第9話 零の処方戦
「今更かとは思うけど、僕は魔人病だ。テオは身内に魔人病がいたから、理解してくれてたけど、多くの人は違う。僕と行動することで、偏見や差別を受けてしまうだろう。その覚悟はあるかい?」
「はい!あります!」
「きっと今、テオが想像しているのより、ずっときついと思うけど、それでも大丈夫かい?」
テオは勢いよく顔を上げ、まっすぐ僕の目を見て
「もちろんです!覚悟の上です!」
力強く言い切った。その様子を見て、僕はテオが差し出していた手を握り、握手を交わす。
「色々大変なことはあると思うけど、一緒に乗り越えていこう。よろしくね」
「はい!ありがとうございます!よろしくお願いします!」
テオは新しいおもちゃをもらった子供のようにはしゃぎ、握手した腕が痛くなるくらい、ブンブンと腕を振っていた。
ヒリヒリする肩をさすりながら
「明日早速パーティー申請をしようか」
と提案するとテオは元気よく
「はい!お願いします!パーティーとなるとパーティー名とかも決めないとですよね?」
と尋ねてくる。
「そうだね。そのことをすっかり忘れていたよ…。どうしようかな」
と悩んでいるとテオが
「零の処方戦なんてどうですか?処方には医師が患者の病状や体質に合わせて、治療に必要な薬の種類、量などを指示するっていう意味があるじゃないですか!相手に合わせて戦い方を変えるラートさんの戦闘スタイルに合っていると思いませんか?それに、魔人病の薬をゼロから創ろうという意味もこもっています!」
と提案してくる。
「悪くない…いや、いいよ!すごくいい!」
まさかテオにこんな才能があったとは、驚きだ。僕の考えていた魔人病撲滅バスターズとは比べ物にならない。僕が言うより先にテオが提案してくれてよかった…。
「無事にパーティー名も決まったことだし、今日はこれくらいにしておこうか」
と後片付けを始めると、
「あっ…あの、ラートさん…。もう一つお願いがあるんですけど…」
とこちらのご機嫌を伺うように、恐る恐る聞いてくるテオ。
「改まって、どうしたの?」
「実は先程、お話しした通り、計画なしにこっちに来たものですから、今は宿生活をしているんです」
「うん、それがどうかしたの?」
「宿代も馬鹿にならないので、できれば、泊めて欲しいな…なんて…」
と頬を少し赤らめさせ、こちらの様子を横目で伺っている。
「イタッ!!」
的当て用に並べた丸太を薪がわりにするため、抱えていたのだが、予想だにしなかったお願いに、足の上に落としてしまった。僕が身を屈めていると
「ラートさん!大丈夫ですか?」
気づいたら側にいたテオが膝に手をつき、心配そうに見ている。顔が近い…なんだか甘いいい香りもする。テオが僕の家に泊まる…。僕は慌てて後退り、よからぬ思いも払うように
「だっ、大丈夫!大丈夫!」
と手を左右に大きく振る。不思議そうに見てくるテオ。
「ほら!この通り!」
僕は素早く立ち上がり、その場で足踏みをしてみせた。そして、何事もなく片付けを続けようとすると
「で、ラートさん。どうなんですか?今後のことを考えると、宿代の節約もできますし、研究のお手伝いもできますよ!一石二鳥!宿代の代わりに家事やりますので、ラートさんからしたら一石三鳥じゃないですか?」
と詰め寄ってくるテオ。テオの言う通り、僕には利点しかない。だけど、年頃の女の子との共同生活など、僕にはハードルが高すぎやしないか…。頭の中の天使と悪魔が囁き、フリーズしていると、テオが少し不機嫌そうに
「否定しないってことは、いいってことですね!それでは、荷物取ってくるので、もし見られたくないものとかあれば、それまでに片しておいてくださいね!」
と告げて、行ってしまった。すぐにオーケーを出さなかったことを、もしかしたら、テオと一緒に暮らしたくないからと勘違いさせてしまったのかもしれない。
ーー
テオが荷物持って、戻って来た。我が家に招き入れ、簡単なルームツアーを行った。
「けっこう綺麗にしてるんですね」
「ま、まあね」
テオが戻ってくる前に慌てて掃除した甲斐があったようだ。
「台所借りてもいいですか?私がなんか作りますよ!」
と腕まくりをするテオ。
「それは非常に助かるね。水とか火とか使いたかったら、言ってね」
「そうか!ラートさんはどっちの属性も使えるから、魔道具がなかったんですね!」
魔道具とは、魔球に特定の魔法を出すための刻印が刻まれたものである。火をつけたり、水を出したり、灯りをつけたりと、簡単な魔法ならボタン一つで出すことができる便利なアイテムだ。魔術師でなくても、魔法を使うことができ、今ではこれ無しでは、生活ができないほど普及している。魔球は加工が難しいため、強い魔法を刻むことが出来ず、戦闘などに使われることはない。
「うん、僕なら魔道具無しでも、火をつけたり、水出したりできるからね」
「ラートさんってほんと凄いですよね!では、早速ですが、炒め物を作るので、火をつけてもらってもいいですか?」
火をつけてあげると、テオは料理を作ってくれた。
「ラートさん!できましたよ!」
テーブルに並べられた料理を見て、衝撃を受ける。
「ちょっぴり、焦げてしまいましたが、たぶん味は大丈夫ですので!」
全然ちょっぴりではなかった。真っ黒で、何を炒めた物なのかも分からなかった。
「いただきます!」
と手を合わせてから、テオが炒め物?を食べる。その様子を静かに見守る。
バリ、バリ、バリ
「ん〜!おいしい!我ながら上出来です!ラートさんもどうぞ」
おっ美味しいのか…これは…。せっかく作ってくれたのだ、一口も食べないのは失礼にあたるだろう。意を決して僕も食べてみる。
「えっ!?美味しい…」
「ですよね!さすが私!」
と得意げにしているテオ。味は確かに奇跡的に美味しかったが、丸焦げものは体によくない。次からは料理は僕がやることにしよう。
「ごちそうさまでした!美味しかったよ。ありがとう!作ってくれたから、片付けは僕がするよ。その間にシャワーでも浴びてきたらいいよ」
「え!いいんですか!汗かいたので、助かります!覗かないでくださいよ〜」
「そんなことするわけないだろ!早く行ってこい!」
テオはイタズラぽく笑いながら
「はーい」
と返事をし、浴室へと向かった。僕が洗い物をしていると
「ラートさん!大変です!水が出ません!」
バスタオル一枚だけを巻いたテオが戻って来た!
「おっおい!なんて格好してるんだ!」
僕は慌てて視線を外す。
「水が出ないんですよ!」
「そうだった…。シャワーも魔法で水を出していたから…」
すると、テオに手を引かれ、浴室へと連れて行かれる。
「この扉から、手だけ入れて、水を出すことってできますか?」
「できると思うけど…」
「なら、そうしましょう!覗かないでくださいね!」
言われるがまま、浴室の扉から片手だけ中に入れ、お湯を出してあげる。お湯にできているのは、火と水の魔法を組み合わせているからだ。テオは鼻歌を歌いながら、体や髪を洗っているようだ。なんともすごい状況だ。この扉の向こうで、テオがシャワーを浴びている。こんなのを毎日続けていたら、僕の身が持たない。魔道具の購入を真剣に考えていた。
僕もシャワーを済ませ、ベッドはテオに貸して、僕はソファーに横になっていた。
「ラートさんおやすみなさい」
「おやすみ」
と返事をすると、よほど疲れていたのだろう間もなくテオは寝息をかいていた。これから、こんな慌ただしい毎日になるのかと思うと、呆れる反面、胸が躍っていた。明日からは、零の処方戦としての活動が始まる。メンバーが増えることで、受けれるクエストの幅も広がるだろう。辛い時期もあったが、人生まだまだ、これからだ!と決意を固めた。
ーー
翌日
「では、零の処方戦のパーティー登録が完了いたしました。こちらが、パーティー手形になります」
「えっ!?F級?僕ってC級でしたよね?」
続く




