影がもう追ってこないことを確かめて――
二人は肩を合わせ、地面にへたり込んだ。
「……なんでレーナ先輩は、教授の味方をするの?」
「そりゃぁ――」
惚れたからだろう。
言いかけた言葉を、ミカは飲み込んだ。
「……なんでだろうね」
「悔しいよ……教授なんて大っ嫌い! レーナ先輩も嫌い! 姉様と仲良しだったのに!」
「……そうだね」
ミカはリアの頭をぽんぽんと叩き、その髪を撫でる。
「おいで、リア」
「……うん」
リアはミカの胸に顔を埋め、ミカは優しく抱きしめた。
その温もりに包まれたとき、リアの脳裏に――過去の記憶がよみがえる。
*
――それは、幼いころの記憶、寄宿舎に入った日の夜。
新入生歓迎のパーティ。
豪奢な衣装の子供たちの間を、やせ細った非徒の少年が、ワゴンを押してパンを配っていた。
リアはパンを受け取ると、それを少しちぎり、少年に差し出した。
「一緒に食べよう?」
他意はなかった。
ただ、おなかがすいていそうだったから――リアはひとかけらのパンを、差し出した。
戸惑いながらも少年が手を伸ばした、そのとき――
見張りの騎士が、無言で少年の腹を蹴り上げた。
そして倒れた少年の頭をつかむと、そのまま引きずり、壁の向こうへと捨てた。
呆然とするリアに、ひとつ年上の少女が言った。
「だめでしょ? そんなことしちゃ」
「どうして?」
誰も答えなかった。
部屋に戻ると、そこにミカがいた。
リアの泣き腫らした顔を見て、ミカはただ静かに微笑む。
ベッドに腰掛け、おいで、と手を伸ばした。
二人でひとつのベッドに潜り込み、朝を迎えた。
――あの夜も。そして今も。
やわらかな朝日が昇り、抱き合う二人の影を、ゆっくりと溶かしていった。
▼次回「夜明けの条件」




