7話 魔術訓練
僕はリアーナさんに付いて行くと
「これは先に私が取ったんです!離してください!」
「いいや!おらだね!おらが先だった」
とテオが小柄な女性と揉めていた。どうやら、クエストの依頼書をどちらが先に取ったかで争っているようだ。二人は一つの依頼書を引っ張り合っていた。リアーナさんが慌てていたから、また命に関わるようなことに巻き込まれているのかと思い、心配していたが安心した。
「ラートさん!テオさん達をどうにかしてください。私の言うこと全然聞いてくれなくて、このままでは仕事になりません」
クエストボードの前で、揉めているので、あれでは他の冒険者がクエストを受注できない。リアーナさんが困るのも頷ける。
テオと争っている小柄な女性は金髪のショートヘアーで、そばかすが特徴的だ。テオよりも一回り小さく身長は150センチ程度だと思われ、腰には短剣を携えている。おそらく、近距離アタッカーなのだろう。
どうやって仲裁すべきかと、二人の様子を観察していると、テオがこちらに気づく
「あっ!?ラートさん!おはようございます!」
とテオは依頼書から手を離し、両手を振りながら挨拶をしてくれた。テオが急に手を離したので、引っ張り合っていた小柄な女性は盛大に尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか?」
とテオが手を差し伸べたが、その女性は手を振り払い、勢いよく立ち上がる。
「これは、おらがもらって行く!」
とテオに言い放ち、リアーナさんのいる受付へと駆けて行った。テオの方に歩み寄り
「ああいう時は、まずは謝らないと」
と声をかける。
「そうですね。次は気をつけます」
「何のクエストを受注しようとしていたんだ?」
「スライムの討伐依頼です。せっかくラートさんに魔術について教えてもらうなら、実践できる方がいいと思ったんです。F級でも行ける討伐依頼はスライムくらいしかないので」
なるほど。それで譲りたくなくて、引っ張り合いになっていたのか。
「別に、クエストを受けなくても魔術の練習はできるし、いきなり実践より安全だから、今日は練習のみにしよう」
「はい!お願いします!練習は何処でするんですか?また災いの森ですか?」
「うーん、低級とはいえ魔物が出るし、僕の家の裏庭でよければ…」
「え!ラートさんの家に行っていいんですか!?」
驚いたのかテオの声は大きくなっていた。周りの冒険者達の視線を一気に感じ、ヒソヒソと耳打ちをしている。テオは可愛いから、パーティーに誘いたいと考えている冒険者も少なくないだろう。その娘が男性の家に行く、しかも僕のような得体の知れない者の家に。ざわついて当然だろう。
「とにかく、まずは場所を移そう」
と踵を返し、外へと向かう。
「えっ!はっはい!」
とテオは後を追って来た。あれ以上あそこにいるのは危険な感じがした。ただでさえ、敵が多いのだ。これ以上、増えたらこの街に居られなくなってしまう。
ーー
「まだですか?」
「もうちょっとだよ。ほらあそこ」
街外れの森の中にひっそりと佇んでいる、少し立派な小屋。これが僕の家だ。ここは災いの森と街のちょうど中間地点くらいに位置する。
「こんなところに住んでたんですね」
「ここなら、人の目も気にならないしね」
「何だか、空気が澄んでていい所ですね」
と言いながら、こちらを振り返るテオ。木漏れ日を浴び、優しい風が彼女の髪を揺らす。その姿は随分と眩しかった。
「裏庭ってのはこっちですか?」
とテオは前を向き歩き出した。
「そう!少し準備するから、ちょっと待ってくれ」
と後ろから声をかけた。
「これでいいかな」
と丸太を等間隔に並べ終えた。
「まずは一番左の丸太に向かって魔術を当ててみてくれ」
「さすがの私もそれくらい余裕ですよ〜」
とテオは杖を構え魔術を放つ。
「サンダーボルト」
電撃が丸太に命中し、黒焦げになる。
「見ましたか!」
と興奮気味に黒焦げになった丸太を指差している。
「じゃあ、次は走りながら、隣の丸太を狙ってみてくれ」
「えっ!?走りながらですか?」
「もちろん。魔物がこちらの攻撃を待ってくれると思うか?」
言われた通り、テオは走りながら魔法を放つ。
「サンダーボルト」
電撃は丸太の横を掠め地面にぶつかる。
「自分が動くだけで、かなり当てづらくなるだろう。しかも、戦闘となると相手も動く。まずは、止まっている的には百発百中できるようになるのが、理想だな。少しでいいから毎日練習してればそのうちできるようになるさ。次は止まっていいから、詠唱してから撃ってみようか」
「すみません…詠唱って何か喋るやつですよね?どうやるんですか?術によって決まってたりするんですか?」
「詠唱は別に何でもいいよ。何なら声に出す必要もないし」
「えっ!?そうなんですか?」
「うん。ただ集中力を上げて、術に込める魔力の量を増やしてるだけだから。集中力を高められたら、それでいいんだ。いわゆるルーティンというやつだね。術を発動する前に決まった動作をすることで、集中力を高められればそれでいい」
「ちなみにラートさんはどのような詠唱をしているんですか?」
「僕は相手や状況を整理することだね。魔物相手なら、その魔物がどんな魔物なのか考えることで、集中を高めているよ」
「それ、ホントに集中できるんですか?」
「人それぞれだからね。真似する必要はないよ。やりやすいのでいいからね」
テオは杖を構え、集中力を高める。
「……サンダーボルト」
眩いほどの電撃が丸太に当たり、消し炭になる。テオは目を見開いて固まっている。想像以上の威力に驚いているようだ。
「すごいな。こんなに威力が出るとは…。一撃の威力だけなら、僕を追い越すのもすぐかもしれないな」
「ほんとですか!?私才能ありますかね?」
「あると思うよ。命中率も威力も練習で少しずつ伸ばしていくしかないんだけど、最初からこの威力出せるのはすごいよ。では、次は当たらなくていいから、走りながら詠唱して撃ってみようか」
「やってみます!…サンダーボルト!」
電撃は丸太に当たらず、地面に当たった。
「あれ?」
と不思議がるテオ。
「気づいたみたいだね。さっきと同じように心の中で詠唱しながら魔術を出したはずなのに、威力が弱かっただろ。詠唱による威力強化は、基本動きながらはできないんだ。だから、パーティーで戦闘する場合、タンクや近接アタッカーが魔物の注意を引いてもらい、魔術師は安全な後衛から高威力の攻撃を繰り出して戦うのがセオリーなんだ」
「なるほど。それで魔術師だけのパーティーなどはいないんですね。ラートさんはこれまで一人でクエストをやっていたんですよね?どうやってC級にまで登り詰めたんですか?」
「それはね…」
続く




