第2話 レッサードラゴンとの戦闘
レッサードラゴンまたの名を翼の持たないドラゴン。岩のような強固な鱗を持ち、大きい個体となると7〜8メートルくらいまで成長する巨体。岩や鉱石を噛み砕く強靭な顎を持ち、取り込んだ岩や鉱石を自身の鱗の成分としている。そのため、取り込むものによって色が変化したり、持っている耐性や弱点が異なるという。正確にはドラゴンではないのだが、その風貌がドラゴンに似ていることから、レッサードラゴンと名付けられた魔物。
僕はいわゆる魔術師で接近戦は苦手だ。一定の距離を保ちつつ魔術を繰り出す。
「まずは、一つずつ試してみるしかないか」
この世界の魔術は主に五つの属性がある。一つ目は炎。スライムキングを倒した時に使用したもので、炎や熱を操る魔術。速度はあまりないが、高火力が特徴。
「ファイヤー」
火の球がレッサードラゴンに命中するも効果は無さそうだ。少なくとも詠唱なしで出せる威力では何発当てても意味がないだろう。
二つ目は、風。突風を出して、相手を吹き飛ばす。もしくは、かまいたちのような斬撃として使用するもので、スピードが早く、見えづらい。回避するのが困難なのが特徴。
「ウィンドカッター」
カキンッ
風の刃が無惨にも弾かれる。やはり、あの鱗を切断するのは容易ではないようだ。
三つ目は水。水は最も応用力の高い属性だ。水圧で押し潰したり、面積を絞ることでカッターのように切断したり、回転を加えることで弾丸のように貫通力を高めたり、目眩しや防御技としても使える便利な属性だ。
「ウォーターバレット」
ブシッ
高速回転した水の弾はウィンドカッターと違い弾かれることはなかったが、貫通するほどのダメージは与えられていない。
五つの属性のうち僕が扱えるのはこの三属性のみである。
残りの二属性は土と雷。土の特徴は圧倒的な質量である。土や岩を投擲したり、壁として防御に使ったりと魔術ではあるが、物理攻撃という面白い属性だ。雷は、電撃を操る。スピードも早く、火力も高い。人は脳から発せられる微弱な電気信号で動いてる。その信号を強めることで、自身の身体能力を高められるのも特徴だ。
魔術による攻撃をものともせずに一直線に突進してくるレッサードラゴン。
三つの中では水が一番手応えがあったが、鉱石なら高熱で溶かせる可能性がある。後退をしながら、腰のベルトに刺してある試験管をニ本手に取り、レッサードラゴンに向けて放る。
「ファイヤー」
火の球が2本の試験管にあたり割れると、火の球が一気に燃え上がり、スライムキングに放ったメガファイヤー並の大きさとなった火の球がレッサードラゴンを襲う。
「これでも、ダメか」
レッサードラゴンは少し怯みはしたものの、身体を覆う鱗に大きな変化は見られない。温度がまだ足りないか岩を主食としていて炎属性には耐性があるのかもしれない。しかし、怯んだ際にレッサードラゴンの首元には岩のような鱗がないことに気づく。
ウォーターバレットであればダメージは与えられるが、鱗の表面を少し傷つける程度で倒すまでに時間がかかりすぎる。動きはあまり早くないとはいえ、一歩が大きいし、尻尾のリーチも長い。レッサードラゴンの攻撃を避け続けるのも難しいだろう。周りに人の気配もないし、とっておきを使うしかないようだ。
「ミスト」
霧がかかり始め、月明かりも遮るほど、濃くなっていく。レッサードラゴンはラートを見失い、辺りをキョロキョロと見回している。
「アイスグラウンド」
辺り一面の地面が凍りつき、レッサードラゴンは、足が固定され身動きが取れなくなる。尻尾をブンブンと振り、その場で暴れどうに拘束を解こうとするレッサードラゴン。
「内側は随分と柔らかそうだなぁ!そりゃ全身をそんなデカくて硬い鱗で覆ったら重いし、動きづらくて仕方ないもんなぁ!」
気づいた時にはレッサードラゴンの胸元にラートは立っていた。レッサードラゴンの岩のように大きく頑丈に発達した鱗は外敵からの攻撃を受けやすい身体の外側に集中している。身体の内側、つまりお腹側は普通のトカゲと似たような鱗になっている。おそらく、重量軽減や、関節を動かしやすくするため、運動により高まった熱を放出するためなど、いくつかの理由で全身を覆うことはできないのだろう。
懐にさえ入ってしまえばどうってことない。
「ウォーターバレット、ウォーターバレット、ウォーターバレット………」
ゴトン
黄色の魔石が目の前に落ちてくる。
「やっと終わったか。だが、これはどうしたものか」
スライムキングは蒸発させてしまったので、跡形もなく消えたが、本来魔物は核を破壊され魔石を落としても肉体はそこに残る。研究や討伐報告のために鱗とか素材になりそうなものは、持って帰りたいのだが…
「コイツ硬すぎるんだよなぁ〜」
とどう解体するか悩んでいたが、耳がピクンと動き、魔石を拾って急いでその場から離れるラート。
「霧が晴れてきました。確かこっちです!急いでください!」
とテオがギルドにいた人たちを連れて現場に駆けつけると
「おいおい、嬢ちゃん。こいつは一体どういうことだよ」
そこには胸にいくつもの穴の空いたレッサードラゴンが横たわっていた。
「そんな…、まさかあの人一人で…」
ラートは少し離れた木の上から、テオたちの様子をゴーグルをかけて観察していた。
「援軍を呼んでくれていたとは、なら時間稼ぎだけしておけばよかったな」
ーー
家に帰り、お風呂も済ませ、ベッドにうつ伏せで倒れ込むと、一気に疲れが襲ってきた。
「今日は大変だったなぁ…」
まさか、レッサードラゴンと戦い、無傷で勝つことができるとは。それに、ギルドの受付のリアーナさんは、大したことではなかったのに非礼を詫び僕に頭を下げた。助けた少女はギルドに援軍を要請し戻って来てくれた。ここ数年こんなことはなかった。魔人病である僕を受け入れてくれる人が両親の他にもいるかもしれないと淡い期待が胸に広がる。
しかし、受付のリアーナさんはただ仕事を全うしていただけ。あの森は魔物の生息地の中では一番街に近い。今冷静になって考えると、そこに強力な魔物が出現したら早急に対処する必要があることは明白だ。彼女が援軍を呼んだのも何も僕を助けるためではない。
人を信頼してはいけない。どうせ傷つくことになるだけなのだから…と尻尾の先端を見ながら自分に言い聞かせる。
「明日はレッサードラゴンから取れた魔石をギルドに持って行き、換金してもらおう…」
翌日、ラートはギルドに向かう道中で、なぜか冒険者のパーティーに取り囲まれていた…
続く




