Chapter 7
**その頃――**
午後の太陽が、森の上で高く輝いていた。
暑さは、ほとんど耐えられないほどだった。
サトは袖で額の汗を拭いた。
その隣では、セイイチが片手で顔を扇いでいる。
二人はしばらくの間、キヨシを待っていた。
もう――
長すぎるくらいに。
サトは、もう一度森の入口を見る。
「なあ、セイイチ……」
「ん?」
「キヨシ、森の中で迷ったんじゃないか?」
セイイチは土の道を見る。
少しの間、何も言わなかった。
そして肩をすくめる。
「まあ……一人でも大丈夫だろ」
サトはセイイチを見る。
「マジで?」
「何が?」
「心配じゃないのか?」
セイイチは頬の汗を拭いた。
「いや、キヨシって別に何もできないわけじゃないし」
少し間を置いて――
「……それに、死んでても俺のせいにするなよ」
サトの目が大きくなる。
「おい、おい! 俺のせいにもするなよ!」
セイイチはすぐにサトを見る。
「なんでだよ!?」
「ここに来ようって言ったのはお前だろ!」
「それに賛成したのはお前だろ!」
「まさか本当にキヨシを中に行かせるとは思わなかったんだよ!」
「お前、思いっきり『中に何があるか見てみよう!』って言ってたじゃん!」
「理論的にはって意味だよ!」
セイイチはサトを見つめた。
「……それ、どういう意味だよ?」
「知らねえよ!」
サトは両手を上げた。
「ただ、ちょっと見て回りたかっただけだ!」
セイイチはため息をつく。
「最悪だ。お前の素晴らしい考えのせいで、俺たちの友達が死んでるかもしれないぞ」
「おい!」
サトは自分を指差す。
「俺、こんなんで刑務所に入りたくないぞ」
セイイチは瞬きをした。
「……刑務所?」
「そうだよ!」
サトは本気で心配しているようだった。
「もしキヨシが死んでたら、警察が誰に森へ行けって言われたのか聞くだろ」
彼は土の道を指差す。
「そしたら、俺とお前がバレる」
セイイチは数秒間、サトを見つめた。
そして、ゆっくりと表情を変えた。
「……なあ」
「何?」
「お前、キヨシより自分の心配してないか?」
サトは固まった。
「……そんなことない」
「今、刑務所に行くのが心配って言っただろ」
「だって刑務所なんか行きたくないだろ!」
「お前、最低だな」
二人はお互いを見つめた。
ほんの少しの間――
この状況が馬鹿らしく感じられた。
友達がただ森の中へ入っていっただけだ。
きっと、数分もすれば戻ってくる。
最悪のことを考える理由なんてない。
少なくとも――
二人はそう思うことにしていた。
その時だった。
**足音。**
二人は笑うのをやめた。
森の中から音が聞こえてきた。
速い。
不規則な足音。
どんどん近づいてくる。
セイイチの笑顔が消えた。
「……今の聞こえた?」
サトは頷いた。
二人とも動かなかった。
足音が大きくなる。
誰かが走っている。
セイイチは入口へ近づいた。
「サト……」
「聞こえてる」
遠くで枝が揺れた。
突然、木々の間から人影が現れた。
サトの目が大きくなる。
「キヨシ!?」
キヨシが森からふらふらと出てきた。
呼吸は荒れていた。
髪は乱れている。
制服には土がついていた。
二人のことも、ほとんど見えていないようだった。
もう一歩進む。
そして――
足から力が抜けた。
キヨシは膝をついた。
「おい!」
サトが急いでキヨシのところへ走る。
セイイチも続いた。
「キヨシ!」
キヨシは片手を地面についた。
必死に息を整えようとしている。
「はぁ……」
胸が激しく上下する。
「はぁ……はぁ……」
サトがキヨシの隣にしゃがむ。
「おい! 何があったんだ?」
キヨシはすぐには答えなかった。
まだ息をするのに精一杯だった。
セイイチはキヨシの後ろにある森を見る。
「中で何があったんだ?」
キヨシはようやく顔を上げた。
顔は青ざめていた。
「あそこに……」
声は、ほとんど聞こえないほど小さかった。
「学校が……」
彼は息を飲む。
「……学校がある」
サトは瞬きをした。
「学校?」
キヨシはサトを見る。
「学校が……あるんだ」
サトの表情が変わる。
「が、学校……?」
キヨシはゆっくり頷いた。
「桜島……」
声が震える。
「……高校」
沈黙。
森が、さっきよりも静かになったように感じた。
セイイチはキヨシを見つめた。
サトも何も言わない。
二人とも笑わなかった。
二人とも動かなかった。
その名前だけが、暑い午後の空気の中に残っていた。
**桜島高校。**
自分たちが通っている学校と――
まったく同じ名前。
セイイチの顔から、ゆっくりと血の気が引いていく。
サトは土の道を見る。
そして、もう一度キヨシを見る。
「……今、なんて言った?」
キヨシは視線を下げた。
「見たんだ……」
声は、さらに小さくなった。
「本当に……あった」
誰も、何を言えばいいのか分からなかった。
三人はただ、その場に立ったまま黙っていた。
その午後――
初めて、暑さなんて気にならなくなっていた。




