↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

Chapter 14


キヨシは目を覚ました。


しばらくの間、毛布の下で横になったまま、天井を見つめていた。


部屋は静かだった。


ゆっくりと体を起こし、目をこすってから窓のほうを見た。薄い朝の光がカーテン越しに差し込み、見慣れた家具や、机の横に置かれた通学カバンを照らしていた。


すべてが昨日と同じに見えた。


けれど、何もかもが変わってしまっていた。


ベッドから出て、居間へと向かった。


家の中は、いつも以上にきれいに片づいていた。床は掃除され、家具もきちんと並べ直されていた。両親の言い争いのあと、ずっと残っていた壊れた物もなくなっていた。


キヨシは玄関の近くで立ち止まった。


空っぽの部屋を、ゆっくりと見回す。


そして、ほとんど無意識のうちに呼びかけた。


「お、お母さん?」


静寂。


キヨシは待った。


もう、誰も返事をしてくれないことは分かっていた。


それでも、心のどこかでは、まだ母親の声が聞こえることを期待していた。


台所から声が聞こえてくるかもしれない。


どうしてこんなに早く起きたのかと尋ねられるかもしれない。


朝ご飯の前に顔を洗いなさい、と言われるかもしれない。


しかし、何も聞こえなかった。


キヨシはうつむいた。


十五歳のキヨシは、何か問題が起きても、いつも冷静でいられる人間だった。


簡単に慌てるような性格ではない。


困難な状況に直面しても、反応する前に、まず何が起きたのかを理解しようとしていた。


けれど、今回は違った。


母さん。


父さん。


サラ。


三人とも、もういない。


あまりにも突然の出来事だったため、彼の心はまだ現実を受け入れられずにいた。


たった一日前まで、友達と長野の町を歩き、廃校や昔の謎について悩んでいた。


それなのに今は――


帰るべき家族が、もういなかった。


外では、すでに近所の噂が広まり始めていた。


人々は死亡事件や警察の捜査について、そして長野に古くから伝わる話と、今回の悲劇が関係している可能性について、ひそひそと話していた。


誰もが、何か言いたいことを持っているようだった。


けれど、この家の中に立つことがどんな気持ちなのか、誰も分かっていなかった。


キヨシは窓のほうを向いた。


泣かなかった。


ただ、そこに立ち尽くし、これから自分が何をすればいいのかを理解しようとしていた。


その時、玄関のドアの鍵が回る音がした。


ドアが開いた。


祖母が、小さな袋を持って入ってきた。


ドアを閉め、靴を脱いでから、居間のほうを見た。


「あら、ユウ。起きていたのね」


落ち着いた声だった。


まるで、ちょっと買い物に出かけて、朝ご飯よりも早く起きた孫を見つけたかのようだった。


キヨシは祖母を見た。


「うん」


祖母は袋をテーブルに置き、家の中を見回した。


それから、キヨシのほうを向いた。


「話しておかなければならないことがあるの」


キヨシは黙っていた。


祖母の表情が、少しだけ真剣になった。


「準備ができたら、こっちに来て座りなさい」


そう言って、祖母は居間へ向かった。


キヨシはしばらく祖母を見つめてから、そのあとを追った。


二人は座ったあとも、しばらく何も話さなかった。


外では、まるで何も起きなかったかのように、朝が続いていた。


そして家の中では、難しい話が始まろうとしていた。


一方、その頃――


道路脇の排水溝を、雨水が勢いよく流れていた。


前日に降った激しい雨のせいで、道路はまだ濡れていた。水は狭いコンクリートの蓋の下を勢いよく流れ、ときどき落ち葉や小さなゴミを押し流していった。


セイイチは、うつむきながらサトの隣を歩いていた。


「ズズッ……」


サトはちらりと彼を見た。


数歩進む。


「ズズッ……ズズッ……」


「おーい」


セイイチは袖で鼻を拭いた。


「何だよ?」


「少しくらい泣くのをやめられないのか?」


「どうやってやめるんだよ……」セイイチは再び鼻をすすった。「スイッチみたいに簡単に切り替えられるわけじゃないんだぞ!」


サトは苛立ったようにため息をついた。


「俺だって悲しいんだぞ」


「じゃあ、何でやめろなんて言うんだよ?」


「お前のせいで、こっちまで余計につらくなるからだよ!」


セイイチは涙で潤んだ目でサトを見た。


一瞬、サトはまた言い返そうとした。


しかし、結局、目をそらした。


「くそっ……」


ポケットに手を突っ込む。


「キヨシがかわいそうだ……両親も、それにサラまで。一度に全員だぞ」


その声は、だんだん小さくなっていった。


二人はしばらく黙っていた。


勢いよく流れる水の音だけが、沈黙の間を満たしていた。


セイイチが再び鼻をすすった。


サトは彼のほうを向いた。


「おい、マジで――」


「泣くのを我慢しようとしてるんだよ!」


「俺はまだ何も言ってねえだろ!」


「言おうとしてただろ!」


サトは口を開き、それから閉じた。


「……もういい」


二人は言い合いをしていたが、どちらも昨日の出来事を忘れることはできなかった。


二人は何年もキヨシと一緒に過ごしてきた。


一緒に笑い、言い争い、数え切れないほどの午後を、くだらないことをして過ごした。


昨日まで、キヨシは二人の隣に立ち、廃校について話していた。


それなのに今日、彼は家族全員を失った。


サトは唾を飲み込んだ。


「せめて、あいつのそばにいてやろうぜ……」


小さくつぶやいた。


セイイチは頷いた。


「ああ」


二人は再び歩き始めた。


やがて、キヨシの家が見えてきた。


門に近づくにつれて、二人の歩く速度が落ちていった。


しばらくの間、どちらも何と言えばいいのか分からなかった。


やがて、サトがインターホンに手を伸ばした。


**ピンポーン!**


二人は待った。


何も起きなかった。


サトはもう一度押した。


**ピンポーン!**


それでも返事はなかった。


サトはドアを見つめ、それから両手を頭の後ろに回した。


「中で何してんだよ?」


セイイチは鼻をすすりながら、窓のほうを見た。


「おばあちゃんと話してるんじゃないか? 昨日のこともあるし、いろいろ話さなきゃいけないだろ――」


その時、玄関のドアが開いた。


キヨシが立っていた。


「ああ……セイイチ、サト」


落ち着いた声だった。


普段着を着ていて、寝起きなのか、髪はまだ少し乱れていた。


顔には、泣いたような跡もほとんど見られなかった。


まるで、以前から二人が知っているキヨシと同じようだった。


何も変わっていないかのように。


「よ、よう」とセイイチは、できるだけ普段どおりに聞こえるように言った。


サトも小さく頷いた。


「お前に会いに来たんだ」


「そうだと思った」


キヨシは一度家の中へ戻り、靴を履いてから玄関へ戻ってきた。


「おばあちゃん、ちょっと出かけてくる」


廊下の奥から祖母が姿を現した。


「分かったわ。遅くならないようにね。夕方には出発しなければならないから」


キヨシは頷いた。


「分かった」


友達のほうを向く。


「行こう」


三人は家を離れた。


しばらくの間、聞こえるのは足音と、靴が時折水たまりを踏む音だけだった。


セイイチは何度もキヨシをちらちらと見た。


大丈夫かと聞きたかった。


しかし、その質問はあまりにも失礼な気がした。


家族を失ったばかりの人間が、どうして大丈夫でいられるというのだろう。


代わりに、別のことを尋ねた。


「なあ、キヨシ。さっき、おばあちゃんが言ってたことなんだけど……」


キヨシは彼を見た。


「何のこと?」


「夕方には出発するって言ってただろ? どこへ行くんだ?」


サトも振り返った。


「ああ。俺も聞いたぞ」


キヨシは歩き続けた。


冷たい空気が三人の頬を撫でた。


雲はまだ長野の空を低く覆っており、道路には雨の跡が残っていた。


数秒後、キヨシが口を開いた。


「なあ、セイイチ。サト」


「ん?」とセイイチが答えた。


「どうやら……」


キヨシは少し言葉を止めた。


「おばあちゃんと一緒に、東京へ引っ越すことになりそうなんだ」


サトは足を止めた。


「え……?」


セイイチはつまずきそうになった。


「待てよ。何だって?」


キヨシは振り返った。


「おばあちゃんが、俺を連れていくって。今日の夕方には長野を出るんだ」


数秒間、二人は何も答えられなかった。


サトは聞き間違えたかのように、キヨシを見つめていた。


「ちょっと待て。今日、出発するのか?」


「ああ」


「東京に?」セイイチが尋ねた。「本当に東京へ行くのか?」


キヨシは頷いた。


「ああ、そうだよ」


「でも……どうしてそんなに急に?」セイイチの声が揺れた。「おばあちゃんと一緒に暮らすっていうのは分かるけど……」


そこで言葉を止めた。


この状況を普通のことのように扱う意味などなかった。


三人はしばらく、黙って歩き続けた。


冷たい風が通りを吹き抜け、雨水が道路脇を流れていた。


やがて、キヨシが口を開いた。


「俺は、両親がどうして死んだのかを突き止めたい」


二人はキヨシを見た。


「昨日、いろんな噂を聞いたんだ」とキヨシは続けた。「殺人だと言う人もいた。呪いのせいだと言う人もいた。それに、父さんが家族を殺したんじゃないかって言う人までいた」


彼の手が、わずかに握りしめられた。


「何が本当なのか、俺には分からない。でも、本当のことを知らないまま、何もせずにここを離れるわけにはいかないんだ」


セイイチは道路を見下ろした。


「ああ……昨日は、みんな好き勝手なことを言ってたな」


「俺は、あんな噂を信じていない」とキヨシは言った。「自分の目で真実を確かめたいんだ」


サトは静かに頷いた。


「だったら、俺たちも調べるよ」


キヨシはサトをちらりと見たが、何も言わなかった。


三人は歩き続けた。


セイイチもサトも、キヨシに長野へ残るよう説得しようとはしなかった。


祖母と一緒に行かなければならないことは、二人にも分かっていた。


たとえ、こんなに早く別れたくなかったとしても。


しばらくして、セイイチが口を開いた。


「東京でも、元気でいろよ」


「ああ。お前らもな」


サトはポケットに手を突っ込んだ。


そこで会話は終わった。


三人はまだ若く、こんな状況にどう向き合えばいいのか、誰も分からなかった。


起きてしまったことを変えることはできない。


すべてが大丈夫になると約束することもできない。


ただ、現実を受け入れるしかなかった。


キヨシは、その日の夕方に長野を離れる。


けれど、長野を離れることは、起きたことを忘れるという意味ではなかった。


噂や非難の奥には、両親の死に関する真実が隠されている。


そして、いつか――


キヨシは、その真実を必ず見つけ出すつもりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。