第6話 人でありたい
「勿体ぶらずにさっさと言ってやってくれよ。俺たちは被害者だったんだって!」
とモヒカン頭が早くも勝利宣言する。
リアーナさんは表情を一つも変えることなく淡々と続ける。
「結果は…目撃者はいませんでした」
「はっ!?何を馬鹿なこと言ってる!そんなわけないだろ!」
「いえ、少なくとも今このギルドにいる冒険者は皆、今回の騒動について何も知らなかったと申しておりました」
「だから、そんなはずはないだろ!リズやゴムラはいなかったのか?」
「えぇ、いませんでしたよ。そんなに気になるなら自分の目で確かめていただいて結構ですよ」
モヒカン頭は慌ててドアを蹴り破り、部屋を出て行く。そして、すぐに戻ってきた。
「おい!アイツらいねーじゃねーか!どういうことだよ」
と仲間たちに怒鳴り散らし、地団駄を踏んでいる。
「落ち着けリーダー」
とタンクの男が声をかけるも、完全にキレてしまってる。
「うるせ〜なー!落ち着いていられるか!俺様がアイツらにいくら包んだと思ってんだよ!」
肩で息をしているモヒカン頭をよそに、仲間の三人は頭を抱えていた。
「いくら包んだんですか?」
と尋ねるリアーナさん
「いくらって…それは…」
とモヒカン頭の顔が青ざめていく。
「決着はついたようですね」
と腰にレイピアを携えた、好青年が急に部屋の中に現れる。黄色の瞳で、黒髪短髪。かなり清潔感があり、身長もリアーナさんと同じくらいある。あの白くて気品のある制服からして聖衣団だろう。冒険者が対魔物のプロなら、聖衣団は対人のプロである。犯罪者の捕縛などが主な仕事だ。
「ここまでの一部始終を見させてもらったよ。こんな感じでね」
と足の方から少しずつ透明になっていき、すっかり見えなくなったと思ったら、またパッと突然現れた。原理は分からないが、透明のようになれる高度な魔術を使って、これまでのやり取りを見ていたらしい。
「ドアを壊してたのも見てたし、罪状は殺人未遂と器物破損ね」
と言い、モヒカン頭の手錠に鎖を繋げ引っ張って行く。
「この魔物風情が!いつか絶対に殺してやる!絶対だ!殺してやる!殺してやる!……」
といつまでもこちらを睨み叫んでいた。残りの三人は大人しく従っている。タンクの男が部屋を出る直前に立ち止まり、こちらを振り返る
「最後に一つ聞きたいことがあるんだが、なぜあの時すぐに鱗粉を爆発させなかったんだ?一瞬ではあったが、俺にはリーダーが俺の盾の後ろに隠れるのを待っていたように感じたのだが…」
「本か何かで読んだのだが、揉めた時に人を殺すことで解決させた者は、また問題に直面した時にまず相手を殺すことを考えてしまうようになってしまうらしいんだ。どうやら殺すのが一番手っ取り早いと思うようになってしまうらしい。もし、僕がそうなったら、いよいよ人とは言えない。僕は心だけでも人でありたいんだよ…」
「そうか、こんなこと言ったって許されないのは重々承知しているが言わせてくれ。本当にすまなかった。そして、ありがとう。いつからか、あんなんになっちまったが、俺たちにとっては憧れで大事な人なんだ…」
と言って、奥へと消えて行った。
「これで一件落着ですね!よかったですねラートさん!」
とテオが明るく話を振ってくれる。
「そうだな。正直、生きた心地がしなかったよ。僕の味方なんているわけないし、向こうには何か裏があったみたいだし」
「ラートさん、こちら請求書になります」
とリアーナさんが一枚の紙を唐突に渡してくる。
「えっ!?何の?」
「リズさんとゴムラさんを買収するのにかかった費用です」
「ば…買収!?何どういうこと?」
「金で動く人は金で裏切るんです。私が目撃者を探しに広間の方へ一人で行ったのを覚えていますか?その時に、その二人が目撃者として名乗り出ました。そこで、もしお金を渡されて協力しているだけなら、その倍額を渡すので、こちらに寝返るようお願いしただけです」
「それにしても、高すぎませんか?どうにかなりませんか?」
「私の懐から出したので、返してもらわなくては困ります。それに、あの二人がここへ来て証言をしていたら捕まっていたのはあなただったのかもしれないんですよ。捕まるよりマシだったと思いますが…」
「え!?この金額をギルドではなく、リアーナさんが立て替えてくれたんですか?どうして僕なんかのためにそこまでして…」
「勘違いしないでください。あなたのためではありません。聴取してる間も行き当たりばったりの調子のいいことを並べて、コロコロ話が変わっていましたし、単純に怪しかったんです。裏工作があったにしても、犯罪者を許してはギルドの信頼に関わりますので」
「理由はともあれ、救われました。ありがとうございます。ですが、この金額をすぐに返すのは厳しいんですが…」
「事情が事情なので、利子はつけませんし、ゆっくりでいいですよ。そうですねークエスト報酬の一割を返し続けるとかでいいですよ」
「本当ですか!はい、それでお願いします」
あの金額をポンと出せるとは、背後に強大な存在がいるのかもしれない。色んな意味で、この人には逆らわない方がいいなと心の底から思った。
「傷が痛むようでしたら、本日はここで休んでいただいても問題ありませんので、ゆっくりしてください。それでは失礼します」
と言ってリアーナさんは仕事に戻って行った。
「何だか大変な1日だったね!」
「そうだな」
「明日はどうする?魔法のこととかもっと教えてもらいたいんだけど!」
と当たり前のように明日一緒に行動するつもりでいるテオに驚く。
「こんなことがあったのに、まだ僕と行動するつもりなのか?」
「そりゃあ、パーティーなんだから、当たり前でしょ」
「いや、パーティーを組んだ覚えはないし、今日だけという話だったろ」
とため息混じりに返答する。
「え〜」
と膨れるテオ。この女あざといな!
「アイツらの邪魔が入ったせいで、もっといろいろ聞きたかったのに〜」
とポカポカとリズムカルに僕を軽く叩くテオ。
「確かに…。一緒に行動していた時間はそう長くないのか」
窓の外はすっかり暗くなっている。時間の密度が濃すぎて気づいていなかったが、下手したら僕が気絶していた時間の方が長い可能性すらある。
「そうだよ〜。だから、ね!お願い!」
と両手を顔の前で合わせてチラッチラッとこっちの様子を伺うテオ。
「仕方ないなぁ。もう1日だけね」
「やった!!じゃあまた明日ね!帰って明日の準備をしなくちゃ」
と転びそうな勢いで走って行くテオを見送る。
一緒に行動していた時間はテオの言う通り、短かったし、テオがあまりにしつこかったからで、僕は本当は一人がよかったのにと自分に言い聞かせ、明日が楽しみになっていることに気づかないふりをして、そのまま眠りについた。
翌日
「ラートさん!」
「えっ!?リアーナさん?どうしたんですか?そんなに慌てて」
まさかリアーナさんに起こされるとは思っていなかった僕は驚きのあまり一発で目が覚めた。
「大変です!テオさんが…」
続く




