第4話 テオ・ミレッダ
しばらく僕はテオに手を引かれるままに走っていた。彼女の綺麗なブロンドの髪が風に舞ってヒラヒラと揺れるのを何も考えずぼーっと眺めていた。彼女がペースを少しずつ落としていき、歩みが止まる。膝を少し折り、上目遣いで僕の顔を覗き、
「どうですか?気持ちは落ち着きましたか?」
と尋ねる彼女。目と目が合い思わずドキッとして目を逸らしてしまう。頬が熱い。もしかしたら、赤くなっているかもしれない。そう思うほど、頬は熱くなっていく。
逸らした目をゆっくりと彼女に向ける。こうやって彼女のことをしっかりと見ることがなく、気づいていなかったが、かなり可愛い。ぱっちりとして大きな目。瞳は青く、とても綺麗だ。鼻筋も通っている。身長は172センチの僕より少し小さく165センチ程度だろうか。腰に杖を携えており、おそらく魔術師なのだろう。ローブから伸びる手足はスラっと長く身長の割に小さく見える。
「あの…やっぱりまだ気分優れないですか?」
「えっ!?あっ…あぁ。ごめんなさい。もう大丈夫です」
どうやら、ただあのパーティーから距離を取っていただけではなく、僕の気持ちが落ち着くのを待ってくれていたらしい。
「何で謝るんですか?気にしないでください。改めまして、私テオって言います。テオ・ミレッダです。昨日は本当にありがとうございました。何かお礼がしたいのですがいかがですか?」
うーんと少し考えてみたが何も思いつかない。
「僕はラート・オリヴァー。さっき助けてもらいましたから、それで十分ですよ。なんなら、僕の方がお礼をしたいくらいです」
「えっ!?本当ですか!なら、私とパーティーを組んでください」
社交辞令のつもりだったのだが、まさか本当にお願いされるとは…
「それは無理ですよ。さっきのも見たでしょ。何かあれば僕はすぐ疑われます。あなたのように僕のことを人間扱いしてくれる人なんてほとんどいない。僕とパーティーなんて組んだらあなたも色々と大変な目に遭いますよ」
「だからこそですよ!私がラートさんの無実を証明しますよ!」
さっきのモヒカン頭の男の時といい、彼女は妙に核心をついてくる。
「そっそれは、そうかもしれませんが…、無理なものは無理です」
「なら、今日一日でいいんで、私の護衛兼指導をしてくれませんか?実は冒険者になったばかりで右も左も分からないんです。しかも、昨日は薬草採取してただけなのに、あんなことがあって…」
ウッ…。計算なのか天然なのかは分からないが、そんなことを言われたら断ることもできない。僕ははぁーと大きなため息をつき、彼女の目を見る。彼女の瞳は期待からかキラキラしているように見えた。
「分かりました。今日だけですからね。ただ、何かに巻き込まれても、僕のせいにはしないでくださいよ」
「はい!もちろんです!ありがとうございます!」
とびきりの笑顔になる彼女。こんなにも喜んでもらえるとは。期待に応えられるよう色々と教えてあげよう。
テオの薬草採取のため、災いの森へと向かいながら、会話をする二人。
「テオさんも魔術師なんですよね?何属性を使えるんですか?」
「テオでいいですよ。それに敬語も必要ないですよ。私は雷属性を使えます」
「分かりました。敬語気をつけます。雷属性ですか!火力もあるし、自己強化もできるから、魔術師の苦手とする近接戦も他の属性よりは対処しやすいですし、羨ましいです」
「フフッ。まだ敬語ですよ」
「敬語で話すのがすっかり定着してまして…」
「いいですよ、ゆっくりで。ラートさんは杖を持たれていないようですが魔術師なんですか?」
「杖はないですが、僕も魔術師ですよ。そもそも何で魔術師が杖を装備しているか分かりますか?」
「お恥ずかしながら、勢いで冒険者になりまして…格闘や盾役なんてこんな腕じゃできそうにないし、それで魔術師としてやっていこうとギルドで相談したらとりあえず杖を買うところから始めるよう言われただけで理由は知らないんです」
けっこうしっかり者でありそうな彼女が下調べなしで冒険者になるとは、よほどの理由があるのだろう。そして、右も左も分からないのは本当のことだったらしい。一から教えていく必要があるようだ。
「杖の先端には魔物を討伐した際にドロップする魔石を原料とした魔球というものが埋め込まれています。これは、蓄えられる限界値が決まっていますが、魔力を蓄える機能を持っています。つまり、杖に溜まった魔力を消費して戦う分にはいくら魔法を使っても、魔力切れになる心配がないということです」
「魔力切れ起こすとどうなるんですか?」
「魔力切れを起こすと高熱が出た時のように全身に力が入らず、思考力もかなり低下します。戦闘中になったら、ほぼ確実に死ぬことになるでしょう」
「えっ!?怖…」
「人間はそもそもそんなに魔力量が多い種族ではないですし、消費した魔力を空気中にある魔素から魔力に変換する効率もよくありません。それらを解決してくれるのが魔球というわけです。魔球の品質によって魔力の蓄積量や変換効率は変わります。ちなみにですが、僕の場合はこの角が魔球の代わりになってます。体内にある魔力の変換や蓄積を行う臓器である魔臓とは別に角が魔力の変換・蓄積をしてくれてます。正直、そこらへんにある魔球とは比較にならない性能ですし、安いものでもそこそこなお値段するので、僕は杖なしでやってます」
「へーその角にそんな役割があったんですね〜」
と僕の角をまじまじと観察するテオ。
「触ってみてもいいですか?」
「嫌です!」
「なら、質問いいでしょうか?師匠!」
「しっ師匠?」
「指導いただいているわけですから師匠です!魔球が大切なのは分かりましたが、どうして魔術師は杖なんですか?剣とか槍とかに魔球をつけたらいいんじゃないですか?」
「テオさんいい質問ですね。それは魔球の加工が難しいためです。剣とか槍とか盾にもつけることはできますが、相当なお値段になります。杖の原料となっている木は魔球との相性がいいのか加工しやすいみたいです。なので、よほどのボンボンでもない限り、魔術師は杖で冒険者を始めます。大金を稼げるようになる頃にはすっかり杖での戦闘に慣れていて、わざわざ変える人が少ないというわけです」
と学校の先生風に話してみたところ
「フフフッ、ラートさん、なかなか様になってますよ」
と笑ってくれた。災いの森に入ったが、薬草の群生地はもう少し奥にある。その後も魔法についてなど講義をしながら移動を続ける。
「ラートさんはどの属性が使えるんですか?」
「僕は炎と風と水だね」
「三属性ですか!?魔法自体使える人もあまり多くないのにすごいですね!その中ではどれが得意とかあるんですか?」
「うーん、得意というか好きなのは水かな。応用力がとにかく高くて、使い勝手がいいんだ」
と言って小さな水の球を作る。
「僕が作ったんだから当たり前だけど、この玉には僕の魔力が込められている。僕から離れてもどこにあるのか分かるんだ。つまりこれをこのように何もないところに浮かせておき、何かが当たるとどうなるか?」
「水の球が急に動いたり、破裂しちゃうから、ラートさんには何かが当たったことが分かる!」
「そう!索敵するのにとても便利なんだ。特に僕みたいに一人で行動する場合、余計な戦闘を避けたりするのは生き残る上でかなり重要になるからね。風とかでも動いちゃうから最初は判断が難しくはあったんだけどね。今も実は目に見えないくらい小さくした粒をそこら中に設置しているんだ」
「災いの森は強い魔物はいないけど、低級の魔物がたくさんいるってギルドの人が言ってたのに、ここまで遭遇してなかったのはラートさんのおかげだったんですね!ちゃんと護衛の仕事をこなしてくれていたとは!さすがです師匠!」
「師匠はやめてくれ」
としばし談笑をしていると目的地に着く。
「薬草の群生地はここをもう少し行ったところにあります。僕は周囲を警戒しておくので、薬草採取をしちゃってください」
「はい!行ってきます!」
と言ってテオは薬草をダッシュで取りに行った。テオを追わないということは、どうやら目的は僕らしい…
「おい!出てこいよ!気づいてないとでも思ったのか?」
続く




