第二十五話「夜明けの条件」
「……長い夜だったねぇ」
「うん」
「ところでリア、これからどうするのさ」
「やめないよ」
その答えに、一瞬の迷いもなかった。
「そう。じゃあ、アタシも付き合う」
「……えっ?」
リアは驚いて顔を上げる。
ミカは胸元についた涙と鼻水を見て、苦い顔をしながら言った。
「……ハンカチ持ってくるんだった」
「止められるって思ってた」
「ちょっと気が変わってね。それにアンタ、どうせ止めたって聞かないでしょ?」
リアの目がじわりと潤む。
「嬉しいよ……ありがとう、ミカ……!」
微笑むリアに、ミカは優しい眼差しで応えた。
だが、ミカの胸中には別の感情が渦巻いていた。
それは九重への敵意ではなく――リアを泣かせたレーナへの怒り。
「ただし条件がある」
「なに?」
「味方をつける。このままじゃ、あのショタコン――もとい、先輩に消し炭にされる」
「味方って……だれ?」
「アタシの兄貴」
「……えっ!?」
*
同じ頃――
集落もまた朝を迎えていた。
その中央で、九重は《アル・アジフ》の頁を閉じながら、レーナに問う。
「これで、すべてのグールは元の場所へと戻った。依頼と礼は果たせたかね?」
「はい、教授様」
九重はしばらく沈黙したのち、ふと話題を変える。
「……禁書という言葉を、聞いたことはあるかね?」
「あります。神と人とを繋ぐ媒体――そう教えられました。ただし儀式的なものがほとんどで、教授様の書とは……だいぶ違うかと」
「ミルゼアにもあるのかね?」
「いえ、ミルゼアでは、火の文様を直接身体に刻みます」
そう言ってレーナは裾をたくし上げる。
白い太ももに刻まれた紅の文様が、肌の上に浮かび上がった。
「……今となっては、私にとって意味のないものですが」
「ふむ」
レーナは太ももの文様に指を添え、ちらと教授の顔を盗み見る。
「……よければ、その……少しだけ、触れてみますか?」
「そんな必要は無かろう。それより、禁書を媒体に使う国は近くにあるかね?」
レーナの肩が、すとんと落ちた。
「……はい。街道の先、エルメナス公国が最も近いです」
「決まりだ。エルメナスへ向かう」
「承知しました、教授様」
レーナはそっと頭を垂れた。
▼次回「老教授の肖像」
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