Chapter 5
三人の少年は、土の道の入り口に立っていた。
しばらくの間、誰も動かなかった。
明るい午後の日差しの下では、その場所は驚くほど穏やかに見えた。
頭上の枝の隙間から暖かな日差しが差し込み、土の道にまだらな光を落としている。
葉がそよ風に揺れる。
森の奥のどこかから、鳥の鳴き声が聞こえた。
何もおかしなところはない。
それなのに――
目の前へ伸びる道だけが、周囲のすべてから切り離されているような、妙な孤立感を漂わせていた。
沈黙を破ったのはサトウだった。
「それで……」
サトウは二人を見る。
「一回は俺の誘いを断ったくせに、結局ここまで来た奴がいるんだけど?」
セイイチとキヨシが、すぐにサトウを見る。
「うるさい!」
サトウは笑った。
「はいはい!」
三人の声が木々の間に響く。
「俺だって、まさか本当にまたここへ来るとは思わなかったよ」
サトウは小さく笑った。
「ただ、ちょっと気になっただけだ」
キヨシは通学鞄を持ち直した。
「まあ……」
前を見つめる。
「行くか。結局、俺たち本当にここまで来たんだし」
するとサトウが突然、セイイチを指差した。
「よし、セイイチ。お前が先に行け」
「はぁ!?」
セイイチの目が大きくなる。
「なんで俺なんだよ!?」
「だって、お前が一番興味津々だっただろ」
「だからって、俺が最初に行きたいわけじゃない!」
サトウは肩をすくめた。
「じゃあ、キヨシが先な」
キヨシはサトウを見つめる。
「なんで俺?」
サトウは笑った。
「だって、この中で一番勇敢で純粋な奴だからな」
キヨシは目を細める。
「……ただ俺をおだててるだけだろ」
「効いてる?」
「全然」
キヨシはため息をついた。
「分かったよ」
そして手を上げる。
「じゃんけんだ」
サトウはすぐに頷いた。
「おっ、それいいな」
セイイチも嫌々ながら手を上げる。
「俺、じゃんけん弱いんだけど……」
三人は肩を並べた。
「いくぞーー!」
「最初はグー!」
「じゃんけん――」
「ぽん!」
三人が手を出す。
キヨシ――
**グー。**
セイイチ――
**パー。**
サトウ――
**パー。**
キヨシは三人の手を見つめた。
長い沈黙。
「……え?」
セイイチがニヤリと笑う。
「お前の負け」
サトウも笑った。
「俺たち二人に負けたな」
キヨシは自分の拳を見る。
「あああ……」
拳を握りしめる。
「なんで俺、じゃんけんいつも弱いんだよ!?」
セイイチはすでに入り口へ歩き始めていた。
「運が悪いからだろ」
「じゃんけんに運も何もないだろ!」
サトウもセイイチの後を追う。
「ほら、行けって」
二人は入り口の近くで立ち止まり、振り返った。
セイイチが親指を立てる。
サトウも同じように親指を立てた。
「頑張れよ!」
キヨシは二人を睨む。
「この野郎……」
キヨシは深く息を吸った。
二人のそばに鞄を置く。
そして――
土の道へ足を踏み入れた。
最初の数分間は、驚くほど何も起こらなかった。
キヨシは木々の下を歩いていく。
靴が乾いた土を踏む。
**ザクッ。**
**ザクッ。**
午後の日差しは、まだ道まで届いていた。
森は暗くない。
怖くもない。
むしろ――
綺麗だった。
キヨシは周囲を見回す。
「へえ……」
小さく笑う。
「大したことないじゃん」
そのまま前へ進む。
「普通の道と変わらないな」
さらに数歩。
「こんなところ、誰が怖がるん――」
キヨシは足を止めた。
右側に、細い道が分かれている。
キヨシは首を傾げた。
「ん?」
その道の脇に、何かが立っていた。
板だった。
最初は、ほとんど見えなかった。
雑草や野草に覆われ、その姿の大部分が隠れている。
キヨシは近づいた。
「なんだ、これ?」
葉を手で払いのける。
板は古かった。
かなり古い。
長い年月の風雨にさらされ、表面のほとんどが汚れと劣化で消えかけている。
そこには絵が描かれていた。
簡単な人影。
子供だった。
キヨシはじっと見つめる。
「……子供?」
その絵が何を意味しているのか、キヨシには分からなかった。
突然、森を風が吹き抜ける。
**ヒュウウウ……**
頭上の枝が大きく揺れた。
**パキッ。**
背後のどこかで、小さな枝が折れる音がした。
キヨシはすぐに振り返る。
何もない。
木々だけだった。
キヨシはしばらく待った。
……
何も起こらない。
ゆっくりと前へ向き直る。
視線が再び細い道へ戻った。
好奇心が勝った。
キヨシは、その道へ足を踏み入れた。
歩けば歩くほど、森は静かになっていった。
最初は、まだ鳥の声が聞こえていた。
やがて――
その声さえ消えた。
聞こえるのは、自分の足音だけ。
**ザクッ。**
**ザクッ。**
細い道は、まっすぐ奥へと続いている。
キヨシは歩き続けた。
まだ怖くはなかった。
少なくとも――
今は。
ただ、気になっていただけだった。
数分ほど歩いた頃。
木々の向こうに、何かが見えた。
最初は、ただの影にしか見えなかった。
森の奥に隠れる、大きく白っぽい建物。
キヨシは歩く速度を落とした。
「……ん?」
それが何なのか、まだ分からない。
キヨシはさらに近づいた。
木々の間から、少しずつその姿が現れていく。
高い壁。
その奥に、もう一つの建物。
大きな窓。
屋根。
いくつもの建物がつながっている。
キヨシは足を止めた。
そこはかつて、人で溢れていた場所のように見えた。
だが今は――
人の姿は一人もない。
声もない。
動くものもない。
生きている気配すらない。
建物だけが、木々の奥で静かに佇んでいる。
キヨシは眉をひそめた。
「……なんだ、ここ?」
さらに一歩進む。
すると道が開け、広い空間へと出た。
そして――
そこにあった。
数メートル先に、大きな入り口がある。
二つの大きな門。
その先には、広い敷地が続いている。
キヨシは見慣れない建物を、ゆっくりと見渡した。
どこか見覚えがある。
ここへ来たことがあるわけじゃない。
なのに――
建物の形。
窓。
敷地の配置。
何かが、すでに知っている場所のように感じられた。
キヨシはじっと見つめた。
呼吸がゆっくりになる。
その時、入り口の上にあるものが目に入った。
古びた看板。
文字はかなり読みづらくなっている。
キヨシは目を細めた。
「……サク……」
もう一歩、前へ進む。
「サク……ラ……」
心臓が突然、速くなった。
今なら読める。
**桜島……**
キヨシの目が大きく見開かれる。
「……高校?」
その言葉は、ほとんど口から漏れるように出た。
キヨシは凍りついた。
学校。
森の中に隠された学校。
そして、その名前は――
自分が通っている学校と、まったく同じだった。
**桜島高校。**
キヨシは入り口を見つめ続けた。
頭の中が完全に真っ白になる。
*……違う。*
*そんなはずがない……*
キヨシはもう一度、建物を見る。
古い。
静かだ。
人の気配がない。
それでも、間違いなく見覚えのある学校だった。
同じ名前。
同じような校舎。
生徒たちが過ごすために作られたような、同じ雰囲気の校庭。
それなのに、この場所は――
ずっと昔から忘れ去られていたように見えた。
キヨシはゆっくりと後ずさる。
一歩。
靴が土を擦った。
**ザリッ。**
キヨシは立ち止まった。
視線は、入り口から離れない。
その時――
すぐ隣に、何かを感じた。
誰かがいる。
キヨシの身体が強張った。
足音は聞こえなかった。
誰かが近づいてくる気配もなかった。
それなのに――
キヨシの**左側**には、誰かが立っていた。
キヨシはゆっくりと首を動かす。
そこに――
一人の女が立っていた。
ただ……
そこにいた。
キヨシの目が大きく見開かれる。
息が喉につかえる。
女はキヨシのほうを見る。
そして、穏やかな女性の声で――
「あら……」
ほんの少しの間。
「坊や……迷子なの?」
キヨシは女を見つめた。
「え……?」
身体が動かなかった。
しばらくの間、二人の間には何も言葉がなかった。
森は完全な静寂に包まれていた。
そして二人の背後には――
古びた桜島高校の入り口が、木々の間で静かに佇んでいた。




