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上手くかけているでしょうか…?
沙也香のお勉強が始まって3日が経った。
「よし、ルーンの意味は完璧に覚えたね」
暗記モノが苦手だった沙也香であったが、朝輝と白雪に徹底的にアシストされ、なんとかルーンの形と意味が一致するようになった。
「うん、意味はOK」
只今午後3時をちょっとすぎた頃。
外は夏の日差しでアツアツに焼かれているが、朝輝邸の図書室は程よく涼やかな冷房に、柔らかな紙の香りが漂い、とても快適な空間である。
「じゃあ次のステップ」
そう言って朝輝が、テーブルの皿からシュークリームを1つ取り上げた。
「次のステップ…。何するの?」
4日間ずっと一緒にいたおかげで、沙也香は朝輝と普通に会話出来るようになった。
「九条さんは力を手に入れ、そして知識を手に入れた。だから次はその力で、覚えた知識を生かす訓練だよ。その逆とも言えるけどね」
「は、はぁ…」
「ちょうど、生きの良いピチピチしたのが手に入ったしね」
「ピチピチ…?」
「まぁ、いずれわかるよ。九条さんは汚れても良い服に着替えて僕の部屋に来て」
生きの良いピチピチ…汚れても良い服…
魔法を使って魚でも捌くのかな?
包丁ですら魚を捌いたことがない沙也香は、良く分からないまま自室へ戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
汚れてもいい服(部屋に戻ったら既に用意されていた黒いジャージ)に着替え、沙也香は朝輝の部屋に向かった。
部屋に入るとすぐに、待っていた朝輝がソファーから立ち上がり、じゃあ行こうかと沙也香を促した。
前回と同じように、朝輝の寝室にある隠し扉から地下へ行く。
「お魚を捌くんですか?」
沙也香が、すぐ後ろを歩いていた白雪に聞いた。
「ある意味、半分あっています」
沙也香よりずっと高い位置から白雪が相変わらず感情のうかがえない表情と声で言う。
「じゃあまず九条さんの相棒を決めないとね」
「へっ?」
前回立ち入らなかった、廊下の一番奥の扉のノブに手をかけて、朝輝が振り返った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「う、うわぁ…スゴい…」
その扉の中は、沙也香にとってはかなり異質なモノであった。
なんと言うか…
「博物館みたい…」
沙也香は思わず口にしたが、その部屋は博物館の1ブースと言っても良い内容だった。
そこに並ぶのは、剣、斧、槍、鎌、鎖、ハンマー、刀、ナイフ、鞭、その他見たことのないものだが、残酷な用途であることが一目でわかる武器達である。
「さて、九条さんにあった武器はどれかな」
そう言って朝輝が部屋を見回していた。
「と、朝輝君!?私、武器なんか使い方わかんないし、筋力もそんなに…!」
「うん、もちろんそれも考慮するよ?」
「武器って…持たなきゃならないの?」
沙也香の問いかけに、手にした剣で空想の敵と戦っていた朝輝が振り返った。
「ん?あぁ、相棒となる武器を選ぶのは魔術師になる通過儀式みたいなもんだよ。魔術を使うにはなにかしら道具が必要だからね。まぁ、必要ないものもあるけど、ルーンなんかは特に、ルーンを刻んでおくものが必要だからね」
例えば、と言って朝輝が一振りの剣を手に取った。
「これ、刀身に刻んであるルーンは?」
と、朝輝がちょっとした問題を出した。
「えっと…それはケイナズ、かな」
「正解。じゃあ意味は?」
「メインの意味は、松明」
お見事。
と言って朝輝が微笑み、沙也香は嬉しくて顔が熱くなった。
なんとなく恥ずかしいので、それがなるべく表情に出ないように頑張る沙也香。
「つまり、この剣の特性は火ってこと」
「私は確か水とかだったような…」
「だからと言って火が使えないわけじゃないよ?水と相性が良いだけ。つまり、他の属性より水を操り安いってこと」
「ふ、ふぅ〜ん」
自分にそんな属性があったなんて…
「じゃあ、探そうか。九条さんの相棒を」
それからルーンの刻まれた数種類の武器を試し、沙也香はすっかり腕が痛くなっていたが、朝輝はと言うと、
「これなんか似合いそう」
…ここはデパートの試着室ですか?
沙也香はそう思っていたが、朝輝にしばらく好きなようにさせていた。
「やっぱダメだな。どれも九条さんには扱いきれないか…」
しばらくすると、朝輝がなんかしょんぼりし始めていた。ここにあるのは元々、朝輝が振り回す為に集めたモノであって、なかなか女の子に扱いきれるものがなかったのだ。
「朝輝様。アレはいかがです?」
そんな朝輝に、ずっと部屋の入口に彫像のように立っていた白雪が声をかけた。
「あれ?あっ、あーあれね。ハイハイ」
そういって朝輝が武器が並ぶ棚の上をゴソゴソし始めた。
「あったあった。完全に忘れてたね」
そう言う朝輝の手には、直径3、40センチ程の木の箱が抱えられていた。
「まさしく九条さん向けだ」
その箱をトンと台に置き、朝輝が蓋を開けた。
そこに有ったものは…
「えっ…これのどこが私向けなの朝輝君!?」
「剣や槍のように振り回す必要も、斧のように力が必要なわけでもない。必要なのは、この中に刻まれたルーンを正しく発動させることと、しっかり狙って引き金を引くことだけ。まさしく九条さん向け!!」
そう言って朝輝が差し出して来たのは、黒光りする、ハリウッド映画でも仁侠映画でも目にするアレであった。
「拳銃なんて…使えないよぅ…」
確かにこの部屋にあるものは全て物騒だ。
しかしこれだけは趣が異なっていた。
ともすれば骨董品のような剣などと比べると、やはり現実的で、1番身近に有るように感じる。
「大丈夫だよ九条さん。さっき言ったように、これは普通の弾丸を打ち出す銃じゃないから」
「弾にルーンを刻むの?」
疑問ばかりの沙也香である。
「惜しい!これは中に既にルーンが刻んであるんだ。だから九条さんはそのルーンに呪力を通し、発動させて、ルーンの効果を撃ち出すんだよ」
ただし、
と朝輝が付け加える。
「それには対価が必要なんだ」
「対価?」
「そう」
言って朝輝はカシュッっとマガジンを取り出す。
「ここ、本来は弾丸を込める所なんだけど…ほら、ガラスの管が入ってるでしょ?ここに九条さんの血を入れるんだよ。つまりこれを使う対価は九条さんの血液」
「注射は嫌です」
恐ろしいコトを聞いて、即否定した沙也香であったが、
「大丈夫。これは特殊でね、このガラス管の口に肌を押し付けるだけで、なんの痛みも傷もなく血を吸い取ってくれるんだよ」
なぜかちょっと興奮気味の朝輝であった。
「でも…」
なにか否定しなくてはならない気になっている沙也香。
「大丈夫。今からちゃんと使い方教えてあげるから。九条さんにも、もしもの時に自分の身を守れるようになって欲しいんだ」
いつになく真剣に朝輝が言う。
「わ…わかった。頑張ります」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからの授業は沙也香にとって何故か簡単であった。
内容は、呪力の制御。
沙也香の場合、突然強力なパワーを身につけてしまったので、案外朝輝もヒヤヒヤしていたらしいが、ルーンを覚えるより容易かった。
イメージとしては、体中に川があるイメージだ。
その流れを把握し、好きなように収束させたり、霧散させたりと言った感じ。
「九条さん。凄いね…並みの魔術師が数年かかってやることをたった1時間の間に…」
朝輝がかなり驚いた顔をしていたが、沙也香には簡単だったのだから仕方ない。
なんと言うか、あの日から、体の中に何かモヤモヤした固まりがあるような違和感があったのだ。
で、今日呪力の制御を習ってみたら、そのモヤモヤの固まりを、自在に動かせるようになった。
沙也香にとってはただそれだけのことであったのだ。
「あ、ちなみにその銃は“グロック”って銃だよ。かなりの部分がプラスチックで出来てるから普通の銃より軽いんだ」
「へぇ〜」
そい言って、自分の相棒をしげしげと眺める。
黒光りするボディは、最初は怖かったが、今はなんとなく頼もしく感じる。
「じゃあ実際に撃ってみようか」
そう言って朝輝が隣りの部屋に沙也香を誘った。
もう少し話が進んだら挿し絵とか欲しいです…(笑)




