間章3
「彼には欠点、もとい弱点があるのよ」
白衣を着た女錬金術師が長い脚を組んで椅子に座り、助手である錬金術師の卵に向かって青白くて細い指を立てた。
「は、はぁ」
錬金術師の卵は、良く理解出来ない風にちょっと首を左に傾げた。
彼女の癖である。
「さて、彼の弱点とはいったい何でしょうか?」
「え…問題ですか?」
ちょっと慌てた卵に女錬金術師は、そうよと言ってコーヒーに口をつける。
むむむ…
と考える卵を女錬金術師は楽しげに観察していた。
「わからなかったら深呼吸しなさい」
言われた通りに深呼吸をし、息を吐いて一言、
「…わかりません」
丸いレンズの眼鏡越しにちょっとだけ上目使いで申し訳なさそうにしている弟子に、女錬金術師は優しく微笑む。
「そうね、じゃあ特別に教えてあげましょう」
そして女錬金術師は深く椅子に座り直して続ける。
「彼は上手く栄養を吸収する事が出来ないの。それは何を意味しているかはわかるわね?」
「は、はい。彼は通常の魔術師よりも強大な魔力を作りだし、保有し、行使します。つまり普通の魔術師よりも大量のエネルギーが必要となり、それを作り出すための栄養が摂取出来なければ彼は直ぐに行動不可能となる。魔術を使わなくとも、常に大量の魔力を作り出し、体に保持するのにはかなりの消耗があるからこそ致命的、と言うことですよね?」
目を閉じて弟子の解答を聞いていた女錬金術師は、目を開けて微笑んだ。
「その通りよ」
じゃあ、と女錬金術師は続ける。
「彼の左膝。そこは直ぐに壊れる…まぁ、関節が外れたり折れたりし易いってことね。のは何故だか分かるかしら?」
今度の質問に対し、弟子は考える間もなく答える。
「わかりません」
「まぁ、そうでしょうね」
「何故ですか?」
その問いに、女錬金術師はふふっと笑った。
「彼は魔術師としてほぼ完璧。最強と言ってもいいわ。なにせ“ストック”のお陰で死なない訳だし…こうなったら生物的にも完璧だわ」
でもね、と彼女はいかにも楽しげに続ける。
「完璧ほどつまらないものはないわ。だって、勝ち負けのわかっている試合なんて見ても面白くもなんともないじゃない。暇つぶしにもならないわ…。さっきの栄養の吸収の話しもそうだけど、なにか弱点があるからこそ見ていて面白いのよ?」
「…は、はぁ。では、彼はその障害については知っているのですか?」
「いいえ。本人も周りの人間も、ただの食いしん坊だと思っているわ。左膝はまだ気付いてないみたいだし」
そう言って彼女はまたコーヒーに口をつけた。
「作るのに苦労した分、じっくりと実験に付き合って良い結果を出してくれなきゃ話しにならないわ。まぁ、今のところは楽しくてしょうがないけれどね」
そう言って“彼”の創造主は笑っていた。




