10話 準備
「F級ってどういうことですか?リアーナさん」
とテオが僕の代わりに詰め寄る。しかし、リアーナさんは淡々と答える。
「個人とパーティーは別物なんです。そもそも、個人で活動している人が少ないです。個人で始める人もいますが、ある程度のランクまで上げたら、既にそこそこの実績を積んでいるパーティーに戦力補給としてスカウトされます。個人でランクを上げた人は、わざわざ一からパーティーを作る必要がないんです。なので、個人とパーティーでは別々にランクを管理してます」
僕はこの姿だからスカウトされなかったけど、普通ならC級になる前にどこかに入れてもらえていたとうことか…
「そこをなんとかなりませんかね?」
と食い下がってみるものの
「ラートさんが強いのは分かりますが、例外は認められません。個人のランクを上げてからパーティーを作っても、ランクを引き継げるとなると、無理にパーティーを組まずにソロで始めようとする者が増えてしまう恐れがあります。経験の少ない者は、不測の事態に陥った時に、大怪我や命を落としてしまう可能性が高いです。ですが、パーティーを組み複数人で行動していれば、そのような事態も切り抜けられる可能性が上がります。ギルドは安全面からパーティーでの活動を推奨してますので、ご了承ください」
「いえ、こちらこそ、無理を言ってすみませんでした。ランクの上げ方は個人と変わりないですか?」
「はい、ほとんど変わりません。各クエストにはその難易度に応じたポイントが割り振られています。クエストをこなし、そのポイントを一定数集めることでランクを上げることができます」
「分かりました。ありがとうございます!」
リアーナさんにお辞儀をし、クエストボードへ向かう。
「ポイントは基本的に難しい討伐系が高いから、それを中心にこなしていこう」
「分かりました!………あれ?F級の討伐依頼がありませんよ」
「ほんとだね、早い者勝ちだからね。仕方ない」
ーー
翌日
「ラートさん!今日もありませんよ」
「困ったね…明日は朝一で来てみようか」
ーー
翌日
「朝一で来た甲斐がありましたね!クエストありますよ!」
待ちきれず、駆け足でクエストボードへ向かったテオが僕を手招きをしている。テオの方へ向かっていると、僕の脇をすごい速さで通り抜けていく人がいた。たしか、あの人は以前テオとクエストの取り合いで揉めていた人だ。その人は依頼書を何枚も一度に取り、受付へと行った。クエストボードの前に着いた僕は
「E級の討伐系クエストがないな」
と呟いた。
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない。クエストを受けてこようか」
依頼書を手にして受付へ行く。
「このクエストを受けたいです。昨日まではF級の討伐系のクエストが全然なかったんですけど…」
とリアーナさんに事情を聞いてみる。
「それは、セナさんのせいですね。早くランクを上げたいようで、1日に何件も受注していくんです。討伐クエストはその日中にこなさないと報酬をもらえないので、これまで複数受注する人がいなかったので、制限する制度がないんです。私的には危ないので、自重するようお願いしてるのですが…」
なるほど、それで、クエストがなかったのか。今日はE級のクエストを大量に受注していたので、Fからランクが上がったのだろう。クエストを複数受注するという発想はなかった。確かに効率的だ。クエストを独占してしまうと他の冒険者との軋轢を生む可能性があるから、二件ずつ受けていけば、早くランクアップできそうだ。
僕たちは、コツコツと毎日二件ずつこなし、順調にランクを上げていった。戦闘は主にテオに任せ、僕は補助にまわった。テオの魔法の腕もかなり上達し、止まってる物にならほぼ100%当たるようになった。しかし、なかなかイメージがつかないのか、自己強化の魔法は習得できていない。
「ランクアップおめでとうございます。C級になります」
「ありがとうございます!ようやくですね!ラートさん!」
1ヶ月かけて、僕の個人ランクに追いつくことができた。テオの言う通りここからが本格的なスタートとなる。家路につき、テオと話しながら帰る。
「明日から早速C級のクエストに行きますか?」
「いや、できれば明日は鬼火蝶の討伐に行きたいな。そろそろ、鱗粉が無くなりそうなんだ。C級以上となると苦戦を強いられる可能性も高い。備えるだけ備えておきたい」
ーー
「テオはそこから真上に魔法を撃って!爆発するから、決して鬼火蝶には当てないようにね!」
「はい!サンダーボルト」
テオが術を発動させると警戒して、鬼火蝶が鱗粉を振り撒く。
「ウォーターボール」
球体の水を当てる術だ。威力はとても弱い術だが、水に触れた鱗粉は水分を吸って重くなり、地面へと落ちていく。
「よし!この調子で鱗粉をたくさん出させよう!」
この作業を何回も繰り返す。
「ラートさん!いつまでこれ、続けるんですか?」
「次でラストにしよう!」
そう言って、最後の鱗粉を濡らした直後にウォーターバレットで核を射抜き、討伐する。
「そしたら、テオ。この地面に降り積もった鱗粉を回収するぞ」
「どうやって回収するんですか?」
「もちろん手だよ」
「え〜!これ全部ですか…」
「テオがいてくれて本当に助かるよ」
「こういう時ばっかり〜」
イーと威嚇するテオをからかいながら、鱗粉を回収し、家に帰って来た。
「よし!まずは鱗粉を仕分けようか」
バケツに水を張り、そこに集めて来た鱗粉をドバッと入れる。土や砂も混ざっており、水はたちまち茶色く濁る。
「土とか砂とか混ざってますけど、よかったんですか?」
「まあまあ見ててよ」
そのバケツには鎖が繋がれており、その鎖を地面に深く差し込まれた棒に固定する。
「トルネード」
ラートが魔法を使うと、バケツが棒を中心として、メリーゴーランドのようにグルグルと高速で回転し始める。
「これは…何してるんですか?」
「遠心分離だよ」
「…なんですか?それは…」
「コップに泥水を入れて、放置しておくとどうなるか分かる?」
「いえ…」
「時間と共に水中に漂っていた泥が重量によって沈み、比較的綺麗な水と泥の二層に別れるんだ。ただ、沈みきるまで、待たないといけない。そんな時に、これを使うのさ。重力ではなく、遠心力で水より重い土や砂は底の方へ行き、水より軽い鱗粉は浮くというわけ」
バケツの回転を停止させ、テオに見せる。
「ほら、底には土とかがあって鱗粉は浮いてるでしょ。後は、この鱗粉を掬い上げるだけで、鱗粉だけを回収できるのさ」
「お〜、こんな方法があるとは…次は何をするんですか?」
「濡れたままだと、この鱗粉は起爆剤の効果を示さないからね。乾かします」
「天日干しするってことですか?」
「残念ながら違うんだ。この鱗粉は一度濡れると爆発しなくなるとされていた。だけど、ソロで活動するには、詠唱なしで炎魔法の威力を上げられるこの鱗粉をどうにか利用できないかと色々試してみたんだ。まずは、僕もテオと同じで天日干しを試してみた。結果は、乾いたはずなのに効果がなかった。水を蒸発させればいいだけだから、火で炙ってみた。すると、パチっと凄く小さい爆発が起きた。おそらく、部分的に乾いたところから、熱で爆発が起きてしまい、乾かす前に無くなってしまった。ただ、面白いのは、小さい爆発が起きたことだ」
「濡らしても、爆発させられるようにできるってことですね!」
「その通り!乾かし方によっては、爆発効果を復活できるということ。天日干しと火炙りの大きな差は、乾かすスピードだ。乾かすスピードを上げる必要があった。しかし、熱を使うと爆発してしまい無くなってしまう。こんな時に、便利なのが真空乾燥」
「真空乾燥?」
「この容器の中に回収した、濡れてる鱗粉を入れていく。そして、密封させて、この容器から出ている管から、風魔法を使って容器の中の空気をひたすら押し出す。すると、容器内の空気はみるみると無くなり、真空状態となる。つまり、空気圧がなくなる。空気圧が無くなると、沸点が低くなって、水が常温でもどんどん蒸発するようになる。つまり、熱を使わずに早く乾かすことができるんだ」
「途中から、よく分からなくなりましたが、とにかく、これをすると、早く乾くんですね」
「ついつい熱くなってしまった。申し訳ない」
「いえ、楽しかったですよ」
と笑顔を向けてくれるテオ。なんて優しいんだ彼女は…。
「そしたら、乾かした鱗粉を持ち運びやすいように試験管に移したら、完成!テオのおかげで大量に集められたから、しばらくは保ちそうだよ。ありがとう!」
「一ヶ月以上一緒にいますが、ラートさんが研究ぽいことしてるの始めて見ましたよ。すごかったです!」
「ランクの低い魔物との戦闘が多かったからね。でも、C級になったからこれからだよ!」
「そうですね!何か既に目星など付けているんですか?」
「実はC級なんだけど、受注条件に複数人で受けなくてはいけない魔物がいて、気になっていたけど、ずっと受注できていなかったんだ」
「そこで、私の出番というわけですね!」
「その通り!本当か嘘か分からないが、その魔物の肉を食べた者が不老不死になったという噂があるんだ」
「何ですかそれは?何だか嘘くさいですねー」
「まあね。ただ、魔人病に何が効くかも分からないし、物は試しだろ?」
「そうですね!ちなみにその魔物は、何と言う魔物なんですか?」
「その名はセイレーン。その魔物の特徴は…」
続く




