12話 セイレーン
バチン
「ラートさん大丈夫ですか?」
頬がジンジンと痛む。
「ラートさん?」
「だっ大丈夫。ありがとうテオ」
「ラートさん私の名前を叫んだと思ったら、急に黙ってふらつき出して、海の方へと歩き出して怖かったんですよ」
よく見ると、さっきまで砂浜にいたはずなのに、足の先が海に浸かっていた。
「どうやら、セイレーンのスキルにやられたらしい。とりあえず、一旦距離を取ろうか」
丘の方へ戻りつつ、さっきのことを思い出す。
「歌声のようなものが聞こえてきて、それで」
「歌声ですか?私には聞こえなかったですけど」
「僕の耳は魔人病の影響か長く尖っている。おそらく、人よりも聴覚が優れているんだ。それで、テオに聞こえなくても、僕には聞こえてしまったのだろう」
「歌声を聞いてしまうと、スキルにかかってしまうということですね。なら、私がラートさんの側で大声を出していれば大丈夫ですね!」
「面白いアイデアだが、息継ぎしないといけないだろ?その時はどうするつもりなんだい?」
「その時は耳を塞げばいいんですよ!」
「なら、最初から耳を塞げばいいのでは?」
「あっほんとだ」
テオは目を丸くしていた。こんな時だが、その様子が可笑しくて、頬が緩む。
「笑ってないで、ラートさんもなんか考えてくださいよ!」
「ぱっと思いつくのは耳栓かな」
「でも、耳栓なんて」
「作ればいいんだよ。まずは、砂を水魔法で濡らし、形を作る。そして、風魔法で乾かせば…ほら!」
「確かに、それっぽいですけど、それを耳には入れたくないですね」
「僕が前に行くから、僕がつけるよ。そして、このロープを僕に巻き付けておく」
鞄から出したロープを自分に巻き先端をテオに手渡す。
「僕は左手を常にこうして軽く挙げておく。もし、この左手が変に動いたら、スキルをくらったと思ってこのロープを強く弾いて欲しい。引っ張られる衝撃で目が覚めるはずだ」
「分かりました!任せてください!」
丘を降りて、砂浜に戻る。僕はお手製の耳栓をつけて、海の方へと歩く。ロープがピンと張る。十分距離を取りながら、移動して行く。
「スキルが届いたということは、近くまで来ている可能性がある。気をつけてね」
「テオ?聞いているか?」
「おい!テオ?」
テオからの返事が聞こえず、もしやと思い、後ろを振り返る。すると、テオは普通に歩いており、耳を指差しながら、何か喋っていた。そうだった、耳栓をしていたのだ。僕は耳栓を外し、テオがなんと言っているのか聞こうとすると
「あっ…」
歌声が聞こえ、意識が遠のく。
力強くグンと引っ張られ、バランスを崩し、地面に倒れこむ。
「テオ、ありがとう」
再び、丘の方へ行き、作戦会議をする。
「ラートさん!真面目にやってくださいよ!どうして、耳栓を外しちゃうんですか!」
「すまない。僕は前を向いていたし、テオの声が聞こえなくて、もしテオに何かあったらと思って…」
「心配してくれるのはうれしいですが、しっかりしてくださいよ」
「分かった。じゃあこうしよう。僕が何か指示を出すときは、イエスかノーで答えられるものにする。イエスなら、一回ロープを引っ張る。ノーなら、二回ロープを引っ張る。こうすることで、意思の疎通ができるだろ。試してみようか。あなたはテオである?」
ロープが軽く一度引っ張られる。
「うん!これなら大丈夫そうだ。もう一度挑戦してみようか」
丘を降りて、砂浜に戻る。僕はお手製の耳栓をつけて、海の方へと歩く。ロープがピンと張る。十分距離を取りながら、移動して行く。
「テオ。ちゃんとついて来ているね?」
ロープが軽く一度引っ張られる。よし、大丈夫そうだ。歌声が届くということは近くまで来ているということだろう。僕はゴーグルを着けて、遠くを見渡し、セイレーンの姿を探す。
すると、歌声が聞こえ、意識が遠のいていく…
力強くグンと引っ張られ、バランスを崩し、地面に倒れこむ。
「テオ、ありがとう」
再び、丘の方へ行き、作戦会議をする。
「左手が下がったので、引っ張ったのですが、よかったですか?」
「うん!助かったよ」
「耳栓してましたよね?」
「していたけど、やはり、即興で作ったものでは、完全に音をシャットアウトできなかったみたいだね。さっきテオの返事が全然聞こえなかったから、大丈夫だと思ったんだけど、少しでも聞こえるとアウトというのが厄介だね」
「そんな…じゃあどうしようもないじゃないですか」
「さすが、C級といったところだね。なかなか一筋縄ではいかないね」
「何かいい方法はないですかね。耳栓で耳を塞ぐのもダメとなると、音を消すしかないじゃないですか」
「それだよ!テオ!聞こえないようにするんじゃなくて、音を消しちゃえばいいんだよ」
「どういうことですか?」
「音って空気の振動なんだ。その振動を耳が拾って音が聞こえるんだ。なら、真空にしちゃえばいいんだよ」
「真空って鱗粉を乾かした時に使ってたやつですよね?」
「そうそう。真空は空気がない状態。つまり、振動する空気がなければ、音は届かないはずだ」
「でも、どうやって、真空にするんですか?」
「そうだな。まず、ウォーターウォールで僕をすっぽりと包む」
「シャボン玉に閉じ込められているみたいになりましたね」
「次に、その周りをさらにウォーターウォールで包む」
「二重になりましたね。でも、外側のシャボン玉のここに小さな穴が開いていますよ」
「ウインドで風を送り、その穴から、空気を出し続け、外から空気が入って来ないようにすると、外側のシャボン玉と内側のシャボン玉の間が真空状態となり、音が聞こえなくなる!内側のシャボン玉には空気があるので、僕が苦しくなることもない!完璧だ」
テオは首を傾げている、僕の説明がわからなかったのか、それとも途中から聞こえなかったのか。
「聞 こ え て る?」
と口を大きく動かして、口の動きだけでも伝わるように話してみると、テオが人差し指を立てる。
「聞 こ え て る?」
とリクエストに応えて、もう一度ゆっくりと言うと、テオは首を縦に何度か振り、ロープを二回軽く引っ張る。
どうやら、ばっちりのようだ。僕は指でOKマークを作り、行こうとジェスチャーする。
丘を降りて、砂浜に戻る。僕はお手製の耳栓をつけて、海の方へと歩く。ロープがピンと張る。十分距離を取りながら、移動して行く。水面ギリギリの所で立ち止まり、僕はゴーグルを着けて、遠くを見渡し、セイレーンの姿を探す。
水中から、こちらの様子を伺うように目元から上だけを出しているのを見つける。
「いた!あそこだ!」
テオに声は届かないが、指を指し、方向だけでも伝える。思った以上に距離がある。あそこから、スキルが届くのかと驚く。
セイレーンは上半身が人で下半身は魚の魔物。精神攻撃ができる強力なスキルを持つ。スキルは歌声を聞くことで発動する。水中にいる魔物だから、水魔法はあまり効果がないだろう。炎魔法も潜られたら、それで終わりだ。なら、ここは風魔法しかない。
僕は状況を分析して、集中力を高める。
「ウィンドカッター」
風の刃がキィーンという空を斬る音とともに、もの凄い速さで、飛んでいく。
しかし、いくら速くても距離があるため、海に潜られてしまい、そのままどこかへと飛んでいく。
クソ。近づかないとダメか。船でも作るしかないかと考えていると、いきなり強力な電撃が僕の背後から、飛んで来て、ビクッと身体が固まる。その電撃はセイレーンの方へと飛んで行く。
セイレーンはまた海に潜ってしまう。電撃はセイレーンに当たることなく、海へと飲み込まれてしまう。
すると、プカッとセイレーンが浮いて来て、徐々にこちらへと波に運ばれて、遂に砂浜に打ち上げられた。
その様子を僕はただただ見ていた。術を解き、テオを振り返ると
「私なんかやっちゃいましたか?」
と心配そうに聞いてくる。
「アッハッハ。最初から、テオにサンダーボルトを撃ってもらえば、こんなに苦労することなかったね。水は電気を通すから、相性がよかったね」
「でも、どうしてセイレーンだけなんですか?魚とかもっといますよね?たぶん」
「海に雷が落ちた場合は、電流は縦じゃなくて、横に広がるらしい。つまり、海中ではなく、水面を流れていくんだ。セイレーンは僕たちの様子を伺っていて、海面付近にいたから、感電してしまったけど、もっと深いところまで潜っていたら、感電することはないんだよ」
「へーそうなんですね。ほんと物知りですね」
「何がどこで活きるのか分からないからね。勉強は大事だよ」
「何も言い返せない」
と悔しそうにするテオ。
その後、セイレーンを回収し、丘の上まで来た。色々と試したことで時間がかかってしまい、もう夕方となっていた。
「疲れたし、今日もここで休もうか」
「そうですね!」
昨日も食べたサンドイッチとは別に、セイレーンの肉を焼いたものを用意する。
「ラートさん…本当に食べるんですか?」
「何事も試してみないと分からないからね」
匂いを嗅いでみるが、魚と大きな差は感じなかった。テオが心配そうにこちらを見ている。ゴクッと唾を飲みこみ、意を決して、口の中に突っ込む。
「グッ…ウッ…ウゥ」
僕は持っていたフォークを落とし、胸を抑える。
「ラートさん!大丈夫ですか?ラートさん!すぐ吐き出してください!」
つづく




