Chapter 8
天気が変わり始めていた。
明るかった午後の空から、少しずつ暖かさが消えていく。
雲が空に集まり始めた。
一つ、また一つと太陽の前を通り過ぎる。
ほんの少し前まで街を照らしていた光が、雲に隠れていった。
セイイチは空を見上げた。
「つまり……俺たちの学校と同じ名前の、古い学校ってこと?」
まだ信じられないような声だった。
キヨシは頷いた。
「うん……」
キヨシが森から戻ってきたあと、三人はすぐに行動した。
そのままサトの家へ向かった。
少しして――
三人はサトの部屋に集まっていた。
キヨシはベッドの片側に座っている。
セイイチは壁にもたれていた。
サトはベッドの端に座っている。
いつもとは違い、その表情は真剣だった。
しばらくの間、誰も何も言わなかった。
そして、サトが沈黙を破った。
「じゃあ、なんでみんな普通にしてるんだ?」
キヨシはサトを見る。
サトは続けた。
「森の中に、俺たちの学校とまったく同じ名前の廃校があるんだぞ」
少し間を置く。
「それなのに、誰も何も知らないっていうのか?」
キヨシは視線を下げた。
「うん……」
サトはキヨシを見つめる。
そして聞いた。
「なあ、キヨシ……」
「ん?」
「本当に、その女を見たんだよな?」
キヨシはサトを見る。
「うん」
少し考える。
「幽霊だったかどうかは、分からない」
「普通の人みたいに見えたし」
セイイチが少し身を乗り出す。
「じゃあ、何がおかしかったんだ?」
キヨシは少し迷った。
「顔が見えなかった」
セイイチは眉をひそめる。
「どういうこと?」
「顔を見ようとすると、太陽の光がずっと目に入ってきたんだ」
少し間を置いて――
「それに……」
キヨシはそこで言葉を止めた。
黒い姿のことは言わなかった。
不自然な笑顔のことも言わなかった。
なぜか、それを口に出したくなかった。
サトはキヨシが迷っていることに気づいた。
だが、それ以上は聞かなかった。
代わりにセイイチが聞いた。
「じゃあ、なんであそこに桜島って名前があるんだ?」
二人を見る。
「俺たちの学校の名前だぞ」
サトは頷いた。
「そこが一番おかしいんだよ」
サトは背もたれに寄りかかった。
「ただの知らない廃墟なら、まだ分かる」
「でも、同じ名前の廃校だぞ?」
サトは首を横に振った。
「誰も話してない」
キヨシはサトを見る。
「お前の父親も知らないのか?」
サトは首を横に振った。
「俺が知ってる限りでは、知らないと思う」
セイイチは眉を上げる。
「じゃあ、記事とかは?」
サトは不思議そうな顔をする。
「記事?」
「そう。昔の新聞とか、ネットの記事とか」
セイイチの表情が急に変わった。
「待て……」
サトを指差す。
「お前、今まで本物の記事なんて持ってきたことあったか?」
サトは瞬きをした。
セイイチは続ける。
「お前、いつも持ってくるのって――」
「おい、やめろ!」
キヨシがベッドを手で叩いた。
「くそっ!」
二人は黙った。
キヨシはため息をついた。
「今は、ここで何が起きたのかを調べようとしてるんだぞ」
サトは頷いた。
「そうだな」
キヨシはサトを見る。
「お前の父親って、警察官だよな?」
サトの表情がすぐに変わった。
「はぁ?」
自分を指差す。
「なんでそんな目で俺を見るんだよ?」
キヨシは少し前に身を乗り出した。
「お前の父親なら、この町の記録を持ってるはずだろ」
サトの顔が固くなる。
「……何考えてるんだ?」
「昔の学校について、何かないか調べられるかもしれない」
サトはキヨシを見つめた。
「それって……父さんの仕事のものを勝手に見るってことか?」
「正確には、そういうことじゃない」
「いや、それ絶対そういうことだろ!」
セイイチがサトを見る。
「できる?」
サトは少し迷った。
「父さんにバレたら、絶対殺されるぞ」
キヨシとセイイチはサトを見る。
二人とも何も言わなかった。
そして――
二人とも笑った。
サトの顔から表情が消える。
「……お前ら、最低だな」




