13話 セイレーンの肉
身体が熱い。体の内側が焼かれたように痛む。その痛みに悶える。
「ラートさん!大丈夫ですか?」
テオがさっきから声をかけてくれているのは、分かっているのだが、それに応える余裕がない。
たった一口しか食べてないのに、5分ほど痛みは続いた。
「ラートさん!大丈夫ですか?水入りますか?」
テオからコップを受け取り、水をゴクゴクと一気飲みする。
「テオありがとう」
「ラートさん…その爪…」
「ん?うわっ!」
僕の手の爪が10センチは伸びていた。靴を脱いでみると、足の爪も同様に伸びていて、お気に入りだった靴下は、とても使える状態ではなかった。急いで鏡の前に行き、確認したが、爪以外に大きな変化は見られなかった。少なくとも外見では。
「ラートさん…どうでしたか?」
「どうやら、爪以外は特に変化していないと思う。強いて言うなら、魔力量が少し増えたような気がする」
「それって」
「十中八九、セイレーンの肉を食べたせいだろうね。セイレーンの肉には魔力量を高める効果があるのかもしれない。魔人病の原因は、高すぎて、抑えきれない魔力を制御するため異形となる。つまりセイレーンの肉は、魔人病の治療どころか、悪化させてしまうということだ」
「そんな…」
「まぁ、こんなこともあるさ。何事も経験だよ」
「そうですけど…期待していたので」
「落ち込む気持ちは分かるけど、考え方によっては、前進だよ」
「前進ですか?」
「そうだよ!今回でセイレーンの肉では、治らないということが分かった。それに、悪化させるものがあったということは、病気に作用ができるということ。治せるものもあるかもしれない。そうでしょ?」
「ラートさんは、ポジティブですね」
「そんなこともないと思うけど、何度も試してきてるからね。こう考えないとやってられない、それだけだよ」
「私がクヨクヨしてちゃダメですよね!切り替えます!次はどうしますか?」
「今はこれといった候補が無くてね。報酬のいい依頼をこなしつつランクを上げたいところかな。B級になればダンジョンに挑戦ができる。ダンジョンの中には、魔人病に効果のあるものもあるかもしれない」
「ダンジョン!?ダンジョンって魔界の入り口と言われてるやつですよね?」
「そうだね。有名な絵本の勇者ロードの冒険で魔界の入り口とされているものだね。大きなゲートがあり、その向こう側には、広大な世界が広がってるらしい。そして、その世界には、危険な魔物が多く存在しているため、魔界と呼ばれている。そのゲートから大量の魔素がこちらの世界に流れ込み、こちらの世界でも魔物が誕生するようになったという言い伝えもあるね」
「そうなんですね!知らなかったです。でも、そんな危険なところに、わざわざ行く必要ってあるんですか?」
「行かなくていいなら、僕も行きたくはないよ。でも、これまでいろいろと試したけど、魔人病に影響を示したのはセイレーンの肉だけだった。おそらく、魔力量の多い魔物つまりランクの高い魔物の素材ほど人体に及ぼす影響が高いんだと思うんだ。こっちの世界では、高くてもB級止まりなんだよ。B級以上の魔物の素材が必要となった時はダンジョンに挑むしかないんだ」
「ラートさんのことは頼りにしてますが、私はまだまだですし…私たち二人でどうにかなるのでしょうか…」
「確かに、パーティーメンバーは増やしたいところだね。でも、今すぐに行くわけではないし、ダンジョンに行く時だけ他のパーティーと合同で行くこともできる。まずは、一歩ずつ目の前のことをやっていこう!」
「はい!そうですね!お風呂入って来ます!」
そう言って慌てて風呂場へと行くテオ。きっと気分転換をしたいのだろう。
さっきは、パーティーメンバーを増やしたり、合同で他のパーティーと行けるとは言ったが、魔人病である僕と協力してくれる人は多くないだろう。そのことをテオも分かってる。だけど、そんなことはテオの性格では口にすることはできない。それで、気分転換をしたかったのだろう。
テオはまだ荒削りなところはあるけど、技の威力だけなら、そこら辺の魔術師より強い。テオ一人なら、強いパーティーに入れてもらうことで、ダンジョン内の探索もすぐにできるかもしれない。いっそのことパーティーを解散した方が近道なのかもしれない…。
どうやら、僕も気分転換が必要なようだ。お風呂は今テオが使ってるし、少し夜道を散歩でもしようかな。
月明かりが木々の隙間から差し込み、薄暗く気味悪くもあり、どこか神秘的にも見える森の中を何も考えずに歩いていた。程よく風も吹いており、木々の揺れる音が心地よい。
「リフレッシュもできたし、そろそろ戻ろうかな」
ただ真っ直ぐ歩いただけなので、身体の向きを180度回転させ、来た道を真っ直ぐ歩けば、家に戻れるはずだ。振り返ようとした時
「おっおい!ちょっと待ってくれ!」
後ろから声をかけられた。夜にこんな街外れの森に人がいるとは思いもしなかった。驚いて振り返ると、そこには頭に角が生えた男性がいた。その男性はボロボロのタンクトップと半ズボンを身につけていて、身長は175センチほどあるが、かなり痩せ細っていて、押したら簡単に倒れてしまいそうであった。
「ハァ、ハァ、まさか俺以外にも、こっちの方に逃げた人がいたとはな。その服はどこで調達したんだ?」
状況が理解できずに、固まっていると
「おい!聞いているのか!まぁ、いい!ボサっとしてると追手が来るかもしれない。少しでも遠くへ行こう」
そう言って、僕の手を取り、東の方へと走り出した。細い腕のわりに、僕の手を引く力は力強く、転ばないよう僕も走り始める。
「ちょっ…ちょっと、待ってください!」
「身を隠せる場所を見つけるのが先だろ!」
「全然、状況が掴めないんですが、あなたは誰なんですか?誰かと間違えてないですか?」
「何を言ってる!お前なんか知るか!」
「は?そっちこそ何言ってるんですか!いいから、止まってくださいよ!」
「面識はないが、見れば分かるだろ。この角が何よりも証拠だ」
「それが、一体なんの証拠になるっていうんですか!全く意味が分からない!」
「お前も脱走して来たんだろ、俺もだよ!いいから、逃げるぞ!」
「脱走!?脱走って何のことですか?僕は、この森に住んでて、脱走なんてしてないですよ!」
謎の男は急に立ち止まり、僕はブレーキが間に合わず、男性にぶつかり、そのまま倒れこむ。慌てて立ち上がり、男性に手を差し伸べる。
「すみません。大丈夫でしたか?」
「あぁ」
と言い男性が僕の手を取ったので、引き上げて起きるのを手伝う。服についた土埃を払っていると男性が改めて尋ねてくる。
「聞き間違いではないか、確かめさせて欲しいのだが、ミルドレアスの屋敷から脱走した者ではないと言ったか?」
「えぇ。ミルドレアスさんなんて方は知りません」
「じゃあ、お前は一体誰なんだ!なんで角や尻尾が生えている。お前もミルドレアスの実験によってこんな姿に変えられてしまったんだろ?」
ミルドレアス?実験?変えられた?さっきから、この男性は何を言っているんだ!?
続く




