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老教授、少年に転生――教授は異界を書で拓く  作者: 千本松


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第二十五話「夜明けの条件」



「……長い夜だったねぇ」

「うん」

「ところでリア、これからどうするのさ」

「やめないよ」


 その答えに、一瞬の迷いもなかった。


「そう。じゃあ、アタシも付き合う」

「……えっ?」


 リアは驚いて顔を上げる。


 ミカは胸元についた涙と鼻水を見て、苦い顔をしながら言った。


「……ハンカチ持ってくるんだった」

「止められるって思ってた」

「ちょっと気が変わってね。それにアンタ、どうせ止めたって聞かないでしょ?」


 リアの目がじわりと潤む。


「嬉しいよ……ありがとう、ミカ……!」


 微笑むリアに、ミカは優しい眼差しで応えた。


 だが、ミカの胸中には別の感情が渦巻いていた。

 それは九重への敵意ではなく――リアを泣かせたレーナへの怒り。


「ただし条件がある」

「なに?」

「味方をつける。このままじゃ、あのショタコン――もとい、先輩に消し炭にされる」

「味方って……だれ?」

「アタシの兄貴」

「……えっ!?」



 同じ頃――


 集落もまた朝を迎えていた。

 その中央で、九重は《アル・アジフ》の頁を閉じながら、レーナに問う。


「これで、すべてのグールは元の場所へと戻った。依頼と礼は果たせたかね?」

「はい、教授様」


 九重はしばらく沈黙したのち、ふと話題を変える。


「……禁書という言葉を、聞いたことはあるかね?」

「あります。神と人とを繋ぐ媒体――そう教えられました。ただし儀式的なものがほとんどで、教授様の書とは……だいぶ違うかと」

「ミルゼアにもあるのかね?」

「いえ、ミルゼアでは、火の文様を直接身体に刻みます」


 そう言ってレーナは裾をたくし上げる。

 白い太ももに刻まれた紅の文様が、肌の上に浮かび上がった。


「……今となっては、私にとって意味のないものですが」

「ふむ」


 レーナは太ももの文様に指を添え、ちらと教授の顔を盗み見る。


「……よければ、その……少しだけ、触れてみますか?」

「そんな必要は無かろう。それより、禁書を媒体に使う国は近くにあるかね?」


 レーナの肩が、すとんと落ちた。


「……はい。街道の先、エルメナス公国が最も近いです」

「決まりだ。エルメナスへ向かう」

「承知しました、教授様」


 レーナはそっと頭を垂れた。




▼次回「老教授の肖像」

お読みいただきありがとうございました!

表紙イラストやキャラ設定は、Xで随時公開しています。

今後ともお楽しみいただけましたら幸いです。

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